書籍

スペシャリストがすすめる人工関節手術合併症対策

編集 : 山本謙吾
ISBN : 978-4-524-22766-2
発行年月 : 2021年4月
判型 : B5
ページ数 : 240

在庫あり

定価6,820円(本体6,200円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

年々増加する四肢関節の人工関節手術において、安全かつクオリティの高い治療結果を得るには、合併症対策の確かな知識と戦略が極めて重要である。本書では、VTE(静脈血栓塞栓症)や人工関節周囲感染、疼痛・出血管理から、各関節手術の術中合併症、可動域制限、脱臼、弛み・破損の対策まで、専門家が独自の工夫やピットフォールをまじえて解説している。文献などでは学べない合併症対策の「英知」が結集した一冊。

総論

第T章 VTE(予防法,発生時の対応)
 1 術後VTE 発症のメカニズム,疫学など
 2 術前検査(エコー,血液検査など)
 3 術中・術後管理(抗凝固薬投与,弾性ストッキング,フットポンプの使用)
 4 VTE の診断と術後検査
 5 発症時の対応プロトコール
 6 高リスク・最高リスク症例に対する対応

第U章 人工関節周囲感染
 1 疫学,感染経路
 2 口腔ケア,鼻腔の除菌
 3 高リスク症例に対する周術期管理
 4 術前清拭・消毒の方法とタイミング
 5 手術室環境
 6 術中感染対策
 7 抗菌人工関節の有用性
  A 銀HA コーティング人工関節
  B ヨード担持チタン製人工関節
 8 術後感染予防管理(主に創傷管理)
 9 人工関節周囲感染症の診断
 10 発症時の対応プロトコール

第V章 疼痛管理
 1 術後疼痛のメカニズムと疼痛管理法の概略

第W章 出血管理
 1 TJA における包括的な出血対策
 2 出血対策の項目別要点

第X章 金属アレルギー
 1 金属アレルギーのメカニズム,ARMD の病態,疫学


各論

第T章 THA(total hip arthroplasty)の合併症対策
 1 術中合併症(術中骨折,神経血管損傷など)
  A 概要/B 危険因子/C 防止のための対策・工夫/D 合併症発生時の対応・処置
 2 下肢長差,可動域制限(屈曲制限,内転拘縮など)
  A 概要/B 下肢長差,可動域制限のある症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 3 脱臼
  A 概要/B 脱臼症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫
 4 摩耗,弛み,破損
  A 概要/B 摩耗,弛み,破損症例の実際/C 危険因子/D 防止のための対策・工夫

第U章 TKA(total knee arthroplasty)の合併症対策
 1 術中・術後合併症(術中骨折,神経血管損傷など)
  A 概要/B 危険因子/C 防止のための対策・工夫
 2 可動域制限
  A 概要/B 可動域制限のある症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 3 脱臼(膝蓋骨脱臼を含む)
  A 概要/B TKA 後膝蓋骨脱臼症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 4 摩耗,弛み,破損
  A 概要/B 摩耗,弛み,破損症例の実際/C 危険因子/D 防止のための対策・工夫

第V章 TAA(total ankle arthroplasty)の合併症対策
 1 術中合併症(術中骨折,神経血管損傷など)
  A 概要/B 危険因子/C 防止のための対策・工夫
 2 可動域制限
  A 概要/B 可動域制限のある症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 3 脱臼
  A 概要/B 脱臼症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 4 摩耗,弛み,破損
  A 概要/B 弛み症例の実際/C 危険因子/D 防止のための対策・工夫

第W章 TSA(total shoulder arthroplasty)の合併症対策
 1 術中合併症(術中骨折,神経血管損傷など)
  A 概要/B 危険因子/C 防止のための対策・工夫
 2 可動域制限
  A 概要/B 可動域制限のある症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 3 脱臼,不安定症
  A 概要/B 脱臼症例の実際/C 術後不安定症発生の危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 4 摩耗,弛み,破損
  A 概要/B 摩耗,弛み,破損症例の実際/C 危険因子/D 防止のための対策・工夫

第X章 TEA(total elbow arthroplasty)の合併症対策
 1 術中合併症(術中骨折,神経血管損傷など)
  A 概要/B 危険因子/C 防止のための対策・工夫
 2 可動域制限
  A 概要/B 可動域制限のある症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 3 脱臼
  A 概要/B 脱臼症例の実際/C 危険因子/D 予防のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)
 4 摩耗,弛み,破損
  A 概要/B 摩耗,弛み,破損症例の実際/C 危険因子/D 防止のための対策・工夫(手術手技,患者教育,リハビリテーションなど)

