書籍

すぐに使える痛みの漢方診療ハンドブック

現代に合わせた本格的な漢方薬の応用−病態と漢方薬の特性を捉える

: 世良田和幸/平田道彦/中西美保
ISBN : 978-4-524-25258-9
発行年月 : 2019年7月
判型 : A5
ページ数 : 192

在庫あり

定価3,850円(本体3,500円 + 税)


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  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

痛み治療の観点から、漢方薬の作用の方向性を正しく掴めるよう、漢方薬の特徴を明確に図表で表し、関連処方が比較・検討できる。現代医学の診療にも有用である“漢方の診断学”が理解でき、西洋医学との橋渡し的な思考が見えるようになる。痛みの漢方治療を始めたい医師・慢性疼痛に携わる医師必携の一冊。

第1部 痛みに対する漢方治療の実際
 1.全身にみられる痛み
  1.帯状疱疹関連痛
  2.末梢神経障害性疼痛
  3.脳血管障害後の痛み
  4.線維筋痛症
  5.関節リウマチ
 2.頭痛(風邪などによる頭痛,片頭痛,緊張性頭痛,群発頭痛,脳脊髄液減少症)
  1.環境要因による頭痛(外因頭痛)
  2.身体の異常による頭痛(内因頭痛)
 3.顔面痛
  1.三叉神経痛
  2.顎関節症
  3.非定型顔面痛
  4.舌痛症
 4.頚肩上肢痛
  1.頚椎症,頚椎椎間板ヘルニア
  2.外傷性頚部症候群
  3.肩関節周囲炎
 5.胸背部痛
  1.肋間神経痛
  2.脊椎圧迫骨折
  3.開胸術後症候群
 6.腰下肢痛
  1.急性の腰痛
  2.慢性の腰下肢痛
  3.脊柱管狭窄症
  4.椎間関節症
  5.腰椎手術後の慢性腰痛
  6.仙腸関節痛
  7.股関節痛
  8.膝関節痛・足関節痛
  9.足底部痛
 7.肛門部,会陰部の痛み
  1.肛門部痛
  2.会陰部痛
 8.月経関連痛,更年期障害
  1.月経前症候群(PMS)
  2.月経困難症
  3.更年期障害
 9.心因性疼痛
第2部 総論
 1.痛みの漢方治療の基本
 2.漢方医学特有の概念・評価尺度
 3.診断
付録 痛みに対する漢方薬.使い方のヒント.
付録 薬剤・エキス製剤一覧表
索引

WEB動画タイトル一覧
 動画:加味逍遙散の舌
 動画:舌の白膩苔
 動画:治打撲一方の圧痛点
 動画:葛根湯の圧痛点
 動画:腎虚の顔色・舌
 動画:四逆散の舌
 動画:抑肝散の舌

まえがき

 痛みは、その症状に多様性があるにせよ、誰にとっても辛く悲しい症状のひとつです。紀元前から存在すると思われる痛みの治療ですが、神経ブロック療法や各種の鎮痛薬などの西洋医学的治療のお陰で、痛みはそのほとんどが緩和できると考えられていました。しかし、急性痛に関しては多くの痛みは克服できましたが、慢性痛に関しては様々な治療を施しても緩和できない痛みが存在することもわかってきました。そんな緩和できない痛みに対しては、様々な方法が試され、そのなかで、中国伝統医学の流れをくむ漢方が痛みの治療法として注目されています。
 昭和42年(1967年)にはじめてに薬価収載された漢方薬は、鍼灸と異なり医師が処方しても収入となることやその効果のために急速に普及しました。日本は西洋医学を学んだ医師が漢方薬を処方できる数少ない国のひとつです。漢方薬には、西洋医学でいう鎮痛薬は存在しませんが、慢性痛に対し、漢方医学は痛みを身体全体の不調和と考え、西洋医学とは異なった視点(診察法)で、身体全体の調和を図ることにより痛みを治療することができます。そのためには、四診と呼ばれる診察法で八綱や気・血・水などの症状を診て、漢方薬を処方する必要がありますが、本書では、言葉はできるだけ平易に、そしてわかりやすく漢方薬を処方できるよう、症例も豊富に呈示するよう努めました。診断の手法については、もっと詳しく書かれている成書を参考にしてください。
 漢方は奥が深い、学べば学ぶほどその奥が深くなっていくように思うのは私だけでしょうか? 自然界に存在する物質そのもので治療を行うことは理にかなってはいますが、漢方薬が今のような合剤になるまでには気が遠くなるような年月を要したものもあると思われます。試行錯誤の連続のなかで出来上がったと思われるこれらの漢方薬が、約2000年も経ていまだに効果を持続し、中国に比べて湿気の多い日本でも十分効果のあることは、自然界にある植物や物質の底知れない力を感じます。
 本書は、痛みに対する漢方治療の日本の第一人者でもある平田道彦先生に長年のご経験で培われた処方例や注意点を、また基礎的な研究も含め、女性の目からみた漢方処方を中西美保先生に、そしてその隙間を私が埋めましたが、痛みの漢方治療を行っている先生方の力強い味方になれると思っています。本書が、これから痛みの漢方治療を始めようと考えている先生方や、かなり漢方治療を行ってきたがもう少し漢方を深めたいと思っている先生方の道しるべになると確信しています。

