HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2025
HTLV-1陽性関節リウマチ&HTLV-1陽性臓器移植 診療の対応を含めて
監修 | : 日本神経学会 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-27436-9 |
発行年月 | : 2025年10月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 228 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文

日本神経学会によるHTLV-1関連脊髄症(HAM)のオフィシャルなガイドラインの改訂版.HAMとその関連疾患の疾患概念,疫学といった基礎的な内容から,検査・診断,治療について解説し,今後のHAM診療の指針を示す.今改訂では@ステロイドパルス療法に関する推奨文の追加,A診断・治療アルゴリズムの改訂,B「共有意思決定」をテーマとした章の新設などを行った.
第1章 HAMやHTLV-1陽性患者の診療における基本情報
1. HTLV-1について
1.1. HTLV-1とは
1.2. HTLV-1の疫学・感染経路
1.3. HTLV-1感染の診断と告知
1.3.1. HTLV-1感染診断の考え方
1.3.2. HTLV-1感染診断の実際
1.3.3. 留意事項
1.3.4. 感染の告知
1.3.5. HTLV-1キャリアから出生した児への対応
1.4. HTLV-1キャリアの診療方法や検査について
1.4.1. 問診
1.4.2. 診察・検査
【診療メモ:結核検査とHTLV-1感染】
1.5. HAM以外のHTLV-1関連疾患および関連が示唆される疾患の概要
1.5.1. 成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)
1.5.2. HTLV-1ぶどう膜炎/HTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)
1.5.3. シェーグレン症候群
1.5.4. 関節炎・関節リウマチ
1.5.5. HTLV-1感染者にみられる肺病変
1.6. HTLV-1キャリアにおけるATLスクリーニングの方法について
1.7. 臓器移植におけるHTLV-1のリスクについて
1.7.1. 臓器移植ガイドラインにおけるHTLV-1の位置づけ
1.7.2. 臓器移植におけるHTLV-1感染のリスク
1.7.3. 臓器移植におけるHTLV-1感染への対応
2. HAMについて
2.1. 疾患概念・疫学・要因
2.1.1. 疾患概念
2.1.2. 疫学
2.1.3. 要因
2.2. 病理・病態
2.2.1. HAMの病理
2.2.2. HAMにおけるHTLV-1感染細胞の特徴
2.2.3. HAMにおける炎症慢性化機構
2.3. 診断基準
2.3.1. 厚生労働省研究班の診断基準
2.3.2. Belemの診断基準
2.4. 検査
2.5. 画像所見
2.6. 症状・症候
2.6.1. 運動障害
2.6.2. 感覚障害
2.6.3. 排尿障害と便秘
2.6.4. 自律神経障害
2.7. 初期症状(HAMを見逃さないために)
2.8. 重症度分類基準(臨床的重症度評価指標)
2.8.1. 運動障害重症度評価指標
2.8.2. 排尿障害重症度評価指標
2.8.3. 感覚障害重症度評価指標
2.9. 経過・予後
2.9.1. 経過・機能予後
2.9.2. 生命予後
2.10. 予後不良因子
2.10.1. HAMの予後不良因子
2.10.2. ATL発症リスク因子
2.11. 疾患活動性分類基準
2.12. 薬物治療
2.12.1. HAMの治療薬
2.12.2. 疾患活動性に応じた治療法
2.12.3. 対症療法
2.13. 薬物治療の副作用対策
2.13.1. 副腎皮質ステロイド
2.13.2. インターフェロンα
2.14. 運動療法(リハビリテーション治療)
2.14.1. 機能障害(impairment)の進行予防
2.14.2. 運動療法の必要性
2.14.3. 適切な運動療法
2.14.4. HALR医療用(下肢タイプ)を用いた運動療法
2.14.5. 補装具の必要性
2.15. 神経因性膀胱の検査と治療
2.15.1. 神経因性膀胱の検査
2.15.2. 神経因性膀胱の治療
2.16. 注意すべき合併症とその治療
2.16.1. 尿路感染症
2.16.2. ATL
2.16.3. 深部静脈血栓症
2.17. 社会福祉支援
2.18. 患者会情報
2.19. 災害時の対応
2.20. HAM患者レジストリ(HAMねっと)
2.21. 関連情報サイト
2.22. 研究班による診療支援
2.22.1. ホームページの開設
2.22.2. 各種検査
第2章 HAM診療のCQと推奨
CQの設定と推奨の作成方法
CQ 1 成人HAM患者において,ステロイド内服治療は推奨されるか
1. 背景,この問題の優先度
