書籍

臨床頭頸部癌学

系統的に頭頸部癌を学ぶために

編集 : 田原信/林隆一/秋元哲夫
ISBN : 978-4-524-25828-4
発行年月 : 2016年6月
判型 : B5
ページ数 : 338

在庫なし

定価13,200円(本体12,000円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

発生部位や病期によって治療手段が多岐にわたり、発声や咀嚼・嚥下などの重要機能への配慮も必要となる頭頸部癌診療を系統的にまとめた「本邦初の教科書」。総合的な知識が求められる本領域について、疫学・診断・治療の基本から、チームで取り組む合併症予防やケア、専門家注目の最新技術までを網羅。高齢化とともに患者数が増加しているいま、本領域に携わる医師必見の一冊。

第I章 総論
 1.疫学
 2.分子生物学と発癌機序
  A.頭頸部扁平上皮癌
  B.甲状腺癌
 3.診療ガイドライン
 4.インフォームドコンセントとセカンドオピニオン
第II章 診断
 1.発生部位と症状
 2.病理診断
  A.頭頸部癌
  B.唾液腺癌
  C.甲状腺癌
 3.検査と診断
  A.診断にいたるまでの検査
  B.画像診断
   1)総論
   2)上咽頭
   3)口腔
   4)中咽頭
   5)喉頭・下咽頭
   6)頸部リンパ節転移
  C.内視鏡診断(表在癌含む)
第III章 治療
 1.治療方針決定の手順
 2.外科治療
  A.総論
  B.切除術
   1)口腔
   2)鼻腔・副鼻腔
   3)上咽頭
   4)中咽頭
   5)下咽頭
   6)喉頭
   7)甲状腺
   8)唾液腺
   9)頸部郭清
   10)頭頸部表在癌
   11)聴器
  C.形成・再建術
  D.救済手術
 3.放射線治療
  A.総論
  B.外部照射
  C.小線源治療
  D.化学放射線療法
  E.動注化学療法
  F.内用療法
 4.薬物療法
  A.総論
  B.導入化学療法
  C.緩和的化学療法
  D.分子標的治療薬
  E.緩和ケア
 5.治療の効果判定
 6.QOL評価
 7.急性期の合併症と副作用管理
  A.口腔ケア
  B.外科治療
  C.放射線治療/化学放射線療法
  D.薬物療法
 8.晩期の合併症と副作用管理
  A.外科治療
  B.放射線治療
  C.薬物療法
第IV章 フォローアップとチーム医療
 1.治療後のフォローアップと生活指導
 2.多職種連携
  A.多職種連携の重要性
  B.薬剤師の役割
  C.看護師の役割
   1)皮膚炎管理
   2)嚥下評価
  D.管理栄養士の役割
  E.言語聴覚士の役割
  F.ソーシャルワーカーの役割
第V章 今後の展望
 1.新たなターゲットとバイオマーカー
 2.今後注目される治療法
  A.外科治療
  B.放射線治療
  C.薬物療法
索引

序文

 「我が国で頭頸部癌に関して診断・検査・治療・治療後のフォロー・多職種の役割など系統的に学べる教科書を提供したい」、このような趣旨をもとに本書の出版が企画された。
 頭頸部は多臓器の集合体であり、その原発部位と進行度によって治療方針・予後も異なる。頭頸部癌は初期症状が少なく、約半数以上が進行癌で発見されることが多い。また嚥下、咀嚼、発声などの重要な機能を担っているために、癌の進行、あるいは治療によってこれらの機能が障害されることがある。特に進行癌では外科切除による機能の損失が顕著になることがあり、機能温存を重視し非外科的治療を希望する患者も増えている。また、進行癌では予後改善のために、外科切除、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療が必要となっており、治療はますます複雑となっている。したがって、治療方針決定においては、原発部位と進行度、機能温存希望の有無、現在得られているエビデンスをもとに総合的に判断していく必要がある。化学療法また化学放射線療法の副作用は決して軽くなく、適切な支持療法が治療完遂・治療継続に必要とされる。喫煙・飲酒が主な発症要因であるために、社会的・経済的に問題を抱えている患者も少なくない。
 今回、各領域の第一人者に執筆を担当していただいた。最新の内容を網羅した「系統的に頭頸部癌を理解できる」教科書ができたと自負している。
 我が国の社会は縦割りであり、医療においても臓器別に分けられてきた歴史があり、他科、さらに多職種との連携は少なく、単科での治療方針決定、治療の実施などが行われてきた。そのため、患者を多職種でチーム医療を行うという基盤整備が整っていない。海外では頭頸部癌の治療に関しては集学的治療チーム(multidisciplinary team)で行うことが法制化されている国もある。本書にてまずお互いの職種の役割・意義を十分に理解し、集学的治療チームが実践される施設が増えることも期待したい。
 若い耳鼻咽喉科医、放射線治療医、腫瘍内科医で、頭頸部癌に興味を持ってくれる医師は少ない。頭頸部癌治療の発展には若い力は必須である。本書にて、頭頸部癌に興味を持ってくれる医療従事者が増えることも期待したい。
 最後に、本書の出版趣旨に賛同していただき、本書を完成に導いていただいた南江堂編集部の方々にこの場を借りて深謝させていただきたい。

