書籍

みんなで学ぶパーキンソン病改訂第2版

患者さんとともに歩む診療をめざして

: 柏原健一/武田篤/前田哲也/波田野琢
ISBN : 978-4-524-22773-0
発行年月 : 2020年7月
判型 : B5
ページ数 : 148

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

パーキンソン病の全体像を、正しい知識の普及を目的に第一人者が分かりやすく解説した好評書の改訂版。症状や具体的な治療、リハビリテーションの実際、病状が進んだときの対処法などを中心に、最新の知識も交えて学ぶことができる。専門家でなくとも理解できるよう工夫され、患者さんによく聞かれるQ&Aも掲載。医療スタッフだけでなく、患者・家族にも是非一読してほしい一冊。

口絵 主なパーキンソン病治療薬一覧
第I章 まずパーキンソン病のことを知ろう
 1.パーキンソン病とはどういう病気か
  A.歴史
  B.どのような症状が出るのか
  C.病気の経過と最近の問題
  D.なぜ発症するのか
 2.パーキンソン病はどのように診断するのか
  A.診断の進め方
  B.どのような検査をするのか
  C.重症度はどのように決めるのか
 3.パーキンソン病と間違えやすい他の病気とのみわけ方
  A.神経変性疾患
  B.脳血管障害
  C.薬剤性パーキンソニズム
  D.正常圧水頭症
  E.その他
第II章 パーキンソン病の症状と対処法
 1.運動症状
  A.運動症状とはどういうものか
  B.パーキンソン病治療薬によって誘発される運動合併症
  C.運動症状はどのように治療するのか
 2.精神症状・認知機能障害
  A.幻覚・妄想
  B.うつ
  C.意欲減退(アパシー)
  D.認知機能障害
  E.行動障害
 3.自律神経症状
  A.消化器症状
  B.排尿障害
  C.心血管機能障害
  D.発汗障害
  E.流涎(よだれ)
  F.末梢循環障害
  G.性機能障害
 4.その他の非運動症状
  A.睡眠障害
  B.疲労
  C.感覚障害
  D.体重減少
  E.下腿浮腫
 5.合併身体疾患
  A.骨折
  B.誤嚥性肺炎
  C.薬剤による身体合併症
第III章 パーキンソン病の治療
 1.運動症状の治療の基本的な流れ
  A.運動症状で受診するのは
  B.まず,どのような治療を行うのか
  C.薬物療法の流れ
  D.デバイス補助療法
  E.パーキンソン病の治療で覚えておきたいこと
 2.薬物治療
  A.薬の種類と実際の治療法
  B.主な副作用と対処法
 3.外科的治療
  A.手術の方法,術後の注意点
  B.外科的治療選択のタイミング
 4.非運動症状の治療
  A.精神症状(幻覚・妄想)はどう治療するのか
  B.うつはどう治療するのか
  C.認知機能障害はどう治療するのか
  D.自律神経症状はどう治療するのか
  E.疼痛(痛み)はどう治療するのか
第IV章 パーキンソン病のリハビリテーション
  A.リハビリテーションにはどういうものがあるのか
  B.なぜリハビリテーションが重要なのか
  C.リハビリテーションの実際とポイント
  D.日常生活上の注意点
  E.自宅でできるリハビリテーション
第V章 病状が進んだ時に気をつけること
 1.認知症はいつ,どのように発症するか
 2.転倒しないようにするにはどうしたらよいか
 3.急に動けなくなったらどうしたらよいか
 4.夜眠れない,昼間寝過ぎになったら
 5.誤嚥の対処法と肺炎予防
 6.褥瘡を防ぐための工夫と対処法
 7.栄養管理と胃瘻のタイミング
第VI章 患者をサポートする環境づくり
 1.家族の協力,介護の工夫
 2.住環境の整備
 3.かかりつけ医と専門医(病診連携)の役割
 4.パーキンソン病と医療福祉制度
 5.専門施設の種類と選び方
第VII章 これからのパーキンソン病診療,
  A.診断法の進歩
  B.治療法の進歩
付録1 全国パーキンソン病友の会(JPDA)と日本パーキンソン病コングレス(JPC)
付録2 日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)
付録3 「パーキンソン病診療ガイドライン2018」について
付録4 患者・家族の声からわかる“困る”症状:アンケート結果より
索引

