専門家をめざす人のための緩和医療学改訂第2版
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編集 | : 日本緩和医療学会 |
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ISBN | : 978-4-524-24165-1 |
発行年月 | : 2019年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 468 |
在庫
定価6,930円(本体6,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本緩和医療学会編集による、緩和医療の臨床実践に役立つ内容を網羅した、専門家をめざす人のためのテキスト改訂第2版。2017年改訂の「日本緩和医療学会緩和医療専門医研修カリキュラム」に準拠した内容で、専門医をめざす医師のみならず、緩和医療を専門的に学ぶ医療従事者が、緩和医療を臨床実践する際の指針となる一冊。初版刊行以降の新薬やガイドライン改訂の進歩・変化を受けて、最新の情報を盛り込んだ。また、非がん疾患や在宅医療への対象の広がり、早期からの緩和ケア、意思決定支援、ACP等の昨今の本領域における動向を踏まえて章立て、項目を見直し、より実践に即した内容となっている。
第I章 総論
1.緩和ケア総論
A 緩和ケアの歴史と展望
B 全人的苦痛
C チーム医療
2.緩和ケアのデリバリー
A 診断時からの緩和ケア,早期からの緩和ケア
B 様々な場における緩和ケアの供給体制の現状と課題
C 人権としての緩和ケア
3.倫理学
A 生命倫理の基礎理論
B 緩和ケアにおける倫理的問題
4.腫瘍学
A がんに関する基礎知識
B がんの管理と治療
5.教育
A 緩和ケア教育の類型化
B 基本的緩和ケアの教育
C 専門的緩和ケアの教育
6.研究
A 研究デザイン
B 量的研究
C 質的研究
D 介入を伴う研究
E 研究対象の選択
F アウトカムの測定
G 統計解析の基本原理と臨床的有用性
H そのほか,臨床研究の実施・解釈における注意点
第II章 症状緩和
1.包括的アセスメント
A 全身状態,身体機能
B 身体症状,精神症状
C QOL評価
D 予後予測ツール
2.がん疼痛
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
3.倦怠感
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
4.食欲不振・悪液質症候群
A 概念
B 疫学
C 症候と病態生理
D アセスメント
E マネジメントとケア
5.悪心・嘔吐
A 概念
B 疫学
C 原因
D アセスメント
E マネジメント
F ケア
6.消化管閉塞
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
7.便秘
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
8.下痢
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
9.腹水・腹部膨満感
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
H 腹水以外の腹部膨満感
10.嚥下障害・吃逆
I 嚥下障害
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
II 吃逆
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
11.口腔の問題
I 口腔カンジダ症
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
II 口内炎
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
III 口渇
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
12.黄疸
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
13.呼吸困難
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
14.咳嗽
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
15.胸水
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
16.気道分泌過多
I 死前喘鳴
A 概念・症候
B 疫学
C 病態生理
D アセスメント
E マネジメント
F ケア
II 気管支漏
A 概念・症候
B 病態生理
C マネジメント
D ケア
17.下部尿路症状
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
18.上部尿路閉塞・腎不全
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
19.皮膚の問題
I 褥瘡・潰瘍
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
II 掻痒
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
20.神経・筋の障害
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
21.発熱
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
