書籍

臨床実戦 心臓血管外科の裏ワザ77

患者の生死を分ける現場のテクニック

: コ永滋彦/西宏之/阿部恒平
ISBN : 978-4-524-24646-5
発行年月 : 2019年2月
判型 : A5
ページ数 : 272

在庫あり

定価5,280円(本体4,800円 + 税)


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  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

解剖や外科基本手技などの基礎的な知識から始まり、術前準備・術中・術後管理など手術の流れに沿って、臨床現場で実際に遭遇する困った瞬間にどう対処するか、患者の生死を分ける、それでいて成書にはない「裏ワザ」を、第一線で活躍する著者が紹介。どこから読み始めても有益な、若手外科医必読の一冊。

I.解剖学的な特徴
 01 冠動脈同定のためには冠静脈の走行に注目しよう!
 02 よくある解剖バリエーションにはどんなものがあるだろうか?
II.心臓血管外科の基本手技
 03 針を出しやすい運針とは?
 04 どんなにきれいに縫っても結紮がダメだと台無し
 05 タバコ縫合(巾着縫合)は結紮後のことも考えて
 06 血管の単結紮と連続縫合の違いを知っているか?
III.術前準備
 07 手術前から術後の運命が決まっている!?術前投薬調整の考え方
 08 患者が手術に耐えられるか?いかにスクリーニングするか?
 09 いざ再開胸,何をチェックする?
 10 合併症を防ぐには手術室での術前準備が重要!
IV.手術総論(1)〜皮切からポンプオンまで〜
 11 どんな術野の消毒法がもっとも有効か?
 12 胸骨正中切開は真ん中だから正中切開
 13 これが終われば一安心:送血カニューラ挿入
 14 心筋保護のさまざまなテクニック
 15 無駄な剥離は時間浪費と怪我のもと?大動脈テーピングの必要性
 16 正中切開のデメリットを最小限にする開閉胸法
 17 脱血カニューラの至適位置は?
 18 ポンプ開始前には一呼吸して確認を(クランプ前も)
V.手術総論(2)〜ポンプオフから閉創まで〜
 19 さあ,ポンプオフ!本当に大丈夫?
 20 空気抜きは今も昔もとっても大事
 21 漫然とカニューラを抜いていませんか?
 22 カニューラ抜去部の出血はどう止める?
 23 ドレーンは何本必要?入れる場所,位置は?
 24 心膜を閉じるべきか?
 25 一時的ペーシングワイヤー:術後の命綱を確実に!
 26 閉胸前のチェックポイント
 27 手術の仕上げ閉胸
VI.止血法について
 28 見逃しやすい出血,よくある出血
 29 止血のための運針:ここぞというときの決め技!
 30 止血薬のこだわり使用法
VII.手術各論(1)〜冠動脈バイパス術〜
 31 冠動脈バイパスグラフト最適化テクニック
 32 バイパス枝を確実に同定するコツ
 33 心停止下CABGの無血視野出し法:常に目の前に吻合口が!
 34 心停止下CABGグラフトの長さ合わせ:心停止を解除したらグラフトが折れ曲がってしまった!?
 35 OPCABでは心臓の拍動を感じ,周囲との協調により安定した吻合を!
 36 CABGグラフト把持の工夫など:冠動脈吻合は工夫の宝庫
 37 冠動脈切開法:これが無事に終われば半分終わったも同然
VIII.手術各論(2)〜弁膜症手術〜
 38 若手外科医の登竜門大動脈弁置換術は落とし穴だらけ!?
 39 大動脈弁置換術:さあ,弁輪の糸かけだ!でもどうすれば早くできるのか?
 40 狭い大動脈弁輪,あなたならどうする?
 41 人工弁やリングの結紮糸が緩んだ!切れた!さあどうする!?
 42 僧帽弁がよく見えるための左房切開法と展開法,閉鎖法
 43 僧帽弁輪糸かけのコツなど:エキスパートへの道!〜深い所の平面への糸かけ〜
 44 僧帽弁置換術における弁下組織温存法と人工弁挿入法
 45 僧帽弁病変は百人百様,形成術式もまた然り.SAMを意識した手術を
 46 忘れられた弁,三尖弁
 47 大動脈の開け方,閉じ方
 48 右房切開と閉鎖の仕方
IX.手術各論(3)〜大動脈手術〜
 49 脳保護について:あなたは安心型?それとも追い込み型?
 50 弓部置換術:頭と下半身,どっちが重要!?
 51 大動脈手術における確実な人工血管吻合のために
 52 連続縫合部の出血は糸の緩みから
 53 急性大動脈解離:さあ,はじめての緊急手術だ!あれ,大丈夫?
 54 Bentall手術:止血のための工夫
X.手術各論(4)〜その他〜
 55 吻合部視野出しのコツ
 56 左心耳閉鎖は何が確実か?
 57 肺静脈隔離術,テープの通し方
XI.術後管理
 58 手術室を出てからも手術は続いているのだ!
 59 抜管を早めるコツ
 60 術後補助循環が必要になってしまった!合併症で刈り取られないためには?
 61 急激な血行動態の悪化は心タンポナーデと緊張性気胸
 62 ペーシングワイヤーの術後裏ワザテクニック
 63 この5つを知らないと術後循環管理できません
XII.困ったときの対処法
 64 再胸骨正中切開,これが安全にできれば再手術は気持ち的には7割終了
 65 脱血不良をいかに切り抜けるか?
 66 OPCAB中にVf発生!さあ,どうする?
 67 CABG終了後フローメーターが低値,あなたならどうする?
 68 大動脈遮断を解除しても心臓が動かない(Vfのまま)どうしよう?
 69 僧帽弁形成術では(大動脈弁置(,)換術でも),いつも曲者サム(SAM)に気をつけろ!
 70 やっと送血管抜去でも糸が…,おーっ,大出血!!
 71 さあ,手術も終盤!あれ?血圧がない!
 72 ああ,血が止まらない〜
 73 手術は終わった!でも心臓がパンパン!さあ,どうしよう?
 74 冠静脈洞について
 75 急変時にOPCABからスムーズにオンポンプへコンバージョンするには?
XIII.その他
 76 指導的助手:助手側からの手術のコントロールってなに?
 77 マーキングペンの用途
索引

