慢性膵炎診療ガイドライン2015改訂第2版
編集 | : 日本消化器病学会 |
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ISBN | : 978-4-524-26777-4 |
発行年月 | : 2015年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 180 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
正誤表
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2015年05月08日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本消化器病学会編集によるオフィシャルなガイドライン。慢性膵炎の診療上で問題となるクリニカルクエスチョン(CQ)に対して診療指針を示した。今版ではGRADEシステムの考え方を取り入れ、慢性膵炎に関する膨大な文献を初版以降の新たなエビデンスを含めて評価し、エビデンスレベルと推奨の強さを設定。さらに、慢性膵炎臨床診断基準2009に基づく慢性膵炎の早期病変とその診断や、2013年のアトランタ分類改訂による膵仮性嚢胞の定義と治療アプローチなどにも言及し、内容を充実させた。
第1章 診断
1 問診・診察
CQ1-1 病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要か?
2 生化学検査
CQ1-2 血中・尿中膵酵素測定は慢性膵炎の診断に有用か?
3 画像検査
CQ1-3 胸・腹部X線撮影は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ1-4 腹部超音波検査(US,造影を含む)は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ1-5 コンピュータ断層撮影法(CT)は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ1-6 腹部MRIは慢性膵炎の診断に有用か?
CQ1-7 超音波内視鏡検査(EUS)は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ1-8 内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は慢性膵炎の診断に有用か?
4 機能検査
CQ1-9 外分泌機能検査は慢性膵炎の診断に有用か?
5 病理検査
CQ1-10 病理組織学的検索は慢性膵炎の診断に必要か?
6 鑑別診断
CQ1-11 慢性膵炎と膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別診断は必要か?(なぜ必要か?)
7 遺伝子検索
CQ1-12 遺伝子検査は慢性膵炎の診断に有用か?
第2章 病期診断
1 病期診断の必要性
CQ2-1 慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要か?
2 臨床所見
CQ2-2 臨床徴候(所見)による重症度・病期・治療効果の判定は可能か?
3 生化学検査
CQ2-3 血中・尿中膵酵素測定による重症度・病期・治療効果の判定は可能か?
4 画像検査
CQ2-4 画像検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
5 機能検査(外分泌)
CQ2-5 膵外分泌機能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ2-6 脂肪便の確認は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
6 機能検査(内分泌)
CQ2-7 各種耐糖能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
7 スコア化
CQ2-8 スコア化は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
第3章 治療
1 治療方針
CQ3-1 成因,活動性(再燃と緩解),重症度,病期は慢性膵炎の治療に重要か?
CQ3-2 生活歴の聴取は慢性膵炎の治療に有用か?(アルコール性と非アルコール性で違いはあるか?)
2 生活指導
CQ3-3 禁酒・断酒指導は慢性膵炎の治療に有用か?
CQ3-4 食事脂肪制限は慢性膵炎の腹痛に有用か?
CQ3-5 禁煙は慢性膵炎の治療に有用か?
3 疼痛対策
CQ3-6 鎮痛・鎮痙薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-7 消化酵素の大量投与や高力価消化酵素の使用は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-8 蛋白分解酵素阻害薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-9 膵石(蛋白栓)溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-10 麻薬は慢性膵炎の腹痛治療に必要か?
CQ3-11 抗うつ薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-12 ESWLを含む内視鏡的治療は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-13 内視鏡的治療の長期反復は慢性膵炎の腹痛に必要か?
CQ3-14 EUS/CT ガイド下腹腔神経叢neurolysis(CPN)は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-15 外科的治療は内視鏡的治療(ESWL併用を含む)が無効な腹痛に有効か?
CQ3-16 膵管ドレナージ術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-17 膵切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-18 膵管ドレナージ術は膵切除術より慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ3-19 膵全摘術は慢性膵炎の難治性腹痛に有効か?
CQ3-20 内臓神経切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
4 外分泌不全の治療
CQ3-21 適正カロリーと食事内容の指導は慢性膵炎の治療に有用か?
CQ3-22 消化酵素薬は慢性膵炎の治療に有用か?
CQ3-23 胃酸分泌抑制薬は慢性膵炎の治療に必要か?
CQ3-24 脂溶性ビタミン薬は慢性膵炎の治療に必要か?
5 糖尿病の治療
CQ3-25 禁酒・食事指導は膵性糖尿病の治療に有用か?
