書籍

限られた時間での対応にもう悩まない!緊急PCIマニュアル

編著 : 伊苅裕二
ISBN : 978-4-524-23214-7
発行年月 : 2022年7月
判型 : B5
ページ数 : 184

在庫あり

定価5,060円(本体4,600円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

限られた時間内で患者救命が求められる「緊急PCI」について,施行のための準備から,待機的PCIとは異なる患者評価や適応判断・治療のポイント、合併症の注意点までをコンパクトにまとめた実践マニュアル.病変・病態別の緊急PCIの実践を学べるケーススタディでは,使用デバイスや治療戦略はもちろんのこと,考えられる最悪のシナリオとその回避法の解説も充実させた.夜間の当直時や休診日など,一人で術者となる可能性もある若手医師に心強い一冊.

基本編 緊急PCIの基本的理解を深める
Ⅰ.はじめに:緊急PCIと待機的PCIは何が異なるか?
 01 緊急PCIの対象疾患
 02 PCI施行までのフローの違い
 03 成功の定義の違い
 04 重要視されるポイント
 05 door-to-balloon時間と総虚血時間
 06 発症から病院までの時間短縮と心電図伝送
 COLUMN 1 院内発症ACS例の特徴
 
Ⅱ.緊急PCIの対象疾患であるACSの基本的理解
 01 ACSの冠動脈病理
 02 心筋梗塞の定義(universal definition)
 
Ⅲ.緊急PCIに必要な人材と役割
 
Ⅳ.緊急PCIに必要なハードウェア
A 緊急PCI施行までに準備・使用するもの
 01 心臓カテーテルとPCIに必要な備品
 02 冠動脈イメージング
 03 血管造影装置
 04 除細動器・体外式ペースメーカー
B 緊急PCI施行中に必要なもの
 01 待機的PCIとの共通デバイス
 02 緊急カートと使用する薬剤
 03 血栓吸引カテーテル
 04 末梢保護デバイス(フィルターワイヤー)
 05 エキシマレーザー
 06 パーフュージョンバルーン
 07 インフュージョンカテーテル
 08 IABP/Impella/PCPS,VA-ECMO
 09 体外式ペースメーカー
 
Ⅴ.COVID-19と緊急PCI
 COLUMN 2 緊急PCIにまつわる社会的問題
 
実践編 もう怖くない!緊急PCI
Ⅵ.緊急PCIにつなげるための診断・検査・初期治療
 
Ⅶ.緊急PCIに必要な基本手技
 01 橈骨動脈穿刺と橈骨動脈アプローチ
 02 SC-PCI法による時間短縮
 03 TAVI後症例のガイディングカテーテル選択
 
Ⅷ.病変・病態別の緊急PCI戦略と実践
 01 脂質プラークが豊富な病変のACS
 02 拡張した右冠動脈の血栓多量病変
 03 石灰化結節が原因のACS
 04 びらんが原因のACS
 05 特発性冠動脈解離(SCAD)
 06 TAVI後のACS
 07 冠攣縮によるACS
 08 ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
 09 ステント血栓症によるACS ~STEMIの再灌流成功後にacute thrombosisを起こした一例~
 10 たこつぼ症候群によるACS類似病態
 11 大動脈解離によるSTEMI
 
Ⅸ.緊急PCI後のフォローアップのポイント
 01 抗血小板薬
 02 脂質低下療法

 日本での死亡原因はがんが第1位ですが,人類の死亡原因を世界統計で調べると,心筋梗塞が圧倒的第1位です.その心筋梗塞に対する治療法として,緊急PCIこそが最も優れたものとして確立されました.その有効性としては,24時間死亡率が1/10に低下するという抜群の成績が示されています.生命を救うという観点から他の追随を許さない素晴らしい治療法であり,すべての医療行為の中で救命治療の代表であると言っても過言ではありません.これは,慢性冠症候群に対するPCIの予後改善に対する議論とは次元が異なるものです.
 緊急PCIを施行するには,普段から診療体制を整えておかないと緊急時によい成績が残せません.病院の診療体制の整備は救命率に直結します.そのほかにも,患者さん自身が病気の自覚までに時間がかかっている事実や病院までの搬送といった問題もあり,これらの課題に対して社会的な啓蒙活動や救急搬送体制の整備も必要です.2019年に施行された「脳卒中・循環器病対策基本法(健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法)」において,これらの社会的整備を進めようとしていますが,今後もさまざまな改善が必要です.働き方改革における診療体制維持も重要な問題です.社会のシステムとして緊急PCI体制の整備は必須と考えられ,今後変化が求められる領域であると思います.
 さて,実際に急性冠症候群(ACS)に対してPCIを行う立場から言えば,PCIの手技そのものにおいても,待機例のPCIと異なる点を理解していないといけません.ACS急性期には,抗血栓薬をローディングした状態で動脈穿刺を行うため,出血合併症が避けられないなど,合併症が多くなります.また,通常の血栓病変だけでなく,石灰化結節によるもの,冠解離によるもの,冠攣縮によるものなど冠動脈閉塞の原因もさまざまに異なり,これらの病変に対し正しく対応できることも必要です.さらに,心原性ショックなど重篤な症例に対する血行動態サポートの知識も必要であり,また心原性ショックを伴うACSは死亡率が著しく高く,新しい治療法が必要とされている領域です.

