書籍

これでわかる認知症診療改訂第3版

かかりつけ医と研修医のために

: 浦上克哉
ISBN : 978-4-524-23124-9
発行年月 : 2022年5月
判型 : A5
ページ数 : 172

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

認知症を早期に発見するにはどうしたらよいか.治療薬の適切な処方と患者さんのコンプライアンスを保つにはどうしたらよいか.認知症診療の地域連携をどのようにしたらよいか.認知症診療のノウハウをコンパクトにまとめた.今版では,改訂第2版以降の進歩と最新知見を盛り込むとともに,「レビー小体型認知症の診断と治療」を新設.高齢者の患者さんを多く診療するかかりつけ医とこれから直面する研修医にとって必携の一冊.

1 認知症とは?
 
2 認知症の頻度
 
3 認知症診療の主役は「かかりつけ医」
 A.認知症診療の理想像
 B.対応力向上のために
 
4 認知症の早期発見のコツ
 A.家族や介護者から情報を得る
 B.メディカルスタッフから情報を得る
 C.診察室で気づく
 
5 アルツハイマー型認知症の診断と治療
 A.アルツハイマー型認知症の臨床的特徴
 B.かかりつけ医のための認知症簡易スクリーニング法
 C.タッチパネル式コンピューターを用いたスクリーニング機器
 D.かかりつけ医にできるアルツハイマー型認知症の簡易診断法
 E.診断に役立つ簡単な構成行為の診かた
 F.アルツハイマー型認知症の典型的な画像所見
 G.認知症と鑑別を必要とする治療可能な疾患
 H.認知症診断の際に鑑別が必要な病態・疾患
 I.専門医が行っている診断基準に基づく診断
 J.アルツハイマー型認知症の薬物療法
 
6 レビー小体型認知症の診断と治療
 A.レビー小体型認知症の臨床的特徴
 B.レビー小体型認知症のパーキンソン症状の診かた
 C.病理と画像所見
 D.レビー小体型認知症の診断
 E.レビー小体型認知症の治療
 F.患者への適切な対応
 
7 認知症の鑑別診断と治療
 A.血管性認知症
 B.前頭側頭型認知症
 
8 認知症の告知と社会的諸問題
 A.告知の意義
 B.自動車運転について
 
9 家族へのアプローチ
 A.家族へのアドバイス
 B.介護保険サービス利用のアドバイス
 
10 専門医やケアスタッフとの連携
 A.専門医との連携
 B.ケアマネージャー(介護支援専門員)との連携
 
11 介護保険の主治医意見書の書き方
 
12 認知症予防の最新の話題
 A.認知症予防のエビデンス
 B.認知症検診および予防教室への取り組み
 C.アロマセラピー
 D.トリゴネコーヒー
 E.今後の展望
 
13 認知症診療の今後の展望
 A.疾患修飾薬(根本治療薬)
 B.診断のためのバイオマーカー
 C.今後への期待
 
付 Q&A
 1.かかりつけ医が認知症を診療する際,どのような場合に専門医に紹介したらよいでしょうか?
 2.抗認知症薬はいつまで投与できるのでしょうか?
 3.コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト,レミニール,イクセロンまたはリバスタッチ)処方時に消化器症状が出た場合の対応は?
 4.コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト,レミニール,イクセロンまたはリバスタッチ)処方時にイライラ感,興奮がみられた場合の対応は?
 5.コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト,レミニール,イクセロンまたはリバスタッチ)治療は何歳まで可能ですか?90歳以上でも治療しますか?
 6.認知症は遺伝しますか?
 7.抗コリン薬の使用でアルツハイマー型認知症になりますか?
 8.家族が認知症を疑い本人を受診させたいのですが,本人が受診を拒否しています.受診させるよい方法はないですか?
 9.アルツハイマー型認知症は予防できるのでしょうか?
 10.タッチパネル式コンピューターを用いた認知症スクリーニング機器(物忘れ相談プログラム)について教えてください.
 11.手術後に認知症になりますか?
 12.脳血流シンチグラフィー(SPECT)をとる必要があるのはどのような患者さんでしょうか?
 13.コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト,レミニール,イクセロンまたはリバスタッチ)を使った治療をしています.家族の印象を丁寧に聞くようにしていますが,客観的な評価ができていません.長谷川式やMMSEを使っていますが,これでよいのでしょうか?
 14.うつと認知症の鑑別が難しくて困っています.何かよい方法があれば教えてください.
 15.メマリーをどういう患者さんに使うのがよいか,どのタイミングで使うのがよいかよくわかりません.
 16.レビー小体型認知症(DLB)の診断意義は?
 17.アルツハイマー型認知症(AD)とDLBの合併例は多いのでしょうか?
 18.DLB診断においてパーキンソニズムの診断は,どのようにすればよいですか?
 19.トレリーフOD錠の投与のタイミングはどのようなときでしょうか?
 20.トレリーフOD錠で効果がみられなかったときは,どのように対応すればよいですか?
 21.トレリーフOD錠には神経保護作用が報告されていますが,長期服用に適していますか?
 22.トレリーフOD錠服用で精神症状が悪化することはありますか?
 23.DLBに伴うパーキンソニズムでは運動療法は有効なのでしょうか?
 24.パーキンソニズムを有するDLB患者さんの介助の際に,患者家族,介護者が気をつけることはありますか?
 25.地域連携がうまくいかないのですが,よい方法があれば教えてください.

