書籍

薬物療法に活かす 糖尿病を聴く技術と話す技術

: 松本一成
ISBN : 978-4-524-24964-0
発行年月 : 2019年6月
判型 : A5
ページ数 : 158

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

糖尿病薬の服薬やインスリン治療の導入で患者が抵抗感を示したとき、どうしていますか?本書は、コーチングを取り入れた対話法を実践している著者により、患者自身がやる気を出す対話のコツ、患者の背景や性格を考慮した薬剤選択・服薬指導のコツを解説。具体的な会話例で患者タイプ別の対応をマスターすれば、苦手な患者も怖くない。糖尿病療養指導・服薬指導に苦慮している医師・医療スタッフに新たな視点を与える。

序章 患者中心のアプローチ(Patient Centered Approach)をはじめよう1
 1 患者中心のアプローチはなぜ必要とされたか?
 2 本当の患者中心のアプローチを達成するためには?
 こんなやりとり,していませんか?
第1章 患者のやる気を引き出す対話法23
 1 あなたはなぜ患者の抵抗に遭うのか?〜コーチングの基本的な考え方
  1)コーチングって…?
  2)コーチングとティーチングの使い分け
  3)あなたはなぜ患者の抵抗に遭うのか?
  4)答えは相手が決める
 2 4つの「タイプ分け」
 4つのタイプの特徴
  1)相手のタイプの見分け方
  2)糖尿病患者における「タイプ分けTM」
 3 患者のやる気を引き出す技法〜行動療法とコーチング
  1)行動とは何か?
  2)行動変化ステージ(多理論統合モデル)
  3)ゴール設定が重要です
  4)患者の発言は否定しない
  5)患者のための質問のしかた
  6)承認で自己効力感を育てる
  7)「伝わる」情報を伝える
  8)反対の気持ちと賛成の気持ちを聞き出す
  9)重要度を高め自信をつける
  10)「できている」「できる」「できそうだ」に着目
  11)記録する,見える化する
第2章 タイプ別,患者の心をつかむ糖尿病服薬指導101
 1 内服薬
  1)ビグアナイド薬−インスリン抵抗性改善系(1)−
  2)チアゾリジン薬−インスリン抵抗性改善系(2)−
  3)スルホニル尿素(SU)薬−インスリン分泌促進系(1)−
  4)速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)−インスリン分泌促進系(2)
  5)DPP-4阻害薬−インスリン分泌促進系(3)−
  6)α-グルコシダーゼ阻害薬−糖吸収・排泄調節系(1)−
  7)SGLT2阻害薬−糖吸収・排泄調節系(2)
 2 注射薬
  1)GLP-1受容体作動薬
  2)インスリン
索引

序文

 今回、糖尿病の薬物療法に特化したコーチングの本を執筆する機会をいただきました。2018年5月の第61回日本糖尿病学会が行われた東京でのことです。私は、「SGLT2阻害薬の有効性を高める対話法について」という演題を発表しました。発表終了後のフロアで南江堂の佐竹さん、堀内さん、大野さんに声をかけられました。コーチングと糖尿病薬との関連について執筆しませんかという、私にとってはとても嬉しい相談でした。
 コーチングを学習して以来、例えば糖尿病薬の服薬やインスリン治療の開始に抵抗感を示す患者との付き合い方が以前よりも上手になりました。かつての私は理論を並べて患者の抵抗を論破することに躍起になっていました。もちろん、言い争いに発展した経験もあります。しかし、コーチングを学ぶようになってからは理論以上に感情が大事なのだと気づきました。また、コミュニケーションを特徴づける「タイプ分けTM」を知ることによって、相手に合わせるという方法も会得することが出来ました。以前は患者を変えたいと思っていましたが、本当に変わるべきは自分自身でした。このような体験を他の医療者とも共有したいと思うようになり、日本臨床コーチング研究会の一員として各地でワークショップやセミナーを開催しています。
 コーチングを始めたばかりの頃、ティーチングは答えを教えるからダメで、答えをクライアントが考えるコーチングがよいのだと思って、それを強く意識していた時期がありました。しかし、それは望ましい結果をもたらしませんでした。おそらく、コーチングを学習した医療者の中にも私と同じような経験をされた方がいると思います。「あなたは、どうしたいと思いますか?」と質問しても、患者からは期待する答えが返ってこなくて、結局こちらからアドバイスをしてしまい、「コーチングってあまり役に立たないかも?」と失望したという経験です。その点に関して、日本臨床コーチング研究会の仲間達といろいろな議論をしました。その結果、「臨床コーチング」はビジネス領域のコーチングとは異なっているという結論に到達しました。医療(臨床現場)の世界は、昔からティーチングで成り立っている領域であったのです。先輩から後輩への情熱的なティーチング。医療者から患者やその家族への親切なティーチング。そうなのです。医療者と患者では知識の量と質にかなりの開きがあります。そのため、ティーチングをベースに置いて、コーチングを追加することが医療者にとって有効なコーチングの使い方であることに気づいたのです。ティーチングを排除するのではなくコーチングと共存することが最も適したスタイルでした。
 以上のことから、本書では糖尿病薬のことを患者に説明するティーチングの要素と、患者の考えや生活を尊重しながら治療方法を決定していくコーチングの要素の両方を取り入れています。これまでの、糖尿病の薬物療法の本とは異なって、どのような対話をすれば患者の納得が得られるのかにフォーカスした、ちょっと味つけの違う本になっています。筆者の主観がたくさん入っているので、読者の皆様と見解が異なる箇所も多々あるだろうと思います。「もっとよい方法がありますよ」や「この部分はおかしいのではないですか?」などのご批判は大歓迎です。
 本書の構成は、「序章患者中心のアプローチをはじめよう」で、患者をよく知ることの重要性を述べています。「第1章患者のやる気を引き出す対話法」では、コーチングや行動療法や動機づけ面接法でよく用いられるスキルや考え方を紹介しています。また医療者(医師)と患者の対話を様々なパターンで紹介しています。「第2章タイプ別、患者の心をつかむ糖尿病服薬指導」では、内服薬7種類、注射薬2種類をどのように説明するのかを解説しています。特に、タイプ分けに沿った解説はまだまだ珍しいことでしょう。
 コミュニケーションスキルを学習することは、本来とても楽しいことです。楽しくて仕事の役にも立つことこそが本書が目指した理想です。医療者も患者もWin-Winの関係になる糖尿病診療の構築の一助になることができれば幸いです。

