書籍

実はすごい!ACE阻害薬

エキスパートからのアドバイス50

編集 : 伊藤浩
ISBN : 978-4-524-25725-6
発行年月 : 2015年7月
判型 : A5
ページ数 : 264

在庫品切れ・重版未定

定価4,180円(本体3,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

ACE阻害薬は降圧薬として古くから使用されているが、冠動脈疾患患者では血圧以外への効果も認められ、近年増加している高齢者の誤嚥性肺炎においてもその予防に効果を発揮している。このように重要性が見直されているACE阻害薬について、作用機序から、臨床エビデンス、推奨される病態での使い方、副作用とその対策までを第一線のエキスパートが実践的に解説。最も注目されるACE阻害薬を適正に使いこなすためのアドバイスが詰まった心強い一冊。

I レニン-アンジオテンシン系とACE阻害薬
 1 レニン-アンジオテンシン(RA)系とアンジオテンシン変換酵素(ACE)に関して分かりやすく説明して下さい
 2 カリクレイン-キニン系はどのような働きをするのですか?キニナーゼとACEの関係も教えて下さい
 3 RA系とカリクレイン-キニン系にACE阻害薬が作用するとどうなるのか教えて下さい.ACE活性が亢進する状態があるのでしょうか?
 4 AT1受容体とAT2受容体の働きに関して,分かりやすく教えて下さい
 5 ACE2とはどのようなものですか?そしてそれにより産生されるアンジオテンシン(1-7)の役割に関して教えて下さい
 6 血管内皮に対するRA系とカリクレイン-キニン系の作用と,それに対するACE阻害薬の役割を教えて下さい
 7 血管壁にあるACEの作用とそれに対するACE阻害薬の効果に関して教えて下さい
 8 冠動脈の作動をコントロールしているのはアンジオテンシン?それとも一酸化窒素(NO)?
II ACE阻害薬をもっと知ろう!
 9 日本の高血圧治療ガイドラインではACE阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は同じカラムに入っていますが,その理由に関して説明して下さい
 10 欧米の高血圧治療ガイドラインにおけるACE阻害薬とARBの適応に関して説明して下さい
 11 ACEは蛋白分解酵素ですが,その基質には何がありますか?
 12 ACE阻害薬の相違に関して教えて下さい
 13 日本でも欧米と同じ用量を使用できるACE阻害薬があると聞きました.その薬剤の特徴と臨床エビデンスに関して教えて下さい
 14 高血圧診療においてACE阻害薬とARBを比較した臨床データはありますか?
 15 ACE阻害薬は誤嚥性肺炎予防に有用であると聞きました.その機序と適応に関して教えて下さい
 16 ACE阻害薬は二次性高血圧の診断にも使われるそうですが,具体的に説明して下さい
III 冠動脈疾患治療におけるACE阻害薬の役割
 17 心筋梗塞の二次予防におけるACE阻害薬の有効性を示したメガトライアルを教えて下さい
 18 心筋梗塞二次予防に関するガイドラインではACE阻害薬が推奨されていると聞きました.それに関して詳しく教えて下さい
 19 ACE阻害薬は急性心筋梗塞例において使うべきでしょうか?どのような効果が期待できますか
 20 ACE阻害薬はブラジキニン-NO系を活性化させる作用がありますが,それと冠動脈疾患予防の関連を教えて下さい
 21 ACE阻害薬の凝固・線溶系に対する影響を教えて下さい
 22 ACE阻害薬はMMP(matrix-metalloproteinase)を抑制する作用があると言われています.その意味と冠動脈疾患イベントの予防との関連を教えて下さい
 23 ACE阻害薬の抗動脈硬化作用に関して教えて下さい
 24 ACE阻害薬の抗炎症効果に関して教えて下さい
IV 高血圧治療におけるACE阻害薬の役割
 25 糖尿病合併高血圧治療におけるACE阻害薬の役割とそのエビデンスに関して教えて下さい
 26 高齢者高血圧治療におけるACE阻害薬の役割とそのエビデンスに関して教えて下さい
 27 脳卒中治療におけるACE阻害薬の有効性とそのエビデンスに関して教えて下さい
 28 慢性腎臓病(CKD)治療におけるACE阻害薬の有効性とそのエビデンスに関して教えて下さい
 29 末梢動脈疾患(PAD)治療におけるACE阻害薬の役割とそのエビデンスに関して教えて下さい
 30 ACE阻害薬は大動脈解離,大動脈瘤に対する予防効果があると聞きました.その機序と臨床エビデンスを教えて下さい
 31 ACE阻害薬の血管スティフネスと中心血圧に対する影響を教えて下さい
 32 ACE阻害薬と組み合わせてさらに降圧効果を高めるには,どの降圧薬がお勧めですか?
V 心不全患者治療におけるACE阻害薬の役割
 33 (収縮性)心不全治療におけるACE阻害薬のエビデンスと具体的な使用法に関して教えて下さい
 34 心不全治療ガイドラインにおけるACE阻害薬の積極的適応を教えて下さい
 35 収縮性心不全に対するACE阻害薬とARBの効果に違いはありますか?
 36 血圧の低い心不全患者にACE阻害薬はどのように開始して,どこまで増やすべきですか?
 37 心不全患者の治療においてACE阻害薬とβ遮断薬とどちらを優先させるべきですか?
 38 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)も心不全に推奨されています.ACE阻害薬と併用するときの具体的な方法と注意点を教えて下さい
 39 拡張不全患者におけるACE阻害薬の役割と臨床データを教えて下さい
 40 心不全治療ガイドラインでは心不全リスクがある段階(ステージA)でのACE阻害薬の使用を勧めています.その理由と具体的にどうしたら良いかを教えて下さい
VI ACE阻害薬の疑問に答えましょう!
 41 ACE阻害薬の降圧効果はARBに比べて弱いのでしょうか?
 42 アルドステロン・ブレイクスルー現象とは何でしょうか?その対策も教えて下さい
 43 ACE阻害薬とARBの併用(dual blockade),さらにはMRAあるいは直接的レニン阻害薬との併用(triple blockade)は有効な治療なのでしょうか?
 44 ACE阻害薬とDPP-4阻害薬の相互作用に関して教えて下さい
 45 ACE阻害薬の交感神経系,抗利尿ホルモンに対する作用を教えて下さい
VII ACE阻害薬の副作用とその対策
 46 ACE阻害薬による空咳の機序とその対策に関して教えて下さい
 47 ACE阻害薬による高カリウム血症とその対策に関して教えて下さい
 48 ACE阻害薬の重篤な副作用といわれる血管性浮腫と喉頭浮腫に関して教えて下さい
 49 ACE阻害薬の禁忌に関して教えて下さい
 50 CKD患者にACE阻害薬を使用するときの注意点と具体的な方法を教えて下さい
索引

