書籍

スポーツ医学を志す君たちへ

: 武藤芳照
ISBN : 978-4-524-22963-5
発行年月 : 2021年5月
判型 : 四六
ページ数 : 296

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


  • お気に入りに登録
  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

水泳日本チームドクター・日本整形外科スポーツ医学会会長等を歴任した著者が,スポーツ医・スポーツトレーナーを目指す若手に語るスポーツ医学の入門書.水泳をはじめ武道・舞台芸術をも含むスポーツ障害・外傷・事故の予防から,子どもの発達と運動の関係,超高齢社会におけるスポーツ医学の応用としての転倒予防・介護予防,スポーツ・コンプライアンスまで,スポーツ医学の多面的な内容を解説する.著者45年間の実践の集大成.

まえがき

序章 スポーツ医学の世界へ
 一.青春の水しぶき
 二.臨床医学、そしてスポーツ医学へ

第1章 スポーツ医学の役割とスポーツ思想
 一.スポーツ医学の二面性
 二.整形外科学の立場
 三.先人からのメッセージ

第2章 予防に勝る治療はない―スポーツ外傷・障害・事故の予防
 一.予防医学の基本
 二.まちがったスポーツの常識・トレーニングを正す 
  ⑴ウサギ跳び―百害あって一利なし
  ⑵いわゆる「腹筋運動」(上体起こし運動)
 三.重大なスポーツ事故の予防―水泳のスタート動作による頚椎・頚髄損傷
 四.疲労骨折
 五.スポーツ外傷・障害、重大事故の要因分析と予防対策
 六.アスレティック・リハビリテーションと再発予防
  ⑴アスレティック・リハビリテーションとは
  ⑵機能の回復
  ⑶スポーツトレーナー(アスレティックトレーナー)
  ⑷心のリハビリテーション
 七.健康のため水を飲もう
  ⑴「運動中に水を飲むな!」は誤り
  ⑵スポーツ中の熱中症による重大事故
  ⑶「健康のため水を飲もう」推進委員会

第3章 現場のためのスポーツ医学の応用
 一.水泳の医学
  ⑴水泳の医学的特性
  ⑵泳げる人の「でき水」
  ⑶マスターズ水泳キーワード9
  ⑷日本水泳ドクター会議
 二.高地トレーニング
  ⑴高地トレーニングとは
  ⑵日本初の高地トレーニングプール(GMOアスリーツパーク湯の丸) 
  ⑶高地トレーニングの医事管理
 三.スポーツ・コンプライアンス教育
  ⑴スポーツが健康であるように
  ⑵スポーツ界のひずみ―体罰・暴力・ハラスメントなど
  ⑶ドーピング
  ⑷スポーツ・コンプライアンス教育振興機構

第4章 新たなスポーツ医学の提唱
 一.舞台医学
  ⑴舞台医学の着想(原点)
  ⑵身体表現者の医学
  ⑶舞台上での重大事故
  ⑷日本舞台医学研究会
  ⑸『舞台医学入門』の書籍発刊
  ⑹舞台医学の展望
 二.武道の医学
  ⑴中学校における武道の必修化
  ⑵安全管理のポイント
  ⑶種目ごとの外傷・障害・事故の予防
  ⑷武道における事故の発生要因の具体例

第5章 学校のスポーツ医学
 一.「運動器の10年」世界運動と運動器の健康・日本協会
  ⑴二〇年にわたった世界運動
  ⑵『マンガ運動器のおはなし 大人も知らないからだの本』
二.運動器検診をよりよいものに(学校保健安全法施行規則の一部改正)
  ⑴子どもの身体の二極化 157
  ⑵国の規則の一行を変えよう!
  ⑶一一年間の取り組みと目標達成に至る経緯
  ⑷目標を達成して
 三.スクール・トレーナー制度の整備

第6章 超高齢社会にもスポーツ医学を
 一.高齢者の転倒予防
  ⑴骨代謝研究と転倒予防
  ⑵日本初の「転倒予防教室」
  ⑶日本転倒予防学会の設立
 二.超高齢社会の日本の課題
  ⑴寿命の延びと子どもの減少
  ⑵介護負担を減らすために考えておくべきこと
  ⑶高齢労働者の増加に伴う問題
 三.介護予防と健康推進事業の意義
  ⑴オールド・パーと天海僧正
  ⑵PPKとNNK
  ⑶介護予防へのスポーツ医学の応用
 四.高齢者総合福祉施設(ケアポート)と身体教育医学研究所
  ⑴新しい高齢者総合福祉施設(ケアポート)の構想
  ⑵「ケアポートよしだ」と「ケアポートみまき」における温水プール作り
  ⑶シンクタンクとしての身体教育医学研究所の設立
  ⑷ネットワークによる仮想研究所