序文

 超高齢社会を迎えた日本では、人工関節置換術の対象となる各種の関節疾患患者が増加しています。人工関節置換術後には早期に除痛、そして一定の関節可動域の改善が得られ、患者のQOLの向上に寄与することが大きいため年間十数万件を超すきわめて多数の人工関節手術が行われ、その数は年々増加の一途をたどっています。診断学、材料学の発展や手術手技、さらには手術支援機器の目覚ましい進歩により、術後長期成績は安定化し、患者満足度も向上し、人工関節置換術を手がける施設も増加しています。しかしその一方で、手術に伴う合併症は少なくない頻度で出現しているという現状があります。ひとたび合併症を発症すれば、患者の生命にかかわる場合もあり、治療期間の延長とともに大きな機能障害をきたしQOLの悪化、患者の精神的苦痛、医療経済面での損失も計り知れないものがあります。われわれは常にこの危険性を念頭におき、細心の注意を払いながら周術期の管理に臨まなければなりません。そのためには術中・術後に発生し得る合併症を十分に理解し、対処できる知識と技術を備えたうえで人工関節手術に臨むことがきわめて重要であると思います。
 もちろん合併症対策も日進月歩であり、学会や学術誌においてもテーマとしてしばしば取り上げられますが、施設ごとに異なった方法で対処している傾向も少なからず認められ、必ずしも標準的方法が確立していない領域も見受けられます。
 そのような現況を踏まえ、このたび全国の当該領域のスペシャリストに、整形外科医が知っておくべきさまざまな人工関節置換術に伴って起こり得る合併症の診断と対処方法に関してご執筆いただきました。
 項目としましては、総論として、VTE、術後感染、疼痛、出血、金属アレルギー、各論として各関節における術中トラブル、脱臼、可動域制限、弛み、などに関して各執筆者にわかりやすく記述していただきました。人工関節手術の周術期管理を担う整形外科医らの実践書としてお役立ていただけるよう比較的コンパクトに編集しております。
 2020年からは日本人工関節学会において人工関節認定医制度が発足しました。認定には人工関節に関する基本的な重要事項を研修会で聴講することも必須となっています。術中・術後合併症に関しましても必ずや重要基本事項となりますので認定医を目指す若い整形外科医の知識の整理にもお役立ていただきたいと思います。  本書が、人工関節置換術術中および術後合併症の早期診断や治療に際しての適切な判断の一助となり、関節機能障害に苦しむ多くの患者さんの長期にわたるQOLの改善に貢献できれば幸甚です。

2020年12月
東京医科大学整形外科学分野主任教授
山本謙吾

 超高齢社会が大きな社会的テーマとなっている現在の日本では,とりわけ高齢世代で人工関節手術の適応となる関節疾患患者が増加している.関節運動機能を回復するうえで人工関節手術は優れた機能再建方法だが,その合併症は多岐にわたり,対応に難渋することも少なくない.本書は,そのような現状に向き合った秀逸な1冊である.総論と各論を設けて,人工関節手術の合併症を整理しながらピンポイントにテーマを絞り,合併症の疫学や病態,その対応方法をていねいに網羅した点が読者にとってありがたい.

 総論では,静脈血栓塞栓症,術後感染,疼痛,出血,金属アレルギーを取り上げている.人工関節周囲感染はとりわけボリューム満点で,疫学,感染経路に始まり,口腔ケア,鼻腔の除菌,高リスク症例に対する周術期管理のポイント,また,術前清拭,消毒方法のタイミングも取り上げている.さらに手術室の環境,術中感染対策,抗菌人工関節の有用性にも触れている.創傷管理を中心とした術後感染予防管理,感染の診断,発症対応時のプロトコールも取り上げていて,奥が深い.周術期に欠かせない出血管理や患者の生活の質(QOL)に直結する疼痛管理の問題も的確に掘り下げ対応方法を明示している.加えて,金属アレルギーのメカニズムやadverse reactions to metal debris(ARMD)の病態,疫学は今後の人工関節の生体親和性の向上を考え発展させていくうえで欠かすことのできない内容である.

 各論では,人工股関節全置換術(THA),人工膝関節全置換術(TKA),人工足関節全置換術(TAA),人工肩関節全置換術(TSA),人工肘関節全置換術(TEA)の順に項目が設けられ,THAでは,術中骨折や神経血管損傷を中心とした術中合併症,また下肢の脚長差,可動域制限への対応や脱臼,摩耗,弛み,破損の問題が取り上げられ,その対応方法が詳しく述べられている.同様に,TKAでも術中骨折や神経血管損傷を中心とした術中合併症,可動域制限の問題に焦点が当てられ,さらに膝蓋骨脱臼を含む脱臼,摩耗,弛み,破損について詳述されている.TAA,TSA,TEAでも同様な内容構成で,THAやTKAと同じように術中合併症の概要,危険因子,防止のための対策や工夫が明示され,可動域制限や脱臼に対しては,手術手技,患者教育,リハビリテーションなど予防のための対策・工夫が細かく述べられている.摩耗,弛み,破損についても症例の実際が示され,危険因子,防止のための対策・工夫が詳しく紹介されている.

 なによりも本書の優れた特徴は,現在,本邦で活躍する整形外科医のなかで,とりわけ人工関節手術に長けた気鋭が執筆を担当していることである.それぞれの分野は内容が洗練されエッセンス満載で,読み応え十分な内容となっている.編集者山本謙吾先生の企画が光彩を放つ本書は座右におきたいおすすめの1冊である.


臨床雑誌整形外科72巻12号(2021年11月号)より転載
評者●山形大学整形外科教授 高木理彰