「身体活動」からみる子どもの体力
日本型「体力重視」をグローバルに捉え直す
| 著 | : 田中千晶/渡辺哲司 |
|---|---|
| 監修 | : 武藤芳照 |
| ISBN | : 978-4-524-27373-7 |
| 発行年月 | : 2025年12月 |
| 判型 | : A5判 |
| ページ数 | : 144 |
在庫
定価2,420円(本体2,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文

スポーツに限定されない,遊びや日常生活を含む「身体活動」の観点から子どもの健康な発育・発達のために必要な知識をやさしく解説.スマホの普及やコロナ禍を経て生活様式・環境が激変した現在,国際比較研究から日本の子どもの体力を的確に評価する新たな視点を提供する.学校・教育関係者や医療職として子どもと接するすべての人にとって必読の一冊.
第1章 国際比較を通して知る、日本の子どもの身体活動の現状(1):優れた点、長所
第1節 国際比較調査の代表例:AHKGAのGlobal Matrix
1 Active Healthy Kids Global AllianceとGlobal Matrix
2 各国・地域が作成する“Report Card”
第2節 GM4.0(2022年)が示す日本の現状
1 総合的な評価
2 体力――主として全身持久力
3 活動的な移動手段――徒歩・自転車による通学
第3節 学校制度をベースとしたさまざまな取り組み
1 体力・運動能力の測定、運動習慣等の調査
2 学校での健康診断・身体計測
3 全国共通のカリキュラムと学校施設
4 運動部活動
5 徒歩・自転車での通学を可能にする、公立学校の配置
コラム@ スコットランドの公立小学校における食
第2章 国際比較を通して知る、日本の子どもの身体活動の現状(2):問題点、課題
第1節 長いスクリーンタイム
1 世界と日本の現状
2 現在日本の複雑な事情
第2節 家族の支援にあまり恵まれていないこと
第3節 評価できなかった「活動的な遊び」
第4節 身体活動の捉え方が“世界標準” ではないこと
第5節 世界の“グッド・プラクティス”
1 他国の状況を見て、知って、学ぶ
2 総合的な評価が最高の国
3 指標ごとの評価が最高の国と、その理由
コラムA 大人の前向きな声掛けが、子どもの有能感を高める
第3章 グローバルな視点から提案する、日本の子どもの体力論・身体活動論
第1節 体力と身体活動
第2節 「体力」重視の歴史的経緯
1 日本では今なお不変
2 かつては他国も体力重視
第3節 世界のトレンドは「身体活動」重視へ
1 欧米における変化
2 日本はどうふるまうか
第4節 「体力低下」を掘り下げる
1 真相は個人差の下方拡大
2 「体力低下」言説への疑問
第5節 これからの日本の体力論、身体活動論
コラムB AHKGAと日本チームの活動
第4章 現在世界で身体活動といえば
第1節 身体活動の定義と測定法
1 身体活動とは
2 日常生活全般の身体活動量をどう測るか
第2節 日本の方法は独特――“世界標準”と異なる
コラムC 身体活動量の評価方法
第5章 日本の大人は子どものロールモデルとなっているか
第1節 子どもと保護者の身体活動量には相関関係がある
第2節 成人の身体不活動も世界に蔓延
1 懸念される成人の身体不活動
2 性・年齢による違い
第3節 生活時間の男女差がとりわけ大きい日本
第4節 保護者も動いて健康に、幸福に
1 身体活動は保護者自身の健康と幸福につながる
2 生活活動の中には、あれもこれも
3 知れば、やる気に(筆者らの期待)
コラムD 市民の身体活動や交流を支援する街、グラスゴー
第6章 日本国内にある地域差
第1節 通学時の活動的な移動(徒歩・自転車による通学)
1 現状に見られる地域差
2 経年変化に表れる地域差
第2節 運動部やスポーツクラブへの加入
1 現状に見られる地域差
2 最近の懸念
第3節 スクリーンタイム
コラムE『子どものスポーツ格差』と本書
第7章 障害のある子どもへのアプローチ
第1節 またも世界の専門家が協力――AHKGAによる国際調査
第2節 日本が取り組むべきこと
1 運動・スポーツへの参加をさらに促す
2 調査体制をいっそう整える
3 国の方針は前向き、その実現が課題
付録:「子どもの体力」をめぐる公的文書(政府審議会答申)の記述
第1節 探索の出発点:1961年の文部大臣諮問
第2節 探索の材料:政府審議会答申
1 「政府」「審議会」「答申」
2 政府審議会と答申の性質
3 材料とした審議会答申のリスト
第3節 そこに書かれていたこと
1 第1期:1972年
2 第2期:1976ー1989年
3 第3期:1997ー2008年
4 第4期:2012ー2017年
5 第5期:2022年
第4節 探索のまとめ
1 審議会答申の記述の論点
2 ネガティブな論調が目立つ
3 ドメスティックな視点
巻末資料
あとがき
監修に寄せて
索引
世の大人たちは常に、同時代の子どもたちの何かを憂えるもののようです。最近の子どもはアレがだめ、コレがいかんといったように。そのこと自体、子どもたちの将来のために良かれと願う気持ちの表れであれば尊いのですが、その憂いの確かさや当否(当たりはずれ)となると、おおかた個人の見聞や記憶によるものであって怪しい――というのが世間の“通り相場”でしょう。