2. 解説
3. パネル会議
4. 関連するほかの診療ガイドラインの記載
5. 治療のモニタリングと評価
6. 今後の研究課題(future research question)
CQ 2 成人HAM患者において,ステロイドパルス療法は推奨されるか
1. 背景,この問題の優先度
2. 解説
3. パネル会議
4. 関連するほかの診療ガイドラインの記載
5. 治療のモニタリングと評価
6. 今後の研究課題(future research question)
CQ 3 成人HAM患者において,インターフェロンα治療は推奨されるか
1. 背景,この問題の優先度
2. 解説
3. パネル会議
4. 関連するほかの診療ガイドラインの記載
5. 治療のモニタリングと評価
6. 今後の研究課題(future research question)
CQ 4 成人HAM患者において,抗レトロウイルス薬(逆転写酵素阻害薬)は推奨されるか
1. 背景,この問題の優先度
2. 解説
3. パネル会議
4. 関連するほかの診療ガイドラインの記載
5. 治療のモニタリングと評価
6. 今後の研究課題(future research question)
第3章 HAMならびにHTLV-1陽性患者の診療におけるQ&A
1. HAMの診療に関するQ&A
1.1. HAMの診断に関するQ&A
[HAMの診断アルゴリズム]
Q1 HAMの診断に脳脊髄液抗HTLV-1抗体検査は有用か
1.2. HAMの治療に関するQ&A
[HAMの治療アルゴリズム]
Q2 HAM患者にATLのスクリーニングを行うべきか
Q3 HAM患者のATL発症リスク評価にHTLV-1感染細胞のクローナリティ解析は有用か
Q4 HAM・HTLV-1陽性患者に対する免疫抑制療法はATL発症リスクに影響を与えるか
Q5 HAM患者を疾患活動性に応じて分類することは有用か
Q6 血液検査・脳脊髄液検査はHAMの疾患活動性を判断するうえで有用か
Q7 疾患活動性の高いHAM患者に対する初期治療の第一選択として,ステロイドパルス療法,ステロイド内服治療,インターフェロンα治療のいずれの治療を行うべきか
Q8 疾患活動性が中等度のHAM患者に対する治療の第一選択として,ステロイド内服治療,インターフェロンα治療,ステロイドパルス間欠療法のいずれの治療を行うべきか
Q9 疾患活動性が低いHAM患者にどのような治療を行うべきか
Q10 HAM患者において,どのような場合に疾患活動性を再評価するのがよいか
Q11 HAM患者に運動療法(リハビリテーション治療)を行うべきか
Q12 HAMの治療として,HALR医療用(下肢タイプ)を用いた運動療法は有効か
Q13 HAMの治療として,反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は有効か
Q14 HAM患者の蓄尿障害の治療として,β3受容体刺激薬,抗コリン薬,ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法,仙骨神経刺激療法をどのように選択すべきか
Q15 HAM患者の排出障害の治療として,α1受容体遮断薬,コリン作動薬,清潔間欠的自己導尿をどのように選択すべきか
Q16 HAM患者において,HAM合併しやすい疾患のスクリーニングを行うべきか
Q17 HAM患者において,HAMに合併しやすい疾患のスクリーニングは,定期的に実施するのがよいか
Q18 HAM患者は治療を継続しながら妊娠・出産は可能か
Q19 HAM患者が妊娠・出産する際,気をつけるべきことは何か
2. HTLV-1陽性関節リウマチ(RA)患者の診療に関するQ&A
[HTLV-1 陽性RA 患者来院時の診療フローチャート]
【診療メモ:潜在性結核感染症(LTBI)スクリーニング検査と HTLV-1感染】
Q1 HTLV-1陽性のRA患者にATLのスクリーニングを行うべきか
Q2 ATL 合併のRA 患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
Q3 HTLV-1陽性のRA患者にHAMやHU/HAUのスクリーニングを行うべきか
Q4 HAM 合併のRA 患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
Q5 HU/HAU既往(合併を含む)のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
Q6 HTLV-1陽性のRA患者において,抗リウマチ薬治療はHTLV-1感染の活性化やHTLV-1関連疾患(ATL,HAM,HU/HAU)の発症に影響を与えるか
Q7 HTLV-1陽性(ATL,HAM,HU/HAU非合併)のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
Q8 HTLV-1の感染はRA患者の抗リウマチ薬治療効果に影響するか
Q9 HTLV-1陽性のRA患者において,HTLV-1プロウイルス量を測定すべきか
