書籍

救急症例に学ぶ! 骨軟部画像診断テキスト

: 大橋健二郎
ISBN : 978-4-524-24199-6
発行年月 : 2025年4月
判型 : B5判
ページ数 : 298

在庫あり

定価7,920円(本体7,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

全米屈指の救急・外傷診療施設であるアイオワ大学で長年臨床教育に携わってきた著者が,救急現場で見落とされやすい所見を中心に,X線画像をはじめとした貴重な症例画像をふんだんに用いて解説した書籍.当直医や放射線科・救急科・整形外科研修医にとっては現場ですぐ読める頼もしいチューターに,専門医にとっては画像診断の選択・診断をより洗練させる一助となる.

Chapter 1 序章
 1 単純X線検査の適応
 2 CT検査の適応
 3 MRI検査の適応
 4 骨折の記述に関する用語

Chapter 2 手と手関節
 1 マレット指
  mallet finger
 2 ジャージー指
  jersey finger
 3 ボクサー骨折
  boxer’s fracture
 4 手根中手関節脱臼骨折
  carpometacarpal fracture-dislocation
 5 ゲームキーパー母指
  gemekeeper’s thumb
 6 母指中手骨骨折(ベネット骨折,ローランド骨折)
 7 舟状骨骨折
  scaphoid fracture
 8 三角骨骨折
  triquetral fracture
 9 月状骨周囲脱臼骨折
  peri-lunate fracture dislocation
 10 橈骨遠位端骨折
  distal radius fracture
 11 遠位橈尺関節脱臼(エセックス・ロプレスティ損傷)
 12 橈骨膨隆骨折
  buckle fracture

Chapter 3 肘
 1 肘関節単純X線の読影
 2 上腕骨顆上骨折
  supracondylar humerus fracture
 3 上腕骨外顆骨折
  lateral condylar fracture
 4 上腕骨内顆裂離骨折
  medial epicondyle avulsion fracture
 5 尺骨縦走骨折
  longitudinal linear fracture
 6 橈骨頭骨折
  radial head fracture
 7 橈骨頭および尺骨鉤状突起骨折,後方外側脱臼
  terrible triad injury
 8 モンテジア(Monteggia)脱臼骨折

Chapter 4 肩関節
 1 肩関節(肩甲上腕関節)前方脱臼
 2 上腕骨大結節骨折
  greater tuberosity fracture
 3 肩関節(肩甲上腕関節)後方脱臼
 4 上腕骨小結節骨折
  lesser tuberosity fracture
 5 上腕骨近位部骨折
  proximal humerus fracture
 6 肩鎖関節脱臼
  acromioclavicular joint injury
 7 肩甲胸郭解離
  scapulothoracic dissociation
 8 リトルリーガーズショルダー(上腕骨近位骨端離開)

Chapter 5 足関節と足
 1 足関節に関する骨折の分類(ローグ・ハンセン分類)
  Lauge-Hansen classification
 2 回外・内転損傷
  supination-adduction injury
 3 回外・外旋損傷
  supination-external rotation injury
 4 回内・外旋損傷
  pronation-external rotation injury
 5 メゾヌーヴ骨折
  Maisonneuve fracture
 6 ピロン骨折
  pilon fracture
 7 上腓骨筋支帯裂離骨折
  superior peroneal retinaculum avulsion fracture
 8 距骨骨軟骨損傷
  talus osteochondral lesion
 9 スノーボーダー骨折
  snowboarder’s fracture
 10 距骨頚部骨折
  talar neck fracture
 11 踵骨骨折(距骨下関節内骨折)
  intraarticular calcaneal fracture
 12 踵骨前方突起骨折(ショパール関節内反損傷)
 13 舟状骨結節裂離骨折および立方骨圧迫骨折(ショパール関節外反損傷)
 14 リスフラン関節脱臼骨折
  Lisfranc fracture dislocation
 15 中足骨ストレス骨折
  metatarsal stress fracture
 16 第5中足骨基部ジョーンズ骨折
  Jones fracture

Chapter 6 膝関節
 1 大腿骨外側顆圧迫骨折(ディープサルカスサイン)
  deep sulcus sign
 2 膝窩筋腱裂離骨折
  popliteus tendon avulsion fracture
 3 脛骨高原骨折
  tibial plateau fracture
 4 後十字靱帯裂離骨折
  PCL avulsion fracture
 5 スゴン骨折
  Segond fracture
 6 前十字靭帯裂離骨折
  ACL avulsion fracture
 7 腓骨頭裂離骨折(アーキュエイト骨折)
  arcuate fracture
 8 一過性外側膝蓋骨脱臼
  transient lateral patellar dislocation
 9 膝蓋骨スリーブ骨折
  patellar sleeve fracture

