書籍

もっとうまくいく緩和ケア

患者がしあわせになる薬の使い方

: 余宮きのみ
ISBN : 978-4-524-24615-1
発行年月 : 2021年7月
判型 : A5
ページ数 : 312

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

一歩進んだ緩和ケアの薬剤処方が身につく/緩和ケアにおける臨床推論が学べる
ガイドラインや教科書の通り診療しても苦痛が緩和されない…,実際の患者は病態が複雑に併存していて対応に困る….そんな現場の悩みに答える一冊.がんの疼痛緩和・症状緩和では近年薬剤の選択肢が広がる一方,その使いこなしに難渋する医療者は少なくない.本書では症例に沿って,診断と治療選択に至るまでの著者の思考過程(臨床推論)をたどり,薬理学的知識と経験に裏打ちされた処方の実際を示す.本書を読めば患者がしあわせになる薬の使い方が身につき,緩和ケアの臨床は“今よりもっと,うまくいく”.

T もっとうまくいく 痛みのマネジメント
A やっぱりアセスメント
 1.痛みは日々刻々と変化する【痛みのアセスメント/ 発作痛】
 2.どこが,どんなときに痛いのか?【体動時痛】
 3.夜間痛を見逃さない【夜間痛】
B 薬剤にまつわる こんな「困った!」
 1.オピオイド使用中にせん妄が出たとき【薬剤によるせん妄】
 2.NSAIDs でもせん妄に!?【薬剤によるせん妄】
 3.放射線治療後,眠くてたまらない!【放射線治療後の傾眠】
 4.放射線治療後,無呼吸に!?【放射線治療後の傾眠】
 5.疑わなければ気づかない―薬物相互作用【薬物相互作用】
C 薬剤をもっと使いこなす
 1.オピオイドのタイトレーション@―夜間の睡眠マネジメントは必須【タイトレーション】
 2.オピオイドのタイトレーションA―増量不足はなぜ起こる?【タイトレーション】
 3.激痛にはオピオイド注射でタイトレーション【タイトレーション】
 4.頻発する発作痛では鎮痛補助薬を使いこなす【鎮痛補助薬】
 5.短期決戦に“ヤブ医者療法”―神経障害性疼痛での鎮痛補助薬の工夫(経口剤編)【鎮痛補助薬】
 6.寝返りもできない痛みにケタミン―神経障害性疼痛での鎮痛補助薬の工夫(注射剤編)【鎮痛補助薬】
 7.そのレスキュー薬で,本当に大丈夫?【発作痛の対応+ フェンタニル口腔粘膜吸収剤】
 8.予防的レスキューに―フェンタニル口腔粘膜吸収剤という選択【フェンタニル口腔粘膜吸収剤】
 9.内服困難でも使えるフェンタニル口腔粘膜吸収剤【フェンタニル口腔粘膜吸収剤】
D むずかしい痛みも もっと対応できる
 1.骨転移の体動時痛はこうマネジメントする【骨転移痛】
 2.骨転移の体動時痛にメサドンを選ぶことも【骨転移痛】
 3.下肢骨転移にリハビリテーション【骨転移痛】
 4.難治性疼痛は先回りして考える!【難治性疼痛】
 5.メサドンを早めに導入するときとは【難治性疼痛】
 6.オピオイド高用量でもスッキリしない痛みには?【難治性疼痛】
 7.慢性一次性疼痛―病巣はなくても痛い【慢性一次性疼痛】
 8.“がん患者の痛み” がすべてがん疼痛とは限らない【遷延性術後疼痛】
 9.悪性腸腰筋症候群を診断できるとよいワケ【悪性腸腰筋症候群】
 
