スローエシックスと看護のアート
ケアする倫理の物語
| 訳 | : 宮内信治/小西恵美子 | 
|---|---|
| ISBN | : 978-4-524-23262-8 | 
| 発行年月 | : 2022年6月 | 
| 判型 | : A5 | 
| ページ数 | : 232 | 
在庫
定価2,420円(本体2,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

倫理に関係する6つのキーワードを著者が集めた物語から読み解いていく.スピードや効率性が重要視される現代だからこそ,迅速さや画ー的なケアではなく,立ち止まってゆっくり考え,振り返ってみようというスローエシックス(slow ethics)の考え方を提唱している.スローエシックスにより人間らしさを改めて問いかけ,それを確認・回復させるきっかけとなる呼びかけの書.
序 章 
1 はじめに:スローエシックスとケアのアート  
 はじめに  
 背 景 
 スロームーブメント  
 ケアのアート 
 倫 理 
 ケアにおける倫理的問題  
 おわりに  
2 感受性:一杯のお茶 
 はじめに 
 物 語  
 感受性  
 注目すること,そして公平に温かいまなざしを向けること  
 ケアにおける尊厳 
 茶,スローエシックスとケアのアート  
 和 
 ケアにおける感受性を高める―芸術はその助けとなりうるか? 
 おわりに  
3 連帯:非倫理的な研究の道徳的な償いとケア 
 はじめに 
 物 語  
 連 帯  
 なぜ非倫理的な行動を起こすのか 
 研究の健全性と連帯0 
 連帯とタスキギー梅毒研究の教訓 
 道徳的な償い 
 おわりに 
4 スペース:道徳的振り返り,静けさ,そして 
 ケアのアート  
 はじめに  
 物 語  
 スペース   
 振り返りのためのモラルスペース 
 振り返りと倫理教育 
 静かな,ゆっくりとした倫理  
 おわりに  
5 持続可能性:ケアのエコロジーを高める 
 はじめに  
 物 語  
 持続可能性  
 ケアにおける関係性と愛  
 関係性の持続可能性 
 スローエシックスとケアのエコロジー 
 おわりに 
6 学問(スカラシップ):困難に耐え人間性を取り戻すこと 
 はじめに  
 物 語  
 ラグナホンダ  
 困難を受け入れること 
 学問(スカラシップ)と「知識を得た舌とペン」  
 規範的倫理  
 謙 虚  
 見捨てないこと 
 規範的でない倫理  
 おわりに  
7 物語:ミレニアル世代のサマリア人 
 はじめに 
 ロバートの物語  
 数々の物語  
 数々の物語と傷ついた人々 
 善きサマリア人  
 助けようとする理由  
 どこまで善良であるべきか?  
 倫理と物語  
 おわりに  
終 章 
文 献  
 本書に貢献してくださった多くの方々の友情と愛に感謝し,またその仲間意識に「ありがとう」と申し上げます.すべてのお名前は書ききれませんが,だからといって感謝していないのではないことをご理解ください. 
 まず,私を信じて物語を提供し,各章を寛大に読んでフィードバックしてくださったEmiko Konishi, Jane Leng,Rueben Warren,LillieHead,Anne Hughes,Jacky Spencer-Davies,Laguna Honda の看護チームの皆さん,Giles Paiba,Robert Gannon,Christpher Herbert,Julia Gittoes, そしてPete Morriss に感謝いたします. また,RossUpshur と匿名の査読者からは,最終稿をお読みいただいた上に非常に有益なコメントを賜り,感謝しています.もしこの本が好評であれば,それは皆さますべてのおかげです.そうでない場合は,皆さまの助言にあまり注意を払わなかった私に全責任があります. 
 2017 年から2018 年にかけて私のサバティカルをご支援くださったサリー大学のMelaine Coward,Helen Griffi ths,Emma Ream に感謝いたします.本書はその刺激的なサバティカルの旅から生まれました. 