 待機的PCIと比べて,質の異なるバラエティに富んだ病変,複雑な血行動態の症例に対して,PCIを的確にすばやくできることが高い死亡率からの救命につながるため,緊急PCIは術者にとっては腕が鳴ると思います.5年間のイベントを減らす待機的PCIと比べ,明日生存していることを目指す緊急PCIでは治療のすべてのステップに対する考え方もおのずから異なります.PCI成功の定義すら異なります.加えて,夜間の当直時や休診日など,緊急PCIは経験の浅い若手医師がひとりで術者となるケースも少なくないはずです.
 こうした問題点を共有し,解決の一助となるよう,本書を企画しました.まずは【基本編】で緊急PCIと待機的PCIの違いやACSの病態,緊急PCI施行に必要なデバイスといった基本事項の理解を深め,次に【実践編】で限られた時間内でどのように・何に注意して緊急PCIを施行するかを学べる構成にしています.とくに,「Ⅷ.病変・病態別の緊急PCI戦略と実践」では多数の実症例を通して学ぶことができるはずです.本書が,若手医師を含めて緊急PCIにかかわる医師・メディカルスタッフの皆様の診療の役に立てることを祈念しております.

2022年5月
伊苅裕二

緊急PCIの基本から実践まで,その奥深さや面白さを再発見できる一冊

 急性期の血行再建療法はST上昇型心筋梗塞の死亡率を大幅に低下させた.とくに1990年代後半に,冠動脈ステントを中心とする経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)が急性期の血行再建の方法として用いられるようになってから,緊急PCIはある程度確立した治療法として認知されてきた.多くの施設で24時間,緊急PCIを行える体制が整備され,しかも比較的発症早期に緊急PCIを施行できる施設へ搬送可能なわが国の冠動脈疾患の死亡率は,そのような急性期治療にアクセスするまでの時間がかかる国よりも大幅に低いことがわかっている.しかし,緊急PCIは待機的PCIよりもハードルが高く,また合併症も多くて,さまざまなピットフォールが存在するのも確かである.
 さて,本書は急性冠症候群の緊急PCI治療に特化した書物である.緊急PCIの基本について解説した「基本編」から,実症例を盛り込んで解説した「実践編」まで,手技に関連する多くの事項がカバーされている.「基本編」では,最初に多くの紙面を割いて,急性冠症候群におけるPCI,とくに緊急PCIの重要性について編著者みずからが解説している.「基本編」においても,入門書とよぶには憚られるほど,きちんと細部まで章立てがなされて解説が行われている.さらに,後半部分にあたる「実践編」では実際に臨床で遭遇しうるさまざまな症例が紹介されており,読み物としても十分楽しめる構成となっている.しかもそれでいて冗長にならず,全体で200頁弱と,コンパクトにまとめられている.
 冠動脈疾患の治療において,PCIは長きにわたって多くの臨床研究の対象となってきた.慢性冠動脈疾患患者に対するPCIは,生命予後改善には直結しないことが最近のいくつかの研究で示されている.このため,PCIという治療自体に関して否定的な見解をお持ちの方もひょっとしたらおられるかもしれない.しかし,同じ冠動脈の疾患とはいえ,慢性冠動脈疾患と急性冠症候群は似て非なるもので,それぞれ病理も治療法に対する反応も異なる病態である.こと急性冠症候群において,PCIの効果は生命予後の改善を含めて揺るぎないものであり,実際,臨床現場においてもその有用性を最も実感しやすい治療である.本書を読み進めていくにしたがい,緊急PCIの奥深さや面白さを再発見できそうである.編著者の伊苅先生は,わが国のカテーテル治療に関する学会である日本心血管インターベンション治療学会の理事長まで務め,Ikariカテーテルをみずから開発し,今では標準と考えられている橈骨動脈アプローチの先駆者の一人である.また,同先生は国際的ムーブメントである“Stent Save a Life”を日本で広めることに尽力し,実臨床では数多くの心筋梗塞患者を治療してきた.本書には,そんな伊苅先生のちょっとだけパーソナルな思いも詰まっているように感じるのは私だけであろうか.PCIを志す循環器内科医のみならず,メディカルスタッフにもおすすめの一冊である.

臨床雑誌内科131巻3号(2023年3月号)より転載
評者●北里大学医学部循環器内科学教室 主任教授 阿古潤哉

9784524232147