乳房超音波診断ガイドライン改訂第4版
| 編集 | : 日本乳腺甲状腺超音波医学会 |
|---|---|
| ISBN | : 978-4-524-22763-1 |
| 発行年月 | : 2020年10月 |
| 判型 | : A4 |
| ページ数 | : 224 |
在庫
定価3,960円(本体3,600円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

用語の定義、検査法、判定法等の標準化のため刊行され改訂を重ねている、乳房超音波診断における指針を示す定本。今改訂では、WHO分類・日本乳癌学会分類の改訂を反映して病理の記載をアップデート。また、エラストグラフィやドプラ法、造影超音波の評価等を充実させた。検診と精査における診断上の考えかたの違いをより明快に記載し、日常診療においてさらに使いやすい内容となっている。
乳房超音波診断ガイドライン改訂第4版(2020年改訂)の主な変更点
I 装置と検査法
A 超音波診断装置,走査条件と検査環境
1 超音波診断装置
2 記録媒体(記録装置)
3 走査条件(条件設定)
4 モニタ,プリンタの調整
5 記 録
6 検査実施件数
B 乳房超音波検査の手技
1 乳房検査の体位
2 検者の姿勢
3 探触子の持ち方
4 探触子の動かし方(操作法)
5 観察範囲
6 操作スピード
7 動的検査(dynamic test)
C 表示法
1 病変の存在部位
2 病変の定量的評価
D 画像処理技術
1 ティッシュハーモニックイメージング(THI)
2 コンパウンド走査
3 音速補正
4 その他
E 精度管理用ファントムを用いた画像劣化の管理
1 目的
2 ファントムの撮像時の注意点と撮像方法
3 評価方法
4 ファントム使用上の注意点
II 乳房の解剖と超音波画像
A 乳房の解剖
1 乳腺の発生
2 乳房の超音波解剖と組織像
3 乳房の解剖とその垂直断面図
B 乳腺の解剖
1 乳腺の超音波解剖と組織像
2 乳腺間質の経年変化・脂肪化
C 乳房構成の変化
III 乳腺疾患の病理
1 日本乳癌学会分類
A 上皮性腫瘍(epithelial tumors)
A-1 良性腫瘍(benign tumors)
1 乳管内乳頭腫(intraductal papilloma)
2 乳管腺腫(ductal adenoma)
3 乳頭部腺腫(nipple adenoma,adenoma of the nipple)
4 腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)
A-2 悪性腫瘍(乳癌)[malignant tumors(carcinomas)]
1 非浸潤癌(noninvasive carcinoma)
2 微小浸潤癌(microinvasive carcinoma)
3 浸潤癌(invasive carcinoma)
4 Paget病(Paget’s disease)
B 結合織性および上皮性混合腫瘍(mixed connective tissue and epithelial tumors)
1 線維腺腫(fibroadenoma)
2 葉状腫瘍(phyllodes tumor)
C 非上皮性腫瘍(nonepithelial tumors)
D その他(others)
1 いわゆる乳腺症(so called mastopathy)
2 過誤腫(hamartoma)
3 乳腺線維症(fibrous disease)
2 WHO分類
A 乳腺上皮系腫瘍(epithelial tumours of the breast)
1 良性上皮増殖性病変および前駆病変(benign epithelial proliferations and precursors)
2 腺症と良性硬化性病変(adenosis and benign sclerosing lesion)
3 腺腫(adenomas)
4 上皮・筋上皮腫瘍(epithelial-myoepithelial tumours)
5 乳頭状腫瘍(papillary neoplasms)
6 非浸潤性小葉新生物(non-invasive lobular neoplasia)
7 非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ:DCIS)
8 浸潤性乳癌(invasive breast carcinoma)
9 まれな腫瘍および唾液腺型腫瘍(rare and salivary gland-type tumours)
