書籍

潜在性結核感染症 LTBI 診療ハンドブック

編集 : 阿彦忠之/加藤誠也/猪狩英俊
ISBN : 978-4-524-23759-3
発行年月 : 2018年9月
判型 : B5
ページ数 : 126

在庫あり

定価4,400円(本体4,000円 + 税)


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  • 序文
  • 書評

結核撲滅のための重要な課題である、潜在性結核感染症Latent Tuberculosis Infection(LTBI)の早期発見・早期治療について、一般内科医、結核を専門としない医師に向けて解説したハンドブック。日本結核病学会予防委員会・治療委員会より発表されている「潜在性結核感染症治療指針」に準拠し、事例を交えてLTBIのスクリーニング、診断、治療に関する実践的な知識をまとめた。

第I章 潜在性結核感染症(LTBI)とは
 1 なぜ,潜在性結核感染症か?
 2 潜在性結核感染症の積極的診断検討対象者
 3 接触者健診
  A 保健所の対応
  B 集団感染の事例から
第II章 潜在性結核感染症の診断
 1 潜在性結核感染症の診断(総論)
  A 成人の診断
  B 小児の診断
 2 潜在性結核感染症の診断を躊躇する事例
第III章 潜在性結核感染症の治療
 1 潜在性結核感染症の治療(総論)
 2 潜在性結核感染症の服薬支援
 3 潜在性結核感染症の治療の実際
  A 結核発病リスクが高い人に対する治療
   a 胸部X線での線維結節陰影
   b 生物学的製剤
   c 副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬
   d 慢性腎不全と透析
   e HIV感染症
   f 移植
   g 必ずしも積極的な治療を必要としない例
  B 妊婦・小児に対する治療
第IV章 医療従事者と潜在性結核感染症
 1 医療従事者の結核感染・発病リスク
 2 医療機関の新採用職員の健康診断
 3 結核病床を有する医療機関での健康診断
 4 院内感染が疑われる場合の接触者健診
第V章 潜在性結核感染症に関する法律・制度
 1 届出と保健所での対応
第VI章 今後の期待と課題
 1 診断の課題と世界的にみた状況
索引

巻頭言 発刊にあたって

 潜在性結核感染症という用語は“初耳だ”、“覚えにくい”という方もいると思います。しかし、日常の業務のなかで、潜在性結核感染症の診断と治療(とよばれる行動)を実行している方は多数いるはずです。
 たとえば、「患者さんが結核を発症した。痰の検査をしたらガフキー5号だって」という場面です。そうすると、「接触者をリストアップしよう」、「症状はいつから?」、「接触時間は?」、「行った医療行為は?」、「保健所にも届出しよう」といった初動がバタバタと開始されることでしょう。
 その目的は「結核に感染した人がいるかもしれないので検査をしよう」、「結核を発病しないための治療法は?」ということに行き着くと思います。また、「法律では、届出をすることになっているよね」という法令順守という側面もあります。
 このまま話が進んでいくと、結核に対する漠然とした不安ばかりが募り、体系的とはいえない対応だけで堂々めぐりしていきます。この事態をピタッといいあてる言葉が「潜在性結核感染症」です。
 潜在性結核感染症の診断といえば、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)であり、潜在性結核感染症の治療といえば、イソニアジドです。保健所は届出を受け付ける役所であるだけでなく、患者さんの治療支援に深く関わってくれる強い味方です。
 潜在性結核感染症という用語が登場したのは2000年であり、20年の歴史もありません。しかし、潜在性結核感染症という言葉が登場したおかげで、「疾患の定義」、「診断方法」、「治療方法」、「実際に活動性結核を発症するリスク」といった学問としても、実地でするべき行動も体系化してきたと思っています。本書では、わが国の専門家に分担執筆を依頼し、現時点での最新の情報を執筆していただきました。
 わが国の結核罹患率(人口10万人対)は、2016年に13.9まで低下し、結核低まん延国(結核罹患率<10)が視野に入ってきました。結核高まん延時代は、胸部X線など、網羅的な結核対策が有効でしたが、今後罹患率の低下を背景とした結核診療が求められています。
 潜在性結核感染症の診断と治療は、結核を発病するリスクの高いところに重点的に資源を投資する方法です。上記の接触感染以外にも、免疫抑制状態、透析、移植、生物学的製剤を使った治療等、潜在性結核感染症の診断と治療を求められる場面は多くあり、結核低まん延国を目指すわが国の結核対策として、重要性が高まっています。その実践書として本書が活用されることを期待しています。