そうした大人たちによる憂いの対象(アレやコレ)は、時代とともに変わります。例えば、本書の著者二人(現在50代)が子どもだった1970〜1980年代は、コミック誌(少年・少女向け漫画雑誌)全盛の時代で、当時はよく「漫画ばかり読んで本を読まない(からだめだ)」と責められました。また、激烈な受験競争のせいで心のほうの成長が云々と言われることもありました。しかし、そのどちらも今日ではあまり聞かれません。
さて、そうして変わりゆく憂いの中に1つ、時代を経ても変わらずに、時々の日本の大人たちが憂い続けているように見えるものがあります。それが、「最近の子どもは体力が低い」とか、「下がった」とかいう問題です。そうした憂いの“もと”と目される公的文書を過去数十年間さかのぼって見ると、断続的にではありますが、たしかに、子どもの体力は(何かに比べて)低い/下がったと言われ続けています(巻末付録)。となれば、今日生きている日本人のほぼ全ては、子どもの体力についてもっぱらネガティブな言説ばかり見聞きしてきたことになります……が、そんな例が果たしてほかにあるでしょうか。
そうした状況に対して、そろそろ「ちょっとおかしいんじゃない?」という疑問や見直しの声が上がってもいい頃ではないか――と筆者らは思います。そして実際、見直しのための材料も揃ってきたように見えます。
筆者らが本書を著すねらいは、大きく2 つあります。1 つは、〈子どもの体力〉について現代日本人が持つネガティブな(ネガティブに偏った)見方を補正することであり、もう1つは、体力よりも〈身体活動〉を重視するようになった現在世界(the present world)のトレンドを広く日本の人々に紹介することです。それらを果たすために、これまでの、もっぱら国内に閉じた古い目ではなく、世界に開かれた新しい目をもって、日本の子どもたちの体力や身体活動を見直すよう提案します。そのようにして見直せば、きっと、これまではマイナスに見えていたものがプラスに見えたり、これまでは気付かなかったことに気付けたりします。また、そうした新しい目は、世界に蔓延する身体不活動に対抗し、子どもたちをより元気に育成するための武器ともなることでしょう。
本書の想定読者は、端的に言えば〈子どものからだ〉に関心のある全ての日本人です。まずは、教育関係者、体育・スポーツ関係者、保健・医療関係者、さらに健康や教育・子育てに関する情報を世に伝えるメディア関係者など、子どものからだに関わるシゴトに携わっている人々が挙げられるでしょう。その一方、シゴトではなくとも、今まさに子育てをしている大人たちや、育ちつつある我が身と向き合っている子どもたちこそ、本来最も切実な本書の読者であるかもしれません。そのように考えれば、本書と無関係な現代日本人は一人もいない――とさえ言えそうです。
ところで、本書中の〈子ども〉という語についても、あらかじめ説明しておかなくてはならないでしょう。文中にはしばしば、「子ども」のほかに「子ども・青少年」というまぎらわしい語句も現れますが、そのことにも一応の理由はあります。
本書でいう子どもとは、基本的に、幼児から高校生までに相当する幅広い年齢の人たちのことです。それは、本書の想定読者が日本人であることにかんがみ、日本の世間における慣習的な用語(子どもという語の使われ方)に倣ったものです。
しかし、そうした日本の世間の外、特に世界とつながる学術界では、本書でいうところの子どもを〈子ども〉と〈青少年〉とに分けて捉え、表現する傾向があります。すなわち、おおむね小学生ぐらいまでの、いわゆる発育スパート期/第二次性徴期を迎えるよりも前の人たちを子ども(children)といい、それより後の人たちを青少年(adolescents)と呼びます。学術界は本書の最も重要な情報源・基盤ですから、そこにある傾向を無視することはできません。
そのため本書でも、やむを得ないときや必要なとき(例えば、もとの文献・資料が子どもと青少年とを明らかに区別して論じているときなど)には「子ども・青少年」と表記することにしています。
本書には、3つの特徴・特長があります。
1つ目は、子どもの身体活動に関する前例のない国際比較調査に、日本を代表して参加している研究者(田中)が、専門的かつ信頼性の高い“一次情報”をもたらすこと。一次情報とは、伝聞ではなく当事者が自ら語る情報のことです。
2つ目は、それらの情報を、現代的な言語技術によって効率よく、わかりやすく表現すること。この点は、二人目の著者(渡辺)が主に担いました。ここでいう現代的な言語技術とは、具体的には〈重点先行〉のポリシーと、いわゆるパラグラフ・ライティングです。それらを用いることの効果は、端的に、見出しと各段落(パラグラフ)第1文を拾い読めば要旨をつかめるという点に表れます。
3つ目は、ところどころに配した挿絵が、楽しみながら読み、理解することを助けるであろうこと。これについては、久保谷智子さんの力を借りました。
最後に1つ、あらかじめ読者に断っておきたいことがあります。それは、本書に記された見解などは、あくまでも筆者らの個人的なものであり、筆者らが参画する研究組織や所属する教育機関・行政機関の見解などとは必ずしも関係しないことです。そのため、本書の中に(意図せず)記されているかもしれない誤った事実や偏った解釈・判断などの責任は、まずもって筆者らに帰せられるべきであることを、頭記しておきます。
2025年11月
田中千晶・渡辺哲司



