書籍

自治医大発ポケット法の極意[Web動画付]

誰でもできるハイクオリティESD

監修 : 山本博徳
ISBN : 978-4-524-24197-2
発行年月 : 2020年4月
判型 : B5
ページ数 : 148

在庫あり

定価8,250円(本体7,500円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

自治医科大学消化器内科の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の一手技であるポケット法(pocket-creation method:PCM)は、従来法に比べて、より安全で確実な病変の剥離を可能とする画期的な手技である。本書では、ポケット法の基本的手技をレクチャーし、部位別のコツを解説。さらに同科発である教育法や他の手技にも触れ、「安全」「確実」「簡単」の3要素が揃ったESDの極意を伝える。

1 ポケット法ってなんだろう?〜従来法のESDとの違い〜
2 いざ,ポケット法!……と,その前に
特講1 日本におけるESDの歴史
3 ポケット法を始めよう!
 1)術前検査:上部消化管
 2)術前検査:下部消化管
4 ポケット法の基本をマスターしよう!
特講2 自治医大におけるESDの歴史とPCMの真の目的
5 ここまでできる!動画で学ぶポケット法
 1)上部消化管ESDでのコツ
  a 胃でもPCMを行おう!
  b 術中出血のコントロールが胃ESDでは重要〜胃は他の消化管に比較して血管が多いのか?〜
  c 胃ESDは肛門側,口側,どっちから攻める?〜反転操作or順行操作?〜
  d 胃体部大彎はPCMの真骨頂
  e 幽門輪の処理に十二指腸球部反転は必要?
  f どこまでいける穹窿部〜マイナス壁への挑戦〜
  g PCMは十二指腸ESDを実現可能とする
  h 出血の対処法〜ポケット内の出血は意外に対処しやすい〜
 2)下部消化管ESDでのコツ
  a 筋層を目視しよう
  b ほとんどは順行操作で
  c 血管に注意して血腫を防ごう
  d 下部直腸後壁でも脱気で直線化が可能
  e 襞越えや襞裏病変は遠くから粘膜切開しよう
  f 線維化病変でも遠くに粘膜切開すれば大丈夫
  g 粘膜下層は厚いが太い血管が多い上行結腸
  h 横行結腸左側・S状結腸は粘膜下層が薄く,粗である
  i Is病変はPCMがベスト
  j 太い血管のあるIspは目視下に血管処理
  k 盲腸病変では脱気,時にうつぶせが有用
  l 虫垂口内へ広がる病変の術前精査
  m 右側大腸の操作性不良病変の場合はBAESD
おわりに〜ポケット法の真の目的とは〜
索引

動画目次
1 ポケット法ってなんだろう?〜従来法のESDとの違い〜
 01.Bird viewで見てみよう! 大きな粘膜切開は内視鏡を不安定に導く!
 02.Bird viewで見てみよう! PCMでは内視鏡先端が安定化する
 03.Bird viewで見てみよう! 筋層に対峙するときの恐怖の内視鏡操作
 04.Bird viewで見てみよう! PCMの真骨頂.摩訶不思議!垂直方向から水平方向へ
 05.Bird viewで見てみよう! ポケット入口の粘膜に注目,内視鏡を押さえている!
2 いざ,ポケット法……と,その前に
 06.当科で行われているESD 二人法−初学者と達人のコラボレーション
4 ポケット法の基本をマスターしよう!
 07.PCMで行う上行結腸ESD
 08.大きな血管処理はまず両側の剥離から
 09.瘢痕病変ほど,病変遠くから粘膜下層に入ろう
5 ここまでできる! 動画で学ぶポケット法
1)上部消化管ESDでのコツ
 10.典型的なPCMを胃の症例で見てみよう
 11.体部大彎はPCMの真骨頂,垂直方向から水平方向へ調整するマル秘テクニック
 12.十二指腸球部は反転すべからず
 13.究極のダウンヒルに挑む!
 14.遅発穿孔ゼロを目指して! 十二指腸ESDは剥離深度の選択が生命線
 15.十二指腸ESDはPCMに加えて,牽引デバイス,ハサミ型処置具,総合力で勝負!
 16.出血のコントロールのレパートリーを増やしておこう
2)下部消化管ESDでのコツ
 17.血管に注意して血腫を防ごう
 18.できた血腫は両側からの追加局注で圧縮しよう
 19.上行結腸ESDでは太い血管に要注意
 20.最悪の場面! Muscle retracting signをクリアしよう
 21.太い血管のあるIspは目視下に血管処理
 22.すさまじい術中出血はジェルでスローモーションに!?