謝辞
 筆者と共に日々の糖尿病診療に携わっている佐世保中央病院の医師およびスタッフの皆様に感謝いたします。また、常に前向きな討論を展開してくれる日本臨床コーチング研究会の幹事の皆様に深く感謝いたします。

2019年5月
松本一成

 思わず手に取ってしまうユニークなタイトルである。糖尿病診療で重要なのは「専門知識」であって、特別な「専門技術」は必要ないと思われる方もいるであろう。しかし、糖尿病診療や療養指導のほとんどが患者さんとの対話によってなされることを考えると、この「糖尿病を聴く技術と話す技術」こそ、糖尿病患者さんと関わる私たちが磨くべき専門技術なのだと気づかされる。
 著者の松本一成先生は、早くから糖尿病診療におけるコーチングの有用性に着目され、自身も本格的なコーチングのトレーニングを受けながら実践を積み重ねてこられた。日本臨床コーチング研究会(http://rinsho-coach.net/mt/public/hp/)の会長でもある。本書では、前著の『コーチングを利用した糖尿病栄養看護外来−行動変容を促すスキルを身につける』(中山書店、2015年刊)では触れられていなかった「タイプ分け」が詳しく取り上げられ、患者さんの心を掴む効果的な対話のための「聴く技術」と「話す技術」がまとめられている。コーチングの考え方とスキルを中心に、行動療法や動機づけ面接の“いいとこ取り”もしながら、読んだその日からすぐに試してみたくなる具体的な方法が満載である。
 「タイプ分け」はコーチングにおける個別対応のためのアプローチの一つで、「自己主張」と「感情表出」の二つの軸から個人のコミュニケーションのとり方の傾向を四つのタイプに分類する。本書には簡単なアセスメントも掲載されており、読者自身がどのタイプの傾向が強いかを判定できるようにもなっている。自分自身のタイプに納得したり、周りのスタッフや患者さんのなかに各タイプの典型例を発見することもあるかもしれない。タイプ別にまとめられた各種薬剤の服薬指導のポイントは本書の特徴の一つで、タイプ分けが患者中心の医療の入り口になることを教えてくれる。患者中心を心がけていたつもりが、自分の関わり方は自分自身のタイプに基づくワンパターンなものだったかもしれないと反省させられた。
 さらに本書の素晴らしい点は、患者さんとの効果的なコミュニケーションについて楽しく読み進めるうちに、糖尿病治療に用いられる各種薬剤の作用機序や注意すべき副作用、そしてそれらをどのように患者さんに伝えればよいかも同時に学べることであろう。患者さんの考えや生活を尊重しながら治療方法を決定していく「コーチング」と、いわゆる「指導」(ティーチング)の共存こそ糖尿病診療に最も適したスタイルであるという著者の洞察が本書でも体現されている。
 また、リアリティ溢れる豊富なcase studyも特筆すべきである。「薬は体に悪そうだからと服薬を拒否する患者」、「高齢で独居の患者」など、誰もが頭を悩ませたことのあるcaseが取り上げられ、「機能しなかった対話」と「効果的な対話」が対比されている。「機能しなかった対話」では、私たちが陥りやすいパターンが見事に再現されている。一方、「効果的な対話」は著者によるコーチングのデモンストレーションをみるようである。同じ患者さんでも、私たちの一言一言が変わることでまったく違う展開になることを実感させられる。
 書名には「薬物療法に活かす」とあるが、医師や薬剤師のみならず、糖尿病診療に携わるすべての方にお勧めしたい。これからコーチングを学ぼうという方には最適の入門書であると同時に、すでにコーチングを実践している方にとっても多くの気づきを与えてくれるはずである。

臨床雑誌内科125巻5号(2020年5月号)より転載
評者●国立がん研究センター中央病院総合内科(糖尿病腫瘍科)科長 大橋健