手外科診療ハンドブック改訂第2版
こちらの商品は改訂版・新版がございます。
編集 | : 斎藤英彦/吉津孝衛/牧裕/金谷文則 |
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ISBN | : 978-4-524-25301-2 |
発行年月 | : 2014年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 478 |
在庫
定価13,200円(本体12,000円 + 税)
正誤表
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2014年08月28日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
手外科領域において、長い伝統を誇る新潟大学グループの実績に裏打ちされたビジュアルな実践書。前身『手の外科診療ハンドブック』を刷新するとともに、橈骨遠位端骨折や腫瘍性疾患、外傷後遺症・麻痺手の機能再建といった患者のQOLに直結するリハビリテーション関連項目を新設・拡充した。豊富な機能解剖シェーマや症例写真が収載された、診療現場で頼りになる一冊。
総論
I 手外科診察のポイント
A 手の表面解剖
B 手の運動・肢位
C 機能解剖と破格
D 症候別の診断の進め方
II 検査(診断)の要点
A 画像診断
B 関節鏡
C 電気生理学的検査
D 感覚検査
E 筋力評価
III 治療の一般原則
A 治療適応決定上考慮すべき事項
B 手術時期
C 術前準備
D 手術室と装備
E 麻酔法
F 抗菌薬の術前投与
G 手術台、椅子、無影燈の位置取り
H 術野の消毒(スクラビング)と滅菌シーツのかけ方(ドレーピング)
I 駆血および空気止血帯
J 拡大鏡(ルーペ)の着用
K 手術器具、手術機器
L 手術操作上のポイント
M 基本的手術手技
N 縫合材料、治療材料
O 包帯法、術後固定法
P 外固定法
Q 術後管理
R 術後のハンドセラピー
S 副子(スプリント)、装具
各論
I 外傷
A 開放性損傷
B 閉鎖性損傷(救急処置を要するもの)
C 熱傷、凍傷
D 指尖損傷
E 深部組織損傷の治療(開放性・閉鎖性損傷)
F 手外科領域のマイクロサージャリー
G 外傷後遺症
II 炎 症
A 化膿性炎症
B 特殊な感染症
C リウマチ性炎症
D 機械的炎症
E 結晶沈着性および蓄積性炎症
III 指の弾発、ロッキング
A 強剛母指
B ばね指
C 他の原因による弾発現象
D 手関節のクリック弾発−dynamic instability
E 母指のロッキング
F 示指〜小指のロッキング
IV Dupuytren拘縮
V 変形性関節症
A Heberden結節(DIP関節および母指IP関節の変形性関節症)
B Bouchard結節(PIP関節の変形性関節症)
C 母指CM関節症
D 変形性手関節症
E 遠位橈尺関節症
F 変形性肘関節症
VI 絞扼性神経障害
A 病態生理
B 診断法
C 補助診断表
D 正中神経
E 尺骨神経
F 橈骨神経
G 絞扼性神経障害と鑑別すべき疾患
H double crush syndrome
VII 麻痺手の機能再建
A 末梢神経麻痺の運動機能再建
B 四肢麻痺手
C 痙性麻痺手
VIII 疼痛
A 複合性局所疼痛症候群、反射性交感神経性ジストロフィー、カウザルギー
IX 循環(血行)障害
A Raynaud現象、Raynaud病、Raynaud症候群
B 閉塞性血栓性血管炎、Buerger病
C 閉塞性動脈硬化症、末梢動脈障害
D 反復性鈍的外傷による血行障害
E 胸郭出口症候群
F 振動障害(手腕振動障害)
X 無腐性壊死、骨端症
A Kienbock病
B Preiser病
C 他の手根骨無腐性壊死
D Dieterich病
E Thiemann病
XI 先天異常
A 成因