はじめに

 認知症の臨床,研究に携わって約35年が経過し,長年勤務した鳥取大学を定年退職しました.認知症の臨床,研究に着手した1980年代には,まだ痴呆症とよばれており,診断法も確立されておらず,治療とはまったく程遠い時代でありました.今はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症には対症療法薬ではありますが治療薬があり,2021年6月8日に米国でアルツハイマー型認知症の初めての疾患修飾薬であるアデュカヌマブが条件付きではありますが承認されました.
本書の初版は2009年1月5日に発行されました.この頃はアルツハイマー型認知症治療薬のアリセプト(ドネペジル)が1999年に発売されましたが,かかりつけ医によるアルツハイマー型認知症の診断,治療がなかなか進みませんでした.そこで,かかりつけ医のための認知症診療対応力向上研修(クリニカルカンファレンスセミナー)を開始しました.この内容はきわめて実践的で,かかりつけ医に「認知症診療を明日からやってみよう」という気持ちになっていただけるようなセミナーを目指しておりました.実際に参加された多くのかかりつけ医から好評をいただきました.そのセミナーの内容を本にまとめませんか,と南江堂の方から勧められ執筆することになりました.私としては,初めての著作だったので,大した分量ではなかったのですが執筆に2年くらい要してしまいました.発行されてからの販売はすこぶる好調で初版は4刷発行までいき,2012年7月1日には改訂第2版が発行されました.しかし,それ以降は改訂がなされず,次第に内容的にも古くなり注目されなくなっておりました.しかし,私にとっては初めての著作であり,とても思い入れの深い本です.退職を迎えるにあたり,退職記念に何かを残したいと思い,一番思い入れの深い本書の改訂版を出版できないかと考えました.そこで南江堂の河野壮一氏に相談したところ,私の思いをかなえてくださり,さらに初版発行にご尽力いただいた橋幸子氏に改訂にもお力添えをいただき,このたび改訂第3版を出版できる運びとなりました.この場を借りて御礼申し上げます.
 近年認知症診療に関する本も多く出ておりますが,本書は私がこれまで行ってまいりました認知症診療の経験を書いたものであり,認知症診療に携わる先生方の少しでもお役に立てる内容があると思います.レビー小体型認知症の治療も進歩しているため,新たに本症の章をつくりました.さらに科学的エビデンスの報告がなされている予防の情報も加えました.本書を明日からの認知症診療に役立てていただけることを希望しております.

2022年5月
浦上 克哉

認知症診療の第一人者による名高い入門書が大幅にアップデート!
 このたび,浦上克哉先生によって執筆され,認知症診療の入門書として名高い『これでわかる認知症診療』の改訂第3版が上梓された.第2版の出版が2012年のことであるから10年の歳月を経たうえでの改訂版の出版である.
 浦上先生と評者は,日本老年医学会学術集会における企画「認知症診療の実践セミナー」の司会者として20年近くご一緒している.今年(2022年)6月の当学術集会において,本セミナーは大阪国際会議場で久々に対面で開催された.浦上先生の講演「認知症診療の基礎知識」の後のディスカッションでは,ある老健施設の医師から「入所している女性をお風呂に入れるときに,その方が暴れて職員にかみついたりすることがあるが,どうしたらよいか」という質問があった.この難しい質問に浦上先生はどう答えるかと注目していたところ,浦上先生の答えは「やはり恥ずかしいという感情が先に立ってそういう行動に出るのかもしれない.十分気をつけておられると思うが,さらに気をつけていただき,できるだけ羞恥心を感じないような配慮をしてはいかがか」というものであった.見事な回答で,質問者も大きくうなずきながら着席した.浦上先生は基本的にアカデミアの方であるが,その世界にこもることなく,認知症診療の現場を知り尽くしておられることを如実に示すエピソードである.
 このように,わが国の認知症診療の第一人者である浦上先生によって書かれた本書であるが,ですます調のやわらかい文体を用いながら,分類,頻度,病因,各病型の診断・治療など,認知症に関する最新の情報が盛り込まれており,この10年間の認知症学の進歩をもとに大幅なアップデートがなされている.アルツハイマー型認知症の解説に多くのページが割かれているのは当然として,レビー小体型認知症についても新たな章を設けて解説されており,パーキンソン症状などへの理解を深める工夫がなされている.また,血管性認知症,前頭側頭型認知症についても鑑別診断が平易に記述されている.さらに,初心者が迷うことの多い薬物療法の進め方についても,浦上先生の経験に裏打ちされたわかりやすい記述がなされている.とくに,アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の薬物療法については,自験例をもとに処方の根拠とその後の経過について詳述されており,読者にとって大いに参考となるであろう.このような認知症の各論的事項だけでなく,家族への接し方や主治医意見書の書き方などについても記載され,患者さんや家族,あるいは介護者からよく受ける25の質問とその回答が最後にQ & Aとしてまとめられており,読者にとって非常に役立つ内容となっている.
 認知症の予防についても,浦上先生考案のタッチパネル式認知症治療評価スケール(TDAS)を用いた認知症予防教室や運動教室の効果など,最新のエビデンスがまとめられている.一方で,最近注目されている,食を含む生活習慣と認知機能に関する記載はあまりなされていない.この領域は,地中海食や和食,また食の多様性と認知機能との関連など,最近,急速にエビデンスが集積されている分野である.また,患者さんの行動心理症状(BPSD)への対応,介護者へのアドバイスについては随所に述べられているが,先に述べたような具体的な対処の方法を,新しい章としてまとめて記載していただければ,よりよい手引書になると思う.これらについては,改訂第4版に期待するところ大である.
 本書は,認知症診療に関わる実地医家,認知症を学ぼうとしている研修医だけでなく,認知症患者の介護に携わる方々,認知症患者を抱えるご家族にも大変有用な書籍であると確信し,自信をもって推薦申し上げる次第である.

臨床雑誌内科131巻1号(2023年1月号)より転載
評者●虎の門病院 顧問,日本老年医学会 元理事長 大内尉義

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