10 neuroendocrine neoplasms
B 乳腺の線維上皮系腫瘍と過誤腫(fibroepithelial tumours and hamartomas of the breast)
1 過誤腫(hamartoma)
2 線維腺腫(fibroadenoma)
3 葉状腫瘍(phyllodes tumour)
C 乳頭部の腫瘍(tumours of the nipple)
1 汗管腫様腫瘍(syringomatous tumour)
2 乳頭部腺腫(nipple adenoma)
3 乳腺Paget病(Paget disease of the breast)
D 乳腺の間葉系腫瘍(mesenchymal tumours of the breast)
1 血管系腫瘍(vascular tumours)
2 線維芽細胞および筋線維芽細胞系腫瘍(fibroblastic and myofibroblastic tumours)
3 末梢神経鞘腫瘍(peripheral nerve sheath tumours)
4 その他の間葉系腫瘍および腫瘍様状態(other mesenchymal tumours and tumor-like conditions)
E 乳腺の血液リンパ系腫瘍(haematolymphoid tumours of the breast)
F 男性乳腺の腫瘍(tumours of the male breast)
1 女性化乳房(gynaecomastia)
2 上皮内癌(carcinoma in situ)
3 浸潤癌(invasive carcinoma)
G 乳腺への転移(metastases to the breast)
IV 乳房超音波組織特性
A 超音波組織特性
1 減衰(attenuation)
2 後方散乱(back scattering)
3 各疾患の後方エコーレベルと内部エコーレベルとの関係
4 超音波の音速
5 組織の音速が異なるために発生するひずみ
V 腫瘤
A 腫瘤の所見用語
1 形状(shape)
2 境界(辺縁,周辺,境界部)
3 内部エコー(internal echoes)
4 後方エコー(posterior echoes,posterior features)
5 随伴所見(associated findings)
B 腫瘤の評価
1 特徴所見からの評価
2 充実性腫瘤の良・悪性判定における各所見の意義
3 充実性腫瘤に対する初学者教育用Bモード判定フローチャート
VI 非腫瘤性病変
A 非腫瘤性病変の所見用語
1 所見
2 参考所見
B 非腫瘤性病変の評価
1 乳管の異常
2 乳腺内の低エコー域
3 構築の乱れ
4 多発小嚢胞
5 点状の高エコーを主体とする病変
C 非浸潤性乳管癌における超音波画像所見の頻度(JABTS BC−02研究)
D 参考:乳腺像に変化を与える要素
1 成長・妊娠
2 乳管拡張像の正常バリエーション
VII 主な乳腺疾患の概念と超音波画像
A 悪性疾患
1 非浸潤性乳管癌[ductal carcinoma in situ(DCIS),noninvasive ductal carcinoma]
2 浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma)
3 粘液癌
4 浸潤性小葉癌
5 髄様癌
6 化生癌(metaplastic carcinoma)
7 悪性リンパ腫
B 良性疾患
1 線維腺腫
2 乳管内乳頭腫
3 いわゆる乳腺症
4 嚢胞
5 葉状腫瘍
6 乳腺線維症(fibrous disease)
7 過誤腫
8 乳管腺腫
9 脂肪壊死
10 シリコン肉芽腫
VIII リンパ節の検査
A 正常リンパ節およびその構造
B 乳腺の領域リンパ節
C リンパ節検査の手技
1 検査時の体位
2 観察範囲
D 正常リンパ節の超音波所見
E リンパ節の評価
1 Bモード
2 参考所見
F リンパ節腫大の鑑別診断
G 参考:ACR BI-RADS Atlas ®5th Edition
IX 超音波検診における要精検基準とカテゴリー判定
A 背景
B 要精検基準作成における基本的考え方
C 所見の分類と検診のためのカテゴリー分類
D 腫瘤
1 嚢胞性パターンの判定
2 混合性パターンの判定
3 充実性パターンの判定
E 非腫瘤性病変
1 局所性あるいは区域性の内部エコーを有する乳管拡張
2 区域性あるいは局所性に存在する乳腺内低エコー域
3 構築の乱れ
F 参考所見
G 今回の改訂のポイント
H 所見用紙
X 診断超音波検査におけるカテゴリー判定