平成30年9月
山形県健康福祉部 阿彦忠之
結核予防会結核研究所 加藤誠也
千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科 猪狩英俊

 “Latent tuberculosis infection(LTBI)is definedC as a state of persistent immune response to stimulation by Mycobacterium tuberculosis antigens withC no evidence of clinically manifest active TB.”
 WHOは潜在性結核感染症(LTBI)をこのように定義している。実際の臨床の現場で、この疾患概念は理解されているのだろうか。正しくCLTBIを診断し、適正に治療するために、ぜひ本書を読んでいただきたい。
 「結核菌特異抗原に対する持続的な免疫反応を示す状態」を確認する方法として、現在、実地で利用できるのはインターフェロンCγ遊離試験(interferon gamma release assay:IGRA)およびツベルクリン反応(ツ反)である。日本では小児の一部を除きCBCGの影響を受けないCIGRAが普及している。しかしながら、IGRAもツ反も代理マーカーであり、必ずしも「IGRA陽性=LTBI」といえないところに(活動性結核は否定できるとして)、注意が必要である。
 本書は、「LTBIとは」「診断」「治療」「医療従事者」「法律と制度」「今後の期待と課題」の順に6章で構成され、各執筆者はこの領域のエキスパートである。日本結核病学会から「インターフェロンCγ遊離試験使用指針」「潜在性結核感染症治療指針」が出されているが、本書の特徴は、図を多用し、具体的な事例紹介と対応に関する考え方が書かれていることであり、とくに診断を躊躇するC9事例の紹介と解説は、どのような例にCIGRAを行うか、行わないか、大変参考になるものである。
 本書には、第四世代のCQuantiFERON TBゴールドプラス(QFT-Plus)についても記載されているが、IGRAについては、T.SPOTとCQFTのどちらを選ぶかが議論になりやすい。しかし、どのような集団や患者を対象にCIGRA検査を行うかや、偽陽性や偽陰性がありうることを理解することが基本である。検体検査全般にいえることであるが、性能を理解したうえで検査をオーダーし、その結果を判断すべきであろう。
 では、「免疫反応を示す状態」に対して、なぜ治療する必要があるのだろうか? 個人の健康問題だけであろうか? 本書の最後に登場するCThe End TB Strategy(WHO)がその答えである。本邦では人口10万対の結核罹患率C10が目前になってきているが、LTBIを治療することにより、結核根絶という最終目標を達成することにある。
 本書には「法律と制度」の章が設けられている。ハンドブックの類では、必要な箇所だけ読まれることもあるが、発生届の基準や届出の徹底のところは、必ず読んでいただきたい。また、LTBIの「無症候性病原体保有者」としての届出に関して、赤痢などの腸管感染症への対応との違いについてわかりやすく書いてある。
 結核患者の減少にもかかわらず、医療機関や施設における結核院内感染事例の報告が少なくない。院内感染が疑われる場合、接触者健診についてまず保健所と協議する必要があるが、実際には医療機関のなかでざわつくところである。本書の前半に、象徴的な例として精神病院認知症病棟の集団事例の紹介はあるものの、「救急外来から入院させてみたら後日、肺結核と判明した」などへの対応例の提示があってもよかったかもしれない。もっとも「結核患者発見時の対応」ということで、別の出版物に委ねるべき内容であろうか。

臨床雑誌内科124巻3号(2019年9月増大号)より転載
評者●多摩南部地域病院 副院長/日本結核病学会理事長 藤田明