U もっとうまくいく 痛み以外の症状のマネジメント
A やっぱりアセスメント
 1.その腹痛は何のせい?【便秘】
 2.悪心の原因はオピオイド?【便秘】
 3.眠気・せん妄はオピオイドのせい?【高カルシウム血症】
 4.1回の点滴でソワソワ,落ち着かない【アカシジア】
 5.その身の置きどころのなさはどこから?【アカシジア】
 6.予後予測でケアは変わる【予後予測】
B 薬剤をもっと使いこなす
 1.とにかく悪心をなんとかしたいときの確実なレシピ【悪心】
 2.オピオイド導入後にナルデメジンを開始すると【便秘】
 3.ステロイドの可能性は多様―上部消化管の通過障害【消化管閉塞】
 4.その目標は実現可能?—下部腸閉塞【消化管閉塞】
 5.呼吸困難—少量ミダゾラムを使いこなす【呼吸困難】
 6.緊急脱出にステロイドパルス療法【呼吸困難】
 7.進行がん患者の経口睡眠薬の調整はこうする【不眠】
C 痛み以外のむずかしい症状も もっと対応できる
 1.下剤を使っても便が出ない!【便秘】
 2.切り札のない腹水による腹部膨満感【腹水】
 3.倦怠感の緩和ケア【倦怠感】
 4.治療の決め手がなくても試すことはできる―婦人科がんの瘻孔【瘻孔形成】

はじめに

 緩和ケア医になって20年,私の最大の幸福は,多くの患者を紹介くださる医師や看護師に恵まれてきたことです.
 そこから得てきたものを,たった43例で言い尽くせる訳がありません.かといって,長年にわたる症例のパターンを網羅的に記すなど,そんな話は退屈でしょう.ですから,本書の43例は,退屈でない症例にしたつもりです.
 具体的には,以下のようなことです.
1.著しい苦痛であってもシンプルな原則で対応できる症例
 激しい苦痛をもつ患者を前にして,「太刀打ちできない!」とひるんでも,誰もが知っているシンプルな原則を活用すると劇的に解決する,ということはよくあることです.これまで,私の元に全国から多くの医療者が症例のコンサルテーションを寄せてくださいました.そのほとんどは,「『ここが知りたかった緩和ケア(改訂第2版)』(南江堂,2019)の●ページに記載があります」といった内容でお返事できるものでした.いざ,目の前で苦しんでいる患者に遭遇すると,本で読んだ知識をそのまま生かすことはむずかしいこともあるのだな,ということがわかりました.
 そのような経験から,本書では,これまでの3冊の自著の内容を“患者に具体的に生かすとこうなる”ということを強調できる症例を選びました.
2.緩和ケア医として成長のきっかけになった症例
 今になって考えれば想定内のことなのですが,そのパターンの症例をはじめて経験した当時の私にとっては,“思わぬ落とし穴となった症例”を選びました.
 NSAIDsによるせん妄,薬物相互作用によるせん妄,放射線治療後のせん妄,抗ドパミン薬による錐体外路症状,体動時痛に対してオピオイドを増量して転倒してしまった…などなど.想定の範囲をいかに広げることができるか.それが患者に無益な負担をかけない緩和ケアにつながります.
 特に進行終末期がん患者では,症状は悪化していく一方ですから,落とし穴に落ちてしまい患者に想定外の負担をかけてしまった薬物療法というものが,どれほど悔やまれることでしょうか.
3.これはいい方法なんじゃないかな,という症例
 緩和ケアの師匠からの言葉で自分に言い聞かせてきたことですが,「患者が自制内の苦痛に緩和するまで,医師は家には帰らない」「患者が苦しんで夜眠れないのに,医師が眠ってはいけない」という気概が大切だと思っています.
 このための戦略をひと言で言い表すと,「巧遅は拙速に如かず」.時間の限られたがん患者の緩和ケアを任された者としての座右の銘です.
 これを座右の銘に,苦しむ患者を目の前にすると,既成の教科書やガイドライン,エビデンス,経験知たちが頭の中で超高速回転します.そんな状況の中で,患者との相互作用によってつくられたクリニカルパール…,何かの役に立つなら…という気持ちで症例を選びました.これは今までの自著と同じ気構えでもあります.さて,いざ本になったものを読むと,個人の体験がいかに限られたものかがわかります.私自身がいくらでも例外や「そんなにうまくいかないこともあるよね」と反対例を思いつくのですから.すべての患者に1つの方法で対応できるなんてことはありません.
 ただ,ぜひ付け加えて言いたいことは,がんによる症状の中には,決め手となる症状緩和の方法がないからといって,何もしなければ状況が改善せず,苦痛に満ちた最期になるような症状が厳然としてある,ということです.症状が改善する可能性があり,副作用が許容できるのであれば試さない手はありません.そのいくつかの方法でも提示できれば…というのが私の願いです.
 また,本書は薬物療法を中心に解説していますが,薬物療法が適切に行われるところには必ず良好なコミュニケーションがあります.逆に良好なコミュニケーションが行われれば,適切な薬物療法も行われるでしょう.一方がおろそかになれば,他方の質も維持しえず,早晩,患者との信頼関係が失われていきます.症状緩和がうまくいかないときには,そんなことも見直してみてほしい,ということを付け加えておきます.
 さて,本書の企画から完成まで,4年を要しました.その間,絶えず激励くださった南江堂の高橋有紀さん,杉浦伴子さん,杉山由希さんなくして本書は完成しませんでした.内容をすべて理解し,症例の臨場感を読者に届けるための試行錯誤を繰り返してくださいました.そして私の強い希望で,表紙イラストにはコイヌマユキさん,本文イラストは天野勢津子さんに描いていただくことができました.この場を借りて心からの感謝を申し上げます.
 私がなしえなかった治療法について紹介的に述べることは,あまり誠実であるとは言えません.私がどのように患者を診て,どのようにしてきたかを述べる形で症例集を出版することをお許しいただきたく思います.このような本ができるだけすみやかに不要となり忘却されることこそ,むしろ私のひそかな願いです.
 この本がなんらかの形で有用であれば,著者として望外の幸せです.

