書籍

酸塩基平衡の考えかた

故(ふる)きを・温(たず)ねて・Stewart

: 丸山一男
ISBN : 978-4-524-25522-1
発行年月 : 2019年3月
判型 : A5
ページ数 : 278

在庫あり

定価3,520円(本体3,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

遊び心に満ちたイラストと解説を読み進めるうちに“考えかた”が身につく『考えかた』シリーズ第4弾のターゲットは“酸塩基平衡”。基本でありながら苦手意識を持たれがちな酸塩基平衡につき、データの読みによる病態の把握、さらに治療へと繋がる道筋という“考えかた”をもとに解説され、難解にみえる概念や計算式もすんなり頭に入ってくる。学生や研修医はもちろん、理解を新しくしたい医師、看護師や薬剤師といった医療従事者全般におススメの一冊。

1章 酸性・アルカリ性の指標
 A 生物が生きるには,適切なpHがある
 B アシドーシスとアルカローシスの定義
2章 血液ガスとアニオンギャップ
 A BE:base excess
 B AG:anion gap
 C tCO2(CO2含量)
3章 正門と通用門
 A ミアとシスをお間違いなきよう
 B 用語の由来:代謝性・呼吸性
 C Henderson-Hasselbalch門
 D Stewart門[SID(強イオン差)門]
 E 単純性か?混合性か?
4章 HendersonとHasselbalch
 A 酸・塩基の定義は何か?
 B 質量作用の法則(law of mass action)
5章 Stewart登場(SID門)
 A HCO3−/pCO2比以外でもpHは計算できる
 B 電解質濃度はH+に影響を与える
 C 強いイオンとは?Na+vs.H+;Cl−vs.HCO3−
 D 中間まとめ:強イオン差の考えかた
 E 再び強イオン差の計算法:Na+−Cl−vs.HCO3−+Alb−+Pi−
 F SIDの計算法の実際
 G まとめ
 H 繰り返しになりますが
6章 読み方いろいろ
 A 4つのアプローチ
 B あくまで総合判断をお忘れなく
 C AGとSID
 D AGとSIDのターゲット
 E 低アルブミン血症のときのAGの補正:補正AG
7章 単純性障害の診断
 A シンプルな酸塩基平衡障害の診断(primaryな変化):Basic
 B 高い?低い?の判断基準
8章 代償はあるか?とりあえずの判断
 A 二次性変化(代償性変化)の有無を判断する:単純性障害に対する代償性変化の有無を評価
 B 代償の有無を予想する
9章 グラフ解析
 A 単純性障害の完全代償を読む:グラフ解析による代償性変化の考えかた−慣れると便利です
 B 完全代償か?混合性障害か?
10章 代償は予測範囲内か?
 A 二次性変化の程度が予測される値かを判定する:advanced
 B 代償の予測の第2ステップ
 C 実測値と代償の予測値の関係
11章 代謝性アシドーシス
 A 代謝性アシドーシスの原因
 B 代謝性アシドーシスの原因の見分けかた:「H+の増加か?」「HCO3−の減少か?」
 C 強イオン差で考える代謝性アシドーシス
12章 重症代謝性アシドーシスの一発診断
 A 代謝性アシドーシスの一発診断
 B BEの存在意義
 C BEとHCO3−の関係:BEはHCO3−の代わりとなるか?
 D BEとは:BEを深く知りたい人のために
13章 代謝性アルカローシス
 A 酸の減少:HClの喪失と低アルブミン
 B 塩基の増加:生理学的立場から,強イオン差から
14章 強イオン差の使いかた
  A 強イオン差(SID)を用いた酸塩基平衡の読みかた
  B 症例
15章 電解質によるHCO3−の変化
16章 Clの問題
 A Na+−Cl−から考える
 B Na+−Cl−を強イオン差(SID)で考える
 C Cl−とHCO3−の関係
17章 混合性障害を疑うとき
 A 混合性障害のパターン
 B 混合性障害(アシドーシスとアルカローシスの同時発生)を読む
 C まとめ:pH正常のパターン
参考文献
索引

