心臓デバイス植込み手技
こちらの商品は改訂版・新版がございます。
編集 | : 石川利之/中島博 |
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ISBN | : 978-4-524-26206-9 |
発行年月 | : 2011年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 166 |
在庫
定価7,700円(本体7,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
植込み型心疾患治療デバイス研究プロジェクトの取り組みをもとに、本領域のトップランナーによりまとめられた国内初の心臓デバイス植込み手技のためのテキスト。解剖学的知識や合併症、感染症の対策など植込み手技の実際を、施術写真を数多く盛り込み、わかりやすく解説。執筆陣が内容を討議しながら書き進めることで、標準的な手術手技を提示する。
I章 心臓デバイス植込みの基礎
1 手術手技の基本
2 デバイス感染症対策
3 植込みに必要な解剖学的知識
II章 植込み手技の実際
1 植込み手順
2 リードの挿入方法、静脈アクセス
3 リードの選択とその操作
4 リードの留置
5 ポケットの作製方法
III章 術中・術後の管理と合併症対策
1 術中チェック
2 リード固定、収納、閉創
3 術後の管理
4 ジェネレーター交換術、ポケットの処置
5 合併症とtroubleshooting
6 リード抜去
わが国では、心臓デバイス植込みの多くを外科手術のトレーニングを受けていない内科医が行っている。その大半が一子相伝のごとく先輩医師から手技を習い、あるいは独白に工夫をしながら行っているのが現状である。そこには、施設数と植込み件数の不均衡、すなわち植込み施設は多いが、1人あたりの植込み件数は少なく、トレーニングを受ける機会になかなか恵まれないという背景もある。また、これまではデバイス植込みの標準的手技を学ぶためのテキストも存在しなかった。
2008年、心臓デバイス治療に興味を持つ医師が集い「植込み型心疾患治療デバイス研究プロジェクト(デバイスプロジェクト)」が作られた。ここではデバイスの機能や治療成績だけではなく、デバイス植込みに関する合併症、感染症など、あらゆるテーマについて議論が交わされ、これまで施設ごとに行っていた手術手技について「すべきこと」、「してはいけないこと」、「便利な工夫」を共有する場となった。
本書は。デバイスプロジェクトで討議した内容を中心に。さらに「『心臓デバイス植込み手技』執筆グループ」として数名の先生に加わっていただき編集した、国内初の心臓デバイス植込み手技のためのテキストである。これまでの類書で見受けられた「施設ごとの手技の紹介」とならないよう、本書では全ての項目で執筆グループが内容を討議したうえでまとめるという方式を採用した。大変な労力を要する作業ではあったが、このことにより、これまでに類を見ない、極めて標準的な手術手技の解説書とすることができたと自負している。
奇しくも、デバイスプロジェクト発足と時期を同じくして、日本不整脈学会においてデバイス関連冬季大会が立ち上げられた。執筆グループのメンバーの何人かは、デバイス関連冬季大会の準備委員会(現在はデバイス委員会)のメンバーでもあり、当初は2011年に開催される第3回日本不整脈学会デバイス関連冬季大会(会長 豊島健先生)で記念配布させていただく計画もあったが、予想を超える分量となり、また、大会に参加できなかった方にもぜひ手にとっていただきたいとの思いから、書籍として出版することとした。
本書が、デバイス植込み手技の参考になれば幸いである。
2011年2月
石川利之、中島博
“概ね80-170例/年を5年以上維持している医師の行った手術は、その他の医師が行った手術と比較して有意に合併症が少ないと結論されている。しかしながら、日本でこの条件を満たす医師はおろかこの条件をクリアできる施設すら少ないのが現状である”。
本書第III章5項「合併症とtroubleshooting」の冒頭から一部を引用させていただいた。むろん、本誌の読者の方々は「開心術」のことかと思われるのはむべなるかな。実は80-170例/年を5年以上維持しているのは、“frequent implanter”であり、本書のタイトルにある“心臓デバイス植込みの手技”の症例経験数が多い医師のことをさしている。
本書で定義する心臓デバイスは、いわゆる心臓補助装置ではなく、ペースメーカ、植込み式除細動器(ICD)、左室再同期療法(CRT)などをさしている。「デバイス植込みは、interventionではなく、れっきとした手術である。この点を十分認識すれば、手術手技の基本トレーニングは不可欠であることは自明である」と記され、ならば外科医が行うほうがよいのではと思いきや、「外科的手技が確立された心臓外科医であっても心臓電気生理専門医として認定されていない場合にはリスクが高くなるという結果が示された」とも述べられており、耳が痛い。