第7章 私が歩んだスポーツ医学
 一.水泳―整形外科学―身体教育学
  ⑴水泳チームドクター
  ⑵国際経験
  ⑶身体教育学の視点
 二.スポーツ医学の社会への発信と次世代の育成(学会活動を中心に)
  ⑴整形外科スポーツ医学研究会
  ⑵日本整形外科スポーツ医学会
  ⑶日本臨床スポーツ医学会

終章 人生は縁と運……そして恩

あとがき
年譜  
著書一覧   
索引     

コラム一覧
 スポーツ医学の多様性―すべてが学び
 一人ひとりが自分らしく輝くために―女性のスポーツ医学と医療
 日常生活とスポーツ医学
 運動が苦手だったスポーツ医も充実しています
 「得意技」でオンリーワンのトレーナーを目指そう!
 精神科のスポーツドクター
 水泳コーチ出身のドクターより
 水泳トレーナーの醍醐味
 スポーツと医学の架け橋を目指して―変わらぬ思い
 スポーツドクターは温かい
 ドーピング検査の現場体験からいただいた宝物
 医剣一如
 四五年間のスポーツ医としての歩み
 スポーツ医学の魅力―初心に帰って
 水中ウォーキングはリハビリテーションにもってこい!
 後進のトレーナーに伝えたいこと
 競技スポーツ医学から健康増進医学へ
 次世代のスポーツドクターへ―ソフトバンクホークス・チームドクターより

 人生は選択の連続である。そのときそのときに、Aを選ぶか、Bを選ぶか、この道を右に行くか左に行くかなど、大きな分岐点(ターニングポイント)もあれば、小さな分岐点もある。
 そして、しばらく時が過ぎてから「もしあのとき〜たら」、「もしあのとき〜れば」と、いわゆる「たら・れば」を想起しなかった人はいないだろう。
 それは、ある分、感傷も加わった懐かしい想起ではあるが、人生とは本人の意志の有無にかかわらず、そうした選択が積み重なって形づくられていくのだろう。
 私の場合、高校時代、3年生への進級を前にして、理系に進むか文系に進むかの選択、そして大学進学に際して、大学・学部の選択、医学部に進学して、卒業後、基礎医学に進むか臨床医学に進むかの選択があった。そして、臨床系ならば何科の医師を目指すかの選択がそこに積み重なった。
 元々、中学・高校・大学時代に、三流の水泳選手であったことから、「スポーツ医学を専攻するならば整形外科へ」と選択して、様々な起伏と分岐点を経て今に至っている。
 途中、ときには「〜たら」、「〜れば」と考えることも少なからずあったが、今、改めてこうした「道程」(高村光太郎の同名詩に「僕の後ろに道は出来る」の一節あり)を歩んできて良かったと思うと共に、その間に導き支え続けてくれた数えきれないほどの人々との出会いに感謝している。
 本書は、スポーツ医学の道を志す若き医師・研修医・医学生や、スポーツ(アスレティック)トレーナーなどの立場でスポーツ医学の現場で活躍したいと願う若き理学療法士、看護師をはじめとする医療職およびその学生諸君、そして高校生を読者に想定して書き綴った教育の書である。内容は教科書的な説明というより、あくまで現場の感覚を大切にしつつ、私の経験を土台に「活きたスポーツ医学」を伝える方針とした。
 整形外科医であった筆者が、ご縁があって東京大学教育学部の助教授に転任(人生の大きな分岐点)したことにより、「教育者」という立場の修練をさせていただいたことが、以後の様々なスポーツ医学の教育・啓発活動の芯となっている。また、その立場であったからこそ結びつくことができた魅力ある先達との出会いがあった。
 どの分野・領域においても、教育という視点、人材育成という基本思想は重要であり、「若い人を大切にする」という、時代を超えてごくあたり前の必要な営みがおろそかにされれば、いずれ歪みが生まれてくるものであろう。
 スポーツ医学においてもしかり。将来を担う若者たちへ、その必要性と面白さと醍醐味を、熱意を持って語り、伝え続けることが、その学問、臨床を進化させ、スポーツそのもの、医学そのものを発展させると共に、健全な社会づくりに寄与することになるであろう。
 教えるとは 希望を語ること
 学ぶとは 真実(誠)を胸に刻むこと
 (フランスの詩人 ルイ・アラゴン 『ストラスブール大学の歌』の一節より〔大島博光訳〕)
 本書が、わが国のスポーツ医学の希望を語り、真実を胸に刻む素材となれば、誠に幸いである。

