書籍

糖尿病治療のための注射手技マニュアル

スタッフのよりよい指導を目指して

編著 : 朝倉俊成/木下久美子/清水一紀/柳澤克之/和田幹子
ISBN : 978-4-524-26752-1
発行年月 : 2013年7月
判型 : A5
ページ数 : 158

在庫品切れ・重版未定

定価2,530円(本体2,300円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

糖尿病の正しい注射手技を理解し、最適化された患者指導を行うための“新しい”マニュアル。インスリン、GLP-1受容体作動薬、CSII、CGM、SMBGについて、注射手技をビジュアルにわかりやすく解説し、それらの適応や管理、注射に関わるトラブルへの対応、注射機材の廃棄方法など注射に関わるすべてを網羅。糖尿病治療・療養指導に携わる全スタッフ必読の一冊。

1.医療従事者の役割
2.注射に関する心理的課題
3.治療に関する教育支援
4.注射部位のケア
5.インスリンおよびGLP-1受容体作動薬の品質維持
6.ペン型注入器および注射針の適切な使用
7.インスリンおよびGLP-1受容体作動薬注入器の適応と患者別の注意事項
8.シリンジの適切な使用
9.注射針の規格
10.インスリンアナログとGLP-1受容体作動薬
11.ヒトインスリン
12.グルカゴン
13.皮膚のつまみ上げ
14.リポハイパートロフィー
15.CSII−クイックセットとシルエット
16.CGM−穿刺のトラブル
17.SMBG−穿刺の仕方と代表的な穿刺トラブル
18.妊娠
19.低血糖
20.シックデイ
21.注射器材の安全な廃棄
文献
索引
付録:患者指導用資材

日本の糖尿病患者数は年々増加し、それに伴いインスリン治療を受ける患者数も増加している。インスリン治療患者の多くは、自己注射手技を修得し、自ら、もしくは家族などの支援を受けて自己注射を行っている。医療従事者は可能な範囲で自己注射が確実に実施されているか確認をしているものの、実際には限界があり、さまざまなトラブルが存在すると考えられる。インスリン自己注射手技における問題点として以下のようなものがあげられる。

(1)インスリン製剤に関する問題
 インスリン製剤の保管、懸濁インスリンの撹拌、インスリン製剤の取り違え、インスリン処方の間違い、インスリン製剤の吸収特性への理解不足など
(2)インスリンの打ち忘れや中断
 健忘による打ち忘れ、自己判断によるインスリン注射の中断など
(3)不正確なインスリン単位の投与
 間違った単位の注入、注射手技の問題による過小・過剰投与など
(4)インスリン注射部位の問題
 リポハイパートロフィー、部位による吸収の差
(5)インスリン注射部位の深さ、針の長さの問題
 筋肉内注射のリスク、皮内注射のリスク、薬剤の違いによる対応の必要性への理解不足
(6)インスリン注射後の器材の取り扱い
 針刺し損傷など廃棄に至るまでの安全性の問題
(7)注射器材の廃棄にかかわる問題

