発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン
構造化抄録CD-ROM付
こちらの商品は改訂版・新版がございます。
編集 | : 日本臨床腫瘍学会 |
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ISBN | : 978-4-524-26886-3 |
発行年月 | : 2012年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 88 |
在庫
定価2,640円(本体2,400円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
がん薬物療法の副作用として生じる発熱性好中球減少症(FN)の診療ガイドライン。診療で生じる27のクリニカルクエスチョンについて、エビデンスレベル、推奨グレードを明示し、重篤な細菌感染症を併発している可能性が高いFNの診療指針を示す。また、診療のアルゴリズムをフローチャートで図示した。重要文献の構造化抄録を収載したCD-ROM付。
1章 FNの概要と初期評価
Clinical Question 1 発熱性好中球減少症(FN)の定義はどのようなものか?
Clinical Question 2 FNの重症化リスクの評価はどのようにするのか?
Clinical Question 3 がん薬物療法のレジメンによってFN発症リスクはどの程度違うのか?
Clinical Question 4 FNの初期検査はどのように行うか?
Clinical Question 5 FNの診断や治療方針の決定にCRP、PCTの測定は有用か?
2章 FNに対する治療
Clinical Question 6 FNを起こす頻度の高い原因微生物は?
Clinical Question 7 FNを起こす頻度は低いが死亡率が高い原因微生物は?
Clinical Question 8 FNの経験的治療(エンピリック治療)はどのようなものか?
Clinical Question 9 FNの初期治療における抗菌薬の併用療法は単剤療法より有効か?
Clinical Question 10 FNの初期治療に抗MRSA薬の併用投与は推奨されるか?
Clinical Question 11 敗血症、感染巣を伴う感染症など重症化したFN患者に対して推奨される治療法は?
Clinical Question 12 FN患者の外来治療は可能か?
Clinical Question 13 FNの抗菌薬治療はいつまで継続すべきか?
Clinical Question 14 FNの初期治療(経験的治療)で解熱したものの好中球減少が持続する場合、その後も継続治療は必要か?
Clinical Question 15 初期治療(経験的治療)が無効でFNが遷延する場合、抗菌薬はいつどのように変更すべきか?
Clinical Question 16 FNが遷延する場合、抗真菌薬の経験的治療(エンピリック治療)は有効か?
Clinical Question 17 深在性真菌症の早期診断に有用な検査法は?
Clinical Question 18 FNが遷延する場合、抗真菌薬の先制治療は有効か?
Clinical Question 19 FNに対してガンマグロブリン製剤は有効か?
Clinical Question 20 FNにG-CSF療法は有効か?
Clinical Question 21 中心静脈カテーテル(CVC)が挿入されている患者にFNが発症した場合、どのように対応すればよいのか?
3章 FNの予防
Clinical Question 22 がん薬物療法を受ける患者に推奨される感染予防策はあるか?
Clinical Question 23 がん薬物療法時の抗菌薬の予防投与はFNの発症予防に有効か?
Clinical Question 24 がん薬物療法時の抗真菌薬の予防投与は深在性真菌症の発症予防に有効か?
Clinical Question 25 がん薬物療法時の抗ウイルス薬の予防投与はウイルス感染症の発症を予防できるか?
Clinical Question 26 どのような患者にニューモシスチス肺炎の予防は有効か?
Clinical Question 27 がん薬物療法を受けている患者にワクチン接種は有効か?
1.作成の目的
がん薬物療法を行う場合、最も問題となるdose-limiting toxicityは骨髄抑制に伴う血球減少である。特に好中球が減少すると感染症の発症率が高くなり、適切な抗菌薬治療を速やかに開始しないと重症化して感染症死する危険がある。生命に影響がなくても、発熱性好中球減少症(FN)をきたすと、経静脈的に抗菌薬治療を行うために入院もしくは入院期間の延長が必要になる。また、全身状態が悪くなると次サイクル治療開始の延期、あるいは抗がん薬投与量の減量を余儀なくされ、その結果がん薬物療法のdose intensityが低下して期待される治療効果が得られない。FNに対して適切な治療を行うこと、さらにFNの発症を予防することで、がん薬物療法の安全性および有効性を高めることができる。
米国感染症学会(The Infectious Diseases Society of America:IDSA)をはじめ海外からFNの治療および予防に関するガイドラインが公表されている。しかし、記載されている治療薬の用法・用量は必ずしも日本の保険診療に適合していない。日本の日常診療の実態に適したFNの対処方法を明らかにすることを目的に、「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン」を作成した。
2.作成の手順
1)FN診療ガイドライン部会の設立
