今日の治療薬2026
解説と便覧
| 編集 | : 伊豆津宏二/今井靖/桑名正隆/寺田智祐 |
|---|---|
| ISBN | : 978-4-524-27338-6 |
| 発行年月 | : 2026年1月 |
| 判型 | : B6判 |
| ページ数 | : 1440 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
正誤表
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2026年04月28日
第1刷
- 商品説明
- 書評

本書は,臨床医や薬剤師が日常診療において必要とする薬物療法の情報を体系的かつ簡潔にまとめた実践的な薬剤リファレンスである.1977年の初版以来,長年にわたり多くの医療者に活用されてきた定評ある書籍であり,今回で改訂第48版となる.医療の進歩に伴い薬物療法が年々複雑化する一方,国民医療費の抑制が求められる現状においては,薬剤の適正使用の重要性がますます高まっている.本書が長年にわたり支持され続けている背景には,そのような臨床現場のニーズに応えてきた点があるといえる.
本書の特徴は,「解説」と「便覧」からなる2部構成にある.「解説」では各薬剤群における薬物療法の最新のエビデンスや治療戦略が簡潔に整理されており,治療の背景となる病態理解や薬剤選択の考え方を確認することができる.一方,「便覧」では個々の薬剤について適応,用法・用量,副作用,相互作用などの情報がコンパクトにまとめられており,診療の現場で迅速に参照できる実用性の高さが際立つ.2026年版でも新規薬剤や適応拡大の情報が適切に反映されており,近年の薬物療法の動向を把握するうえで有用である.
今回の改訂では,いくつかの新しい試みが本書の実用性をさらに高めている.「解説」部分に新設された「適応外pick up」では,適応外使用の根拠や実際の使い方がコラム形式で簡潔にまとめられており,非専門家にも理解しやすい内容となっている.また,抗血栓薬以外にも術前に休薬を要する薬剤が近年増えてきたことを背景に,「術前中止薬リスト」が付録として追加された.術前中止薬の種類や中止期間は施設ごとに定められていることが多いが,その背景を理解することは外科診療に直接かかわらない臨床医にとっても有益であり,本付録は臨床現場での実践的な参考資料となる.
さらに,巻頭トピックスでは「肥満症治療のアップデート」,「日本版抗コリン薬リスクスケールの活用」,「核酸医薬の現状と展望」が取り上げられている.いずれも近年注目されているテーマであり,最新知見が簡潔に整理されている点は,本書が単なる薬剤リストにとどまらない知識のアップデートにも資することを示している.
近年は電子媒体やオンラインデータベースによる薬剤情報の検索が一般化しているが,信頼性の高い情報が体系的に整理された書籍の価値は依然として大きい.特に研修医や若手医師にとっては薬物療法の基礎を俯瞰的に理解するうえで有用であり,また経験豊富な臨床医にとっても治療方針を再確認する際の実用的なリファレンスとなる.本書が日常診療における確かな薬物療法を支える一冊として,今後も多くの医療者に活用され続けることを期待する.
臨床雑誌外科88巻5号(2026年5月号)より転載
評者●札幌医科大学消化器外科教授・穴澤貴行
2026年を『今日の治療薬』元年に!
病棟や外来など随所にあって,医療界でその存在を知らぬ者はない『今日の治療薬』.スマートフォンや電子カルテなどで薬の情報が簡単に手に入る時代に,歴史ある正統的な本書の魅力をあらためて人々に訴えて欲しい! という意図かはさておき,書評を依頼された.謹んで通読させていただいたうえ,感じた点を以下に述べる.
「通読?」と思ったかもしれないが,本書は読み物でもある.初版の巻頭言に記された「著書として読んでも役立つよう工夫した」という意気込みは今日まで受け継がれ,さらりとなら2週間もあれば読める.本書の副題でもある「解説」と「便覧」のうち,解説はとくに読みやすく,診断と治療の概要が簡潔にまとめられている.