改訂序文

 パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患です。手がふるえたり、動きが遅く小さくなり、転びやすくなる運動の病気と考えられてきました。近年、さまざまな治療法の開発により症状が改善し、患者さんの寿命は一般人口のそれと変わらないくらいになりました。一方で病気とともに生活する期間が長くなった結果、すくみ、転倒、嚥下障害、発声障害、腰曲がりなど、薬が効きにくい運動障害への対策も重要視されるようになりました。また、物忘れ、うつ、幻覚、不眠、腰痛、流涎、便秘、頻尿、むくみ、肺炎、骨折など、運動以外のさまざまな身体、精神の症状や合併症が増え、その対策にも配慮が必要です。いまや、パーキンソン病は全身病です。症状の組み合わせは患者さんごとに異なり、治療も教科書どおりにはうまく反応しないことがしばしばです。
 幸い、パーキンソン病の知識は日々新しくなり、治療法、治療薬の選択肢も拡がっています。情報もインターネット、書籍、講演会などで手軽に得ることができるようになりました。問題は、一人ひとりの患者さんにとって本当はどの知識が重要で必要なのかという理解がついていかないことです。知るほどにかえって不安になるとの声も耳にします。患者さんに対応する医療・介護関係者にとっても状況は同じです。患者さんがより豊かな人生を楽しんでいくためには、患者さん本人の「やる気、前向き志向」と、それを支え合うみんなのチームワークが不可欠です。そして患者さんのみならず、ご家族、それを支える全員がパーキンソン病の正しい全体像を把握しておくことが大切です。暗闇を手探りで歩くよりも、明るい太陽の下で生活するほうが安全で彩り豊かですね。
 私どもは、パーキンソン病患者さんの診療に日々かかわっています。この病気の知識普及に向けて勉強会を開く仲間でもあります。よりよい理解を得られる方法を話し合う中で、最新の情報をまとめ、患者さんとその生活を支えるみんなに知識を伝えられる本を作ろうとの案が出されたのが、本書のきっかけです。その後、南江堂スタッフの励ましを得て一定の形となり、“みんなで学ぶ本”とし2013年、世に送り出すことができました。しかし、初版から時が流れ利用できるパーキンソン病治療薬が増えました。新しい知見も加わり、2018年5月には日本神経学会から新しいガイドラインである「パーキンソン病診療ガイドライン2018」が出版されました。この度、これら新しい知見や新ガイドラインの方針を加味し、本書を改訂いたしました。
 本書では、パーキンソン病の全体像を症状、治療を中心に最新知識を交えて解説し、専門家でなくとも理解できるよう工夫しました。家庭、介護、臨床の現場で役立てられるよう、病気の知識のみならず利用可能な社会資源や信頼できる情報源についても記載しています。本書が患者さん、ご家族、それを支える医療・介護関係者“みんな”の正しい理解と生き生きとした生活、明日への希望につながれば幸いです。

2020年5月
著者を代表して
柏原健一

 本書を手にとったとき、薄さと軽さに少し驚き、精読後、内容の充実ぶりに感銘を受けた。これほどの情報やメッセージを手軽に学ぶことができるメリットは、パーキンソン病(PD)に関わる「みんな」にとってきわめて大きい。小職にも学ぶ点が多く、まずは、著者らに敬意を表したい。
 PDの診療に関する啓発を目指した書籍は数多いが、そのなかで「みんなで学ぶ」ことを主眼にしている類書はない。本書は「パーキンソン病診療ガイドライン2018」の改訂作業を牽引した委員会の中核の専門医4名が分担執筆したものである。改訂第2版の序文では、治療薬のupdateとともに「診療ガイドライン2018」への準拠が言及されている。もちろん診療情報のupdateは重要であるが、本書の中核は、専門医である著者らの豊富な臨床経験に基づく、貴重な“clinical tips”の宝庫であることに変わりはない。ガイドラインはエビデンスに立脚しているため、その不足により、記載が不十分にならざるを得ない領域も多い。それらについても、本書はまさに麻姑掻痒で、PD診療の経験を積んでいる脳神経内科医や専門看護師、メディカルスタッフにも“目から鱗”の宝の山といえる。もちろん患者さん、介護者の目線から、わかりやすく丁寧な解説が加えられている。
 本書の重要な記載は、3種類のコラムにも散りばめられている。33項目に及ぶ「患者さんによく聞かれるQ&A」、各ページの欄外に隈なく書き込まれた「さらに詳しく」「気をつけよう」、各章の最後のショートサマリー「覚えておこう!」には、それこそ何年も専門医のもとで指導を受けなければ身に付けることができない実践的な治療、インフォームドコンセント、生活指導の秘訣の数々が凝縮されている。個々の内容について多くは触れずに、ほんのいくつかを紹介するにとどめておきたい。本書を手に取って、ご自身でPD診療の奥深さを実感していただきたいからである。
 鑑別診断の章には、「特に早期の多系統萎縮症とパーキンソン病を、臨床的に完全に区別することは現在のところ不可能です。両者の鑑別には最低でも1〜2年の経過観察が必要な場合があります」と明記されている。診療経験が豊富なほど、自戒を込めて心に刻むべき重要なピットフォールである。その点が患者さん、介護者にもわかりやすく解説されている。また「パーキンソン病の治療で覚えておきたいこと」には、「薬には治療効果(ベネフィット)と副作用(リスク)があり、中庸を得た治療を行うことが重要です。症状を改善するための最善の方法を一緒に考えていきましょう」と、患者みずからも含めて、まさしく「みんな」で取り組むべき、診療現場の重要な姿勢が示されている。その他「パーキンソン病の進行を遅らせることはできますか?」「健康食品やサプリメント」「八升豆」に関するFAQにも、医学的な根拠とともに患者さんを前向きに指導する明解な回答が記載されている。ぜひ熟読され、みずからの診療に活用していただきたい。そして付録3には、今回新たに改訂された「パーキンソン病診療ガイドライン2018」のエッセンスが概説され、「みんな」誰でも「学び」ながら通読できる一冊に仕上げられている。
 あえて注文をつけるとすれば、引用文献に関する情報がないことだが、これは本書の趣旨からも許容される点であろう。また欄外の「さらに詳しく」「気をつけよう」の文字が小さく、中高年の読者にはやや読みづらいかもしれない。
 本書の本質は、専門医の著者らから、PD患者さん、ご家族、それを支える皆様へ贈られた「安全で彩り豊か」な、「明るい太陽の下」での生活を目指すための“温かいエール”である。患者さんを中心に「みんな」が新たに“学びたくなる”“学びたくなっていただきたい”という思いが込められた、そんな一冊である。自信をもって、誰でも「みんな」に推薦したい。

臨床雑誌内科127巻1号(2021年1月号)より転載
評者●東京都立神経病院 院長 高橋一司

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