Chapter 7 骨盤,股関節,大腿骨近位部
 1 前後圧迫型骨盤損傷
  anterior posterior compression injury
 2 側方圧迫型骨盤損傷
  lateral compression injury
 3 垂直剪断型骨盤損傷
  vertical shear injury
 4 骨盤の脆弱性骨折
  fragility fracture
 5 寛骨臼骨折のルテオネール分類
  Letournel classification
 6 寛骨臼後壁骨折
  posterior wall fracture
 7 寛骨臼横断後壁骨折
  transverse & posterior wall fracture
 8 坐骨結節裂離骨折
  ischial tuberosity avulsion fracture
 9 大腿骨小転子裂離骨折
  lesser trochanter avulsion fracture
 10 大腿骨近位部骨折
  proximal femur fracture
 11 大腿骨ストレス骨折
  proximal femur stress fracture

Chapter 8 脊椎
 1 頚椎外傷における画像診断
 2 環椎後頭関節脱臼
  atlantooccipital dislocation
 3 環軸関節前方脱臼
  anterior atlantoaxial dislocation
 4 環椎ジェファーソン骨折(C1リング骨折)
  Jefferson fracture
 5 歯突起骨折
  odontoid process fracture
 6 軸椎体部骨折
  C2 body fracture
 7 ハングマン骨折
  hangman’s fracture
 8 屈曲涙滴骨折
  flexion teardrop fracture
 9 片側性椎間関節脱臼
  unilateral facet dislocation
 10 胸腰椎損傷
  thoracolumbar injury
 11 脊椎すべり症
  spondylolisthesis

Chapter 9 感染症,その他
 1 感染性関節炎
  septic arthritis
 2 骨髄炎
  osteomyelitis
 3 脊椎椎間板炎
  infectious spondylodiskitis
 4 糖尿病性足病変
  diabetic foot
 5 糖尿病性筋壊死
  diabetic myonecrosis
 6 人工関節周囲感染症
  peri-prosthetic joint infection(PJI)
 7 肥厚性骨関節症
  hypertrophic osteoarthropathy(HOA)
 8 切迫骨折
  impending fracture
 9 近親者間暴力
  intimate partner violence(IPV)

Column
 ・画像検査の依頼理由,病歴との付き合い方
 ・救急患者,転院患者を拒まない救急治療センター
 ・研修医は画像サインが好き
 ・骨軟部放射線診断フェローシッププログラム
 ・昔ながらのデジタル画像診断レポートの作成
 ・整形外科研修医のカンファレンス(indication conference)
 ・神経病性骨関節症に関するよくある三つの思い違い

まえがき

 私は放射線科医としてアイオワ大学病院で,骨軟部の画像診断に長年携わってきました.画像診断技術の進歩,普及は著しく,特にCT,MRI検査は,広く簡便に施行されるようになりましたが,従来の単純X線検査によって多くの診断がつくことが,骨軟部疾患の特徴のひとつです.特に骨腫瘍では,その8割が単純X線で診断されます.骨腫瘍,関節炎に加えて,骨折などの外傷ではまず単純X線検査が施行され,その診断や治療に占める割合は大きいといえます.
 アイオワ大学の救急医療のプログラムは,私が赴任した翌年の2003年より始まりました.救急治療センターの外来では救急医がまず診療にあたり,必要があれば脳外科や整形外科などの専門医がコンサルテーションを受けます.午後5時以降の当直の時間帯でも同様の流れで,それぞれ各科の研修医が担当します.救急外来や病棟の画像検査は放射線科研修医が読影にあたり,翌朝に指導医がその画像および仮レポートを見直し,所見の見逃しがないかをチェックします.
 単純X線検査はその感度・特異度に限度がありますが,読影のノウハウには長年の知見の積み重ねがあり,放射線科や整形外科の研修医が私どもの放射線科骨軟部セクションの研修で学ぶ基本であります.他の施設ではあまりないことですが,アイオワ大学の整形外科の研修医は,1年目に1ヵ月間のローテーションで単純X線画像の読影にあたります.近年CT,MRI検査の普及によって,放射線科研修医のカリキュラムの比重もこれらCT,MRI検査の読影に移りつつあります.同時に単純X線検査の所見の見逃しなどによって,本来なら必要のないCT,MRI検査が施行されることも多く経験するようになりました.この傾向は,CT装置数が人口あたり世界一の日本においても同様ではないかと危惧しています.
 本書は,これまで救急外来で経験した症例(典型あるいは見逃し症例)をもとに,症例カンファレンスの形式で,救急の現場でもすぐ読めるように,関連する病態を簡潔に解説しました.骨折の分類や機序については,術前検査として施行されるCTの3次元画像をできるだけ取り入れました.アイオワ大学ではサテライトの救急外来を含むすべての画像検査は遠隔読影システムにより本院で読影していますが,その読影室で研修医や医学生に説明するように,基本的な用語の定義を含めて,分かりやすい記述を心掛けました.救急診療,救急画像診断を学ぶ皆さんに少しでもお役に立てれば幸いです.
 最後に,本の構想よりご協力いただきました松本純一先生,本の執筆,特に日本の専門用語の使用に関してご尽力いただきました稲岡 努先生,本テキストの書籍企画・編集により出版を実現していただいた南江堂の方々に感謝申し上げます.

