書籍

ケアを可視化!中範囲理論・看護モデル

事例を読み解く型紙

  • 新刊

編集 : 荒尾晴恵
ISBN : 978-4-524-24661-8
発行年月 : 2021年3月
判型 : B5
ページ数 : 220

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)

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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

事例報告書の作成にも活用できる中範囲理論・看護モデルを複数紹介。教科書的に知識を詰め込むのではなく、事例を通して理論の使いかたを学ぶことで、はじめてでも無理なく事例分析が始められる。「どの理論をどう使えばよいかわからない」と悩む理論初学者に最適な一冊。

理論・モデルの選びかた使いかたワンポイント!
困難事例を理論で読み解いてみよう
 1 ニューマン理論 末期すい臓がんの告知を受けてスピリチュアルペインを体験している壮年期のAさん
 2 ケアリング理論(患者-看護師関係) 積極的治療の継続が難しいと告げられた若年のBさん
 3 セルフケア理論(糖尿病患者の場合) 血糖コントロールがうまくできないCさん
 4 セルフケア理論(がん患者の場合) 夫への気遣いから治療継続中に感染症を併発した不全麻痺を有する高齢のDさん
 5 家族看護エンパワーメントモデル 高齢世帯で認知症の妻の介護をしていたが自身が胃がん手術をしたEさん家族
 6 危機理論(フィンクの危機モデル) 脳出血による後遺症で危機的な状況にあるFさん
 7 危機理論(アギュララとメズィックの危機モデル) 拡張型心筋症による心不全急性増悪によって落ち込み,危機的な状況にあるGさん
 8 自己効力理論(セルフエフィカシー) 副作用で食事摂取が困難となり,退院に不安があるHさん
 9 マステリー 長期にわたる化学療法で治療のストレスを抱えるIさん
 10 エンパワーメント 自己の状況をコントロールできないことで起こる無力感を体験しているJさん
 11 悲嘆/予期悲嘆 末期肺がんで予後が数日の状況にあるKさんの妻
 12 自己概念/ボディイメージ 乳房切除によりボディイメージの変容をきたしたLさん
 13 がん患者の療養上の意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル(NSSDM) 終末期を過ごす療養場所の選択に悩むMさん
 14 症状マネジメントの統合的アプローチ(IASM) 強い腹痛があり疼痛コントロール目的で入院したNさん
 15 心理的ストレス・コーピング理論 化学療法の末梢神経障害によい対処法がなく,苦慮しているOさん

はじめに(序文にかえて)

