書籍

プライマリ・ケアの現場でもう困らない!悩ましい“喘息・COPD・ACO”の診かた

: 田中裕士
ISBN : 978-4-524-24534-5
発行年月 : 2018年11月
判型 : A5
ページ数 : 262

在庫あり

定価3,850円(本体3,500円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

好評書『プライマリ・ケアの現場でもう困らない!止まらない“せき”の診かた』の姉妹書として、コモンディジーズである喘息とCOPD、その両者のオーバーラップ(ACO)の診療について、わかりやすく解説。「喘息なの?それともCOPD?」、「たくさんある吸入薬・生物学的製剤…どれをどう使うべき?」といった実地医家の悩みに応えるべく、鑑別の考え方から治療薬の選択・処方のポイント、他科との連携まで、実践を凝縮した。冒頭のエッセンスなどでさっと要点を確認できる、臨床現場ですぐに役立つ心強い一冊。

喘息,COPD,ACOに用いる主な吸入長期管理薬
はじめに:喘息・COPD・ACOを診るときに知っておいてもらいたいこと
第1章 診断の決め手!〜“きっかけ”を逃さない〜
 A 喘息,COPD,ACOは多彩な症状を見せる
 B アレルギー性鼻炎を放置していると咳喘息や喘息になるかも?!
 C 定期的な治療を要する喘息,COPD,ACOを診断する
 D 診断的治療のすすめ〜どのくらいで改善したのかチェック〜
第2章 各種検査をどう活かす?〜プライマリ・ケアでできるもの,専門施設に依頼するもの〜
 A プライマリ・ケアでできる検査
 B 専門医による精密検査の概要を知っておく
第3章 吸入薬の効率的な使い分け・減らし方
 A 喘息とCOPDでは使う吸入薬が異なる〜ガイドラインも含めて〜
 B 不安定なら1日2回の吸入薬
 C 安定しているなら1日1回の吸入薬〜ステップダウンを考慮する〜
 D 吸入薬はいつまで続ける?ステップダウンと使い分けは?〜各吸入薬の特徴を踏まえて〜
 E 吸入薬が使えない場合はどうする?
 F 吸入指導は短時間で効率的に
第4章 治療をしていても咳が止まらないどうする?
 A ICS,ICS/LABAを投与していても咳が止まらない喘息には抗コリン薬を追加してみよう
 B 診断が間違っているか,合併症が隠れている?!
  1.耳鼻咽喉科疾患の合併が最も多い
  2.胃食道逆流症(GERD)の合併が増加
  3.咳喘息とアトピー咳嗽,両者の合併も視野に
  4.作業関連喘息
  5.口腔喉頭カンジダ症〜一度は口腔内を観察する〜
  6.百日咳は全数把握疾患に変更
  7.マイコプラズマ感染症〜診断法が進歩中〜
  8.心因性咳嗽
  9.Cough hypersensitivity syndrome(CHS)
第5章 大発作になりやすい危険な患者(急性増悪)に注意!
 A 喘息・COPDの急性増悪時の対応の基本
 B ACOでの発作対応は何が違う?〜喘息・COPD単独よりも急性増悪を起こしやすい〜
 C 喘息大発作による低酸素血症で緊急入院しやすい患者像とは?
 D COPD,ACOで急性増悪を起こしやすい患者像は?
第6章 プライマリ・ケアでもできる重症喘息治療・気をつけたい特殊ケース
 A 重症喘息への生物学的製剤の使い分け
 B 気管支サーモプラスティの効果は?〜重症・難治性喘息治療のオプション〜
 C アスピリン喘息(AERD)に注意
 D 特殊ケース:治療中に胸部X線で陰影が出た場合はこれを疑う!
  1.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)〜難治性喘息で再発性が高い〜
  2.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)〜難治性喘息治療中の異変に注意〜
  3.悪性腫瘍(肺癌・気管支癌)〜COPDやACOでの合併が多い〜
  4.気管支結核〜診断の難しさ〜
第7章 喘息,咳喘息における他科との関わり
 A 耳鼻咽喉科での免疫療法で喘息が改善する?!
 B 産婦人科外来での妊婦,授乳婦への対応〜投与可能な薬は何か?〜
 C 整形外科診療での喘息,COPDの注意点
 D 外科系から呼吸機能が手術に耐えられるかの判断の依頼を受けたとき
 E 小児科から内科への小児喘息の紹介
 F リウマチ・膠原病内科との関わり
索引

序文

 「えっ!私、喘息なの?」
 「いったい、いつまで吸入薬を使わなければいけないんですか?」
 「COPD?…って、いったい何ですか?」
 呼吸器・アレルギー内科医にとっては当たり前の病名も、患者さんにとっては「初耳」のことが多く、こうした質問の返答に困ることがあります。喘息、chronic obstructive pulmonary disease(COPD)および両疾患のオーバーラップであるasthma-COPD overlap(ACO)において、最も難しいのは初期診断、そして経過対応です。初期の診断で大切なのは患者さんの症状の“繰り返しの出現”の有無で、それぞれの疾患で特徴があります。
 これらの疾患について、プライマリ・ケアの現場で、簡単な検査だけでどこまで診断できるのか、姉妹書『プライマリ・ケアの現場でもう困らない!止まらない“せき”の診かた』(2016年刊)に引き続き挑戦してみたくなりました。