 さらに、インスリンは通常のインスリン注射以外にも持続皮下インスリン注入療法(インスリンポンプ療法)もあり、使用には訓練が必要であり、注射手技においても技術が必要となる。
 また、インスリン以外ではGLP-1製剤やアミリンのような糖尿病治療薬において注射手技を必要とするものもある。さらに血糖自己測定(SMBG)や連続グルコース・モニタリング(CGM)も採血や測定時に皮膚への穿刺を必要とし、それに伴うトラブルも生じている。このような問題点のなかでも特に、単純な医療上の過失とは異なる、情報不足のために日常臨床において十分な注意が払われていない(3)から(7)のような課題を解決することを目的として、本書を作成した。
 本書作成の契機となったのは、世界各国の専門家たちによる約12年間にわたる計3回のヨーロッパにおける注射技術ワークショップを経て、2010年に発表されたNew injection recommendations for patients with diabetes(糖尿病患者への注射手技に関する新たな提言)である。これらの3回の会議のなかでも第3回目の会議は、Third Injection Technique Workshop In Athens(TITAN)と命名され、2009年9月にアテネにおいて3日間、27箇国より127人の医師、看護師、エデュケーター、および心理学者が集い、インスリンおよびGLP-1製剤治療を受ける糖尿病患者の注射手技の最適化を目指して議論を行い、提言をまとめあげるのに多大な貢献をもたらした。本提言の共著者であり、TITANのScientific Advisory Boardの1人でもあるKen Strauss 医師からの、日本での状況に合わせたものを作成し、正しい注射手技を日本にも広く普及させるためにヨーロッパの提言を役立ててほしいとの助言もあり、日本での推奨を作成するに至った。
 われわれは2012年に全国6箇所(札幌、埼玉、東京、大阪、岡山、福岡)で本内容に関するセミナーを行い、さらに第17回日本糖尿病教育・看護学会(京都)イブニングセミナーで糖尿病患者の注射手技に関して、指導するスタッフの関心、知識の正当性、さらには現在抱えている問題点などについて、全国の医師、コメディカルの方々と話し合う機会を得た。その際、糖尿病注射手技に関するマニュアルを希望する多くの声を受け、セミナー資料に追加訂正を行い本書を出版するに至った。
 本書では各項目の冒頭に重要事項を「Key Point」としてまとめた。また、「Key Point」の各文章には、「重要度」、「おすすめ度」が一目でわかるように★の数(1〜3個)で表した。

 ★★★:非常に重要/超おすすめ
 ★★:重要/おすすめ
 ★:知っておくと役立つ/少しおすすめ

 本書では現状での実情を考慮したつもりではあるが、今後さまざまな状況により改変の必要性もあるだろう。また未解決の課題も残っており、妊娠後期の菲薄した腹部に対する注射手技に関しては、現在検討中である。
 本書を通じて、注射手技はインスリンの効果に大きな影響を与えること、また注射手技を見直し、改善することによって、よりよい血糖コントロールがもたらされうることを改めて考える機会を得ていただければ幸いである。

2013年7月
編著者一同

糖尿病治療と注射針の関係は深い。インスリンの発見(1921年)がインスリン治療のスタートであるので、1921年から、毎日注射することは「糖尿病とともに生きる」ことと同意語であったといえる。
 そのころは、インスリン製剤も粗雑なものであったろうし、注射針も粗雑なものであったことは想像にかたくない。インスリン製剤の精製に心を砕くことが大事であったわけで、注射針にまで心を砕くこともなかったろう。
 日本でも1960年代など、金属製の20Gくらいの針を用いて行っていた。アルミ製の弁当箱に水を張って、ガラス製の注射器とともに入れて煮沸する。そして弁当箱をかたげてお湯を捨て、1日くらい置いて乾燥させて、針をガラス製の注射器に取り付けて、注射する。何度も何度も煮沸して、使う。針先はだんだん曲がってきて、鋭敏さはなくなっていく。「注射するとき、ブスッと音がしたものです」と患者さんから何度もうかがった。「どうしても痛くて……もう使いたくないとなったら捨て、使える針がなくなってくると、おかあさんが新しいものを買い求めてくれました」
 ペン型注入器が登場することにより、注入器と注射針の開発が飛躍的に進むことになる。「1回しか使わないで捨てるのは……もったいない……」、よく患者さんにいわれたものである。
 もったいない針をうまく使いましょう、という本がこれである。注射手技マニュアルだけの本というのは日本においてはめずらしいのではないか。
 日本の糖尿病治療のお手本となる英国や米国の注射にまつわることについては、それぞれ患者さん向けのガイドラインが、以前より作成されている。昔々、血糖自己測定試験紙は目視であった。そのころ、英国の患者向けの本には、縦に切って2つにすると2倍に使えるということまでも書いてあった。注射方法にもいろいろな工夫を記載してあった。糖尿病治療における注射方法というのが、それだけ奥が深い、知っておくべき知識があるのだ、単に注射すればよいというものではないということだろう。
 糖尿病治療から針が消えることは、まだしばらくないだろう。世界最細の34Gのインスリン注射針を作製できる技術をもつ日本。そして、それを誰でも使用できる日本。この本ができ上がった背景に、頷くばかりだ。

臨床雑誌内科113巻4号(2014年4月号)より転載
評者●東京女子医科大学糖尿病センター長 内潟安子

9784524267521