B 分類
C 先天異常の治療原則
D 治療
XII 手・前腕部の腫瘍および腫瘍類似病変
A 診断総論
B 手外科医にとって重要な疾患
C 骨・軟部腫瘍や皮膚悪性腫瘍を専門とする医師の協力が必要な疾患
D マイクロサージャリー手技を用いた患肢温存手術と機能再建術
XIII 精神的な問題を含む手の障害、詐病の診断
A 書痙、局所性ジストニア
B 虚偽性障害
C 身体表現性障害
D 転換性障害(ヒステリー)、うつ病
E 詐病
索引
私の書斎の本棚の側面にセピア色になったわら半紙13ページの綴りが、長い間紙挟みで吊るされていた。手書きのガリ版印刷のもので、筆跡からして私の手の外科の恩師の一人である内山淳先生がガリ切りを担当されたものと思われる。これは、私が1967年に新潟大学整形外科の手の外科研究班に所属して間もない頃、毎週水曜日の夜8時から始まる「ハンドミーティング」の際に班員一人一人に配布されたものである。亡き恩師田島達也先生が手の外科の教科書を出版する準備として作られた執筆内容の項目立てである。
1974年から毎年新潟手の外科セミナーが開催されるようになり、この綴りの項目立てに準じてセミナーのテキストが作成された。その骨格の執筆は田島先生ご自身が担当されたが、その後はセミナーの各セッションの担当者が毎年新しい知見や文献を付け加え、修正してきた。田島先生は生前、このテキストが受講者以外の手に広く行き渡ることを望んでおられなかった。それは、このテキストをもとに教科書を出版することを考えておられたからである。しかし、完璧主義者で、常に最新の知識や技術の記述を追い求めておられるうちに田島先生はとうとう機会を失ってしまわれた。
幸い2004年に、手の外科班の私の先輩で当時の琉球大学教授茨木邦夫先生の音頭取りで本書の初版が出版された。しかし、教授のご退官に合わせた出版であったことや、田島手の外科の門下生が全国に散らばってしまっていたことなどから、門下生が総力を挙げてという訳にはいかなかった。内容自体も、骨関節損傷の中でも重要な橈骨遠位端骨折や、運動機能再建、腫瘍・腫瘍類似疾患の項が欠けているなど不十分なところがあった。茨木先生からは、できるだけ早い時期に私が中心になって改訂するようにというご指示を頂いていた。あれからあっという間に9年が経ち、ようやく改訂第2版を発行することができることになった。
今回の改訂に際しては、初版出版時に尽力した琉球大学の金谷文則に加え、新潟手の外科研究所の吉津孝衛、牧裕と私の4人で編集することにした。項目立ては、40数年間まだかまだかと出番を待っていた田島先生が作られた項目立ての綴りを参考にして、初版の内容の足りないところを補うような形で作成した。各項目の執筆者だけでなく、最初から各項目の原稿の査読者も決めた。重要事項の書き落としがないか、思い込みによる間違った記載がないか、査読者がチェックし、また読みにくい文章は読み易くするように執筆者に修正を依頼した。編集者もそれぞれ一部の項目の執筆を担当したので、それらの原稿は他の編集者が査読した。
整形外科の幅広い領域にわたって田島先生が育てられた多くの弟子たちの総力を結集する意味もあり、手の外科班以外の方々にも協力して頂いた。帝京大学リハビリテーション科の栢森良二教授には「電気生理学的検査」の執筆を、新潟県立リウマチセンターの石川肇先生には「リウマチ性炎症」の項を担当して頂いた。新しく追加した項目の一つ「手・前腕部の腫瘍および腫瘍類似病変」の執筆では、新潟県立がんセンターの守田哲郎、畠野宏史両先生、新潟大学の生越章准教授、聖隷浜松病院の井上善也先生に資料提供や原稿の校閲でご協力を頂いた。
本書の表紙のデザイン決定には、編集者の一人で美術に造詣の深い牧先生に関わってもらった。表紙左上のイラストは吉津先生自身が手指屈筋腱縫合術を施行しているところを牧先生がスケッチしたものである。