XI 乳房超音波ドプラ法と造影超音波
A 乳房超音波ドプラ法:基礎とその臨床的意義
B カラードプラ法(速度モード)の検査手順
1 探触子走査とB モード画像の調整
2 カラー表示エリアの調整
3 パルス繰り返し周波数(PRF)あるいは速度レンジの調整
4 カラーゲインの調整
5 ウォールフィルタ(wall filter)
6 参照周波数(reference frequency)
7 各種血流表示法の種類と特徴
C 血流波形分析の検査手順
1 パルスドプラ法
2 高速フーリエ変換(FFT)波形の調整
3 ドプラスペクトラムのトレース調整,血流波形指標の求め方
D 乳房超音波ドプラ法の臨床的評価
1 乳房超音波カラードプラ法判定基準
2 B モード+ドプラ法の有用性
3 非腫瘤性病変のカラードプラ法
E ペルフルブタンマイクロバブル(ソナゾイド)を用いた乳房造影超音波検査
1 第2世代超音波造影剤:ソナゾイド
2 検査プロトコル
3 検査時のコツと注意点
4 良・悪性の判定基準および診断能
5 乳癌における広がり診断
6 乳癌術前薬物療法における効果判定能
7 時間輝度曲線(time intensity curve:TIC)
8 今後の展望
XII 乳房超音波組織弾性映像法(乳房超音波エラストグラフィ)
A 組織弾性評価の意義と有用性
B 超音波組織弾性映像法(エラストグラフィ)の分類
C 生体組織の弾性特性
1 組織弾性の非線形性(nonlinearity of tissue elasticity)
2 初期圧(pre-load compression)と画質の関係
D 超音波組織弾性映像法の原理
1 strain elastography[歪み(ひずみ)エラストグラフィ]
2 ARFI imaging
3 shear wave elastography
E 検査手技の要点
F エラストグラフィの臨床
1 strain elastography
2 ARFI imaging
3 shear wave elastography
G アーチファクト
1 初期圧過剰によるもの(strain elastography,shear wave elastography共通)
2 BGR sign(strain elastography)
3 応力集中によるもの(strain elastography)
4 ひずみの滲みによるもの(strain elastography)
5 剪断波伝搬の反射・屈折によるもの(shear wave elastography)
6 blue cancer(shear wave elastography)
H 参考:ACR BI-RADS Atlas®5th Edition
XIII 超音波ガイド下インターベンション
A 超音波ガイド下穿刺の基本事項
1 超音波診断装置
2 freehand法とprobe-guided法
3 同一平面法と交差法
4 探触子の消毒
5 ポジショニング
6 術者の条件
7 検査環境・安全対策
B 超音波ガイド下穿刺吸引細胞診(ultrasound-guided fine needle aspiration cytology:FNAC)
1 適応
2 器具
3 手技
C 超音波ガイド下針生検(ultrasound-guided core needle biopsy:CNB)
1 適応
2 器具
3 手技
D 超音波ガイド下吸引式組織生検(ultrasound-guided vacuum assisted biopsy:VAB)
1 適応
2 被検者への説明
3 手技
4 合併症の対処と予防
E 病理医との連携と安全管理
F 超音波ガイド下の組織マーカー留置
1 適応
2 組織マーカーの種類
参考 所見判定の再現性に関する検討
用語欧文表記
索引
改訂第4版刊行にあたって
日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)は,乳腺,甲状腺を含む表在領域の超音波診断について,研究と教育を通じてその学術的進歩と適切な診断・治療法の向上に貢献することを目的に,1998年に前身となる日本乳腺甲状腺超音波診断会議として設立されました.そして,2012年にNPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会と改称した後,2019年には,平成から令和の新時代への流れに合わせるように,新体制の一般社団法人日本乳腺甲状腺超音波医学会として発足いたしました.本学会は,この22年にわたり,常に同領域の学術および臨床における牽引役として貢献してまいりました.