はじめに

 アシドーシスかアルカローシスか? 代謝性か呼吸性か? 単純性か混合性か?酸塩基平衡は、(1)データの読みに始まり、(2)なぜなのか?どうして?の世界に広がっていく。基準値を覚えて、マニュアル的に当てはめていけば一応、読める。しかし、いつも読んでいないと読みかたを忘れてしまう。手順がどのようにしてできあがったのか、理由を知れば定着するのではなかろうか。酸塩基平衡は、生理学・生化学で「なぜなのか」を習い、すべての診療科の実臨床でデータを読む。Henderson-Hasselbalchの式が出てくるとムズカシイというイメージが先行してしまうのが弱点ではある(それは食わず嫌いのせいです)。「読書百遍意自ずから通ず」の域に達するには時間がかかるので、「なぜなのか」の気持ちで、読みを深めれば理解が進み、理由が分かればスッキリ感が増すであろう。まずは、皆が使っている伝統的な読みかた(HendersonとHasselbalchに由来する方法)の成り立ちを知り、慣れることが始めの一歩である。
 一方、酸塩基平衡の世界で、Stewartという人名を目にすることがジワジワと増えてきた。今後、これまでの伝統的な方法に加えて、Stewartアプローチを併用する場面が着実に増えると予想される(N Engl J Med 371:1821-1831,2014)。でも、「分かりにくい」という声が多い。「電解質異常が酸塩基平衡障害の原因になる」と聞くと「?!」となってしまうのだが、いったん分かると「腑に落ちる」のである。100年の歴史があるHendersonとHasselbalchを理解した上でStewartに注目するのは、「故きを温ねて新しきを知る(温故知新)」的で異常の発見や説明にかなり役立つ−と思う。本書では、ベッドサイドで即使えるよう、伝統的方法とStewartアプローチの双方を分かりやすく解説したい。「○○だから」と説明できるようにしたいものである。
 医師のみならず、看護師、臨床工学技士、検査技師、セラピスト、薬剤師などのメディカルスタッフの皆さんも血液ガスデータに接する機会が増えている。本書では、初学者からベテランまでを対象に、「読みかた」と「なぜなのか」−読解力−を深めたい。初学者の方はゆっくり読み進め、行ったり来たりすれば、まずは伝統的方法でデータを読めるようになると思う。中堅・ベテランの方は、伝統的方法とStewartアプローチとを統合すれば、低アルブミン血症や電解質異常を伴う酸塩基平衡障害の読解が深まるであろう。勉強したての方から酸塩基平衡の指導をしているベテランの先生方までのニーズにお応えできれば幸いである。

2019年2月
丸山一男

 何を隠そう(あまり隠れてないかもしれませんが)、急性期医療に携わる医療者のご多分に漏れず、血液ガスを読むのが好きです。呼吸だけではなく、意識障害とか代謝異常とか、様々な状況ですばやくビシッとわかるスピード感とか謎解き感が、いかにも急性期医療向きです。
 と言うわけで、血液ガス関連の本をあれこれ買って読むのを趣味にしているのですが、その中から最近のヒット作『酸塩基平衡の考えかた―故きを・温ねて・Stewart―』をご紹介します。もちろん自分で買いました。
 血液ガス解釈の中でも、酸塩基平衡というと、「BE(base excess)を見ないなんてありえないだろ」と言う人もいれば、「何はともあれAG(anion gap)を計算すべし」なんて人もいたりして、これから血液ガスを勉強しようというときには、「結局何を見るのがいいの!?」と混乱してしまいがちです。実はこれ、みなさんの周りだけの話ではなくて、BEを用いる欧州派とAGを使う米国派の長年にわたる議論もあり、大西洋間ディベート(the Great Trans-Atlantic Acid-Base Debate)なんて物々しい名前がついていたりします。
 ただでさえ混乱しがちなところに、最近では「これからはSID(strong ion difference)でしょ」と耳にする機会も増えています。これは、BEやAGを使うのとはまた異なるStewart法と呼ばれる第3の方法です。でも、「いっちょStewart法を勉強してやろうか!」と意気込んで文献を見てみると、おもむろになんだかよくわからない式が6つくらい羅列されていたりして、数式とはあまりお付き合いしたくない人はいきなり心が折れそうになります。
 そこで登場するのが、今回ご紹介する本書です。丸山一男先生というと、人工呼吸器とか、輸液とか、痛みとかをバッサリわかりやすく説明して下さる名手なのですが、その先生が今回扱われたのが「酸塩基平衡」です。一見全く無関係に見えるBEやらAGやらSIDやらを使った酸塩基平衡の考え方が、結局のところは繋がっているというのを、様々な例を挙げてきわめてわかりやすく説明して下さっています。普段の診療でも、「Na+とCl-の差を意識しておけば、代謝性異常を見つけやすい」と教わることがあるかも知れませんが、それもSIDの考え方に当てはめるとスッキリよくわかります。この本では、SIDやSIG(strong ion gap)が繰り返し図で説明されているので、とっつきにくく見えるStewart法に本当はどういう意味があるのか、他の方法とどう関係するのか、横断的に理解できるようになります。「酸塩基平衡をもっと勉強したい」という方にぜひ薦めたい一冊です。
 将来的には、自分であれこれ計算しなくても、電子カルテが勝手にStewart法(他の方法でも構いませんが)から血液ガスと電解質の結果を計算してくれて、「酸塩基平衡の解釈はこれこれです」というように表示してくれる時代が来るかもしれません。そういう時代が来るまでの間、このように丁寧に理屈を教えてくれる本で理解して、血液ガスを上手に使いこなせるようにしておきたいところです。

