書籍

ただいま留学準備中

医師が知るべき留学へのコンパス

こちらの商品は改訂版・新版がございます。

監修 : 田中栄
: 大谷隼一
英文監修 : Larry Frumson
ISBN : 978-4-524-25887-1
発行年月 : 2016年4月
判型 : A5
ページ数 : 110

在庫なし

定価2,420円(本体2,200円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

多忙な臨床業務をこなしながら渡米準備を円滑に進めるための情報を、過不足なくまとめた実際書。インターネット上に溢れる情報の中で迷子にならないよう、留学先の決定や実際のやり取り、助成金の申請、必要書類の提出、留学生活のセットアップなどについて、留学準備全体の流れを体系的に掲載。各場面で役立つ英文例も充実させた、留学準備に悩む若手医師の指針となるべき一冊。

はじめに
留学が決まったら
 第1章 留学が決まったらまずやることは
  ビザの種類の確認
  資金調達
  受け入れ許可証
  助成金獲得に必要なもの
  Situation #1(Request for invitation letter)
 第2章 留学に必要なpaperwork
  口約束を契約に
  提出書類の種類
  秘書さんとのやりとり
  アタリ・ハズレ
  変化する制度
  DS-2019が届くまで油断禁物
  Situation #2(Confirming the status of documents required for visa application)
  Situation #3(Urging progression of visa process)
 第3章 ビザを取得しよう
  DS-2019が届いたら
  大使館/領事館の面接準備
  面接当日と必要な書類
  Situation #4(The interview at the American Embassy)
 第4章 留学先施設へ提出する書類
  留学先施設への書類
  PPD
  ワクチンと抗体価
留学が決まる前に
 第5章 将来の留学に向けてやるべきことは
  留学に向けてできる準備
  アメリカ医療事情を学ぶ
  英文業績をつくる
  国際学会に行こう
  プラスアルファ
 第6章 留学先の決め方
  前任者から仕事を引き継ぐ
  前任者がいない
  前任者もいないし,ツテもない
  Situation #5(Requesting acceptance for studying abroad)
留学直前から渡米直後まで
 第7章 日本国内での準備
  住所変更と転居/転送サービス
  海外転出届,住民税
  運転免許証/国際免許証
  日本の銀行口座
  PayPal
  便利なアプリケーション
  各所属学会手続き
 第8章 銀行口座のつくり方
  口座は2種類
  現地で銀行口座を開く
  日本で海外の口座を開く
  Situation #6(Opening a bank account)
 第9章 住居の決め方
  住居タイプ
  現地到着後の探し方
  クラシファイドサイト−英語編
  クラシファイドサイト−日本語編
  日本からの住居の探し方
  Situation #7(Finding and renting housing)
  Situation #8(Requesting a housing preview)
 第10章 携帯電話について
  アメリカの携帯料金システム
  コミュニケーションツール
  Situation #9(Contracting a mobile phone)
 第11章 自動車について
  自動車の購入
  免許取得
 第12章 荷造りから渡米日まで
  引っ越し
  家具について
  医学書について
  出発当日
おわりに
索引

