必携血液内科診療ハンドブック改訂第2版

- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

一般診療で血液検査の異常が認められたときにどのように対処するかを簡潔にまとめる。新しい知見を盛り込み、さらにコンパクトで使いやすくした全面改訂。一般的な診察と検査、各疾患の診断・治療のほか、輸血、抗腫瘍薬、造血幹細胞移植、治療プロトコールなどを解説。研修医、一般臨床医にとって日常診療に必要な血液疾患のすべてが一冊でわかる実際書
I.見落としのない診療のために
1.病歴・問診のとりかた
2.診察・身体所見のとりかた
3.一般検査(末梢血・骨髄)のみかた
4.患者・家族に対する説明・インフォームドコンセント
II.所見からみた診断のすすめかた
1.入院時に行う検査
2.貧血
III.検査法と結果の解釈
1.血液塗抹標本
2.骨髄穿刺
3.骨髄生検
4.緊急時などの交差適合試験
5.表面形質の検査
6.染色体分析
7.遺伝子解析
IV.血液疾患の診断と治療
IV-1 造血器腫瘍
1.急性白血病
2.白血病の支持療法
3.慢性骨髄性白血病
4.慢性リンパ性白血病
5.成人T細胞白血病・リンパ腫
6.真性赤血球増加症
7.原発性骨髄線維症
8.特発性血小板血症
9.骨髄異形成症候群
10.悪性リンパ腫
11.多発性骨髄腫
12.原発性マクログロブリン血症
13.伝染性単核球症
IV-2 貧血
1.再生不良性貧血
2.赤芽球癆
3.鉄欠乏性貧血
4.二次性貧血
5.悪性貧血
6.自己免疫性溶血性貧血
7.遺伝性球状赤血球症
8.発作性夜間ヘモグロビン尿症
9.赤血球酵素異常による遺伝性溶血性貧血
10.サラセミア
11.異常ヘモグロビン症
IV-3 出血傾向
1.播種性血管内凝固症候群
2.特発性血小板減少性紫斑病
3.血栓性血小板減少性紫斑病
4.血友病
5.Von Willebrand病
6.先天性血小板機能異常症
7.Schoenlein-Henoch紫斑病
IV-4 その他の疾患
1.血栓症
2.HIV感染とAIDS
3.薬剤性血液障害
V.各種治療法とその周辺
1.輸血療法
2.抗腫瘍薬:副作用とその対策
3.造血幹細胞移植の適応
VI.治療プロトコール
1.急性骨髄性白血病
2.急性リンパ性白血病
3.非Hodgkinリンパ腫
4.Hodgkinリンパ腫
5.多発性骨髄腫
6.肝障害・腎障害合併例の化学療法
7.再生不良性貧血
『必携血液内科診療ハンドブック』の初版の発行は1999年11月であるから、それから約6年経った。この間に起こった大きな変化の一つは2001年にヒトの全ゲノムの構造が解明されたことである。このことは多くの疾患の病態が遺伝子レベルで解明され、遺伝子レベルで診断され、遺伝子治療が行われる可能性があることを示している。
残念ながらこの6年間に遺伝子治療には大きな進歩は見られなかったが、その前段階として、遺伝子の異常に基づく分子の異常の改善を目指した分子標的療法は急速に進歩した。特に、慢性骨髄性白血病におけるbcr-ablチロシンキナーゼ抑制薬であるイマチニブ(imatinib)の開発はその治療を一変させたので、その治療効果、それに基づく治療方針を詳述した。また、ごく最近に真性赤血球増加症においてJAK2チロシンキナーゼの遺伝子の後天的変異が高率に見られることが明らかになった。チロシンキナーゼは種々の造血因子が作用したときに活性化される酵素であるが、その酵素が遺伝子変異によって常時活性化された状態になって、すべての血球が増加することになる。この発見は、本症の診断を容易にし、分子標的療法へと繋がることを予感させる。
今後、このような研究手法がすべての血液増殖性疾患で行われ、その病態の解明、診断と治療が進むであろう。
悪性リンパ腫の分類は年々新しくなってきている。前版の発刊直前に公開された「REAL分類」が定着し、さらにそれに基づく「新WHO分類」が提案され、受け入れられつつある。これまでの分類は形態学に基づく分類であったが、染色体分析や遺伝子解析が進みそれを取り入れた分類となっている。また、これらの分類では白血病と悪性リンパ腫がまとめて分類されている。臨床家にとっては分かりやすくなったと思われる。このような進歩につれて、フェロカイネティクスのように現在行われなくなった検査も多くなってきている。