Q10 HTLV-1感染が判明していないRA患者において,全例に抗HTLV-1抗体検査を行うべきか
3. 臓器移植におけるHTLV-1感染への対応に関するQ&A
[HTLV-1陽性臓器移植候補者の診療アルゴリズム(生体)]
Q1 臓器移植希望のドナーおよびレシピエントに対してHTLV-1検査を行うべきか
Q2 HTLV-1陽性の臓器移植ドナーおよびレシピエントに対して,臓器移植前にATLのスクリーニングを行うべきか
Q3 HTLV-1陽性ドナーから陰性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
Q4 HTLV-1陽性ドナーから陽性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
Q5 HTLV-1陰性ドナーから陽性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
4. ATLのスクリーニングに関するQ&A
Q1 HTLV-1感染者において,ATLのスクリーニングはどのような項目を行うべきか
第4章 患者と医療者の共有意思決定(SDM)
はじめに
1. EBMから共有意思決定(SDM)に向けて
2. 患者から医療者へ望むこと(1)
3. 患者から医療者へ望むこと(2)
4. 患者から医療者へ望むこと(3)
5. HAMの診療で気をつけたいこと
HTLV‑1関連脊髄症( HTLV‑1‑associated myelopathy:HAM) は,指定難病であり,希少疾患である.そのため,神経内科専門医であっても診療経験が乏しいことが多い.2019 年,全国的なHAMの診療の質向上を図るために,厚生労働省「 HAMならびにHTLV‑1陽性難治性疾患に関する国際的な総意形成を踏まえた診療ガイドラインの作成」 研究班( 代表:山野嘉久) が,「HTLV‑1関連脊髄症( HAM) 診療ガイドライン2019(」以下,2019年版) を発刊した.それから6 年が経過し,その間にHAM 患者を対象としたステロイド治療のランダム化比較試験の結果報告や,HAM におけるHTLV‑1 感染細胞のクローナリティの重要性に関する報告など,新たなエビデンスが蓄積された.また「,HTLV‑1母子感染予防対策マニュアル( 第2版)」 や「 HTLV‑1 キャリア診療ガイドライン2024」 などの関連するマニュアルや診療ガイドラインの整備も進んだ.さらに,抗HTLV‑1 抗体検査であるPA 法の終売など,HAM の診療を取り巻く様々な環境の変化が生じた.そうした変化を受けて,今回の改訂版を作成することになった.
「HTLV‑1関連脊髄症( HAM) 診療ガイドライン2025(」以下,2025年版) は,日本神経学会監修のもと,厚生労働省「 HAMならびに類縁疾患の患者レジストリによる診療連携体制および相談機能の強化と診療ガイドラインの改訂」 研究班( 代表:山野嘉久) と関連・協力学会のご協力により,HTLV‑1関連脊髄症( HAM) 診療ガイドライン作成委員会の活動により作成された.
今回の改訂の主なポイントは以下のとおりである.
1) ステロイドパルス療法に関する推奨文の提示:2019 年版作成時点でエビデンスの不足により提示できなかった推奨文が追加された( 第2章 CQ 2参照).
2) HAM 診断アルゴリズムの改訂:抗HTLV‑1 抗体検査PA 法4 倍に代わるHAM の診断の目安となる陽性基準が提示された.
3) HAM 治療アルゴリズムの改訂とQ&A の追加:治療後など必要に応じた疾患活動性の再評価,ATL を含めHAM に合併しやすい疾患のスクリーニングの定期的な実施,HAM の妊娠・出産など,いくつかの新しい内容が追加された.
4) 共有意思決定をテーマとした第4 章の新設:患者本人の意思を考慮せず治療方針が決定された事例が共有され,患者と医療者の対等な関係性や,ともに治療方針を決定していくプロセス,いわゆる患者と医療者の共有意思決定( shared decision making:SDM) が必ずしも実行されていないのではないかとの議論を経て,章の新設にいたった.
これらHAM の診療に関することはもちろん,HTLV‑1 陽性関節リウマチおよびHTLV‑1 陽性臓器移植に関する診療の対応についても加筆修正された.
今後,厚生労働省研究班とHAM患者レジストリ「 HAMねっと」 の活動を通じて,本改訂版の普及・導入・評価をさらに進めることが重要であろう.これにより,全国的なHAM の診療のさらなる質の向上が期待される.また,AMED 研究班による新規エビデンスの創出により,HAM の治療薬開発が進み,本書改訂の必要に迫られる状況になることを期待したい.最後に,本ガイドラインの作成にあたって多大なご協力をいただいたガイドライン作成委員会の構成員の皆様ならびに日本神経学会,関連・協力学会関係者の皆様に心からの謝意を表したい.
2025 年9 月
HTLV‑1関連脊髄症( HAM) 診療ガイドライン作成委員会 委員長
佐藤 知雄
