書籍

ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみました

新時代の心不全治療に向けて

  • 新刊

: 山下武志
ISBN : 978-4-524-23229-1
発行年月 : 2021年10月
判型 : A5
ページ数 : 140

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

新たな心不全治療薬として注目を集めるARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)とSGLT2阻害薬.両薬剤の使用に漠然とした不安や迷いを抱く医師に向けて,現在わかっている薬理から臨床現場で効果的に使用するための考え方・コツまでをやさしくシンプルに解説.心不全治療の新時代に備えるための必読書.

第1章 ARNI
1 ARNIとはどんな薬?
2 ARNIを用いた大規模臨床試験
3 ARNIはどのようにして効く?
 A.ARNIの主要効果はANP増加
 B.ANPが心不全に与える三つの影響
 C.ARNIがすべての患者に効くと考えるのは間違い
 D.ARNIの抗不整脈作用
 E.ARNIはポリファーマシー改善の一助となる
4 ARNIの使い方のコツ
 A.複雑なARNIの薬物動態
 B.ARNIの投薬方法と効果判定
 C.ARNIの効果を実感するために
 
第2章 SGLT2阻害薬
1 SGLT2阻害薬とはどんな薬?
2 SGLT2阻害薬を用いた大規模臨床試験
3 SGLT2阻害薬はどのようにして効く?
 A.SGLT2阻害薬の効果に関わるメカニズムを複雑に考える必要があるか?
 B.尿細管糸球体フィードバックとは何か?
 C.腎機能低下の原因は糸球体のみにあらず
 D.SGLT2阻害薬の効果の中心は慢性期効果にある
 E.SGLT2 阻害薬の抗不整脈作用
4 SGLT2阻害薬の使い方のコツ
 A.SGLT2阻害薬の薬物動態
 B.SGLT2阻害薬の投薬方法と効果判定
 C.すぐに実感できるeGFRのinitial dropにどのように対処するか?

第3章 心不全治療の幕開け
1 2021年から,心不全治療は変わる
2 幕開けはさらに続く

 不整脈を専門とする循環器内科医である私が、心不全治療に関するテキストを著したことを、どのように感じたことでしょう。緩徐に医療が発展する時期であれば、きっとこのようなことはなかったはずだと、私も思います。心不全を合併する不整脈診療にある種の限界を感じ、あらためて心不全診療に導入されるARNIとSGLT2阻害薬を自分がどのように使うべきかを勉強していた私に、衝撃が走りました。勉強しながら……「まもなく、心不全治療は想定以上の大きな変革が生じるに違いない」と、確信したからです。同じような変革は、自分が専門としている心房細動における脳卒中予防のための直接型経口抗凝固薬(DOAC)の導入ですでに経験しています。まさしく、同じインパクト、あるいは患者数から考えれば、それ以上のインパクトに違いないと思っています。
 約10年前、DOACが臨床現場に導入されたとき、やがて臨床現場に浸透することは必然であると感じていた私は、専門家として心房細動患者における脳卒中予防の重要性を啓蒙していました。しかし、実際には、それほど簡単な道のりではありませんでした。自分が予想していなかった副作用や使用法が、日本も含め世界中で生じたからです。今となっては、その一つの理由として、専門家ゆえにもってしまう論理が、幅広い臨床現場では誤解されてしまう可能性があったという反省があります。だからこそ、新しい薬剤の使用には、専門家はもちろんのこと、非専門家の目も重要だと知りました。非専門家は、専門家ゆえにもってしまいがちな当然の論理から自由だからです。
 ここ10年の間に一つの反省をした経験を経て、本書は、心不全非専門医が、心不全非専門医のために、幅広い臨床現場で新規薬剤を有効に、かつ安全に使用するために解説したテキストとして著しました。心不全治療に、同時に複数の新規薬剤が導入されようとしている今、一層の注意が必要です。幅広い医師に、幅広い心不全患者の予後向上のために新しい治療を役立てていただきたい、また、その道のりが平坦であってほしいと、心から願っています。

2021年9月
山下武志

 不整脈領域のカリスマ医が,心不全ネタで新著を世に出した.しかし,何の不思議もない,当然の帰結であろう.この10 年,DOAC という新薬の登場と相まって,心房細動患者における脳梗塞の予防活動を先導した著者が,他の一翼である心不全という新たな併発症への対応に限界を感じ,林立する心不全新薬に解説を加えたまさに時節を得た好著である.
 山下武志ウォッチャーを自任する私からみるに,著者の最大の特徴は「シンプル」であることに尽きる.文中にソクラテスの「賢者は複雑なことをシンプルに考える」との至言をあげているが,「シンプルにまとめてみました」とのタイトル書きが,まさに本著の意図を端的に表現している.そして,「新しい薬剤の使用には,非専門家の目も重要である.専門家ゆえにもってしまいがちな当然の論理から自由だから」との序文は,心不全専門医として活動する立場からも自省を感じざるをえない指摘である.なかでも,SGLT2 阻害薬が心不全予後を改善させるメカニズムを語る部分は,きわめて明快かつ論理的である.心腎連関に関する過去の報告を紐解き,統合して,心不全への有効性を大胆にも腎臓への作用に求める切り口は,爽快とすら感じてしまう.一方,不整脈専門医による独自の視点もところどころに表出されている.ARNIによるナトリウム利尿ペプチド,とくにANP の増加については,「ANP 欠乏」や「ANP 抵抗性」とのキーワードをあげ,心腎保護に加え抗不整脈作用を論じている.リバースリモデリングによる二次的な効果としつつも,突然死や心房細動への展開を期待させるのも,心房細動のアップストリーム治療の議論を広げた著者の功労を思い出すからであろう.新薬へ臨む際に「的の中心から用い,困っている患者から始める」との姿勢は,医療者全体へのメッセージであり,著者の名医たるゆえんである.ハウツー本としての内容を網羅すると同時に,各章の最後にまとめられた「エッセンス」は,珠玉の「つぶやき」として心に染みる.
 著者の嗅覚は,決して自身の専門性に閉じこもらず,常に社会的ニーズに向かってきた.心臓病としての心不全に留まらず,高齢化や多疾患有病など,全身病としての心不全,さらには社会問題としての心不全にも焦点を当てようとする.心房細動治療の進歩のなかで培ってきた問題意識は,今後一気に心不全へと向かうに違いない.心不全パンデミックを迎える今,まさに朗報である.

臨床雑誌内科129巻5号(2022年5月号)より転載
評者●新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学 主任教授 猪又孝元