1.看護実践に理論は必要なのでしょうか。
 理論というと難しい、よくわからない、現場では使えない、という看護師の声をよく聞きます。一方で、どんな時に理論を使いますか、と問うと、困難な事例の振り返り、困難な事例のカンファレンス、看護研究、などがあがってきて、まったく現場で使われていないわけではなさそうです。看護診断に使われている用語にも、理論がもとになっているものもあり、興味はあるが、なかなか腰をすえて学ぶ機会がないという看護師も多いのではないでしょうか。
 看護理論研究家のアグリッド1)は、理論は現場の看護師が以下の7つを行う場合に役立つと述べています。(1)患者のデータを整理する、(2)患者のデータを理解する、(3)患者のデータを分析する、(4)看護介入について意思決定する、(5)患者のケアの計画づくりをする、(6)ケアの結果を予測する、(7)患者の結果を評価する、というものです。
 このことから考えると、理論を使って看護の現象をみていくと、患者さんの状態の説明がよりよくできます。看護の見方で患者さんがどのようであるのか、を説明できるのです。そして、現状を変えるための看護はどのようであればよいかということが明確になってきます。つまり看護の目的が明確になり、具体的な看護実践が明らかになるわけです。
 臨床現場での現象のとらえ方は、医療者の専門領域や教育によって異なります。多様な見方をもった専門職で構成されている医療チームにおいて、私たち看護師は、看護の視点で現象をとらえ。患者さんに必要なケアを提言することが重要です。
2.看護モデルと医学モデルでの現象のとらえ方
 看護の視点で現象をとらえるとはどういうことでしょうか。筆者が取り組んだ研究から看護モデルと医学モデルでは現象のとらえ方が違うということが明らかになりました。
 頭頸部がんの患者さんで化学放射線療法を受けておられる患者さんがいました。治療開始から4週間がたった頃、化学療法と放射線治療の有害事象として口腔粘膜炎が増悪し、激しい痛みが続くようになりました。医療用麻薬を使用しても緩和せず、食事も摂取できず、医療者とのコミュニケーションにも支障をきたし、夜間もつばが飲み込めないので、不眠の状態になりました。看護師はつらそうな患者さんの痛みを何とか和らげてあげたいと考えました。主治医に鎮痛薬について相談をしたところ、現在使用している医療用麻薬で様子をみるようにとのことでした。看護師はどうしてあんなに痛がっている患者さんなのにと、納得がいきません。こういったことは臨床現場でよくあることです。看護師は、痛みで食べられない、話せない、寝られない、といった生活に支障があるという現象を看護モデルでみています。一方の医師は、痛みがあっても嚥下機能が正常であることから誤嚥の可能性はなく、誤嚥性肺炎にはならないという身体機能評価を軸とした医学モデルで現象をみていました。
 同じ現象でも見方が違うと別のとらえ方になってしまいます。私たちが看護実践をしている臨床現場は多くのことが医学モデルでとらえられています。そのため、看護の見方を備えた看護師が看護モデルで現象をとらえて看護実践をすることが、患者さんの生活の質を維持し、向上させることに役立つのです。
 この頭頸部がんの患者さんの痛みを緩和するために医師と交渉するには、薬の調整を医師に依頼するのではなく、まず、患者さんの生活の様子、痛みがあることで患者さんの生活がどのようになっているのかを具体的に医師に伝えることが必要です。そして、その改善をするためにどのようにしたらよいかという相談をする必要があります。
3.理論から型紙を作り、ケアに活用する
 理論をよく理解している看護師は、患者さんにどのような看護実践を提供すればよいかを考えることができます。そのような看護師は頭のなかに理論を型紙のようにしてもっていて、型紙を使ってみると何が起こっているのか、分析することができ、そこからどうすればよいか、その型紙にもとづいて考えることができるのです。患者理解の視点が明確になり、看護問題が何か整理されます。その結果、困難な事例に何が起こっているのかがわかり、どう看護すればよいのかが明らかになるわけです。
 本書では、理論が難しいと感じている看護師たちに、臨床現場で使ってもらえるような理論をもとにした型紙を作り、その型紙を使って、事例を分析しています。この型紙というのは、患者さんやその患者さんがいる臨床現場の現象をよりよく描き出すといった役割をします。そして、この型紙を使って、普段は看護師が頭のなかで考えていることを言葉で表現してみました。読者のなかには、病院で行われる事例報告会に頭を悩まされている人もいるでしょう。本書で紹介する理論を基礎知識としておさえ、事例の分析方法を学べば、そのような報告会にも自信をもって臨めるようになると思います。理論にもとづいて、看護の見方で作られた型紙を使った事例の分析、そこから生まれる看護実践がどのようなものか、ぜひ体験してみてください。きっといままでとは異なる患者さんの見方や看護の考え方ができることでしょう。
4.理論を実践に用いる限界と今後の発展
 看護理論が看護実践をよりよいものにするということを述べてきました。しかし、1つの看護理論で現象のすべての説明がつくわけでもありません。というのも理論には、その理論が生まれた背景や理論の特徴があり、限界もあるからです。理論を実践で活用する時には、そういったことも知っておくとよいわけです。そして、使う側の看護師の好みもあります。
 たとえば筆者は、オレムのセルフケア理論と出会った時に、それまで臨床の看護実践をしながら感じていた患者さんの強さを表現するものを「セルフケア能力」としてとらえることができることを学びました。そして、ほかの看護師に患者さんの力を説明する時に、セルフケア能力という言葉を使えば、看護師間で共有ができる体験もしました。もともと人は力をもっているというセルフケア理論の人間のとらえ方は、がん患者さんの力を目のあたりにしていた筆者にとてもフィットするものでした。しかし、認知症の患者さんにはセルフケア理論よりも、もっとフィットする理論があるのではないでしょうか。現存する理論を理解し、事例の状況に合った理論を選択することが重要なのです。
 もっと理論が身近で臨床の看護師が使えると感じるためには、現場から多様な理論が生まれる必要があると考えます。現存する理論の限界も知りつつ、本書で紹介した型紙を使った看護を体験していただければと思います。