書籍

甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017

編集 : 日本甲状腺学会・日本内分泌学会
ISBN : 978-4-524-25236-7
発行年月 : 2017年9月
判型 : B5
ページ数 : 126

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

甲状腺クリーゼに関する、初の日本語版診療ガイドライン。診断の実際、様々な症状に対する具体的な治療法、ICU入室基準、予後予測、発症予防、海外の現状のほか、診療全体のアルゴリズムを掲載し、内分泌代謝領域のみならず救急や集中治療、循環器、消化器、神経など、他領域の臨床医にとって役立つ実践的な指針となっている。

I 甲状腺クリーゼの全国疫学調査と診断基準の策定
II 甲状腺クリーゼの診断と治療ガイドライン(第1版)
 1 甲状腺クリーゼの診断ガイドライン作成の背景と基本方針
 2 甲状腺クリーゼ診断の実際
 3 甲状腺クリーゼの抗甲状腺薬,無機ヨウ素薬,副腎皮質ステロイド薬,β遮断薬,解熱薬による治療
 4 甲状腺クリーゼの血漿交換による治療
 5 甲状腺クリーゼにおける中枢神経症状の治療
 6 甲状腺クリーゼにおける頻脈と心房細動の治療
 7 甲状腺クリーセにおける急性うっ血性心不全の治療
 8 甲状腺クリーゼにおける消化器症状と肝障害の治療
 9 甲状腺クリーゼの集中治療室入室基準と合併症の治療
 10 甲状腺クリーゼの予後予測
 11 甲状腺クリーゼ発症の予防と根治的治療の役割
 12 甲状腺クリーゼ診療アルゴリズム
 13 海外における甲状腺クリーゼの診断と治療
 14 甲状腺クリーゼ治療における臨床試験の今後の展望
索引

日本甲状腺学会 序文

 甲状腺クリーゼは甲状腺中毒症に伴う致死的かつ救急疾患であり、的確な早期診断と緊急治療が必要とされる病態である。しかしながら、その発症実態や予後に関する疫学データは国際的にも極めて乏しく、確立した診断基準もなかった。そのような状況下で、2005年12月に日本甲状腺学会が、2006年4月に日本内分泌学会が甲状腺クリーゼを臨床重要課題に指定し、「甲状腺クリーゼの診断基準作成と全国疫学調査」委員会が立ち上がった。同委員会は2008年に「甲状腺クリーゼの診断基準(第1版)」を作成し、この診断基準に基づいて2009年から「甲状腺クリーゼの全国疫学調査」を厚生労働省「難治性疾患克服研究事業・特定疾患の疫学に関する研究班」と「ホルモン受容機構異常に関する調査研究班」の協力のもと実施した。その結果、わが国において少なくとも年間250人を超える発症があり、致死率は10%を超えることが明らかになった。さらに、全国疫学調査結果の解析に基づいて2012年に「甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)」を樹立した。これらの委員会活動は、日本甲状腺学会や日本内分泌学会のみならず、日本集中治療医学会や日本救急医学会などでも注目され、わが国において広く甲状腺クリーゼに関する啓蒙に貢献してきたと自負している。また、以上の成果は米国甲状腺学会誌Thyroidに“featured article”として掲載され、国際的にも広く認知されてきている。
 しかしながら、国際的に最高の医療水準を有するわが国においても甲状腺クリーゼの死亡率は10%を超え、後遺症を呈する場合も少なからずあることが全国疫学調査から判明した。また、実際の治療実態が従来の教科書的治療法と必ずしも一致していないことも明らかになった。甲状腺クリーゼは、生体の代償機構が破綻し、多臓器不全を伴っており、内分泌代謝領域のみならず、循環器、消化器および神経などの多領域の医師による専門的な診療知識と技術が必要である。時には、集学的治療や高度医療が展開される。このような状況に鑑みて、甲状腺クリーゼの診断と治療を含めた新たな診療ガイドラインの確立が必須であり、事実多くの臨床医からも切望されていた。そこで、本委員会は甲状腺クリーゼの診断と治療を含めた診療ガイドラインを策定した。診断基準や疫学調査解析をすでに英文で公表していることから、まず英文(Endocrine Journal掲載)で作成し、今回、日本語版ガイドラインとして出版することとなった。
 本ガイドラインが甲状腺クリーゼ診療に活用され、同疾患の予後改善がもたらされることを切に望んでいる。本ガイドラインには不備や疑問点が依然としてあると考えられるので、関係諸氏からの忌憚のないご意見やご助言を賜れれば幸いである。本ガイドラインの作成は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に完全には準拠していないが、甲状腺クリーゼに関する大きなクリニカルクエスチョンを出発点とし、エビデンスに基づき、Grade システムを採用している。両学会のパブリックコメントは無論経ており、国際的英文ジャーナルとの長きにわたる詳細な議論の末、完成に至っている。本ガイドラインは欧州甲状腺学会から公式の承認(endorsement)を既に受け、米国甲状腺学会において現在審議中である。今後は前向きレジストリ研究によってその是非を検証し、より優れたものに作り上げていくことができれば、これ以上の喜びはない。
 最後に、10年にわたって活動いただいた委員の方々、日本甲状腺学会と日本内分泌学会の会員の皆様、出版に際して大変お世話になった南江堂の橋幸子氏と堀内 桂氏と山本奈々氏をはじめとして、関係諸氏に深謝致します。