「がんのアキレス腱を突く分子標的薬」とは,患者にわかりやすい説明と感心した.「保存期CKDに使用できるリン吸着薬はこれ」という何気ない一節には,専門家のキレをみた.専門家といえば,(謙虚さを象徴してか)カタツムリのアイコンで示された『薬剤師の視点』も見逃せない.バラシクロビルとNSAIDsの併用例で急性腎障害に注意すべきとの指摘に,思わずうなずいた.
知識の更新に限りのある非専門分野も,本書が十分にその役目を果たす.本書のおかげで私は,添付文書をみるだけでは意味のわからなかった二重特異抗体の概念を理解できた.抗うつ薬の作用するセロトニン受容体による副作用の違い,血小板の保存期間が延長されたこと,鉄欠乏時の必要量推算式……例をあげればきりがないが,どの章にも診療の質を有意に高める発見があった.
無限に思えるほどの記号と情報で溢れる便覧も,心静かに目を通せばいろんなことがみえてくる.同種薬はカテゴリー化されており,その比較やそれぞれの特徴がじつに簡潔に示されている.副作用も,頻度や重症度によって差別化されている.タクロリムスとCYP3A4などの薬物代謝も,レイアウトとフォントのおかげか,大事なものが目に入りやすい.
また,読む前には予想しなかったが,便覧はおもしろい.桜皮やロートといった見慣れないエキスもあり,Wikipediaによれば後者はシーボルトが莨菪根(ロートコン)の薬効に気づいたのが由来という.ネーミングのセンスに「クスリ」とさせられた薬もある.製薬メーカーごとの主力分野もみえてくるし,薬価とその理由も考察できる(1億円を越える薬もある,48章参照).
さらに,最終章の後には15の付録が待っている.12番目の抗凝固薬・抗血小板薬などの術前休薬期間は,意外にも今回初めての掲載である.外来診察中にこれを涼しげに参照すれば,自分のスマートフォンで検索するよりも,患者に正統的な印象を与えるかもしれない.なお,なぜ最後の付録が「今日の学び直し」なのかは謎である.
医師が薬師(くすし)と呼ばれていた吉田兼好の時代から今日に至るまで,治療薬の重要性は高まり続けている.そして私がいうまでもなく,本書は治療薬に関して他の追随を許さない必携書である.徒然草には「初心の人,二つの矢を持つことなかれ(後でやればいいという心を捨てよ,の意)」という言葉もある.思い立ったが吉日,あなたも本書に没入してみてはいかがだろうか.どの部分をどのペースで何度読んでも,きっとあなたとあなたの患者の役に立つ知識と知恵に出会えるであろう.
臨床雑誌内科137巻6号(2026年6月号)より転載
評者●塚原知樹(湘南鎌倉総合病院腎移植内科 部長)
『今日の治療薬』―医師であれば,誰しもが一度くらいは手にとり,薬剤名を索引より確認し,適応・用法・容量などを参考にしたことがあるような,非常に汎用性が高く重要な判断資料・書籍である.1977年に初版が発刊されて以来,これまで長年にわたり臨床現場から信頼を得てきた,まさしく定番書といえる.2026年版でも例年どおりの丁寧かつ詳細な薬剤の紹介や解説に加え,巻頭トピックスも非常に充実しており,最新の臨床現場におけるトピックスを取り上げており,臨床現場にとって有用な情報提供を受けることができる.
2026年版のトピックスは大きく三つある.一つ目に,“肥満治療のアップデート”がある.肥満症は生活習慣のみならず,ジェネティック/エピジェネティックな要因,生育や発達における要因,社会的要因などのさまざまな要因が関与しており,食事・運動・行動療法を行ったうえで減量目標を未達成の場合には肥満症治療食の強化を行うのみならず,薬物療法や手術療法の導入も考慮される時代になってきた.その中で,現在保険適用がある薬剤として,視床下部に作用するマジントール,グルカゴン様ペプチド(GLP)—1受容体作動薬セマグルチド,グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)/GLP—1受容体作動薬チルゼパチドが存在し,市販薬としてはリパーゼ活性を阻害する内臓脂肪減少薬オルリスタットがある.肥満症治療の課題・問題点として,脂肪量を減らす一方,筋肉量低下による諸問題や痩せ薬としての不適切使用などがある.このあたりの解決のためにさらに新しく肥満症治療薬が開発されつつあり,「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」(日本肥満症学会)を参考にすることも記載されている.
