書籍

神経変性疾患ハンドブック

神経難病へのエキスパート・アプローチ

編集 : 水澤英洋
ISBN : 978-4-524-25617-4
発行年月 : 2018年5月
判型 : B5
ページ数 : 406

在庫あり

定価12,960円(本体12,000円 + 税)


  • お気に入りに登録
  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病について臨床の実際から最先端の研究までを丁寧に解説したテキスト。原因遺伝子の同定や発症機序の解明により新たな時代に入った神経変性疾患の本態に迫る。既刊書『免疫性神経疾患ハンドブック』とともに、神経内科医はもちろん、精神科、脳神経外科、臨床医でない研究者も必読の一冊。

第I章 総論
 A 神経変性疾患の発症要因・発症経過
  1.神経変性疾患とは
  2.分類
  3.神経変性疾患の特徴
  4.神経変性疾患における発症要因
 B 神経変性疾患の分子遺伝学
  1.単一遺伝性神経変性疾患原因遺伝子の同定と遺伝子診断のポイント
  2.多因子疾患とcommon disease-common variants仮説
  3.GWAS(genome-wide association study)
  4.失われた遺伝性とcommon disease-multiple rare variants仮説
  5.次世代シークエンサーの実用化と神経疾患研究への応用
  6.近年の動向と今後の課題
 C 神経変性疾患の動物モデル
  1.動物モデルはなぜ必要か
  2.神経変性疾患に用いられるモデル動物
  3.神経変性疾患の動物モデルの作成方法
  4.動物モデルのトランスレーショナルリサーチにおける課題と今後
 D 神経変性疾患の治療の考え方(治療総論)
  1.神経変性疾患の治療薬,治療機器
  2.神経変性疾患に対する治療薬開発状況
  3.中心的症状以外への対応
  4.医療連携,多職種による支援体制構築
 E 難病の社会支援
  1.介護保険法
  2.障害者総合支援法
  3.障害者手帳
  4.難治性疾患克服研究事業
  5.医療費等の助成制度
第II章 疾患各論
 A 大脳・基底核
  1.Parkinson病
   1.臨床疫学
   2.症候と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療
  2.前頭側頭葉変性症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見(形態画像診断)
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
  3.進行性核上性麻痺
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.脳の画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療とケア
  4.大脳皮質基底核変性症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.神経病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
   8.今後の課題と研究の動向について
  5.Huntington病
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療とケア
  6.ジストニア
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療とケア
  7.プリオン病
   1.Creutzfeldt-Jakob病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)
   2.Gerstmann-Straussler-Scheinker病(Gerstmann-Straussler-Scheinker disease:GSS)
   3.致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia:FFI)
   4.プリオン病の治療について
  8.有棘赤血球舞踏病
   1.疾患概念の歴史
   2.臨床疫学
   3.臨床症状
   4.診断と鑑別診断
   5.病因と分子病態
   6.治療と予後
  9.副腎白質ジストロフィー
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療とケア
 B 小脳
  10.多系統萎縮症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
  11.脊髄小脳変性症
   1.定義・疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病因・病態
   4.診断
   5.治療・ケア・予後
 C 脊髄
  12.筋萎縮性側索硬化症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病態と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
  13.原発性側索硬化症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
  14.球脊髄性筋萎縮症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.発症機序と病理
   4.検査所見
   5.診断
   6.治療
  15.脊髄性筋萎縮症
   1.概念と疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.検査所見,とくに遺伝学的検査所見
   4.発症機序
   5.治療
  16.痙性対麻痺
   1.概念・分類
   2.Japan Spastic Paraplegia Research Consortium(JASPAC)
   3.分子疫学
   4.分子病態機序
   5.診断
   6.治療と予後
  17.脊髄空洞症
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
 D 末梢神経
  18.Charcot-Marie-Tooth病
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病型分類
   4.病理学的所見
   5.神経画像所見
   6.遺伝子診断
   7.治療と予後
 E 筋
  19.筋ジストロフィー
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.病理と発症機序
   4.画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
  20.ミオパチー
   A.遠位型ミオパチー
    1.臨床疫学
    2.症状と神経学的所見
    3.病因
    4.筋病理所見
    5.検査所見
    6.診断
    7.治療と予後
   B.自己貪食空胞性ミオパチー
    1.臨床疫学
    2.症状と神経学的所見
    3.病因
    4.筋病理所見
    5.診断
    6.治療と予後
   C.先天性ミオパチー
    1.臨床疫学
    2.症状と神経学的所見
    3.病因
    4.検査所見
    5.筋病理所見
    6.診断
    7.治療と予後
   D.ベスレムミオパチー
    1.臨床疫学
    2.症状と神経学的所見
    3.病因
    4.筋病理所見
    5.検査所見
    6.診断
    7.治療と予後
  21.遺伝性周期性四肢麻痺
   1.臨床疫学
   2.症状と神経学的所見
   3.発症機序
   4.病理・画像所見
   5.検査所見
   6.診断
   7.治療と予後
第III章 神経変性疾患に対する免疫系・脳血管障害のかかわり
 A 神経変性疾患と炎症・免疫のかかわり
  1.神経炎症
  2.慢性化の機序としての神経炎症
  3.ミクログリアの機能抑制による神経炎症の制御
 B 神経変性における小血管病変のかかわり
  1.脳小血管の構造と機能
  2.中枢神経系の小血管病変とAlzheimer病のかかわり
  3.中枢神経系の小血管病変と筋萎縮性側索硬化症のかかわり
第IV章 神経変性疾患に対する新規治療の可能性
 A バイオマーカーの開発
  1.バイオマーカーの定義とその分類
  2.BM(とくに診断BM)に求められる条件
  3.生化学的BMの開発方法(候補分子の解析と網羅的解析)
  4.BMの開発から実臨床への応用までに必要なステップ
 B 再生治療の展望
  1.疾患モデルとしてのiPS細胞について
  2.ヒトiPS細胞を用いたin vitro家族性ALS病態モデルの作製と病態解析
  3.ALS患者由来iPS細胞を用いた薬剤スクリーニングと臨床試験
 C 遺伝子治療の展望
  1.遺伝子治療について
  2.核酸医薬について
  3.遺伝子治療の開発状況と神経疾患への応用
  4.核酸医薬の開発状況と神経疾患への応用
  5.ゲノム編集への期待
 D 海外で用いられている治療薬
  1.Parkinson病治療薬
  2.認知症治療薬
  3.脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)
 E リハビリテーションの現状と課題
  1.効果研究の現状と課題
  2.評価の現状と課題
  3.リハ治療の現状と課題
  4.主な疾患におけるリハ
  5.新たな治療法の開発
索引