改訂に際しては、上に述べたような新知見を十分に取り入れて反映するとともに、現在行われなくなっている検査などを削除した。また、重複を整理し全体をコンパクトにするよう努めた。
この間のもう一つの大きな変化は、患者・医師関係の変化であろう。つまり、これまでの医師中心の医療から患者中心の医療へと変わっている。これに伴い、医療情報の公開とその評価が一層重要となっている。本書においても治療の項はエビデンスに基づく医療を意識し、治療法を選び解説したつもりである。また、医療の評価のために患者がセカンドオピニオンを求めることが多くなっているが、その対応法についてもふれた。
新しい世紀を迎え、この6年間に起こった進歩を含め新しい血液疾患の診断と治療をまとめようと心がけた。読者の日常診療の助けとなれば、企画したものとしてこれほどの喜びはない。
2005年8月
溝口秀昭
このほど、埼玉県赤十字血液センター所長溝口秀昭先生の編集による『必携血液内科診療ハンドブック』が南江堂より上梓された。改訂第2版である。第1版は1999年11月に発行されたので、6年ぶりの改訂ということになる。
初版の序で出版の目的を、白血病の表面形質の解析、染色体分析、遺伝子解析、などの血液疾患診断の急速な進歩、および悪性リンパ腫のREAL分類の登場、evidence−based medicine(EBM)やインフォームドコンセントが要求されるようになった臨床現場の急速な変革に十分に対応した血液疾患の治療を助けることができるようにと本書を企画した、と編者が述べておられる。その趣旨は今回の改訂版でも堅持しておられる。
内容は1、2版とも6章から構成されていて、各章の題名がいずれも目を引くようなものになっている。第I章『見落としのない診療のために』、第II章『所見から見た診断の進め方』、第III章『検査法と結果の解釈』、第IV章『血液疾患の診断と治療』、第V章『各種治療法とその方法』、第VI章『治療プロトコール』と続いている。とくに、治療プロトコールと巻末の『略語一覧』はまとまっているので読みやすいし使いやすい。執筆は、溝口秀昭先生が東京女子医科大学血液内科教授時代の教室のスタッフをはじめとして全国の活発な血液臨床家が計15名で担当しておられる。この改訂第2版でもほとんど同じ執筆陣であるが、急逝された故平井久丸東京大学第三内科教授が担当しておられた慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人T細胞白血病・リンパ腫の項は小澤敬也自治医科大学内科学講座血液学教授が新しく執筆されている。
この6年間で血液学の進歩、変革にはさらなる加速度がついた。したがって改訂第2版では、ふれなければならない事項、内容が著しく増加したと思われるが、一見してまず感じたことは、逆にかなりコンパクトになったという印象である。実際、487頁から380頁へ約100頁削減しておられる。
この削減という困難な作業は編集者の溝口秀昭先生の英断である。『重複を避けたために』と改訂第2版の序文に述べておられる。このおかげで内容がすっきりとなった。手にとってみるとちょうど持ちやすい。忙しい臨床の場でしばしば参考にするためにはこれくらいの重量、厚さがちょうど適当と思われる。
新しい研修医制度が導入されて、各科から血算や凝血学的検査値の異常を認めたとき、各大学や病院の血液内科にコンサルテーションが増加してきたと聞く。また、医療の評価のために患者や家族がセカンドオピニオンを求めることが多くなっているが、そのような場合、本書は手軽で参考にしやすい。血液専門医は言うに及ばず一般内科医、研修医もぜひ身近に置いて、しばしば紐解かれることをお勧めしたい。
評者● 仁保喜之(国家公務員共済組合連合会千早病院院長、九州大学名誉教授)
臨床雑誌内科97巻5号(2006年5月号)より転載