序文

「来年、留学してみたら?」
 この言葉を聞いて私の心は踊りました。やった!海外生活ができる。私の幼馴染みの中には学生時代のうちに留学を経験している者や、社会人となってから海外赴任をしている友人が多く、いつかは自分も海外生活をしてみたいと以前から考えていました。自分もいつの間にか臨床医として8年目になっていて、海外で催される国際学会に参加する機会も増えてきており、海外の医師ともっと流暢にコミュニケーションできれば、さぞかし楽しいだろうとも感じていました。また、そのような国際舞台で出会う日本人医師の諸先輩の中には、留学を経験している方が多く、彼らの国際学会での振る舞いにとても刺激を受けていたのです。「ぜひ留学したいです」
 そう返事をしてから渡米までの間、想像以上に留学準備に苦労しました。留学先で苦労することは想像していましたが、準備にこんなに苦労するとは……。海外支社に転勤する会社員の方とは勝手が随分異なり、臨床医は自身で留学準備のすべてを進めなくてはなりません。勤務先に退職届を出したり、愛車を売却したり、借りていたマンションの退去手続きを取ったりしていましたが、はたして本当に予定どおりに留学できるのか不安で仕方ありませんでした。さまざまな方のサポートと幸運も重なり、私の留学準備は、最終的にとても順調に終わりました。
 私が留学した後も、続々と日本人の先生方が留学してくるサンフランシスコ・ベイエリアに住んでいると、多くの方が渡米準備に大変苦労されたという話をよく聞きます。私も含めて留学経験者は、その苦労を人に話すのも人から聞くのも最終的には笑い話として、とても楽しむことができます。しかし、その苦労を通じて人間として大きく逞しくなると言えば聞こえはよいかもしれませんが、研究などの本業で結果を出すうえでは無駄な障壁となる可能性もあります。多くの場合、留学期間も渡米までの日本での時間も有限です。結果を出すスピードだけを考えたら、留学までの期間は渡米後の研究準備や英語力の向上にあて、渡米直後のセットアップも早く順調に終わらせ腰を落ち着けて本業に取り組める方がよいに決まっています。
 ともすると、若い医師にとって留学への準備は面倒くさそうで得体のしれないものであり、留学への志を妨げる一因になっている可能性があります。本書を手にとってくれた先生方が、留学準備の全体像と流れを知ることができ、「なんだ、これなら自分にもできそうだ」と感じてくれれば本望です。すぐに通読できる読み物として気軽な気持ちで読んでいただきたいと考えています。
 ご監修いただいた東京大学医学部整形外科学教室の田中栄教授に深謝いたします。また、英文監修においては日本の大学で教壇に立ち、我々医療者への英語指導経験も豊富なLarry Frumson氏にご協力いただきました。若輩者の単著であり、青くさく読みにくい文章もあるかと存じますが、ご容赦いただけると幸いです。

2016年3月
大谷隼一

 医学の進歩は著しく、2012年のiPS細胞発見のように、新たなブレークスルーをみつけるために世界中で激しい競争が繰り広げられている。激しい競争のため輩出される医学英文論文数は増え続けており、特に中国を中心にアジア諸国からの論文は急増している。それにもかかわらず、日本からの論文数は減少しているそうである。この事実は、日本の医学分野における国際的な存在感が低下していることを示している。医学における日本のプレゼンスを回復させるために、若い医師の国際化はきわめて重要な課題である。国際化のためには医師が海外留学すること、海外で生活することが最短の道であり、研究留学をめざす医師に対しての手厚い支援が望まれる。
 臨床研修に臨む医師は臨床研究を深めるために、4年間の大学院進学を視野に入れる。大学院進学とは別にもう一つ、「海外留学」という選択肢がある。海外留学は臨床研修を目的とするものと、基礎研究を目的とするものがある。日本では臨床医であっても、留学先では(臨床医としてスキルを磨くというより)基礎研究を目的とする人が多い。筆者は所属する整形外科教室の教授から1997年に留学の機会を与えられ、アメリカ・オハイオ州のクリーブランドにあるクリーブランド・クリニックに研究留学した。当時はメールもなく、スマホはもちろん携帯電話すらもない時代で、FAXや国際郵便での書類のやりとりのため遅々としてすすまない手続きに苦労した記憶がある。幸運にも前任者がおり、彼が典型的アメリカ人の秘書と直接対峙してくださり、スムースに研究留学できた苦労知らずの筆者は、今から振り返って考えれば超ラッキーであった。ようやくビザが発行され渡米したものの、social security numberの取得がなかなかできず、銀行口座の開設にずいぶん時間がかかった。今から思えば、social security numberの意義も知らず、銀行のchecking account、saving accountの意味も、personal checkの使い方も知らずに渡米した筆者はなんと愚か者か…。
 しかし4年半のアメリカでの研究生活のお陰で、英語も発音はtypical Japaneseであるが、日本では少々傲慢といわれるかもしれない自己主張もできるようになり、“agree to disagree”の精神を理解してアメリカ人と対等に議論できるようになった。留学経験“さまさま”である。だから若い先生方にはぜひ海外留学の経験をしていただきたい。筆者の留学当時に本書のような「留学へのコンパス」本があったならばと感じる。
 本書は3部構成になっており、前半(1〜4章)は留学の許可はもらったものの何から準備すればよいのかわからない方のために留学前の準備を、中盤(5〜6章)は将来的に考えているが具体的に決まっていない段階のお話、後半(7〜12章)は留学直前から渡米直後に必要な新生活のセットアップについて詳細に記してある。学校では学ばなかった特殊な英会話や、現代の留学には必須のE-mailの英文文例が具体的に幅広く示されている。留学助成金一覧や留学に必要なpaper workなど、留学必須のアイテムがすべて詰まっている。また渡米直前に日本でしておくべきことが微に入り細にわたり記されている。さらには、時々息抜きのように収めてある“COLUMN”は実際に留学を体験した著者ならではのコメントであり、実は非常に重要なポイントである。5章にあるように、「英文業績をつくること」、「国際学会に参加すること」は自分の意識を高める、他の医師と自分を差別化できる重要な要素であり、将来の留学へ向けて大きなモチベーションになり、今すぐにでも始めていただきたい。
 これまでアメリカへの研究留学に特化した詳細な解説本はほとんど見当たらなかった。本書は手元においてすぐに活用できるため、貴殿の留学を強力にサポートしてくれるものと期待している。