神経変性疾患ハンドブックの発刊に際して

 本書は、神経変性疾患を扱う神経内科医はもちろん、研修中の若い臨床医、精神科あるいは脳神経外科など関連領域の医師の方々、そして非医師の研究者の方々にとっても必読の書であると心より訴えたい。変性(degeneration)あるいは遺伝・変性(heredodegeneration)、系統変性(systemic degeneration)は、腫瘍、炎症、血管障害、外傷などと並んで疾患の病態を表す言葉である。それは、神経内科医にとっては、治らない疾患の代名詞であり、その頂点に君臨する、ある意味では、克服すべきもっとも重要な病態を意味するからである。実際、多くの著名な神経内科医や研究者がこれらの難病中の難病である変性疾患に挑み、そして敗北し続けてきた。かつて教科書に「原因不明で治らない」と定義されていた神経変性疾患は今や、多くの原因、とくに病原性の遺伝子変異がわかり、病態の解明も進み、一部ではあるものの、その根本的な治療法が実現しつつある。
 われわれは、まさに新しい時代に入ったと言える。具体的には、原因遺伝子は筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)もパーキンソン(Parkinson)病もともに20を超え、脊髄小脳変性症では100近いものが同定されており、疾患概念そのものについて検討を迫られるような状況とさえ言える。また、治療薬開発では、昨年だけでも球脊髄筋萎縮症(bulbar and spinal muscular atrophy:BSMA)に対する病態に基づく既存薬の再活用であるリュープロレリン治療、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)に対するアンチセンス核酸薬のヌシネルセン治療が認可されている。
 本書は、他の成書とは大きく異なる。それは第I章総論において、この変性というものの本態を発症機序、分子遺伝学、動物モデル、治療、福祉・支援といった複数の切り口で、きわめて丁寧に解説されているからである。それは、第III章の「変性」における免疫系と血管系の関連によってさらに詳細に解説されている。この2つの章により、神経内科医が愛して止まない、そして神経内科医以外からはもっともわかりにくいと言われる神経変性の本態が明らかにされている。これが、冒頭の神経内科医にとっても、研修中の若い学徒にとっても、精神科・内科・脳神経外科の先生方にとっても有用であると断言した理由である。このことはとりもなおさず、臨床医でない研究者の方々にとってもきわめて有用な書であることに他ならない。
 もちろん、第II章各論では大脳、基底核、小脳、脊髄、末梢神経、筋の各領域における主要疾患を網羅しており、個々の神経変性疾患についてわかりやすく解説していただいた。ただ、認知症疾患は紙幅の都合上、本書では取り扱っておらず、もっとも患者さんの多い変性疾患であるAlzheimer病やLewy小体型認知症などは記載されていないことにご注意いただきたい。両疾患とも神経変性疾患であり、それらの理解において変性とは何かという疑問に遭遇したときは、是非、本書を手にとっていただきたい。
 もちろん、新しい時代には突入したものの課題も多く、神経変性疾患の真の克服には、これからも多くの研究が必要である。最後の第IV章では、今後への展望として、バイオマーカー、再生治療(iPS細胞を用いた創薬研究を含む)、遺伝子治療、リハビリテーション、海外での治験状況を取り上げて、明快に論じていただいている。
 このような、非常に注文の多いテキストであるにもかかわらず、この編集方針にご賛同いただいて、わが国を代表する第一人者の方々にご執筆いただくことにより初めて目標が実現できた。すべての著者の皆様にこの場を借りて深く感謝の意を表する次第である。本書は、手にとっていただいた読者の皆様の明日の診療そして研究に、必ずやお役に立つものと確信する。

2018年5月
国立精神・神経医療研究センター
水澤英洋