そのなかでも,『乳房超音波診断ガイドライン』の策定は,本学会における最も重要な事業の1つとして進められてきました.本学会の設立当初,すでに乳房超音波診断法の有用性は明らかでしたが,その普及と発展を図るためには,未整備であった用語,検査方法,判定方法の標準化が必要でした.そのために,学会内に用語・診断基準委員会および乳癌検診や検査技術に関する研究班を設置し,乳房超音波診断をリードする多くの専門家間の討議を積み重ねて,2004年に本ガイドラインの初版が刊行されました.そして,2008年に第2版,2014年に第3版を発刊して6刷まで増刷を重ね,現在ではわが国だけでなく,海外でも翻訳されて,乳房超音波診断の中核的な手引きとして数多くの医療従事者の方々に活用されるまでになりました.
一方で,乳房超音波診断法は日々進歩しており,その後の画像診断技術の向上や乳癌診断法に関わる規程の改訂などに対応する必要から,この度,第4版を刊行することにいたしました.今回の改訂で特に大きく変更された点としては,乳腺病理に関して2018年に改訂された日本乳癌学会の乳癌取扱い規約への準拠,また国際的に汎用されているWHO分類との整合性を考慮して,乳腺疾患の組織型の定義・分類の変更の記載や,超音波検診における要精検基準の一部変更などがあげられます.改訂に際しては関連する各項目の記述内容の変更とともに,画像の大幅な入れ替えも行いました.
これまで,本ガイドライン編纂の基本方針であるエビデンスに基づいた記述は,改訂版でも踏襲されており,臨床研究に基づいた知見をもとに新たな内容が加えられております.たとえば,JABTS BC-01の知見を基にした,充実性腫瘤に対する初学者教育用 Bモード判定フローチャートの追加や,FLOW-CEUS01の結果を踏まえた,乳房超音波造影検査法の解説として取り入れられています.また,エラストグラフィについては,装置の進歩と診断法の普及に合わせて最新の画像や文献の追加とともに,装置の原理,検査手技や評価方法の観点について詳述されております.
以上のように,最新の知見とエビデンスに基づいて改訂されました本ガイドラインが,これまでと同様,一人でも多くの乳房超音波診断に携わる皆様に活用され,診断技術の向上に貢献することを願っております.
2020年8月
一般社団法人日本乳腺甲状腺超音波医学会
理事長 椎名 毅
ガイドライン改訂第4版序
本ガイドラインの初版が2004年に遠藤登喜子委員長のもとで発刊されてから早16年,第3版からは6年が経ち,この間に超音波装置・技術の目覚ましい進歩がみられている.現在,カラードプラ法の技術はほとんどの装置に搭載されており,その感度もかなり高く評価され,加えてエラストグラフィ(組織弾性映像法)も多くの装置に装備されるようになってきている.Bモードのみで検査を終了する症例もあるが,必要に応じて,Bモード,カラードプラ,エラストグラフィと進めていき,総合して診断(判定)するようになってきている.
技術の進歩だけでなく,診断面でも目覚ましい進歩がみられている.JABTSでは2009年からBC-01研究(JABTS 乳房超音波診断フローチャートの有用性に関する多施設共同研究)をはじめ,最近ではBC-04研究(乳房腫瘤の超音波診断におけるカラードプラ法判定基準作成およびその有用性に関する多施設研究)を行った.BC-04研究では,多施設から画像を登録していただき,現在の診断基準をたたき台とし,多数の項目について読影者が目合わせを行い,判定項目を二人一組のペアを組み,まずはそれぞれが一次読影,その後,方法を変えて二次読影を行うというかなり時間を要する研究で,参加していただいた読影者の皆様,統計学的解析については山口拓洋教授はじめ東北大学臨床試験データセンターの皆様に多大なご協力・ご支援をいただいた.その解析結果より,良悪性の判定に有用な所見,注意を要する診断のポイント等,多くの点が検証され,研究の成果を論文化するに至った.JABTSから日本の超音波診断法を世界に向けて発信し,世界からも注目されていると言っても過言ではなく,実際に最新のBI-RADS 5th editionでも日本を意識した用語の使用がみられている.