CQ3-26 経口血糖降下薬は膵性糖尿病の治療に有効か?
CQ3-27 インスリン抵抗性改善薬は膵性糖尿病の治療に有効か?
CQ3-28 インスリン治療開始の指標設定は膵性糖尿病の治療に必要か?
CQ3-29 インクレチン関連薬は膵性糖尿病の治療に有効か?
CQ3-30 血糖コントロールの目標設定は膵性糖尿病の治療に必要か?
CQ3-31 HbA1cは膵性糖尿病の治療効果の判定に有用か?
CQ3-32 糖尿病慢性合併症の診断と治療は膵性糖尿病でも有用か?
6 合併症の治療
CQ3-33 保存的治療は慢性膵炎に合併した膵仮性.胞に有効か?
CQ3-34 仮性.胞の大きさはドレナージ治療の適応判断に有用か?
CQ3-35 内視鏡的または経皮的ドレナージは慢性膵炎に合併した膵仮性.胞に有効か?
CQ3-36 酢酸オクトレオチドは慢性膵炎に合併した膵仮性.胞に有効か?
CQ3-37 外科手術は慢性膵炎に合併した膵仮性.胞に有効か?
CQ3-38 膵管ステントはIPF(internal pancreatic fistula,膵性胸腹水)に有効か?
CQ3-39 胆管ステントは慢性膵炎に合併した胆道狭窄に有効か?
CQ3-40 IVR(interventional radiology)は慢性膵炎に合併した仮性動脈瘤・hemosuccus pancreaticusに有効か?
第4章 予後
1 病態の進行阻止
CQ4-1 内視鏡的治療(ESWLの併用を含む)は慢性膵炎の病態進行の阻止に有効か?
CQ4-2 外科手術は慢性膵炎の病態進行の阻止に有効か?
2 膵癌・その他の癌の危険性
CQ4-3 癌のスクリーニング検査は慢性膵炎患者に必要か?
3 生命予後
CQ4-4 アルコール性膵炎を予後不良群として扱うことは慢性膵炎の生命予後改善に有用か?
CQ4-5 長期的経過観察は慢性膵炎患者の生命予後改善に有用か?
索引
慢性膵炎診療ガイドライン作成の手順
1.改訂の目的
日本消化器病学会は2009.2010年に消化器6疾患に関する診療ガイドラインを作成し,その後,市民向けガイドブックも作成し刊行した.6疾患とは,胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎であり,慢性膵炎診療ガイドラインの初版出版は2009年10月25日であった.日本消化器病学会は対象疾患を拡大し,2011年より機能性ディスペプシア(FD),過敏性腸症候群(IBS),大腸ポリープ,NAFLD/NASHの4疾患の診療ガイドライン作成が新たに開始された.これら4疾患の診療ガイドラインの刊行が予定された2014年には,先行6疾患のガイドラインも作成後5年が経過することになるため,併せて改訂作業を行うこととなった.
初版の慢性膵炎診療ガイドラインは2001年に日本膵臓学会が作成した慢性膵炎臨床診断基準に基づいて作成されたが,この診療ガイドラインが発刊された2009年には,早期慢性膵炎の診断基準を含む慢性膵炎臨床診断基準の改訂が行われた.したがって,診療ガイドラインの今回の改訂では,慢性膵炎臨床診断基準2009に基づいて慢性膵炎の早期病変,診断にも言及し,また,2009年以降に本邦で使用可能となった高力価リパーゼ製剤やESWLの保険適用,新規糖尿病治療薬,2013年のアトランタ分類改訂による膵仮性.胞の定義と治療アプローチなどを含み,初版以降の新たなエビデンスを吟味・採用して診療ガイドラインとしての精度を高めることを目的とした.
2.改訂の手順
1)診療ガイドライン改訂委員会の設立
2011年7月1日に日本消化器病学会ガイドライン委員会の第1回統括委員会が開催され,新たな4疾患のガイドライン作成と先行6疾患の改訂が行われることが決定された.これを受け,2011年11月9日に先行6疾患の第1回改訂委員会が開催され,改訂の基本方針が確認された.また,初版作成時の作成委員長および評価委員長は原則留任としたが,改訂委員会および評価委員会の構成員には次回改訂を考慮して一部若手を採用することが決定された.この決定により,初版作成委員会および評価委員会の構成員を見直し,新しい作成委員会と評価委員会が組織された.2012年9月6日に第1回[改訂]慢性膵炎作成委員会が開催された.