臨床雑誌整形外科67巻13号(2016年12月号)より転載
評者●神戸大学大学院整形外科教授 黒田良祐

 医学生のころから米国留学について考えていて準備をしっかり進めている方もいれば、臨床医になって急に海外留学が決まり慌てて準備を開始しなければならない人もいると思います。米国へ留学するには、医師として診療をする、研究をする、大学院に行くなどさまざまな道がありますが、初めて留学する多くの人が口をそろえて言うことは「準備が大変だった」ということです。近年はインターネットで多くの情報を取得することはできますが、限られた時間をうまく使い、玉石混合の情報のなかからどの情報が自分にとって有用であるかを判断しなければなりません。
 それでは米国留学が決まったらまず何をしたらよいでしょうか。考えないといけないことはたくさんあります。取得するビザの種類の確認(J1、F1など)、ワクチン接種歴の確認、国際免許証の取得、米国への送金の方法、住居の決め方、携帯電話、車の購入など、初めての留学ではどこから手を付けたらよいのかわからず途方に暮れてしまうのではないでしょうか。
 本書では米国に研究留学する医師を主な対象として、留学前後の準備についてどの時点で何が必要かについて順を追って記載されています。前半の第1章から第4章までは留学前の準備について触れられています。DS-2019の発行(約1ヵ月)、ビザ申請書(DS-160)を入力、SEVIS費用の支払い、ビザ面接予約、最後に大使館での面接について重要なポイントが列挙されています。さらに留学先にはワクチン接種歴の提出が必要となる場合もあり、ツベルクリン反応やワクチンと抗体価についても説明があります。
 第5章と第6章では将来的に留学を考えている方に、準備しておいたほうがよいことについて記載してあります。国際学会で発表すること、英文の業績を増やすことの重要性について述べられています。留学先の決め方にも説明があり、前任者がいる場合とそうでない場合に分けて、どのようにアプローチしたほうがよいかについて簡潔にまとまっています。
 第7章以降は留学直前・直後のセットアップについて書かれています。必要な事務手続きは多く、日本で行う住所変更、海外転出届、国際運転免許証の取得、海外送金用の銀行の開設について簡潔にまとまっています。現地に到着後、住居、銀行開設、携帯電話の購入、自動車の購入について必要なことについても掲載されています。また、章ごとにさまざまな状況で留学中に必要となる英語表現文例がまとまって記載されていることも本書の特徴の一つです。簡単なものからフォーマルなものまで幅広い例文やE-mail文例を複数確認できることはきわめて有意義であり、普段勉強がなかなか難しいフォーマルな表現を適切に使用したいときに参考になるはずです。そして、おのおのの章には著者の経験された米国ルールがコラムとして掲載されており、こちらも非常に興味深い内容ばかりです。
 情報が溢れる現代社会のなかで、必要な留学情報のみを取得し、本業を疎かにせずに留学準備を行うことは容易いことではありません。本書は、主に研究留学を志したい臨床医、留学が決定した臨床医にとって、必要なエッセンスがたくさん詰まった、まさに羅針盤となる一冊であり、ぜひお勧めしたい書籍です。

臨床雑誌内科118巻6号(2016年12月号)より転載
評者●東京医科歯科大学医療政策情報分野 大沼哲

9784524258871