書籍

「なぜなんだろう?」を考えた外科医の生活

: 稲葉毅
ISBN : 978-4-524-22966-6
発行年月 : 2022年7月
判型 : A5
ページ数 : 184

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

著者の前作『「なぜなんだろう?」を考える 外科基本手技』の姉妹編.本書では基本手技にとどまらず,薬剤・器具の使用法から言葉の使い方,論文執筆や学会参加,指導のしかた・されかたまで、外科医や研修医が遭遇するさまざまな“外科医あるある・医師あるある”を「なぜ」の視点で語っている.医師としての仕事・日常とはどのようなものかを知り,再発見できる一冊.

まえがき なぜまた本を書く気になったか:「なぜなんだろう?」を考えていくモチーフを増やすことが目的です
第1章 ちょっとしたコツ、でも有用なコツ
 1 画像は横目で隣を見ると楽
 2 動く血管、動かない血管:特徴を知ってると便利ですよ
 3 クリップはゆっくりかけろ。1個でいいから
 4 糸を切る長さ、糸を縛る回数、糸を抜く時期
 5 あの「端に輪のついた腹膜縫合針糸」の結び方
第2章 シンプルなメカニズムを思い出そう
 1 切り傷にmoist wound healingは不要
 2 ポビドンヨードと乾燥:難しい化学反応じゃないんだけど……
 3 油は溶けないから不透明:当たり前だけど気づかなかった
 4 添付文書にはベストの方法は書けない
第3章 ものの言い方、表現の仕方:ことばを理論的に評価するのは難しい
 1 「悪い言葉」を冷静に判断する
 2 患者「様」呼称の話:親近感と丁重感の境界は画一的には決められない
 3 言葉のマジック:「短期滞在」っていえば聞こえはいいけど……
 4 「保険」とか「助成」とかの好印象:アメリカの医療保険は倒産の予定
 5 「相手に合わせた説明をする」ことよりも「自分に合わせない説明をする」ことの方が難しい
第4章 手技でも用語でもない。でも、大事だと思ってること
 1 カルテ記載:電子カルテは便利だけど、サマリーはサマライズしようよ
 2 異常値って何だろう:p<0.0001は必ずしも「有意」じゃない
 3 ガイドラインはその背景まで考えよう
 4 弁護士は警察犬、医師は盲導犬
 5 「注意喚起(だけ)してまいります」ってのは、なーんもしないってこと
 6 手洗い、PPEなど:自分にとって何が最も大事なのかを考えよう
第5章 考えさせる医療教育:こうして育てた(こうして育った?)
 1 学生時代の物書き:レポートは判断力養成のシミュレーションをしよう、させよう
 2 クルズスはワイワイガヤガヤであるべし
 3 実技のチャンスは逃すな:看護学生に採血させたってええじゃないか!
 4 学会発表:臨床医だからといって、臨床だけやりゃいいってわけじゃない
 5 論文のお作法:過去の形式は守ること、でも過去にないことを書くこと
 6 医師が取るべき資格:必要っていやー必要なんだけど……芸は身を滅ぼすこともある
 7 いろんな会議を任されてくる:委員会室で事件が起きてるんだ!
第6章 臨床現場雑談:医師の患者体験の方
 1 痛くない尿管結石
 2 外痔核切開:かっこなんかつけてらんねー、笑わば笑え
 3 大腸内視鏡:下剤と禁食に疑問は残るけど、それどころじゃない
 4 足の裏の自己注射は難しい、いや技術的にじゃなくて精神的に……
 5 手術を受けた
 6 看護師さんはキャディさんですよ
第7章 臨床現場雑談:医師としての体験の方
 1 初めてのアニサキス患者は、上司だった! でもなんとかなった!
 2 尻からなんか出てきた! 日本海裂頭条虫の話
 3 ヘッドライトの光の向きは、額帯鏡と同じはず
 4 なんとかとライトは使いよう:喉頭鏡で胃管を入れる、登山用具で手術をする
 5 豪傑? 鈍感?
第8章 今だから言える失敗談
 1 減張縫合しなかった症例に限って……
 2 血管が見えない……顔色が見えない……
 3 指の怪我と手洗い
 4 汗が……
 5 4食抜いたけど……遅刻の話
 6 中心「静脈」カテーテル
 7 自分の話とは限らないけど……外科医のこだわりは、な〜んか痛い目にあった経験があるってこと
あとがき 前例のない事例も、自分で考えて決断しなきゃいけなかった