 近年、喘息、COPDおよびACOの分野においては、プライマリ・ケア医の役割が増してきています。症状などの問診と簡易検査により、短い診療時間で診断することが求められています。これまでの多くの教科書やマニュアル本の目次には、すでに確定診断された疾患が列記され、それぞれの疾患の病態や診療についてエビデンスに基づき整然と解説されていました。一方、本書は、呼吸器・アレルギーを専門とする者として、初期臨床医や専門外の医師にも理解しやすいように、診断の考え方、治療薬選択の具体的方法について、できる限り分かりやすく記載しました。
 特に最近の治療の進歩は目覚ましく、数多くの吸入薬が出ていますし、ACOの治療では、近々、長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬/吸入ステロイド薬(LAMA/LABA/ICS)3剤の配合剤も加わる予定です。プライマリ・ケアにおける吸入薬の選択肢が広がった一方で、使用法、減量法、併用薬の使用法について混乱することが予測されます。また、生物学的製剤は、喘息で使用できる種類も増え、大変有用な武器になってきています。COPDやACOの治療では、家庭でもできる呼吸リハビリテーションや肺感染症の予防も重要です。そこで、本書ではエビデンスに基づいた内容はもちろんのこと、ときにはエビデンスに基づかない経験的診療についても解説しています。
 また、各項の冒頭にエッセンスやポイントをまとめ、忙しい読者にも要点をつかみやすいようにしています。手軽に読める本として、日常診療に活用いただけますと幸いです。

 なお、喘息、COPDおよびACOの診療において、治療を続けていても止まらない“せき”への対応が求められることがあります。もちろん、本書でも解説しましたが、ぜひ姉妹書も参照いただければと思います(姉妹書ではコモンな症状である“せき”を取り上げ、鑑別や対応について解説しました)。重なる点もありますが、本書と姉妹書で相互に補完しあっていただければ、いっそう読者の皆様のお役に立てるのではないかと考えています。

 最後になりましたが、本書の企画から出版まで大変お世話になりました、南江堂の平野萌氏、千田麻由氏に深謝いたします。

2018年10月
認定NPO法人札幌せき・ぜんそく・アレルギーセンター理事長
医療法人社団潮陵会 医大前南4条内科院長
田中裕士

 本書の著者である田中裕士先生は、現在札幌市内においてご自身みずからがクリニックにてプライマリ・ケアに携われています。実は気道疾患の分野の優秀な研究者として、大学人として、また学会人として、多年にわたって活躍してこられた第一人者です。本書はその田中先生が、現時点におけるプライマリ・ケア実践者の視点から、喘息・COPD、そしてなかなか難しいACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)の臨床のノウハウを説き明かしているところに、学問的なご見識に裏打ちした奥行きがあって、読んでいて大きな魅力を感じました。喘息・COPD・ACOの病態の鑑別あるいは診断のポイントから始まり、とくに各種吸入薬を中心とした長期管理薬物療法の詳細かつ実践的な解説は、これらのcommon diseaseの診療にあたられている臨床医の皆さまにとっては大きな助けとなるでしょう。これらの疾患の急性増悪期における管理についての記載も充実しています。いわゆる生物学的製剤の解説もとくにGPの先生方などにはわかりやすいのではないかと思います。そして慢性咳嗽についての解説部分は、小生にも非常に参考になって、勉強になる点が多々ありました。
 本書でとくに素晴らしいのは、抜歯時や周術期、さらに妊娠時などの特殊状況時における管理についての解説、また喘息で小児科領域から成人内科への移行段階での行うべき対応などの解説で、実践的でかつ非常にわかりやすく、読者にとってはこういった難しい状況の患者さんに遭遇した場合に助けとなることは間違いないものと思います。さらに本書のひとつの特徴として、途中にcoffee breakとして、いわゆる“Thunderstorm(-related)asthma”や急性好酸球性肺炎、腸内細菌叢の問題などなど、この領域周辺にまつわる昨今の話題が、いわば“トリビア”的に面白く書かれていることが楽しいです。最後に、小生が作成代表者を務めさせていただいた日本アレルギー学会の「アレルゲン免疫療法の手引き」などをご引用いただき、喘息などの気道アレルギー疾患における唯一の原因療法であるアレルゲン免疫療法についても、しっかりと触れていただいています。アレルゲン免疫療法は国際社会と比較してわが国での普及は著しく遅れましたが、喘息や鼻炎・花粉症の長期予後を改善しうる極めて重要な治療法であり、広く読者の皆さまにこの治療を認識していただくために重要なパートとなっていると思います。
 総じて、本書は喘息・COPD・ACOの診療に関わる一般医家にはもちろんのこと、呼吸器内科医、外科医、また耳鼻咽喉科医などをも含めた、気道疾患診療を行うすべての皆さまにお勧めできるプラクティカルな一書です。ここに推薦させていただきたいと思います。

臨床雑誌内科123巻6号(2019年6月号)より転載
評者●埼玉医科大学呼吸器内科教授/埼玉医科大学病院アレルギーセンターセンター長 永田真

9784524245345