第4版の大きな改訂点は,日本乳癌学会編の乳癌取扱い規約(第18版)で浸潤性乳管癌の分類が変わったこと,WHO分類も5th editionとして改訂されたことに伴うものである.また検診の要精検基準についても研究部会で検証され,変更点が記載され,精度管理の面でも精度管理用ファントム等についての記載が改訂されている.装置を正しく使用し,過剰診断のないように判定するルール作りの礎が作成されている.
本ガイドライン改訂は,多くの方に学んでいただけるガイドラインにしようという関係者の惜しみない労力の上に成り立っている.私の委員長としての期間一杯にわたり,改訂に至るまでご尽力くださったすべての方に深謝し,序文とする.
2020年8月
一般社団法人日本乳腺甲状腺超音波医学会
乳腺用語診断基準委員会
現副委員長 加奥 節子
推薦の言葉
日本超音波医学会
この度,日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)編集による『乳房超音波診断ガイドライン(改訂第4版)』が出版されました.本ガイドラインは2004年に初版が出版され,2008年に第2版,2014年に第3版と改訂を重ね,この度第4版が出版されたとのことです.
私自身は,腹部消化器疾患が専門であり,乳房超音波診断とはそれほど関わりがありませんでした.しかしながら,思い返せば私にも乳腺領域とはいくつかの接点があるように思います.1点目は2016年にUltrasonic Week 2016として私がアジア超音波医学会(AFSUMB)2016および第89回日本超音波医学会学術集会を開催した際にはJABTS学術集会(古川まどか会長)とも共催させていただきました.また,2点目はAMEDの事業で私自身肝臓エラストグラフィの主任研究者として3年2期,すなわち6年にわたってStrain ElastographyやShear Wave Elastographyによるびまん性肝疾患の研究に従事しておりました.この時にもStrain Elastographyについては乳腺のpioneer的な業績を大いに参考にさせていただき肝臓エラストグラフィの開発,臨床評価にも応用させていただきました.この時には多くの乳腺超音波の専門の先生方にも助けていただきました.私が世界超音波医学会(WFUMB)の理事長の時代には,乳腺エラストグラフィのJSUMガイドラインやWFUMBの乳腺エラストグラフィガイドラインの作成も行わせていただきました.3点目の接点としては,現在私が主任研究者として研究を推進している日本超音波医学会主導の「ナショナルデータベース構築と人工知能診断の開発研究」に関してであります.この研究班の中にも乳腺のグループに当初より入っていただき,粛々とビッグデータの蓄積および人工知能(AI)診断の開発を進めているところです.
この度の第4版ガイドラインを拝見すると,1)腫瘍のWHO分類が2019年に改訂されたことに伴い,用語の改訂が行われたこと,2)乳癌取扱い規約に関する変更が行われ,微小浸潤癌という組織型が追加されたこと,3)乳管内成分優位の浸潤癌という概念が明記されたこと,4)浸潤性乳管癌亜型分類が整備されたといったことが主な改訂点であろうかと思います.また,乳房超音波組織特性に関してもさまざまな改訂が加えられているようです.腫瘤としては浸潤性乳管癌の亜型分類を乳癌取扱い規約第18版に合わせて,腺管形成型,充実型,硬性型,その他として記載されていること,あるいは非腫瘤性病変にも改訂が加えられていること,またリンパ節においてACR BI-RADSの用語も記載されたということや,超音波カラードプラ法やペルフルブタンマイクロバブル(ソナゾイド)を用いた乳房超音波検査を追加して解説していることも改訂のポイントと思われます.またエラストグラフィも特定の様式のエラストグラフィに偏ることなく全体に詳しく記載し,特にStrain Elastography,ARFI Imaging,Shear Wave Elastographyについて詳しく原理を記載されていることが新しい改訂点かと思います.