序文

 われわれ心臓血管外科の業界は結果がなんぼの厳しい世界である。結果を出すためには予期せぬトラブルも乗り越えていかなければならない。心臓血管外科を生業にするということはそういうことである。患者さん達はわれわれを信じてその命を託してくれている訳であるが、その信頼に応えるためにはどんな窮地でも対処できるよう一つでも多くの引き出しを持つことが必要である。当然、若い医師が心臓血管外科医を目指し心臓手術が行えるようになるためには、手術手技の習得はもちろん豊富な知識や経験が必要となってくる。特に問題なく手術が順調に進んでいくような症例ではあまり経験のない外科医でもこなせるが、問題は術中に通常とは違うことが起こり、それを解決しなければ前に進めないような状況に陥ったときである。時には幾つもの問題が生じ、その度に判断を迫られることもある。そのような状況ではちょっとしたコツを知っているかどうかが患者の生死を分けることになる。そのコツ(裏ワザ)はテキストブックには載っていないことも多く、現場で見たり聞いたりして先輩から後輩へ引き継がれていくものである。
 今回、本書執筆の依頼があったとき、私個人が先輩から教えていただいたり自分で考えついたりした、日々手術中に若い先生方に伝えていることを書こうと考えた。それに加え是非とも他施設の先生達の知見を知りたいという気持ちから、東京と大阪で活躍している阿部先生と西先生に声をかけ3人でこの本を作り上げることになった。近年、小切開手術、ロボット手術、カテーテル治療など心臓血管外科領域でもその技術の進歩はめざましいものがあるが、本書では若手心臓血管外科医がまず習得すべき胸骨正中切開による開心術に絞った裏ワザについて述べている。
 本文中内容の重複があるところもあるが、強調したい部分であるということでご了承いただきたい。無論この本に書いてあることがトラブル対処法のすべてではないし、執筆者3人の間でも「私はそうはしませんね」とか「それほんと?」、なんて意見も出たりしたのも事実である。それぞれの施設でそれぞれのやり方があるとは思うが、一人でも多くの先生方に(これから心臓外科を目指す若い先生や現在バリバリの現役術者の先生方にも)この本を手にとっていただき、この本をきっかけに飲み会での裏ワザ談義が盛り上がったりすることで自分の引き出しを増やして、患者さんが危なくなったときにこれらの裏ワザが窮地脱出の一助となり、一人でも多くの患者さんの命を救うことに繋がればこんなに嬉しいことはない。そしてこれら裏ワザを自分なりにmodifyし、次世代に伝えていただきたい。稚拙な表現で分かりにくい点も多々あるかと思われるが、読者の皆さんの忌憚のないご批判をいただければ幸いである。また本書では術中の裏ワザだけではなく、術前、術後に是非押えておいていただきたい内容や知ってお得な雑談的コラムも数多く含まれているので、循環器内科、麻酔科、MEや看護部の皆さんにも読んでいただければ、ハートチームの総合力アップに寄与すること間違いなしと信じる。
 末筆ながら本書作成にあたり、多忙な中、素晴らしい原稿を書いていただいた大阪警察病院心臓血管外科の西宏之先生、聖路加国際病院心臓血管外科の阿部恒平先生に心より感謝を申し上げたい。また本書作成にあたりご尽力いただいた南江堂の杉山孝男氏、高橋龍之介氏に深く御礼申し上げたい。

平成31年2月
JCHO九州病院心臓血管外科 コ永滋彦

 本書を手にとり、まずは目次をみる。基本手技、術前準備、手術総論、手術各論と、一見よくある教科書のような構成である。しかし、ポンプオフ、止血、それぞれのポイントとその詳説の一つひとつが、細かな手順まで頭の中にスッとイメージできるように工夫されている。
 それぞれの疾患について手術方法のエッセンスがわかりやすく表現され、そのほとんどがその施設や師匠から弟子に代々受け継がれ、明文化されていないコツのようなものを含んでおり、ありきたりの教科書ではお目にかかれない内容になっている。
 最後には「困ったときの対処法」が待ち構えており、「あれ、なんだか普通の教科書ではないな」と思わされる。全体を通して読むと、考えうるあらゆる場面を想定し、コツやピットフォールについても細かく解説されており、その痒いところに手が届く内容は「なるほど」と唸らせる。
 著者らが自らもまだまだ伸びしろのある才能に恵まれた外科医だからこそ感じることのできる、新鮮かつ教育的な内容を、まるで手術室にいるかのように学べる本に仕上がっている。こんな本が自分が研修医のときにあったら、また新しい手術を始める前にあったら、どんなにかスムーズに手が動いたことか、と思わされる。だから本書を手にとってページをめくってほしい。すぐにでも手術室で試してみたくなること請け合いである。

胸部外科72巻6号(2019年6月号)より転載
評者●川崎幸病院心臓病センター長 高梨秀一郎