書籍

スキルアップ がん症状緩和

: 有賀悦子
ISBN : 978-4-524-25584-9
発行年月 : 2018年6月
判型 : A5
ページ数 : 208

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

がん疼痛およびその他の身体症状に対して、処方の基本から、患者の病態に応じた応用までを実践的に解説。患者Aさんの経時的な治療過程について章を貫いて追っており、「こんなときどう処方するか」が具体的にわかる。豊富な図表や処方例と、必要な情報に即アクセスできる工夫が満載。ビジュアルな紙面に目を通していけば、がん症状緩和のスキルがみるみるうちにアップする。PEACEプロジェクト修了者がさらにスキルアップを図りたいときに最適の一冊。

がん疼痛治療の進め方フローチャート
I 痛み
 1 痛みの緩和の戦略
  痛みの緩和の戦略−全体の流れ
  まず行うこと
  痛みの評価
  鎮痛療法に関係するその他の評価
 2 痛みの緩和を開始する
  除痛の目標設定−患者とともに目標を立てる
  非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)またはアセトアミノフェンを投与する
 3 オピオイドの基本
  依存と鎮痛−なぜ,がん疼痛患者に麻薬を処方しても依存を形成しないのか?
  オピオイドの乱用防止に向けた取り組み
  有効限界の有無
  オピオイドの強弱
  オピオイドの徐放剤と速放剤
 4 オピオイドの併用を開始する
  開始方法
 5 オピオイド各論
  コデインリン酸塩
  トラマドール
  タペンタドール
  モルヒネ
  オキシコドン
  ヒドロモルフォン
  フェンタニル
  メサドン
  ブプレノルフィン
 6 オピオイドの副作用対策
  オピオイドの副作用コントロール
 7 オピオイドを痛みに対応させる
  オピオイド・タイトレーション(量の調整方法)
  各投与経路と変更時の注意点
  オピオイド・スイッチング(オピオイド・ローテーション)
 8 在宅でもできる持続皮下注・静注方法
  在宅下での保険適用
  持続皮下注入療法
  持続静脈注入療法
  皮下注・静注のレスキュー薬の設定
 9 神経障害性疼痛への対応〜鎮痛補助薬〜
  神経障害性疼痛とは
  神経障害性疼痛の発現頻度と分類
  神経障害性疼痛の治療
 10 痛みとその周辺症状の管理が複雑な場合〜応用編〜
  さまざまな場面での対処方法の例
  ケミカル・コーピング
II がん治療中に合併した症状
 1 眠気
  眠気=オピオイドの副作用とせず,まずは鑑別診断を行う
  鑑別診断と並行して,痛みの強さに対して過量になっていないか評価する
  オピオイドが効きにくい疼痛に対し,他剤併用の必要がないかどうか検討を行う
 2 悪心・嘔吐
  一般的な悪心・嘔吐
  オピオイドの導入後1週間以内:制吐薬は投与しているのに嘔吐するとき−中枢・末梢,どの刺激が残存しているか
  オピオイド導入後1週間以降−まず便秘の評価
  制吐薬の副作用
 3 呼吸困難
  機序
  病態
  対処
  頻呼吸へのモルヒネ・ヒドロモルフォン投与−中枢性気管支狭窄を伴う場合,伴わない場合
  ステロイド
 4 リンパ浮腫
  浮腫の分類
  リンパ浮腫
参考資料
索引