22.不安・抑うつ
A 概念
B 疫学
C 危険因子
D アセスメント
E 治療
F ケア
23.せん妄
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E 原因
F アセスメント
G マネジメント
24.睡眠障害
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
25.リハビリテーション治療(リンパ浮腫)
A リハビリテーション医学・医療の基本
B がんリハビリテーションの基本
C がんリハビリテーションの実際
26.臨死期のケア
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
27.治療抵抗性の苦痛と鎮静
A 概念
B 疫学
C アセスメント
D マネジメント
E ケア
第III章 腫瘍学的緊急症
1.高カルシウム血症
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
2.抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
3.上大静脈症候群
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
4.肺塞栓症
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
5.大量出血
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
6.脊髄圧迫
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
7.頭蓋内圧亢進症・痙攣
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G ケア
第IV章 特定集団への緩和ケア
1.非がん慢性疼痛
A 概念
B 疫学
C 症候
D 病態生理
E アセスメント
F マネジメント
G 非がん慢性疼痛に対するオピオイドの使用
H 慢性疼痛に対する集学的アプローチ
2.小児
A 定義と対象,疫学
B 発達
C 倫理面の課題
D 痛みの緩和
E エンドオブライフ期のケアと死別
3.慢性肝疾患
A 背景
B 原疾患に対する治療
C 苦痛と症状緩和
D コミュニケーション,心理的サポート,意思決定
E 肝硬変患者における痛み管理
4.慢性呼吸器疾患
A 背景
B 原疾患に対する治療
C 苦痛と症状緩和
5.心不全
A 背景
B 原疾患に対する治療
C 苦痛と症状緩和
D コミュニケーション,心理的サポート,意思決定
E 疾患に特異的な課題
6.腎不全
A 背景
B 末期腎不全の症状と症状緩和
C コミュニケーションとアドバンス・ケア・プランニング(ACP)
7.神経・筋疾患
A 脳卒中
B 筋萎縮性側索硬化症
C パーキンソン病およびパーキンソン症候群
D 神経疾患の緩和すべき症状とその対処の概略
E コミュニケーション,心理的サポート,意思決定
F 疾患に特異的な課題
8.認知症・高齢者
A 背景
B 原疾患に対する治療
C 苦痛と症状緩和
D コミュニケーション
E 疾患に特異的な課題
9.HIV感染症
A 背景
B 原疾患に対する治療
C 苦痛と症状緩和
D コミュニケーション,心理的サポート,意思決定
E 疾患に特異的な課題
第V章 心理社会的・スピリチュアルな側面
1.心理的反応
A がんに対する心理的反応
B 心理的反応への対応
2.コミュニケーション
A コミュニケーションの概要
B 緩和ケアにおけるコミュニケーション
C 対応が難しい場合のコミュニケーション
D 家族とのコミュニケーション
E 医療従事者間のコミュニケーション
3.社会的問題
A がん患者が直面している社会的問題
B 社会的問題に対する医療従事者の役割
C 医療ソーシャルワーカーの役割と業務
D 特に配慮すべき社会的問題
4.スピリチュアリティとスピリチュアルケア
A QOLと価値観
B 病いの体験
C スピリチュアリティとスピリチュアルペイン
D スピリチュアルケア
5.意思決定支援
A 意思決定において考慮すべきこと
B 共有型意思決定(SDM)
C 緩和ケアにおける意思決定支援
D コミュニケーションツールを用いた意思決定支援
6.アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
A ACP提起に至る歴史的背景
B ACPの定義と適切な支援方法
C ACPの有用性(Respecting Choicesプログラム)
D ACPを進めていくにあたっての留意点
E ACPの実践
7.家族へのケアと遺族へのケア
I 家族へのケア
A がん患者家族になるということ
B 家族への対応
II 遺族へのケア
A がん患者遺族になるということ
B 遺族への対応
8.医療従事者の心理的ケア
A 医療従事者の心理的問題
B 医療従事者の心理的ケアの方法
事項索引
薬剤索引
初版の編集委員会・執筆者一覧
改訂第2版序文
初版の出版から5年がたち、ほとんどの項目の執筆を緩和医療の専門医もしくは専門家が担当した「専門家をめざす人のための緩和医療学、改訂第2版」が上梓されることとなりました。
日本の緩和医療は、がん医療分野を中心に発展してきました。がん罹患数、がん死亡数の増加と医療の質の向上に関する努力により、緩和ケア病棟が設置され、その診療報酬制度が確立し、緩和ケアの質をさらに高めようとする医療福祉従事者の向上心と、社会的ニーズがあいまって、日本緩和医療学会が1996年に設立されました。その後、2006年にがん対策基本法が成立し、がん対策推進基本計画が策定され、そのなかで緩和ケアが重点的に整備が必要な項目とされたことが大きなきっかけとなり、緩和医療はがん医療のメインストリームの1つとなってきました。同時に、がんプロフェッショナル養成プランにより、全国の大学医学部に緩和医療を専門とする医師の育成を目的として講座が設置され、それに呼応するように日本緩和医療学会では専門医制度が構築され、2010年4月1日に初めての緩和医療専門医が誕生しています。