数多の平事を難なく行うは、まれの難事をなすに等しく難し。序文に“類書に見受けられた施設ごとの手技の紹介にならないよう、極めて標準的な手術手技の解説書を作成すべく集まった『植込み型心疾患治療デバイス研究プロジェクト執筆グループ』によって、全ての項目で執筆グループが内容を討議したうえでまとめるという方式で編まれた”とあるように、本書を繙くと基礎から応用にいたるまで、微に入り細に入り詳細な討議がなされた様子が随所に察せられる。文中には誰でも安全に標準手技ができるようにとの心配りが行き届いており、さらに著者自らが豊富な経験に基づき解決してきたさまざまな問題解決の過程や“コツ”が、3Dイメージ、術中透視、術中造影、豊富な写真、丁寧に仕上げられたシェーマなどを用いて詳細に述べられており、読者を引き込む。たとえば、「リードの選択とその操作」の項において、“右心耳と右心室内腔は肉柱が交錯しており、passive fixation leadのタインが引っ掛かりやすい構造である”と記すだけでなく、本書では実際に右心耳、右室心尖部にリードが固定される様子をとらえた(おそらく生理食塩水で満たした心腔と胸腔鏡により撮られたのであろう)内腔から観察した接写像が添えられている。一方、消毒法、抗菌薬投与、感染危険因子、創洗浄法などに関しては多くの引用文献に基づいたエビデンスが整理されて述べられており、外科医にとっても参考になる。
本書は第I章「手術手技の基本」、第II章「植込み手技の実際」、第III章「術中・術後の管理と合併症対策」から構成されている。第I章の解剖の項では、刺激伝導系が数枚のヒト心臓断面像を伴い詳記されており、これもまた外科医にとって大いに参考となる。
心臓デバイス植込み手技の基本と工夫を共有するという目的をそのままに体現した本書は、これまでに類をみない標準手技の解説書であり、たいへんな労力と時間をかけて編まれた著者の先生方の真摯な姿勢とご努力に心より敬意を表したい。
評者● 窪田博
胸部外科64巻12号(2011年11月号)より転載
わが国を代表するデバイスインプランターが結集した渾身の一冊
凄い書籍が世に出たものである。恐らく今後 10 年以上にわたって、植込み手技のゴールデンスタンダードたりうる解説書の登場である。
はじめて本書を手に取ったときの感想―表装はブルーのモノトーン、写真は全て白黒、「何だか地味だな」。次に執筆者と目次を見る、「おっ、なかなかのラインアップ」。第 1 章の基礎編に目を通す、「すばらしい!果たして他の章は?」続けて第 2 章の解剖の知識を読む、「ただものではないぞ、これ」。誰が執筆したのか、感心して末尾を見る、「名前、書いてない」。そうなのだ、本書はよくある単独の分担執筆本とは異なり、何人ものエキスパートが共同で執筆しているのだ。現存するもっともスタンダードな理論と、それに依拠した手技は何かというテーマについて徹底的に議論した結晶がここにある。最終的な感想、「凄い。恐れ入った」。
本書は手術室の環境整備から術後の管理まで、デバイス植込みに関するすべての項目を完璧に網羅している。さらに特筆すべきは、通常行われている手技がどこまでエビデンスとして確立されているのかを明確にし、慣習的に行われている手技の意義については彼らエキスパートが信ずるところを堂々と述べている。本書で展開されているのは、単なる「職人芸」や「伝統芸」ではなく、常に「サイエンスに裏打ちされたスタンダードとは何か」というきわめて沈着で理知的な哲学に貫かれた論理である。無駄を徹底的に削ぎ落とし、厳選されたエッセンスを中心に、150 ページ程度にスリム化されているのも好感が持てる。第 1 章から最終章まで数日あれば十分に通読できる。しかし、その一方で、左上大静脈遺残など例外的な症例についても懇切丁寧に解説されており、想定されるさまざまな場面において役立つよう、心憎い配慮がなされている。
執筆グループは錚々たる顔ぶれである。失礼ながら、これだけの個性派集団、一つのコンセンサスに到達するためには想像を越える信念と努力が必要であったに違いない。想いを一つにした彼らの情熱と、グループを束ねた編集者の石川利之先生、中島博先生のご努力に心から敬意を表する。
本書は、これからデバイス植込みを始める若手医師や臨床医療工学士にとってはもちろんのこと、円熟したインプランターにとっても、自身が行っている手技の妥当性を再確認するためにきわめて有用である。まさしく、さまざまなレベルにあるデバイス管理者にとって必携の書である。小生の部下にも早速購読を勧めた次第である。
評者● 栗田隆志
臨床雑誌内科108巻3号(2011年9月号)より転載