序文

 医学・医療の高度な発展によって疾病を克服し寿命を伸ばすことこそが善であった過去、臓器や疾病にばかり目がいき、患者を一人の人として看る視点が忘れられていた時代がありました。
 20世紀半ば、いかなる時も患者は苦痛に配慮された医療を受ける権利があるとした市民運動が、英国から世界中に広がっていきました。その象徴ともいえる南ロンドンのセント・クリストファー・ホスピスは1967年に設立されましたが、それから40年以上経った2013年、まだなお多くの国で苦痛が放置されているとして、欧州緩和ケア学会は「プラハ憲章(The Prague Charter)」“Palliative Care:a human right in 2013”を発表するに至っています。
 病や死を前にして、人は苦悩します。避けることができない老いや病にあっても、人はその苦悩を意味あるものに変え、死に至るまで成長し続けることができる存在です。
 痛みをはじめとする苦痛症状はその成長を阻害し、相乗的悪循環をもたらします。ゆえに、その緩和は重要ですが、単なる苦痛の減少だけが目的ではありません。その先にある患者の生きる望み−ある患者にとっては家族と共に過ごす時間、またある患者にとっては抗がん治療の完遂かもしれません−それらを現実にできるよう、生きる意味を見出すエネルギーを得て、患者自身が自分を取り戻すこと、そのための症状緩和であることを大切にしたいと思います。そして、それは治癒治療と並ぶスキルであり、すべての医療者がもつべきプロフェッショナリズムの構成要素でもあります。
 多くの患者さんがエビデンスを越え、いのちをかけて教えてくれたことをここにまとめました。多くの図表と簡潔な解説で、患者Aさんの経時的な治療過程について章を貫いて追っており、臨床的に応用しやすい工夫をしました。さらに「I-10痛みとその周辺症状の管理が複雑な場合〜応用編〜」では、複雑な症状の患者B〜Fさんも登場します。
 執筆に取り組み始めてからも、新たな薬剤や論文の登場や出来事があり、何度も書き換えや加筆を行いました。そんな荒波を一緒に乗り越えてくださった南江堂の皆様には言い表せないほどの感謝で一杯です。
 この本が、今日も患者さんの助けになりたいという医療者の皆様の思いの一助となることを願い、心の花束を添えて届けることができたらこの上ない喜びです。

2018年5月
有賀悦子

 本書を手にとってみると、まず表紙が緑の背景に窓のカーテンが風に吹かれ、机にコーヒーと開いたノートとペンが置かれ、著者がいろいろ思いを馳せながら本書を書いていることを想像させる。いかにも落ち着いた雰囲気を醸し出し、気楽に読んでほしいとの意図がうかがえる。実際にページをめくると、私のような高齢者にもメガネなしで読める字の大きさで書かれており、図表がふんだんに使ってあってわかりやすい。
 本書の構成は、I章ではがん患者の訴えで最も問題となる疼痛を中心に詳細に記載されており、185ページ中156ページが費やされている。II章ではがん治療の経過中によく遭遇する症状である眠気、悪心・嘔吐、呼吸困難、リンパ浮腫の4つを取り上げて解説とマネジメントを記載している。また、memo、Columnでは、薬剤や患者の対応についてちょっとした工夫や考え方を記載し、読者の注意を喚起している。参考資料では、海外に麻薬を所持して出国する際に必要な書類と申請場所、手続きの方法が記載されている。実際、私もひどい腰痛で弱オピオイドを使用しながら海外の学会に出かけるときには、自分が動けないので、秘書にいろいろ調べてもらい、九州厚生局まで麻薬携帯輸出許可証を取りに行ってもらったことがある。オピオイドで疼痛コントロールしながら渡航する日本人も増えていると思われるので、参考になる資料である。
 著者の有賀教授は、医学部を卒業後、一般外科医として臨床トレーニングを受け、日本での研修後米国にわたってresearch fellowとして乳がんに関する遺伝子・免疫治療の研究に従事したことから、患者の一般診療と基礎研究の双方を研鑽したうえで緩和医療の領域に入った緩和医療医である。そういったこともあって、がん患者が訴える苦痛の病態や薬剤のPK/PDを短文、図入りで要点を説明し、そのマネジメントが記載されているため、理解しやすい。それが最も顕著に記載されているのはオピオイドの項で圧巻である。オピオイドの開始、増量や投与ルート変更、合併症患者への応用について、例示しながらのマネジメントの考え方は大変参考になる。
 さらに、本書の序文で記載されているように、必ずしもテキストどおりにいかないのが医療の現場、とくに支持・緩和医療領域である。本書は「患者さんがエビデンスを越え、いのちをかけて教えてくれたこと」を所々に盛り込み、患者の訴える症状、とくに疼痛のマネジメントに関して医師ばかりでなくメディカルスタッフにもわかりやすく書かれたもので、がん患者をケアする医療人に役立つ著書として推薦したい。患者の訴えは多種多様であり、著者の豊富な経験を生かし、がん患者の苦痛や悩みを少しでも緩和できるよう第2版、第3版が発刊されることを期待している。

臨床雑誌内科123巻2号(2019年2月号)より転載
評者●福岡大学医学部総合医学研究センター教授 田村和夫