先に述べましたように,最近私達は2ヵ月に一度AMEDのAI開発研究班の班会議で乳腺のグループと共にデータ収集およびAI診断の開発研究に取り組んでおりますが,そのAI診断がおそらくは将来,乳腺腫瘍の診断の補助となる日が間違いなく来ると考えております.しかし,本ガイドラインに述べられているような膨大な先人のご努力・経験の蓄積により極めてハイレベルの乳房診断がわが国においては実践されていることに改めて気づかされました.また乳房超音波検査がいかに重要で,国内でも増え続けている乳癌の早期診断を行ううえで本書は大変貴重なガイドラインであるということを再認識させられた次第です.
このような包括的かつ緻密なガイドラインに沿って診断している乳房超音波診断のスペシャリストの先生方(もちろん初学者の先生方も含めて)がさらには将来AI診断という補助診断法を武器に加えることにより,より精度の高い診断が可能になるのではないかと感じています.もちろん,若い先生方,一般の超音波診断医,あるいは検査技師にとってこのガイドラインは基本的乳房診断法を学び取る上で極めて重要なガイドラインであり,これを活用することにより,初めてAI診断を使いこなせるエキスパートになりうるということを確信した次第です.本ガイドラインが多くの人に活用され,最先端の乳房超音波診断が実践され,特に乳癌が早期に発見されることにより,乳癌死亡者数が減少することを願ってやみません.
2020年8月
公益財団法人日本超音波医学会
前理事長 工藤 正俊
推薦の言葉
日本医学放射線学会
わが国における乳癌の患者数は年々増加傾向を示しており,女性における最も罹患率の高い癌は現在でも乳癌であり,今後もさらに増え続けることが予測されています.そして,乳癌の早期発見を目的とする検診の重要性も広く認識されており,マンモグラフィによる検診が普及しています.しかし,欧米と異なり高濃度乳房の多い日本では,超音波検査やMRI検査など他の画像診断の活用や精度向上が重要になります.また,近年では,遺伝子解析を含めた新しい診断ツールも普及しつつあります.
現在,乳房の超音波検査は,乳癌の検出,ならびに病期診断において不可欠な検査となっており,多くの施設で実施されています.最大の理由は,超音波検査にはX線被曝がないという利点はもとより,超音波画像が病理組織像を最も反映している画像診断であるからに他なりません.そして,近年の超音波画像装置の進歩は目覚ましく,微細な病変も鮮明に描出でき,さらに超音波ドプラ法や造影超音波による血流情報,超音波エラストグラフィによる組織弾性に関する情報など新たな側面からの診断も可能になっています.
この度,乳癌取扱い規約とWHO分類ともに病理に関する記載の改訂がなされましたが,今回の『乳房超音波診断ガイドライン(第4版)』では,これらの変更点を踏まえて改訂され,画像に関しても前版での画像の多くを最新の画像に入れ替えています.また,本ガイドラインでは,読者が内容を理解しやすく,さらに容易に記憶できるように,項目ごとに重要と思われる事項をまとめて箇条書きで記載されています.本書は,初学者から超音波診断を専門とされる医師や検査技師の方々を対象として,装置の原理や検査法,検査に必要な解剖や病理学的事項,超音波組織特性,各乳腺疾患の特徴的所見,リンパ節診断などがわかりやすい図表を用いて解説されています.
本ガイドラインは,2004年に社会的要望に応えて初版が出版され,これまでも乳房超音波検査の標準化や精度管理に大きな役割を果たしてきました.乳癌検診に対する基本的な考え方としては,生命予後に影響するような乳癌を決して見逃さないことに変わりはありませんが,すべての良性疾患を指摘して過剰な精検を行うような受診者の不利益も改善しなければなりません.それには,良性疾患とそれ以外の精査すべき,あるいは経過観察すべき所見とをきちんと識別するような判定基準が求められています.そのような理由から第4版では,超音波検診におけるカテゴリー判定においても,混合性パターン,液面形成のみのパターン,局所性あるいは区域性乳管拡張に流動エコーをみた場合の判定基準が改訂されています.