2)作成基準
一般臨床医を対象とした.診断基準には,慢性膵炎臨床診断基準2009を新たに採用した.改訂の基本姿勢として,初版の内容を尊重しつつ,問題点・課題を整理し,CQの見直し,削除と追加を行うこととした.初版以降のエビデンスを収集し,新しい治療法についても言及するよう努めた.また,改訂版では,世界的趨勢となっているGRADE システムの考え方を参考とした「推奨の強さ」を採用した.
3)作成方法
初版の構成を踏襲し,大項目として,「1.診断」,「2.病期診断」,「3.治療」,「4.予後」を設け,各大項目中の小項目立ても初版と同様とした.
各項目内の構成要素については,以下の順に記載することで統一した.「1.CQ」,「2.ステートメント(推奨の強さ,エビデンスレベル)」,「3.解説」,「4.文献(文献の掲載はCQ毎に行う)」.
保険適用の有無については別記せず,解説のなかで記述することとした.
初版CQの文言を吟味し,GRADE システムの推奨の強さに対応するよう変更した.また,初版CQを一部変更,削除し,一部追加した.その結果,CQは初版では総数61であったが,改訂第2版では65となった.
エビデンス収集には,英文論文はMEDLINE,Cochrane Libraryを用い,日本語論文には医学中央雑誌を用いた.新規CQについては1983年.2012年6月末,変更CQについても同期間を文献検索の対象期間とし,初版と同じCQについては2008年.2012年6月末を文献検索の対象期間とした.また,2012年7月以降の重要かつ新しいエビデンスについては,検索期間外論文として文献に掲載した.
網羅的に検索された論文から重要なものを吟味,抽出し,採用論文すべての構造化抄録を作成した.
論文を研究デザインによって分類し,ランダム化比較試験(RCT)についてはバイアスリスク評価を行い,最終的なエビデンスの質をA,B,C,Dの4段階で表した.
推奨の強さの決定は,作成委員全員のオンライン投票によって行った.投票にあたっては,各委員が作成したステートメント,推奨の強さ,エビデンスレベルならびに採用論文の構造化抄録を全委員に配布して情報を共有した.そのうえで,投票を行い70%以上の賛成をもって最終決定とした.70%に満たない場合,合意できない理由をコメントとしてオンライン上で共有し,協議後に投票を繰り返した.最終合意率を記載した.
第2回[改訂]慢性膵炎作成委員会を2013年12月3日に開催し,作業進捗状況,作業上の課題,推奨の強さ決定の方法とその時期,図・表の作成について討議した.第3回[改訂]慢性膵炎作成委員会は2014年7月30日に開催され,推奨の強さ決定の投票結果と各推奨の強さの協議および確認,図・表の作成,今後の作業について話し合われた.
評価委員会には,まず,CQ選定後にCQに関する評価をいただいた.また,推奨の強さ決定後にも最終草案を評価委員長に上申し,評価委員のコメントを集約し,評価委員長からフィードバックしていただいた.
2014年12月10日〜24日まで,日本消化器病学会のホームページ上にてパブリックコメントを募集した.
4)今後の改訂
本ガイドラインは,新たなエビデンスの出現,新しい治療薬や治療法の出現,日常診療の変化に合わせて4.5年毎に改訂を行う予定である.また,特に重要な変更が必要な内容については,Annual Review版として日本消化器病学会のホームページ上でアナウンスする予定である.
3.使用法
本ガイドラインは,慢性膵炎の診断,治療,予後に関する一般的な内容を記載したのもので,臨床現場での意志決定を支援するものである.日本消化器病学会慢性膵炎診療ガイドライン作成・評価委員会のコンセンサスに基づいて作成し,記述内容については責任を負うが,個々の治療結果についての責任は治療担当医に帰属すべきもので,日本消化器病学会および本ガイドライン作成・評価委員会は責任を負わない.また,本ガイドラインの内容は,医療訴訟などの資料となるものではない.
4.診療アルゴリズムの構成
本ガイドラインでは,以下の診療アルゴリズムをフローチャートで示した.