「INTENSIVIST vol.11 No.4 2019」掲載
評者●米国Intermountain LDS Hospital呼吸器内科・集中治療科 田中竜馬

 筆者は心臓外科医です。毎日のように心臓・大血管手術を行っています。心臓・大血管手術では、ほとんどの症例で人工心肺を使用し、心筋保護液で心停止を導入して手術を行います。血液循環は自己心拍から人工心肺に置き換えられるため、非生理的な循環となります。このため酸塩基平衡は大きく変化します。さらに、大血管手術では人工心肺により低体温を導入します。症例によっては20℃まで冷却し、全身の循環を停止して手術を行うことがあります。この場合、酸塩基平衡はさらに大きく変化します。筆者たち心臓外科医は常に患者さんの酸塩基平衡に留意しなくてはなりませんが、なかなか理解できないのが酸塩基平衡です。
 本書を読みました。Henderson-Hesselbalchの理論は以前から知っていましたが、Stewart理論ははじめて知りました。Na+とCl?の差(強イオン差)から酸塩基平衡を考える理論は新しく、難解な酸塩基平衡の理論がよく理解できました。また、日常に遭遇するアシドーシス、アルカローシスの病態をいかに理解し、どのように対応したらよいかが、明確に記されていました。酸塩基平衡の理解のみならず、日常臨床で患者さんの病態を理解し、どのように治療すべきかを検討するうえにおいても、的確な方向性を示してくれる名著と思います。ぜひご一読いただきたいとおすすめいたします。
 本書では先輩と後輩が登場します。後輩の質問に対して先輩が回答する形式で問題点を明らかにしていきます。提起された問題点については、わかりやすい簡潔な解説文が加わります。2人の会話を聞いているうちに、何が問題点かが理解でき、自然と理解がすすむ形式となっています。また、ほぼ各ページに図表があります。イラストを用いたわかりやすい図表で、図表を追っていくだけで難解な酸塩基平衡の理解がすすみます。楽しいイラストで、物語性もあります。図表を追うことにより、何を学習しているかの確認ができ、学習効果が上がります。難解な酸塩基平衡を後進に教えるときにも、実に参考となる図表だと思います。
 本の冒頭にはユニークな目次があります。酸塩基平衡を考えるためのアルゴリズムが示され、アルゴリズムの中に章立てが記されています。たとえば呼吸性アシドーシスは、血液ガス分析(2章)→pHを見る(1章)→呼吸性障害の判断(3章)となります。また、アルブミン測定(12章)→HCO3−+15を計算(10章)→pCO2と比べ呼吸性障害を判断(3章)からも理解できます。前者はHenderson-Hesselbalchの理論、後者はStewartの理論での説明であることがわかります。二つの理論を俯瞰することにより、さらに病態の理解がすすむと思います。
 本書は、『周術期輸液の考えかた』『人工呼吸の考えかた』『痛みの考えかた』に続く、「考えかた」シリーズの4冊目の教科書です。むずかしい理論をしくみと考えかたから解説する「考えかた」シリーズは、わかりやすく、使いやすくをモットーとしたシリーズです。麻酔・集中治療領域、外科領域の医師、看護師、臨床工学技士、理学療法士をはじめ、すべての医療従事者のお役に立てる教科書です。おすすめいたします。

胸部外科72巻13号(2019年12月号)より転載
評者●名古屋大学心臓外科教授 碓氷章彦

9784524255221