二つ目に,“日本版抗コリン薬リスクスケールの活用”がある.抗コリン作用をもつ薬剤の共通の副作用として,口渇,便秘,排尿障害,眼の調節障害,認知機能障害,せん妄などがあり,特に高齢者でさまざまな有害事象の原因となっている.これには薬剤の総コリン負荷が影響することから,実臨床では各薬剤のリスクを評価できる抗コリン薬リスクスケールが使用されている.これまでは海外のリスクスケールが用いられてきたが,使用薬剤や医療・社会環境の違いからわが国には適応できない部分もあった.そこで,2024年に「日本版抗コリン薬リスクスケール」(日本老年薬学会)が公開された.若年者でも基礎疾患によっては薬剤有害事象の危険が高まったり,高齢者では薬剤有害事象と老年症候群の区別がつきにくく,抗コリン作用薬による有害事象を見落としがちなので服用薬剤の総コリン負荷量をモニタリングすることが望ましいとされている.このスケールによってリスクスコアを合算し総コリン負荷を算出できるので,ぜひ参考にするべきと記載されている.
三つ目に,“核酸医薬の現状と展望”がある.近年,核酸医薬が次世代の治療薬として注目を集めている.低分子薬は主に酵素や受容体などの蛋白質の活性部位,抗体薬は細胞外や細胞表面の抗原を標的としているが,核酸医療の一つであるsmall interfering RNA(siRNA)製剤などは特定の遺伝子(mRNA)を標的とし,高い特異性で遺伝子発現を抑制するため,従来の医薬品とは異なるアプローチで治療困難疾患にも効果を示している.現在使用可能なsiRNA製剤として,パチシラン[トランスサイレチン(TTR)型家族性アミロイドポリニューロパチー(ATTRvアミロイドーシス)]の治療薬として承認された世界初のsiRNA製剤がある.変異TTRの肝臓での産生を抑制し,末梢神経や心筋へのアミロイド沈着を防ぐ.また,PCSK9蛋白の合成抑制作用により低比重リポ蛋白質(LDL)受容体の分解を防ぎ血中LDLコレステロールを低下させる家族性高コレステロール血症の治療薬もある.さらに,ギボシランは急性肝性ポルフィリン症が対象で,アミノレブリン酸シンターゼ1(ALAS1)mRNAを分解することでポルフィリン前駆体の蓄積を抑制する.このように核酸医療はすすみつつあり,今後はデリバリー技術の進展もめざし,肝臓のみならず中枢神経や筋肉など多様な臓器・組織に対する治療も可能になると期待されている.また分子単位で自由な設計が可能なことから,神経変性疾患,癌,慢性炎症疾患,自己免疫疾患,感染症などへの応用も期待される.このような最先端の情報も記載されている.
巻末の付録には,2025年10月現在のオーソライズド・ジェネリック(AG)の一覧や,2025年に承認もしくは薬価収載された主な新薬の一覧,2025年刊行の主な診療ガイドラインが情報提供されており,実臨床において非常に利便性の高い書物となっている.総じて本書は薬物治療の最新動向を的確にとらえるのみならず,実臨床に直結する実用書としての役割をも,バイブルとしてはたしている.すべての医療現場において,すべての医療従事者にとって必携の定番書籍であることに間違いない.
臨床雑誌整形外科77巻7号(2026年6月号)より転載
評者●平尾 眞(日本医科大学整形外科教授)