慢性膵炎臨床診断基準2009(作成:日本消化器病学会,日本膵臓学会,厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班)による慢性膵炎診断のアルゴリズム(フローチャート1)
慢性膵炎患者の治療アルゴリズム(フローチャート2)
慢性膵炎の内科的保存的治療のアルゴリズム(フローチャート3)
慢性膵炎の外科的治療のアルゴリズム(フローチャート4)
2015年4月
日本消化器病学会慢性膵炎診療ガイドライン作成委員長
下瀬川徹
厚生労働省の全国調査によると、2011年1年間の慢性膵炎受療患者数は66,980人と推定されており、調査のたびに増加している。慢性膵炎は膵臓の非可逆性、進行性の慢性炎症と考えられているが、発症機序や病態に関してはいまだに不明な点が多い疾患である。本書は日本消化器病学会編集による一般臨床医を対象とした「慢性膵炎診療」のオフィシャルガイドラインであり、初版が出版されてから5年が経過したために今回改訂された。
改訂第2版では、初版と同様に慢性膵炎の診療上の問題をクリニカルクエスチョン(CQ)として取り上げているが、初版と異なり、エビデンスレベルだけではなく、作成委員全員の投票によって推奨の強さ(1:強い推奨、2:弱い推奨)が決定され、最終合意率も記載されていることから、臨床現場での意志決定に役立つガイドラインとなっている。
第2版では、初版のCQを一部変更・削除し、新たにCQを6個加え、CQが65個になっている。診断では、慢性膵炎臨床診断基準2009に基づいた慢性膵炎の早期病変とその診断、治療では、2009年以降に本邦で使用可能となった高力価リパーゼ製剤、ESWLの保険適用や新規糖尿病治療薬に言及されている。合併症の治療では、2013年のアトランタ分類改訂による膵仮性嚢胞の定義と治療アプローチなどが追加されている。これらのCQをもとに、慢性膵炎の診断、治療、内科的保存的治療および外科的治療の手順がフローチャートとして図示され、そのなかには該当するCQが示されていて非常に理解しやすい。
本書で推奨度1(強い推奨)、合意率100%としてあげられているのは、慢性膵炎の診断に有用なのは病歴聴取と身体診察、画像(腹部単純X線像、US、CT、MRI、EUS)であること、慢性膵炎と膵がんやIPMNの鑑別診断が必要であること、慢性膵炎の重症度・病期判定には膵外分泌機能検査が必要であること、成因・活動性・重症度・病期を考慮した治療を行うこと、治療方針決定には飲酒歴と喫煙歴の聴取が重要であること、断酒と禁煙を指導すること、膵頭部病変では悪性腫瘍に準じた膵頭切除術を行うこと、適正な食事指導を行うこと、消化吸収障害には高力価消化酵素薬や脂溶性ビタミン薬の補充治療を行うこと、膵性糖尿病のインスリン治療は1型や2型糖尿病と同様の指標で行うこと、膵性糖尿病では血糖コントロール目標(HbA1c)を立て、糖尿病合併症の評価を行うこと、胆道狭窄には胆管ステントを行い無効例には外科手術を行うこと、hemosuccus pancreaticusには動脈瘤塞栓術を行い無効例には外科手術を行うこと、である。
早期慢性膵炎診断にはEUSかERCPが必要であり、一般病院では容易ではないと感じられた。膵外分泌機能と耐糖能検査は、臨床の現場で判断できる具体的な異常値があればさらに理解しやすいと思う。
糖尿病、とくに1型糖尿病ではしばしば膵外分泌不全を合併するし、慢性膵炎には糖尿病を合併することが多いことから、栄養治療と糖尿病治療を別々に考えるのではなく、糖尿病治療を行いつつ栄養状態を改善させるべきである。膵性糖尿病は一般に血糖の変動が大きく、糖尿病合併症もきたすことから、きめ細かい血糖コントロールが望まれる。慢性膵炎に糖尿病を合併した場合には、糖尿病専門医に相談、あるいは紹介すべきである。
本ガイドラインは、慢性膵炎の診断、治療、予後に関する一般的な内容を記載したのもので、臨床現場での意志決定を支援するものであると締めくくられているが、このガイドラインのみで意思決定ができるか甚だ疑問である。臨床の現場ではもう少し具体的な検査名や異常値判定基準を求めているのではないか。次回の改訂で上記の内容が見直され、よりよいガイドラインとなることを期待する。
臨床雑誌内科117巻1号(2016年1月号)より転載
評者●産業医科大学名誉教授 大槻眞