武藤芳照

 本書は現在評者が運動器の健康・日本協会でご一緒させていただいている武藤芳照先生の出版100冊目(!)という,記念すべき書籍である.先生の幅広い活動を1冊に凝縮した内容は多岐にわたっており,総括するのは少々荷が重いところであるが,頑張ってみたい.

 第1章では古代ギリシャ時代からの先人の英知を紹介しつつ,スポーツ医学について概観している.人にとって動くことは心身の健康につながる根源的な営みであり,スポーツ医学が何たるかを「運動器」や「整形外科」との関係とともに明らかにしている.第2章ではスポーツ医学における予防の重要性を述べている.ウサギ跳びによる膝障害,プールの飛び込みによる頚椎損傷,スポーツ活動中の飲水禁止などの誤った指導の是正に取り組んだことや,スポーツ傷害予防のための研究や組織作りに関わったことが記されている.第3章では著者のルーツである水泳界での取り組みや高地トレーニングにおける医事管理,そして体罰やハラスメントといったスポーツ界のひずみを是正する活動が紹介されている.

 第4章は大きく視点がかわり,舞台医学への取り組みである.歌舞伎やバレエ,オペラといったステージパフォーマンスも「動く」活動であり,スポーツと共通する点が多い.しかしスポーツ医学のような研究に基づいた訓練や心身の障害に対する予防,パフォーマンスを最適化するトレーナー育成などの取り組みは限られており,伝統に過度に依存した非科学的習慣が残っている分野が多い.著者らは日本舞台医学研究会を立ち上げ,舞台医学の基盤作りに取り組んでいる.今後大きな発展が期待できる分野である.

 第5章は子どもへのスポーツ医学の導入である.子どもの身体活動が二極化しており,一方は運動過多すなわちオーバーユースによるスポーツ傷害の問題,もう一方は運動不足による運動能力の低下に伴う怪我や成人以降の生活習慣病のリスクがあるが,以前は学校健診に運動器のチェックが入っていなかった.2005年から足掛け11年の活動により,運動器検診が学校健診に取り入れられることとなった.これには運動器の10年・日本委員会(現 運動器の健康・日本協会)を中心として著者らの活動が大きく寄与していた.第6章は高齢者へのスポーツ医学の応用である.高齢者における大きな問題の一つに,転倒とそれに伴う生活レベルの低下がある.著者らは2004年に多職種がかかわる日本転倒予防医学研究会(現 日本転倒予防学会)を設立し,転倒予防指導士の認定制度などを立ち上げた.さらに高齢者が体を動かす場としての高齢者総合福祉施設(ケアポート)を企画し,高齢者がスポーツ医学の恩恵を享受できる先進的な取り組みについて紹介している.第7章では著者のオリンピックや国際水泳連盟との関わり,日本整形外科スポーツ医学会や日本臨床スポーツ医学会での活動が記され,終章で人生は縁と運で大きく様変わりすることを関係者への感謝とともに述べている.

 著者の主な履歴を追ってみると,東京大学教育学部教授・学部長,東京大学理事・副学長・政策ビジョン研究センター教授,日体大総合研究所所長,国際水泳連盟医事委員,オリンピック水泳チームドクター(1984年,1988年,1992年),日本整形外科スポーツ医学会会長,東京健康リハビリテーション総合研究所所長,身体教育医学研究所名誉所長,運動器の健康・日本協会業務執行理事,日本転倒予防学会理事長,日本学生野球協会理事,スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事,と多方面に活躍され,影武者の存在を疑いたくなってしまう.その折々で高所から課題を見抜き前例にとらわれず本質的な解決へ取り組んできたその軌跡は圧巻である.この記念すべき100冊目一冊でスポーツ医学の成り立ちと行く末を見渡すことができるだけでなく,武藤先生の多彩な活動を知ることができる.スポーツ医学を目指す人はもとより,若い人すべてにおすすめしたい一冊である.


臨床雑誌整形外科72巻13号(2021年12月号)より転載
評者●自治医科大学整形外科教授 竹下克志