序文

“ACE inhibitor、revisited”(ACE阻害薬、ふたたび)
 この本のテーマである。
 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は開発から35年以上が経過する古い薬剤である。特許が切れていることもあり、もはや積極的に宣伝するメーカーはない。“ARBは咳の出ないACE阻害薬”というフレーズが浸透していることもあり、降圧薬のラインアップからACE阻害薬を外しているケースも多いと聞く。このように日本では忘れられた存在のACE阻害薬であるが、欧米に目を転ずると事情は大きく異なる。数多くの臨床エビデンスの裏付けもあり、欧米のガイドラインでは冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病、糖尿病などの合併症を有する高血圧患者には、ACE阻害薬を積極的に使用することが推奨されている。冠動脈疾患を例にとると、ACE阻害薬は降圧以外に血管内皮機能の改善やプラーク安定化などの多面的効果を有し、優れたイベントの予防効果があることから第一選択薬と位置付けられている。日本循環器学会の『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン』でも“ACE阻害薬とARBは似て非なる薬剤である”と記載され、二次予防としてACE阻害薬が推奨されている。さらに、ACE阻害薬は誤嚥性肺炎の予防に適応があるが、その事実は意外と知られていない。最近、肺炎が日本人の死因の3位になり、高齢者に多い誤嚥性肺炎がその増加に大きく寄与していることは間違いない。その対策として肺炎ワクチン接種が推奨されているが、降圧薬としてACE阻害薬を選択することも考慮しても良いのではなかろうか。
 ACE阻害薬の役割は心血管病や肺炎の予防による生命予後の改善にある。しかし、“予防”は患者そして医師にも理解しにくい概念でもある。そのため、空咳など副作用の訴えがあると、簡単に中止される現実がある。
 本書はACE阻害薬の作用機序から、臨床エビデンス、推奨される病態での使い方、副作用とその対策までを解説し、最新かつ実践的知識を提供することを目的としている。本書が、忘れられた薬剤、ACE阻害薬のポテンシャルを再認識し、適正な使用を推進するための指針となれば、執筆者一同の喜びである。