 この前書きを書いている今、2022年3月です。前著『「なぜなんだろう?」を考える外科基本手技』が出版されてから2年ちょっと経過したんですが、実はこの本の原稿を書き始めたのは、前著が出版元の南江堂さんから私のところに初めて届けられてから1週間もたたないうちでした。
 「なんでそんなタイミングで、また別の文章を書き始めたんだ?」って?
 『「なぜなんだろう?」を考える外科基本手技』(2回書いたら面倒になったので以下『前著』とか『なぜなん1』と略します)のテーマを大雑把に言えば、「普段『当たり前だ』の一言で思考を止めてしまうことでも、頭を動かし続けて『なぜなんだろう?』と考えていこう」ということだった。外科基本手技は、その基本的モチーフ(=素材)として使ったものであり、本のテーマ(=主張)ではない。外科医としての自分の体験の中から、理論を考える発想の転換(これがテーマだった)となった、外科手技に関する諸々の体験(これをモチーフとして使った)を選んで書いたわけです。そんなわけで、テーマには合致するがモチーフに適合しない実体験のうちいくつかは、『なぜなん1』の本文中でわざと脱線として書かせていただいたんだが、『なぜなん1』を書き終えた時点でそういう話題が結構多く書ききれないで残っていた。
 今ここに書き始めているのは、言うなればその脱線の方を中心的モチーフに据えた拾遺集です。
 自分が曲がりなりにも外科医として成長し、今でも働いていられるのは、手技を会得したことばかりではなく、それ以外にも様々な体験があったからこそである。本書では、手技に限らず、さらには外科医としてに限らず、医師としてあるいは広く医療者としての成長の糧となった経験について、思い出すままに語っていきたい。ただし、『なぜなん1』でもそうしましたが、誰もがわかっていて当然実行されているようなことは書きません。むしろ、誰も注目せず、盲点になっていそうなことを中心に書いていきたい。そうすると、結果的に失敗談が増えることになりそうで怖い気もするんだが……。
 かっこよく言えば、モチーフを広げることによって、テーマに適合した話を増やしていこうってことです。実際のところ、書いてはみるものの、単なる笑い話でしかないもの(ホントの脱線)が大半になっちゃうかもしれないんですけど……そこは読み物として流してください。教科書じゃありませんので。
 文体は原則として『なぜなん1』と同様に思いっきり崩してますし、議論を煽るためにかなり挑発的(喧嘩腰?)な表現、一方的に決めつけた言い回しもわざと多用してます。慣れない方は不快に思われるかもしれませんが、「この点は反論したい!」という討論が皆様の間で出てくれれば大成功と思ってますので。

 本学は「素直な学生」が多いのが自慢である.臨床実習の最終日には「そつなく」受け持ち症例をプレゼンしてくれる.ところが,「何か疑問点は」,「本当に今回の手術でよかったのかね」と問うと,「“豆鉄砲を食らった鳩”とは,きっとこんな感じであろう」という表情をみせる学生の何と多いことか….私はおおいに不満であり,心配である.現在,医療系大学間共用試験(OSCE)などをとおして,医師として標準的な技量と態度を備えることが学生と教員の共通目標となっているが,彼らが臨床の荒波を生き抜いて「一人前」になるために,標準的「でない」ポイントに気づく洞察力,自分や上司の診療行為にさえ「なぜそれがよいのか,本当にベストであったか」と問える自己批評力こそを習得してほしいからである.手術にも同じ傾向を感じる.「標準化」,「定型化」が重視され,そのテクニックを動画で学べる時代である.しかし,若い先生方は「なぜその方法が推奨されるのか」という理屈を理解しているであろうか.自分なりの疑問をもちながら手技をマスターしないと,手術室で日々発生する「応用問題」をうまく解けないと思うのである.
 本書は,外科医としての日常的な体験をモチーフに,「当たり前」にみえることにも「なぜなんだろう?」と頭を動かし続けることの意義を投げかける,まさにタイムリーな好書である.著者である稲葉毅先生は,スリリングな「はじめて」の手技,失敗談,ご自身が手術を受けた体験まで,ユーモア溢れる軽妙な文体で語っておられる.目からウロコのエピソードも満載である.その中で強調される,「時代とともに正解はかわる」,「臨床経験の蓄積だって立派なデータ」,「失敗の経験を伝授し,情報を共有する」などのシリアスなメッセージは,ひねくれ者を自任する私にとっても刺激的であり,“まだまだ「なぜ?」が足りない!”と激励されているようであった.
 本書を一番におすすめしたいのは,冒頭に紹介した「素直な」学生,研修医,外科専攻医の諸君である.点滴や糸結び,包交などの外科基本手技に潜む多くの「??」だけでなく,実践的な患者コミュニケーションのコツ,診療ガイドラインのトリック,論文や国際学会発表のおもしろさに触れることができるであろう.「近頃の若者は…」と一括りにすることは本書の中で禁じられているが,もし君たちがこの本を手にとってくれれば,標準的な教科書や対策本には決して書かれていない,医師としての「発想の仕方」を習得する一つの契機になることは間違いない.

臨床雑誌外科85巻2号(2023年2月号)より転載
[大阪公立大学肝胆膵外科教授・石沢武彰]

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