2019年7月
渕野辺総合病院
世良田和幸

 運動器障害への治療にあたって、痛みへの対処は原因疾患の同定とその治療が原則であろう。特に疾患が進行している場合、整形外科医であれば治療効果が明解であり、時間経過も予測しやすい手術的治療を想定しながら治療計画を立てることが多いであろう。その一方で、外来患者が「腰の手術を受けた友人から『絶対に手術はうけちゃあダメよ』といわれた」、と話すことがある。こうした患者の期待に沿わない手術で満足度が最低に終わった例は今も少なくないし、筆者自身が手術を手がけた患者からも「腰痛は相変わらずあります」と胸に刺さる一言をいただくこともある。そもそも整形外科外来でみている大半の患者は手術で得られるメリットが少なかったり、適応がなかったりするのが現状である。
 このような状況下、数多ある薬物の中で漢方薬の存在感が増している。患者の訴える症状の中心は痛みであり、整形外科の外来においても外傷に並んで腰痛や膝痛を訴える患者が大半である。高齢化に伴って薬剤の副作用に対する患者の忍容性が低下しているうえに、原因疾患に対する治療というスキームが成立しにくい患者が増えつつある。漢方は原因疾患にとらわれず、症状を基本に処方していくうえに忍容性が良好であるものも多い。
 本書は昭和大学麻酔科におられたペインクリニック領域の重鎮である世良田和幸先生を中心に、痛みの漢方治療の第一人者である平田道彦先生、滋賀医科大学麻酔科の中西美保先生の3人の共著である。
 本書の最大の特徴はタイトルの通り、「すぐに使える」であろう。通常の漢方書籍は東洋医学的考え方や症状分類、あるいは漢方薬の元素といえる生薬の解説などから始まる。「気」とか「血」といった概念の紹介など、漢方の体系を理解するには必須の内容なのであるが、一般医師にとっては外国語の勉強と同じく、「道半ばにして倒れる」状況に陥りやすいテキストも多いのではないであろうか。
 一方、本書はいきなり患者の症状である。整形外科では頚肩上肢痛、胸背部痛、腰下肢痛の章があり、それぞれ頚椎症、脊椎圧迫骨折、脊柱管狭窄症、腰椎手術後の慢性腰痛など外来で遭遇しやすい患者の病態に対して適応となる漢方薬が紹介されている。たとえば脊柱管狭窄症では「押さえておきたいポイント」として、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)と四物湯(しもつとう)を中心に、とある。「牛車腎気丸」の読み方は知っていたが、四物湯は処方したことがなかったことをここに懺悔する。筆者の院内で行われていた漢方研究会に出ていたのに勉強不足であった。申し訳ない。
 一歩すすんで、細かい診断には漢方的診断が必要となる。脊柱管狭窄症でも淤血(おけつ)が強い場合は桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を追加する、とある。実は本書の後半50ページは総論になっており、漢方の基本事項が記されているのであった。淤血については146ページに「症状:顔色がどす黒い、のぼせ…、四診:舌の色調の暗赤化・舌下静脈の怒張…」と解説が簡略に表中に示されている。
 最後には経験の豊富な先生らしい、実際の使い方のヒントが数多く述べられており、お決まりではあるが欠かせない漢方一覧表で本書は締めくくられている。
 まさしく痛みの漢方診療にあたっての本格的実践本といえよう。

臨床雑誌整形外科71巻5号(2020年5月号)より転載
評者●自治医科大学整形外科教授 竹下克志