2015年7月 伊藤浩

 海外の常識は日本の非常識といわれることがよくある。必ずしも日本の医療がグローバルスタンダードに横並びになることは必要ないが、こと国民の税金によって支払われている医療費に影響を与えることになると事情は少し違ってくる。
 欧州高血圧学会、欧州心臓病学会、JNC8や日本循環器学会のガイドラインでも心筋梗塞の二次予防や、収縮性心不全に対するアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の適応はACE阻害薬に忍容性がない場合に限定されているにもかかわらず、海外での処方率に比較して本邦のACE阻害薬の処方率はARBに対してきわめて低い。とくに若い医師ほどARBを第一選択として使用するケースが多いように見受けられる。ACE阻害薬の心血管イベントや総死亡抑制効果のエビデンスは数多くあり、基礎研究もSAVE試験やSOLVD試験が発表された後、心血管系のRAS研究が飛躍的に発展し、私自身もACE阻害薬の冠循環や虚血再灌流障害に対する効果をいくつか発表させていただいた。
 ACE阻害薬は世界の心臓病治療を変えたスーパースターであり、いまだにどんどん現れる新人にも負けず、降圧薬の第一人者として君臨する「すごい」薬なのである。
 本書「実はすごい!ACE阻害薬」はこの状況のなかで、ARBに比較すると相対的に安価であるACE阻害薬の「すごさ」の再考を促す意味で、最高の書であるといえる。編者の伊藤 浩先生は第一線の臨床家の立場からいつも斬新で鋭い切り口で物事の本質をつく研究をされているが、本書もACE阻害薬のメカニズムの基礎的な面から、実施医家の先生方がまさに外来で困っている場面でのACE阻害薬の使い方にいたるまで、最新のACE阻害薬の情報が網羅されている。
 ACE阻害薬が誤嚥性肺炎の予防に有効な点を基礎と臨床のデータからまとめているのも超高齢社会における生活習慣病治療において重要である。一方で血圧の低い慢性心不全患者に、ACE阻害薬をどう導入するかの項目では、投与前の体液量を最適にすること、少量から開始するがACE阻害薬の効果は用量依存性であるので、enalaprilとlisinoprilであれば5mg/日までの増量を第一目標とするということ、ACE阻害薬とβ遮断薬のどちらを優先するかの項目では腎機能障害、拡張不全、不整脈合併症例ではβ遮断薬を優先するなど、きわめて具体的に述べられている。ACE阻害薬とDPP-4阻害薬の相互作用の項目では、両者ともブラジキニンとサブスタンスP分解を抑制するので血管性浮腫が生じやすいという報告があるが、それに対する対応などACE阻害薬の安全性や副作用の回避の点で有効である。
 また、脂溶性の高いACE阻害薬が脳内のアルギニン・バソプレッシン系を抑制する可能性があることから、tolvaptanなど最近の心不全治療薬とのクロストークなど興味深い。
 ACE阻害薬とARBはRAS抑制薬として一つのカラムに入っているように捉えられているが、アルドステロン拮抗薬のように本来は異なるRAS抑制薬であるという伊藤先生のメッセージが本書から読み取れる。
 「ACE阻害薬は咳の出ないARBではない」という編者の思いがこもった、循環器内科以外の若い医師にもぜひお勧めしたい一冊である。

臨床雑誌内科118巻1号(2016年7月号)より転載
評者●佐賀大学医学部循環器内科教授 野出孝一

9784524257256