そこから10年、われわれ緩和医療専門家を取り巻く環境は大きく変化しています。その主な点は、以下の3点に集約できるのではないかと考えています。
まずはじめに、緩和ケアとがん医療の統合があります。疾患の早期から患者のニーズに応じて適切に緩和ケアが実施されることにより、患者のQOLが維持向上することが臨床研究によって示され、病期を問わず患者のニーズに応じて、治療と並行して緩和ケアを過不足なく受けられるようにすることの重要性が高まってきています。がん治療について知識を持った緩和医療専門医が十分な数養成されることが大きな課題と言えるかもしれません。
第2に、疾患を問わない緩和ケアの必要性の高まりが挙げられます。2018年度の診療報酬改定で、「末期心不全」が緩和ケア診療加算の対象疾患として認められましたが、そもそも緩和ケアは疾患で限定されるわけでなく、すべての「生命を脅かす疾患」に直面している患者と家族に提供されるものです。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝硬変、慢性腎不全、いわゆる難病、神経筋疾患、認知症などについての緩和ケア(基本的緩和ケアと専門的緩和ケア)が実践できるような体制整備や教育研修が必要であると考えられます。
第3に、専門的緩和ケアの質の維持向上が挙げられます。国主導で仕組みを整備することが先行されてきたわが国の緩和ケアにおいては、専門的緩和ケアの質が十分管理されていません。緩和ケアチーム、緩和ケア病棟などの診療の質を評価し改善を図る活動が私たちに求められており、また日常の診療疑問を研究を通じて解決すること、最新の研究を臨床に活かすことが必須であると考えます。
このように緩和医療の専門家に対する多様なニーズがあるなかで世に出るこの教科書が、緩和医療専門家を目指す皆さんの羅針盤の役目を果たし、ひいては患者と家族に必要なケアが届くための一助になることを心から願い、序とさせていただきます。
2019年5月
特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
理事長 木澤義之
日本では緩和ケアという概念が社会、医療者から大きく誤解されてきたと感じる。もちろん医療者からの誤解のほうがずっと厄介である。このたび改訂第2版が上梓された本書が広く利用され、まずは医療者の誤解がなくなることを切に願いたい。目次をみただけでも基本的な誤解、すなわち“緩和ケアはがんの終末期のみの医療”との誤解は解消しそうである。日本と米国におけるオピオイド使用量の比較により、日本で緩和ケアが立ち後れているとの主張があったが、この議論はこの誤解を助長したのではなかろうか。当時、専門家や行政もこの議論に加担したように思う。米国でのオピオイド使用量は日本だけでなく、カナダ、ドイツ、オーストラリア、フランス、英国などと比べても突出している。要するにFDAが再三警告しているように、米国ではオピオイドが不適切に乱用されているのである。緩和ケアをオピオイドの使用に矮小化することは大きな誤解の一つである。次いでTemelの論文が話題になると、早期から緩和ケアを提供すると、されなかった患者と比べてQOLや気分の向上だけでなく、生存期間も延長すると主張され、このときも多くの医療者がこの議論に加担した。正しくは、化学療法を行う医師が緩和ケアを行いつつ、必要に応じて緩和ケアチームに紹介する群と、はじめから緩和ケアチームが毎月介入する群とを比較したのであり、緩和ケアの質・量の違いによるアウトカムを検証・探索したものであった。しからばすべての患者に対して早期から緩和ケアチームが介入するか、それが無理ならすべてのがん治療者が今より質の高い緩和ケアを提供できるようにする必要がある。がん診療連携拠点病院などの医師を対象に緩和ケア研修会(PEACEプログラム)が行われるようになったことはこの意味で有用であるが、あくまでもプロセスの初期段階にすぎない。
本書は多種の身体的・精神的問題について、病態、アセスメント、マネジメントなどを科学的にコンパクトにまとめてある。その全体像をみたとき、緩和ケアとは臨床医学の総合力を要求するものとの理解にいたろう。私自身は、日本語訳が出版されて以来、Janet Abrahmの『癌緩和ケアガイド(原書第2版)』を愛用してきた。迷ったとき、確認したいときに開くのはもちろん、それ以外でも教科書というよりnarrativeな読み物として愛読してきた。しかし原書が2004年の出版とあっては、いつまでもこの翻訳に頼っているわけにはいくまいと思っていた矢先、本書改訂第2版を手にすることができたのは大変幸運である。非がん領域に対しても大きなウエイトが置かれている。これらの分野においても緩和ケアの研究が進み、実践的緩和ケアが普及することを期待したい。
書名の冒頭に「専門家をめざす人のための」とあり、はじめてみたときは「すべての医療者のために」とすればよいのに、と思ったが、すべての医療者が緩和ケアの専門家になる必要があると考えれば、どちらでも同じ意味なのだと納得した。このように大きな成果をあげた多くの執筆者、査読者、編集委員、そして出版社の皆様に心より感謝し敬意を払いたい。緩和ケアに関する研究がますます進み、新たな知見が矢継ぎ早に提供され、本書が短期間に次々と改訂に迫られることを、そしてすべての患者と家族、さらに医療者がより幸福になることを心から願うものである。
臨床雑誌内科125巻2号(2020年2月号)より転載
評者●千葉大学医学部附属病院腫瘍内科 教授 滝口裕一