専門科の呼び名も「手の外科」から「手外科」に変わった。この書が、手外科を専攻しようとしている若い医師たちの知識の形成や技術の習得の一助になり、日本の手外科の発展につながれば、編集者として望外の喜びである。
たぐいまれな知力と能力に恵まれた不世出の天才、田島達也先生に巡り会え、指導を仰ぐことができた幸運に感謝し、ご霊前に本書を捧げます。
2013年秋
編集者を代表して
斎藤英彦
“Art of Hand Surgery”と副題をつけたくなるような優れた手外科診療のための書籍を紹介する。
現在手外科を扱っている先生の本棚にはおそらく「第○回新潟手の外科セミナー・テキスト」が鎮座しているのではないであろうか。テキストの厚さはさまざまで、現在ではおそらく4cmを超える厚さになっていると思われる。評者が最初に新潟手の外科セミナーを受講した1970年代後半には、まだ現在のテキストの半分の厚さであった。それでも手外科に関する最新の知識・治療方法がびっしりと記載されており、豊富な文献の紹介があった。手術の前には必ず読み、外来には常に持参し参考にしていた書であった。このテキストは市販されておらず、セミナーに参加しなければ手に入らないものである。「手外科医になるなら、まず新潟の3日間のセミナーを受講しなければならない」。これは今でも語りつがれていることである。しかし、受講しようにも応募者が多く人数が限られており、なかなか参加するのがむずかしいセミナーである。そういうわけで、このテキストは整形外科医にとって垂涎の的であった。
その後、テキストは年々加筆され、徐々に厚くなってきたため、診療現場では少し使いにくく、また詳しすぎる感もあった。そんなおり、田島達也先生のお弟子さんたちが、田島先生の意思を受け継ぎ満を持して「ハンドブック」として本書の第1版を世に出したのが2004年であった。田島門下の錚々たる先生方により、ゴールドスタンダードとなっている治療法を学ぶことができる、手外科医師にとって必携の一冊がまとめられたのである。
それから9年が経過し、その間の新たな考え方・治療法などを加え、大幅に改訂され今般第2版が出版されることになった。明快な文章と多くのきれいなイラスト・写真・文献は元となったセミナー・テキストを彷彿とさせる。
本書は、総論として「手外科診察のポイント」、「検査(診断)の要点」、「治療の一般原則」について、項目別に簡潔に記載されてる。たとえば、「手術操作上のポイント」の項目では、a)愛護的な組織の取り扱い、b)鋭利な組織展開、c)結紮してから切離、d)ノータッチ操作など、手技の大事なtips(コツ)を知ることができる。また各論としては、「外傷」、「変形性関節症」、「麻痺手の機能再建」など13の病態の診断・治療につき記載されている。ページ数の多い腱損傷、骨・関節損傷の項目のみならず、精神的な問題を含むいわゆるmusician's hand、Secretan's diseaseなどの虚偽性障害や詐病にも言及しているのもうれしい限りである。
吉津孝衛先生が本書の「献辞−田島達也先生に捧ぐ」で、田島先生の座右の銘は“Do what you should do、not what you can(技術的にできるからやるのではなく、やるべきだからやる)”であったと紹介している。新しい技術に目を奪われ真の適応を考えることを忘れてはならないと、本書は教えてくれる。日本における手の外科のパイオニアの一人であり、原語でシャンソンを歌われる田島先生のエスプリが感じられる書籍である。表紙に描かれた牧先生のスケッチによる手術中の吉津先生の手とともに、“Art of Hand Surgery”を手にとってみていただきたい。今もなおわくわくする。
決して書棚に鎮座させておくのではなく、あたかも探偵小説の中の追い込まれた主人公がすばやくポケットに忍び込ませる意外なマニュアルあるいは道具のように、使っていただきたい書籍である。
臨床雑誌整形外科65巻10号(2014年9月号)より転載
評者●弘前大学医学部附属病院病院長 藤哲