2016年5月
田原信
林隆一
秋元哲夫

 頭頸部癌は、癌の医療体系のなかでもきわめて特殊な領域である。まず、頭頸部領域は解剖学的に口唇、口腔、舌、歯肉、鼻腔、咽頭、喉頭、頸部食道に大別され、そのほとんどが扁平上皮癌である。一方、唾液腺、涙腺、甲状腺、皮膚付属器由来の腺癌も頭頸部癌に含まれる。さらに悪性リンパ腫や腺様.胞癌、軟部肉腫なども頭頸部領域から発生する。このように頭頸部癌は多彩な解剖学的原発巣を有するとともに、その組織像も多彩である。現在、頭頸部領域発生の扁平上皮癌は、頭頸部癌として一つの疾患概念のもとに治療戦略が立てられているが、将来より詳細なゲノム解析により疾患概念が再構築されることも期待される。
 わが国では、頭頸部癌の診療は、主として耳鼻咽喉科医もしくは頭頸部腫瘍医と歯科・口腔外科医によって行われている。残念なことに両者の交流は乏しく、極端な例では、同じ大学にあっても医学部と歯学部がまったく別々に頭頸部癌の治療を担当することすら見受けられる。また、頭頸部癌の患者数は、消化器癌や肺癌と比較すると少なく、また解剖学的にも特殊であるため、手術適応、術式、集学的治療に代表されるわが国の頭頸部癌の診療は、施設や担当医によって異なることもあり、すべての医療施設で均一で質の高い診療を行うことが困難である。国立がん研究センター東病院など、多くの頭頸部癌患者を取り扱い臨床経験が豊富な基幹病院と地域の一般病院や一部のがん拠点病院、大学病院とのあいだに時として医療水準の差が存在する。主たる診療科である耳鼻咽喉科のなかでも頭頸部癌の専門医は限られ、若き耳鼻科医にとって十分な頭頸部癌の研修を受けられる施設は限られている。
 一般に、頭頸部癌は遠隔転移が比較的少なく、手術、放射線治療および薬物療法を組み合わせる「集学的治療」がもっとも効果を発揮する領域の一つでもある。さらに、頭頸部癌の患者背景にある喫煙と飲酒の問題、口腔ケア、服薬・栄養摂取、発声など術後の臓器機能低下の問題、容貌の変化と精神的なケア、就労支援、家庭環境さらには経済的な問題など数多くの課題に対して、頭頸部外科医、放射線治療医、腫瘍内科医、看護師だけではなく形成外科医、緩和ケア医・精神科医、歯科・口腔外科医、薬剤師、栄養士、ケースワーカーや事務職など多職種によるチーム医療はきわめて重要である。頭頸部癌の治療は、まさにその施設の総力を結集して行うべき医療へと大きく変わりつつある。また、これまで有効な薬剤が限られていたこの領域にも新たな薬剤が登場した結果、標準治療が書き換えられ、これまで本領域にあまり関心を示さなかった腫瘍内科医の参画も期待される。喫煙が、頭頸部扁平上皮癌だけでなく肺と食道の扁平上皮癌の主要な原因であることを踏まえると、肺癌、食道癌に対する新規薬剤の経験が、頭頸部癌にも外挿されることや、その逆のケースも期待される。
 このように特殊な領域である頭頸部癌に対して、本書が上梓されたことは、誠に時宜を得た企画であり、編集者の並々ならぬ熱意が随所に垣間みられる。執筆陣もそれぞれの領域における多くの専門家によって構成され、わが国の頭頸部癌医療の“state of the art”としての方向性が色濃く反映されている。
 本書が、頭頸部癌診療に携わるすべての医療関係者や腫瘍医を目指す若き研修医にとって、有益な情報を与えるとともに、わが国の頭頸部癌診療の発展と均てん化に寄与することを強く期待する。