平成29年8月
日本甲状腺学会理事長
「甲状腺クリーゼの診断基準作成と全国疫学調査」委員会委員長
赤水尚史


日本内分泌学会 序文

 ホルモンはすべての生命現象の基本物質であり、内分泌学は生命の維持、すべての疾患の基盤であります。私は2015年に日本内分泌学会の代表理事に就任して以来、内分泌学全般に精通し、医学全体を俯瞰し着実に貢献できる歓びと誇りを持つ、真の内分泌学のエキスパートの育成と内分泌学の隆盛に努力したいと考えてまいりました。
 日本内分泌学会では、これまで日本甲状腺学会をはじめとした6つの各分科会の協力のもと、厚生労働省難治性疾患克服研究班とも連携し、現在診療上問題となっているいくつかの内分泌疾患を臨床重要課題として取り上げ、診断基準や治療指針の作成を進めてまいりました。甲状腺クリーゼは原発性アルドステロン症、潜在性クッシング症候群、副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症、多発性内分泌腫瘍症、くる病・骨軟化症とともに臨床重要課題に指定されております。既にいくつかの課題に関してはガイドラインが刊行され、日本独自のガイドラインとして一定の評価を得ております。
 甲状腺クリーゼは内分泌緊急症の1つであり、診断・治療を誤ると死にも至る病であり、内分泌専門医の真価が問われる疾患です。救急医療の領域でも重要な疾患であり、多臓器不全を伴う性質上、他科との連携が必須でもあります。そのような重要な疾患であるにもかかわらず、これまで甲状腺クリーゼの診断および治療に関する世界共通の確立したガイドラインはありませんでした。そのため、各方面からのガイドラインに対する期待は非常に大きなものでした。
 これまで日本甲状腺学会の赤水尚史理事長を中心に、精力的に甲状腺クリーゼの診断基準の作成、その診断基準を基にした疫学調査の実施、そのフィードバックによる診断基準改訂などの作業が継続的に進められてまいりました。さらに治療指針に関する検討も進められ、ここに、その診断と治療を含むガイドラインの策定に至りました。日本内分泌学会ならびに日本甲状腺学会会員で本作業に関わられた皆様の多大の努力に敬意を払うとともに、心より感謝申し上げます。今後、会員の皆様が、このガイドラインを基に本疾患の予後改善がいかになされるかを検証し、このガイドラインが、更に精度の高い、世界の甲状腺疾患の医療のゴールドスタンダードとなることを祈念いたします。

平成29年8月
日本内分泌学会代表理事
伊藤裕

 臨床医は診察に訪れた目の前の患者さんの臨床所見をとり、鑑別診断後、診断(疑診含む)を下し、次にその疾患の病勢が急性に変化するのか、それとも慢性に変化するのかを見極める。急性に病勢が変化することが予期される際には、生命に危機が及ぶことが多いので、速やかな診断と緊急の治療または専門医への救急搬送を必要とする。急性に変化する疾患を診察する際、その診療に役に立つガイドラインがあるならば、実地臨床を行ううえで非常に有益となる。このような主旨のもとで、『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017』が作成された。
 甲状腺中毒症状を示す疾患として、バセドウ病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、外来性甲状腺中毒症などがあるが、そのなかで頻度の高いのはバセドウ病であり、その臨床的三徴候として、心悸亢進、甲状腺腫、眼球突出がある。バセドウ病は通常、亜急性の経過をたどることが多く、臨床的三徴候を示していても、診断確定のために血液検査(最近では2時間以内に結果を出せる設備もある)や123I甲状腺摂取率を行った後、2週間後の再受診を勧めることが多い。しかし、バセドウ病が急性に激烈に起こると甲状腺クリーゼ状態となり、それは生命予後に大きな影響を及ぼし後遺症も高頻度に起こすので、その早期の診断と治療を要する。しかし、これまで甲状腺クリーゼを診断するには、Burch-Wartofskyの診断基準(1993年)しかなく、この診断基準は煩雑で、実地診療を行う際にも不便であった。そこで、日本甲状腺学会ならびに日本内分泌学会が中心となり(班長 赤水尚史教授)、また、厚生労働省のホルモン受容体異常症研究班とも協力して、本邦における重症甲状腺中毒症を示す症例を基本に集積・分析・解析・検討が重ねられ、ここに最新の『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017』が策定・出版された。本ガイドライン作成の意義は非常に大きく、米国甲状腺学会からも、その学術的ならびに臨床的妥当性が推奨されており、国内だけに留まらず、日本から世界に向けて情報発信ができた貴重な臨床ガイドラインとなっている。また、本ガイドラインを基本としてさらに改訂を重ね、感度・特異度により優れた甲状腺クリーゼ診療ガイドラインになることも期待される。
 甲状腺疾患は日常臨床でも遭遇することの多い疾患である。内分泌代謝専門医・甲状腺専門医でなくても、本ガイドラインを用いることにより、急性に変化する甲状腺クリーゼを見逃すことなく、早期に診断することが可能となり、的確な治療も行えるようになっている。

臨床雑誌内科122巻1号(2018年7月号)より転載
評者●群馬大学名誉教授/代謝肥満研究所所長 森昌朋

9784524252367