2021年 春
余宮きのみ

リアルな臨床現場で頼れる実践的な緩和ケアの必読書
 一般的な教科書やガイドラインだけでは太刀打ちできないのが緩和ケアのリアルな臨床現場である.緩和ケアが必要な患者は一般化できない個別性の高い状況にあることが多く,医学的なエビデンス,医師の経験,患者の選好をバランスよくミックスすることで最善の緩和ケアが提供できる.本書では,医学的なエビデンスを熟知した著者の20 年の緩和ケアの臨床経験から生まれたクリニカルパールが具体的な症例としてまとめられている.質の高い緩和ケアを実践したい医療者にとっての必読書である.
 本書は,緩和ケアで最も高頻度に遭遇する痛みの多彩な症例が紹介されている.症例の形式で,「アセスメント」「副作用などのピットフォール」「基本的な薬物療法」「高度な薬物療法」が網羅されている.また,難易度が3 段階でレベル分けされており,緩和ケアの入門者から熟練者まで学べる内容となっている.日常診療では使用頻度の低い薬剤に関しては,具体的な投与方法が詳細に記載されており,未経験者でも実際の臨床に活用できる配慮がされている.
 痛み以外の比較的頻度の高い症状や病態,知らないと見逃してしまうような副作用も紹介されており,この1 冊でおおむねの患者へ質の高い緩和ケアが提供することができるであろう.
 病態・症状別の目次や診療アルゴリズム,薬剤別の目次などが読者の使いやすさにも配慮され構成されている点にも,著者の「目の前の患者の苦痛にすぐに対応してもらいたい」という思いがうかがえる.
 筆者自身,著者とともに臨床現場で働き,著者の妥協のない迅速な対応で患者がすぐに笑顔にしあわせになる場面をたくさん経験してきた.その臨床現場での思考過程や対処法が集約された本書が,患者のしあわせを願う医療者によって活用され,高度な緩和ケアが多くの患者に提供されることを期待する.

臨床雑誌内科129巻3号(2022年3月号)より転載
評者●埼玉県立がんセンター緩和ケア科 副部長 中西京子

9784524246151