2025年4月
大橋 健二郎

 救急外来で患者を前にしたとき,「とりあえずCTやMRIを追加しておこう」という判断は,今や多くの臨床現場で一般的な光景となっている.近年,画像診断技術の進歩とともにCT・MRIを容易に施行できるようになり,医療の質の向上に大きく寄与してきた.しかしその一方で,単純X線像の読影を十分に訓練しないまま高次の検査に頼る傾向が広がり,本来不要であった追加検査が行われるケースも少なくない.筆者自身の診療を顧みても,忙しい救急や外来でCTに“助けられた”経験は数知れないが,同時に「単純X線像で見抜けたはずの所見」を後から悔やむ場面も少なくない.こうした現状は,わが国の整形外科診療における構造的な課題の一つといえよう.
 しかしながら,骨軟部画像診断,中でも救急症例における単純X線像のはたす役割は依然として大きく,その重要性は揺るぎない.その意味で,本書があらためて単純X線像読影の基本に立ち返り,救急症例を題材に「何をどうみるべきか」を体系的に解説している点はきわめて意義深い.本書は,この基本のうえに,著者の長年の経験から厳選された救急症例を通して,画像診断の本質を学ぶことを目的として執筆された実践的なテキストである.
 著者は米国アイオワ大学病院で長年にわたり骨軟部画像診断に従事し,同院における教育・救急医療体制に基づく豊富な経験を有する.特に印象的なのは,整形外科研修医が1年目から1ヵ月間,単純X線像読影を徹底的に学ぶという同大学の研修システムである.さらに,放射線科医による読影も骨軟部疾患の病態や臨床像を十分に理解したうえで行われており,これらの教育体制が本書の根底に流れる思想を形成している.
 本書は救急症例のカンファレンス形式を採り,典型例から見逃し症例まで幅広いケースを収載している.まず単純X線像を提示し,その正確な読影と受傷機序・分類法などを含めた臨床的背景を解説し,次いでCTや三次元再構築像,さらにはMRIへと展開する構成は,実際の臨床現場に即しており,読者は診断推論のプロセスを自然に追体験できる.解説は簡潔ながら要点を的確に示し,救急診療の場でただちに役立つ知識を提供している点が大きな魅力である.また,本書が「見逃しやすい病変」への注意を徹底している点も特筆すべきである.救急外来において診断の遅れや誤りが重大な転帰を招きうる小児上腕骨骨折,骨盤骨折,膝関節周囲骨折などに関して,読影上の落とし穴とその回避法が具体的に示されている.さらに,骨折の分類や機序に関してもCT三次元画像を積極的に導入し,術前計画や治療戦略立案など,手術適応に直結する情報を提供している.単なる画像集にとどまらず,診断と治療を橋渡しする実践的内容となっている点は高く評価できる.
 教育的視点からも本書の価値は大きい.研修医や若手医師にとっては,単純X線像読影の「型」を学び,読影力と診断力を養うための格好の教材となる.一方,経験を積んだ専門医にとっては,日常診療で陥りがちな思い込みや独断的な読影を省み,画像診断の原点に立ち返るよい契機となるであろう.
 総じて,本書は救急外来をはじめとする臨床現場で即戦力となる知識と読影法を提供する実践的なテキストである.画像診断の原則と最新の知見をバランスよく取り入れた本書は,整形外科医にとって必携の一冊であり,研修医からベテランまで幅広く推奨できる.救急のみならず外来診療を含めた整形外傷治療に携わるすべての整形外科医に対し,「まずX線像を正確に読む」ことの意義を再認識させ,日常診療における確実性と自信をいっそう高めてくれる良書である.

臨床雑誌整形外科76巻12号(2025年11月号)より転載
評者●(川崎医科大学運動器外傷・スポーツ整形外科教授/同大学総合医療センター整形外科部長・野田知之)

9784524241996