序文

 このたび南江堂の協力で本書『ポケット法の極意』を刊行できることとなった。本書にはポケット法の誕生の歴史、目的、方法から細かいコツまで動画を交えて詳細に解説している。
 そもそも内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は早期消化管癌を低侵襲かつ確実に摘除し、根治することを目指して開発された。癌が命を奪う難治な疾患である理由は「無制限に増殖する」、「転移をする」という二つの性質による。したがって、癌を根治するためにはこの両方を解決する必要がある。内視鏡治療は体表に傷を作ることがない低侵襲な治療である一方で、リンパ節郭清ができないという大きな制限がある。このため内視鏡治療によって根治ができる腫瘍は「局所の完全摘除が可能」かつ「リンパ節転移がない」ものに限られる。
 ESDが目指したのは内視鏡による癌治療の技術的ハードルを克服して「局所完全摘除」を可能とすることと「リンパ節転移リスク」を高い精度で評価することである。そのために切除断端を狙って切開、剥離が行えるESDという方法に行き着いた。リンパ節転移のリスク評価において最も信頼のおける情報は、現状では切除標本の病理診断から得られる。具体的には癌の組織型(分化度)、深達度、脈管侵襲などの情報である。そのためには評価に適した病理標本が必要であり、詳細な病理評価が可能な一括完全摘除を目指してきたのである。
 当科ではESDの開発当初から技術的困難を克服する工夫を重ねてきた過程において、「より質の高いESDを目指すためには垂直断端を的確に狙える安定した剥離が重要である」と考え、周囲粘膜切開よりも粘膜下層剥離を優先させる方法を模索してきた。そして到達したのがこのポケット法である。ポケット法を行う最大の目的は、最も重要な“腫瘍中央部の垂直断端を確実に狙って剥離できること”、しかもそれを“最善の条件で行えること”にある。すでにポケット法を経験された方は気づいているかもしれないが、ポケット法は飛行機の操縦と似ていて、離陸・着陸のとき、すなわち最初の粘膜下層への入り込みとポケット形成後の開放の際にやや不安定となり技術を要求されるが、いったん水平飛行、つまりポケット内での粘膜下層.離に入ると極めて安定して安全な操縦(施術)が可能となる。ポケット法では、安定した水平飛行のような状態で、腫瘍中央部の剥離を完遂できるため、ESDの質を落とすことなく、誰でも高水準の治療を行うことができるのである。
 本書の執筆および動画作成には、当科の林・三浦両医師が多忙のなか尽力してくれた。またESDからポケット法にいたる歴史についてはコラムとして砂田医師が筆を執ってくれた。各論には指導医と研修医の会話がふんだんに盛り込まれているが、そこには指導医の厳しい指導のもと当科でポケット法を学んだ多くの若手医師の実体験が反映されている。まさに本書は当科をあげて作り上げた一冊と言ってよいであろう。協力してくれたスタッフ一同にこの場を借りて謝意を述べたい。
 本書が安全かつ質の高いESD、ポケット法の普及に貢献できることを期待している。

2020年3月
山本博徳

 山本博徳教授はヒアルロン酸ナトリウムの粘膜下層注入による粘膜下層剥離術の開発で学位論文を取得したのであるが、さらに小腸ダブルバルーン内視鏡の開発という世界的な業績をあげ、彼が切り開いていく臨床の新たな展開を目の当たりにできたことは、私にとっても貴重な体験であった。しかし、送られてきた本書は山本教授ではなく、ポケット法治療を現在最前線で実施している林芳和講師、三浦義正講師が執筆者であった。彼らは私の現役時代に義務年限を終え消化器内科に入局した自治医科大学卒業生で、その成長に感慨を覚えさせられた。
 このポケット法は、ヒアルロン酸注入による内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の多数の経験(苦い経験も含め)から新たに編み出された手技であり、難易度の高い病変に対しても安定した治療ができるという利点がある。本書はなぜこの手技が優れているのか、また具体的にどのようにそれを行うのかなど、そのツボ(極意)が多数のイラストや写真を用いてやさしく解説されている。とくに後半の症例部分に記載されている熟達者と初学者のやりとりは、「イナバる」などの言葉が飛び交う現場の雰囲気が感じられ、楽しく読み進められる。また多くの関連動画が閲覧できるので理解が深められるであろう(ただし、動画の多くが無声なので、音声解説があればよいと思われる)。
 しかしながら、本書にもわざわざ二人法でのトレーニングの項(ビデオ画像付)が設けられていることが物語っているように、本書を読めばポケット法によるESDが誰でもすぐに可能となるわけではない。また、この方法をもってしても、十二指腸のESDでは穿孔率がまだ高く、切除サイズを30mmにしていること(根拠は示されていないが)、食道病変での本法の適応例が示されていないことなど、まだ万全の方法ではないことにも注意が必要である。もちろん難易度の高い粘膜切除を完遂したとしても、症例8(75頁)のように内視鏡的根治度Cで外科治療が必要となる場合もある(この症例については、ESD後の治療方針を追加記載することが望ましい)。また、広範な粘膜切除は生体防御機構を一時的に大きく破綻させる。本書には記載されていないが、胃ESD後、蜂窩織炎を発症し胃切除になった例を経験しており、ESD後には菌血症を生じることもあるので、免疫能の低下した患者には注意が必要と思われる。また粘膜下層へ注入するヒアルロン酸は、がん幹細胞に発現しているCD44を受容体とし、その増殖や進展に関与していることが知られている。本書には、ESD治癒切除後に脱落した腫瘍片から再発したと思われる症例が記載されている(54頁)が、ヒアルロン酸層に落下した腫瘍細胞が、そこを足掛かりとして定着・増殖したことに起因した可能性がある。したがって、内視鏡切除術施行中のみならず、切除した粘膜片の回収にあたっても腫瘍細胞を脱落させることのないよう細心の注意を払い、切除後の粘膜面の洗浄も丁寧に行う必要がある。
 ポケット法によるESDは、山本教授、林講師、三浦講師をはじめとする自治医科大学消化器内科の切磋琢磨から生まれた、まさに「自治医大発」の方法であるが、当初はヒアルロン酸やダブルバルーンには保険算定がなく教室や病院の負担となっていた。このため、その有用性・安全性を確認する全国的臨床試験を行って保険収載に漕ぎつけ、この技術が広く普及することになったことを忘れてはならない。
 最後に、出血や穿孔などに迅速かつ適切に対応していただいた消化器外科の諸先生、長時間にわたるESDに共同作業していただいたメディカルスタッフの方々、内視鏡や付属器具の改良等に協力いただいた富士フイルム株式会社へこの誌面を借りて厚く御礼申し上げたい。

臨床雑誌内科127巻1号(2021年1月号)より転載
評者●自治医科大学 名誉教授 菅野健太郎