日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員会の下部組織としてFN診療ガイドライン部会を設置し、専門性、地域性を考慮して7名の委員が任命された。さらに各委員の推薦により10名の協力委員を選出した。全17名の委員・協力委員は日本臨床腫瘍学会利益相反問題管理委員会での審査を受け、利益相反がないことが確認された。
2)作成基準
FNの頻度・重症度は、がんの種類や病変部位・病期により異なる。血液疾患、特に造血幹細胞移植患者では、細胞性免疫が低下するため深在性真菌症やニューモシスチス肺炎、結核の再活性化など日和見感染症が起こる危険が高い。固形がんでは、腫瘍による気道、消化管、胆管、尿路の閉塞、あるいは皮膚、粘膜の損傷が感染症の発症リスクとなる。個々のがん種や臓器の特徴に応じた対処方法は日本造血細胞移植学会などその分野の専門学会に委ね、本ガイドラインでは主にがん薬物療法を受ける患者一般を対象として作成した。
日本で保険承認されている抗菌薬の用法・用量に配慮した内容とした。日本の実地診療で使用されている薬剤に関しては、ランダム化比較試験は実施されていないが標準治療薬とほぼ同等の成績が得られているものについても言及した。主要ながん薬物療法レジメン別のFNリスク分類表には、対象に日本人が含まれている臨床試験の結果を優先して採用した。
3)作成方法
○FN診療ガイドライン部会委員よりFNに対する評価方法、治療および予防に関するClinicalQuestion(CQ)を収集し、全委員による合議の上で27のCQを設定した。
○海外の信頼性の高いガイドライン、review文献を参考文献として活用した。さらにPubMedを用いて文献検索を行い、特に日本の診療実態に即したエビデンスを収集したうえで、CQに対するステートメント、解説を作成した。
○推奨するグレードは、Minds(Medical Information Network Distribution Service)が推奨するA、B、C1、C2、Dの5段階からなる分類を採用した。
○作成したステートメント、解説は、部会内の委員が相互に評価した。その意見をもとに内容の変更を行った。
○独立した内部評価委員会により評価を受け、その意見に従って内容を修正した。
○ガイドライン暫定版のCQとステートメント、解説の一覧を日本臨床腫瘍学会のホームページ上で公開し、パブリックコメントを収集した。その意見を基に内容を修正し、FN診療ガイドラインの完成版とした。
4)今後の改訂
本ガイドラインは、新たなエビデンスの出現、日常診療の変化に合わせて今後改訂を行う予定である。
3.使用法
本ガイドラインは、FNの診断・治療・予防に関する一般的な内容を記載したもので、臨床現場での意思決定を支援するものである。日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員会のコンセンサスに基づいて作成し、記述内容については責任を負うが、個々の治療結果についての責任は治療担当医に帰属すべきもので、日本臨床腫瘍学会およびガイドライン委員会は責任を負わない。
また本ガイドラインの内容は、医療訴訟などの資料となるものではない。
4.診療アルゴリズムの構成
本ガイドラインでは、以下の診療アルゴリズムを作成した。
○FN患者に対する初期治療(経験的治療)
○FN患者に対する経験的治療開始3-4日後の再評価
○がん薬物療法でのG-CSF予防投与
2012年7月
日本臨床腫瘍学会発熱性好中球減少症診療ガイドライン部会部会長
高松泰
発熱性好中球減少症(FN)という病名は、血液内科の医師にとって待望久しいものであった。これまで培養陰性の感染症例は研究上では感染の確証に欠けるとして除外、脱落となり、急性白血病治療中の感染症では数%の培養陽性の菌血症確診例のみが研究対象となっていた。残りの90%の好中球減少、発熱あり培養陰性の症例は除外、脱落とされ、evidence―based medicineといいながら非常に偏った対象の治療研究しか発表になっていなかった。2004年にようやくFNという病名が日本でも抗生物質の適応症として承認され、血液疾患合併の感染症の全体像が把握され、これに対する治療研究もなされるようになってきた。
今回、日本臨床腫瘍学会が作成された「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン」は現状でのこの分野の研究を総括し、FNの概要と初期評価、治療、予防について27の問題点をあげ、それぞれの問題点に対して推奨する方法とそのエビデンスレベルを示し、明確に解説されている。現在のガイドラインとしては最高の出来と思われる。診断基準は厚生労働省の診断基準に準じているが、国際共同研究などの場合にはまた修正が必要となるかもしれない。原因菌不明の場合も多いから推定治療で始まる場合が多く、医師の腕の見せ所といわれる場合もあるが、多くのエビデンスに支えられて初期の経験的治療から重症化リスクの推定、真菌症の推定、予防的治療、免疫グロブリン、G―CSF(顆粒球コロニー刺激因子)についての抑制的な態度も最近の治療の進歩に裏づけられたものであり、さらにウイルス感染症の危険が高い場合についてワクチン接種などの可能性も示されている。
血液疾患診療はまさに日進月歩であり、治療法の進歩に応じて免疫抑制の程度が異なり、それに従って合併感染症の様相が異なり、新しい病原体による感染症も次々に報告されている。的確な診断が困難な場合も多く、これまでの蓄積を生かした推定とそれに基づく治療研究がさらに進められ、それに従ってのガイドラインの改定も必要となってくると思われる。
本書は日本臨床腫瘍学会の委員の方々が綿密な調査とまとめに努められ、海外のガイドラインと比べても遜色のない見事な出来栄えとなっている。これからの血液臨床を志す医師にとっての手引きとなるとともに、引き続いて出てくるであろう改訂版の重要な基礎となる出版であると思われる。
評者■正岡徹
内科111巻1号(2013年1月号)より転載