 また,サバティカル期間中に私を快く受け入れてくださった同僚や学生の皆さんにも感謝しています.米国では,アラバマ州タスキギー大学のRueben Warren と生命倫理チーム,ニューヨーク州ヘイスティングスセンターのNancy Berlinger と同僚,カリフォルニア大学サンフランシスコ校のBarbara Koenig,Lindsay Forbes と同僚,アイルランドでは,ユニバーシティ・カレッジ・コークのJoan McCarthy と同僚,中国では,アモイ大学のYonghui Ma と同僚,日本では,京都橘大学教授Noriko Kawahara と同僚です.フルブライト奨学金を得たことで,サバティカル期間中の経験が大幅に向上しました.この豊かなコミュニティに私を参加させてくださったElizabeth Mucha,Ana Pereira をはじめとするフルブライトの皆様に感謝いたします. 
 大事な同僚で友人でもあるAnna Cox に感謝します.また,国際ケア倫理研究所の活動を惜しみなくサポートしてくれている国際ケア倫理研究所の諮問グループのメンバーにも感謝します.Sarah Banks,JoanMcCarthy,Anne Scott は参考文献を紹介してくれました.また,この数ヵ月間の留守によって私が十分な注意を払えなかったことに辛抱強く耐え,執筆中に揺るぎない前向きな姿勢を示してくれた人々にも感謝しています.絶え間ない愛情とサポートをくれたColin には特に感謝しています. 友人のRob,Spencer,Sam,Dennis,Douglas,Verena,Chris,Carrie,Craig,Suzie は,定期的に私の進捗状況を確認し,本書を完成させるように励ましてくれました. 
 本書を出版してくださったEmerald 社のBen Doyle,原稿の提出が遅れたことに快く耐えてくださったKaty Mathers とPaula Kennedy に感謝いたします.この人たちはおそらく,「スローな倫理」についての本が少し遅れてもさほど驚かなかったのではないでしょうか.最後に,本書の中の表現豊かなイラストは,Claire Smith の手によるものです.Claireは,正式な美術家であり,講師でもあります.現在は,プロフェッショナルとしてデザイナーのマネジメントや教育を行ないながら,実践を続けています.彼女は私の娘,Kiera の大切な友人です. 
 表紙をはじめて目にした時,なじみのある「看護のアート」という言葉とともに,「スローエシックス」という聞きなれない言葉がとても新鮮で,興味深く感じたため,私は本書のページを開いた.本書は,著者の母親が体調を崩して入院した病院で,看護師から受けた差別的対応の物語をはじめ,スローエシックスで考察する6 つの要素「感受性」「連帯」「スペース」「持続可能性」「学問(スカラシップ)」「物語」それぞれを表す多くの物語をふんわりと包みこむような装丁と,かわいらしい字体が,紡いでいた.
 私は,倫理原則や規範に関する書籍や事例に基づいた解説などを活用し,臨床における看護倫理の問題についての教育および実践を模索してきた.今までは,日常で起きる違和感や社会的な問題に,「真の正義はどこにあるのだろう?」と考えはするが,何か釈然としないまま,「日本の文化だから」「社会の通念だから」とどこかあきらめに近い気持ちでいたように思う.本書を読み進めることで,今そこにある問題をスピーディーに解決することよりも,問題の本質をじっくり考察し,これから先も継続できる倫理的なケア実践を導き出す,スローエシックスこそ,私の釈然としなかった問題に向き合うべき姿勢だったのではないかと感じた.
 アイルランド北部の田舎に生まれ育ったという著者の背景から,人種や宗教といった根深い問題をひしひしと感じとることができた.とくに,最後の「物語」の章では,目の前の瀕死の人を助けるか否かで,敵国,異宗教,人種という背景を考えさせられた.著者は諸外国の文化的価値についても的確に考察し,「感受性」の章では,日本人看護師の物語から看護のアートがもつ力を示している.
 本書では,章ごとに多くの先人たちの言葉,先行研究を用いて多角的に物語を考察している.ぜひ本書を通じて,看護をとりまく社会的情勢や歴史,文化に見るさまざまな問題を,ゆっくりじっくり考え,倫理的感受性が刺激されていく体験を多くの方に味わってほしいと思える一冊である.
がん看護27巻8号(2022年11-12月号)より転載
評者●松田芳美(山形県がん総合相談支援センター/がん看護専門看護師)


 
 
				
			