超音波による乳がん検診の手引き
精度管理マニュアル
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編集 | : 日本乳癌検診学会超音波検診精度管理委員会 |
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ISBN | : 978-4-524-25556-6 |
発行年月 | : 2016年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 70 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
侵襲や被曝がなくリアルタイムで撮影・評価が可能な超音波検査による検診は、今後マンモグラフィとの併用検査として普及・拡大が期待される。本書は日本乳癌検診学会がまとめた、乳がん超音波検診に携わるすべての施設、医師ならびに、臨床検査技師(超音波検査士)が精度の高い超音波検査を実施できることを目的とした手引き書である。
I.疫学
II.超音波による乳がん検診
A.超音波による乳がん検診の対象と方法
B.施設基準
C.精度管理
III.超音波装置の基準
A.装置などの基準
B.条件設定
C.ファントムを用いた画像劣化の管理
D.日常点検
E.定期点検・清掃
IV.超音波検査機器による検査法
A.検査法
B.標準走査方法と注意点
C.検査を行う場所の環境と検査人数
V.画像の記録と所見の記載
A.画像の記録
B.所見の記載,ラベリング
VI.読影と判定
A.カテゴリー分類
B.検診における要精密検査基準
C.所見用紙
D.報告書
VII.教育研修プログラム
VIII.精密検査機関のあり方
緒言
乳がんは日本人女性が最も罹患するがんである。罹患数は増加傾向にあり、死亡数は近年いったん減少傾向にあると報じられたが、最新の結果では再び上昇傾向にある。また他部位のがんと異なり、若い年代での罹患が多いことを考えるとその早期発見、早期治療は社会的にも非常に重要である。
日本における対策型がん検診は老人保健法により1980年代に始まり、1987年に視触診による乳がん検診が開始された。その後、日本におけるがん検診は科学的根拠に基づいていないという批判があり、海外で有効性評価の得られているマンモグラフィ検診の導入が検討され、西暦2000年という記念すべき年に第4次老人保健事業(老健第65号)で50歳以上へのマンモグラフィ検診の導入が始まった。さらに2004年には第5次老人保健事業(老老発第0427001号)で日本において乳がん罹患率の高い40歳代へのマンモグラフィ検診が導入された。同時に乳がん検診については、マンモグラフィを原則とすることになった。マンモグラフィ検診導入直前の年にはがん検診費用が一般財源化され、国庫負担による全国一律の乳がん検診から市町村主導の検診に変わった。
マンモグラフィ検診は乳房の濃度の高い40歳代ではそれ以上の年代に比して感度が落ちることが知られており、臨床の場でも触知する乳がんがマンモグラフィで描出されないことがある。それを補完する意味で、老老発第0427001号では視触診の継続がうたわれていたが、視触診は早期乳がん検出に関する科学的根拠がなく、またその精度管理が非常に難しい。
一方、乳房超音波検査は日本において臨床の場で古くから行われており、触知する乳がんは超音波検査でも描出され、大きな乳房、乳房の深部にある触知しない乳がんが検出されることも経験されてきた。それに伴い、超音波による乳がん検診も任意型を中心に行われているのが実情である。超音波検査は、高濃度乳房が多い日本人女性に向いているといえる。しかし、乳がん超音波検診の有効性に関する科学的根拠はなく、対策型検診への導入には問題があった。
これを解決するためにがん対策のための戦略研究「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)が年から5年計画で行われた。この研究は40歳代女性の乳がん検診においてマンモグラフィに超音波検査を併用することが有効であるかどうかを検証するための大規模なランダム化比較試験で、2年間の追跡期間を経て、主要結果(primary endpoints)が2015年11月にLancetに発表された1)。超音波検査をマンモグラフィと併用した場合、マンモグラフィ単独検査に比べて感度およびがん発見率が優れているという結果が得られ、今後、超音波検査とマンモグラフィの併用が対策型検診として導入される可能性がある。しかしながら、死亡率減少効果や検診の実施体制、特異度が低下するといった不利益を最小化するための対策などについて引き続き検証していく必要性がある。
この論文を機に、超音波による乳がん検診がさらに広まる可能性があるが、検診には精度管理が重要である。J-STARTを開始するにあたっては超音波検診における装置、検査方法、判定基準、従事者の教育などにおいてガイドラインを作成し、それに基づいて検診が行われた。本書はそのガイドラインを参考とし、新しい知見・動きを取り入れ、一般の乳がん検診従事者が入手できるようにしたものである。乳がん超音波検診はすでに行われつつあり、特に任意型検診では精度管理が不十分な施設が多く見受けられる。受診者の不利益を最小化する検診を行うためには精度管理のマニュアルを作成することが急務であると考え、日本乳癌検診学会超音波検診精度管理委員会を中心に本書を作成した。
本書の目的は、乳がん超音波検診を行っているすべての施設が適切な精度管理を行い、その達成度について自己ならびに外部機関が評価できることとし、実際に乳がん超音波検診を行う施設、従事者にとって必要なことを、できるだけわかりやすく記載することを念頭に置いた。超音波検査を中心に述べるが、乳がん検診の基本はマンモグラフィであり、超音波単独で行うことは考えていない。そこで精度管理や報告書に関してはマンモグラフィ検診との併用を考慮して作成した。本書は第1版であり、今後もその時々の状況を踏まえ、改訂していきたい。精度の高い超音波検査による乳がん検診の実施に向けて、役に立つことを願っている。
2016年6月
日本乳癌検診学会理事長 大内憲明
日本乳癌検診学会超音波検診精度管理委員会委員長 東野英利子