臨床雑誌内科118巻4号(2016年10月号)より転載
評者●昭和大学医学部内科学講座腫瘍内科学部門教授・昭和大学腫瘍分子生物学研究所所長 佐々木康綱

 本書は頭頸部癌の診断、検査、治療に関する基本事項と最新情報がカラフルに網羅されており、治療後のフォローアップ、それにかかわる多職種の役割に関しても詳述されている。頭頸部癌に関して系統的に、up to dateなエビデンスを学べる教科書である。
 頭頸部癌は頭頸部に発生する扁平上皮癌と甲状腺癌が主なものであるが、発声や聴覚だけでなく、生命維持に必要な呼吸と嚥下、消化吸収に関与しており、接触による知覚にもかかわる重要部位に発生する癌腫である。それゆえ、進行した腫瘍そのものや治療による後遺症が、呼吸のみならず、栄養摂取に不可欠な嚥下機能、味覚、嗅覚、唾液分泌などに大きな影響を及ぼす。さらに、その影響は視覚や聴覚、平衡感覚などの感覚器に及ぶ。また、発生部位が衣服におおわれず、皮膚や皮下組織に余裕のない顔面付近にあり、根治性だけでなく整容性も要求されるため、治療に関しては、治療後の形態および生理機能を含めた全身状態を統合的、俯瞰的に配慮しつつ、他科との連携による集学的治療および治療にかかわる医療スタッフとの連携が必要である。
 フォローアップに関しても、それを担う担当科医師や連携医との情報の共有と意思疎通が必須である。
 第I章の「総論」では頭頸部癌の最新の疫学情報、分子生物学的な発癌機序が記されている。さらに、診療ガイドラインはアルゴリズムを用いてわかりやすく、インフォームド・コンセントとセカンドオピニオンについても記載され、現在進行形でJCOG臨床試験に参加している施設も掲載されている。第II章の「診断」は発生部位と症状、病理診断、検査と画像診断が各癌腫ごとにカラー写真とともに記載されている。第III章「治療」では治療方針決定の手順から外科治療、部位別切除術と形成・再建術、救済手術、放射線治療と薬物療法、治療効果判定、生活の質(QOL)評価、合併症と副作用管理について治療法別の対処法が急性期と晩期に分けて解説されている。さらには高齢者への薬物投与、緩和的化学療法、新しく登場した分子標的治療薬に関するエビデンスも記載されている。特筆すべきは緩和ケアの実際と薬物治療の効果判定だけでなくQOL評価に関しても解説されていることで、非常に参考になる。第IV章の「フォローアップとチーム医療」では治療後のフォローアップに関して、生活指導の方法、それを担う各医療職の役割が職種ごとに詳述されている。最後に第V章「今後の展望」として、日本でも将来使用可能となるであろう薬剤に関しての情報や、今後注目される治療法についても学ぶことができる。
 本書は非常に読みやすくまとめられており、若い頭頸部外科医だけでなく、集学的治療に携わるわれわれのような消化器外科医、放射線治療医、腫瘍内科医や形成外科医のほか、チーム医療にかかわる医療従事者すべてに有用な参考書である。欲をいえば各単元のインデックスがよりはっきりとした色で入っていれば、調べたいところを再確認するときに有用である。

臨床雑誌外科78巻13号(2016年12月号)より転載
評者●徳島大学胸部内分泌腫瘍外科教授 丹黒章

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