乳房超音波検査に携わる多くの方々には,ぜひ本書を読んで頂き,日々の臨床現場での診療に大いに活用して頂きたいと願っています.
2020年8月
公益社団法人日本医学放射線学会
前理事長 今井 裕
推薦の言葉
日本乳癌学会
このたび日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)から『乳房超音波診断ガイドライン(改訂第4版)』が刊行された.本ガイドラインは,2004年に初版が,2008年に第2版が,2014年に第3版が出版され,そして待望の第4版となる.乳癌は日本人女性の生涯で10人に1人が罹患すると予測され,年間の罹患者数は10万人を超えて増加傾向にある.National Clinical Databaseに登録された症例から,0期あるいは・期で診断される乳癌は6割を占めている.さらに,若年発症が多い遺伝性乳癌卵巣癌症候群は全乳癌の5.10%と推定され,早期乳癌あるいは若年性乳癌における超音波検査の果たす役割はますます重きをなしている.事実,2015年Lancet誌に報告されたJ-STARTでは,40歳代女性へのマンモグラフィと超音波検査の併用による感度の向上が検証された.乳癌診療に携わる医師と医療従事者にとって,超音波検査の理論,技術,病理診断との対比,超音波検診の意義について最新知識を習得することは重要である.
今回の改訂のポイントとして,超音波診断装置の性能向上に伴う変更点の追記,超音波画像の観察および記録の修正,WHO分類と乳癌取扱い規約の変更点とそれに伴う超音波像の紹介,乳房超音波組織特性の追記,腫瘤あるいは非腫瘤における変更点の記載,超音波検診における要精査基準の追記,そしてドプラ法,造影法,組織弾性映像法の最新情報などが挙げられる.本書の特徴はふんだんなエコー像やイメージ像の掲載であり,前版から差し替えられた画像も多く視覚的な理解がさらに深まる工夫がされている.
昨年,日本乳癌学会からより精度の高い乳癌検診システムの構築を目指して『検診カテゴリーと診断カテゴリーに基づく乳がん検診精検報告書作成マニュアル』が刊行された.検診施設で行うマンモグラフィや超音波検査による「検診カテゴリー」で拾い上げられた検診者を,乳腺専門医あるいは画像診断に優れた医師が所属する精検施設による「診断カテゴリー」に再分類することで,検診施設と精検施設での診断精度の向上を目指すのが目的である.この第4版を参照いただくことは,検診施設と精検施設の双方の乳癌診療にとってさらに有意義である.
最後に,今回の改訂にあたり尽力されたJABTS乳腺用語診断基準委員会の委員と執筆者の皆様へ心からの敬意を表します.
2020年8月
一般社団法人日本乳癌学会
理事長 井本 滋
推薦の言葉
日本乳癌検診学会
超音波検査は古くからわが国で普及し,その精度はきわめて高い.乳腺領域では乳癌検診だけでなく乳癌の精査や治療現場でも広く施行され,乳癌診療において必須のモダリティである.その中で『乳房超音波診断ガイドライン』は2004年に初版が発刊されて以来,わが国の乳房超音波診断を高いレベルに保つために大きな役割を果たしてきた.今回2014年に第3版が出版されて以来6年ぶりに第4版の発刊となった.その内容はさらに充実し最近6年間の新たな知見も随所に加えられている.
最近6年間のわが国の乳癌検診における最も大きな話題は,J.STARTの結果がLancet誌に掲載されたことにある(Ohuchi N et al,2015).その意義は40歳代の乳癌検診において超音波検査をマンモグラフィに追加することの有用性と課題が科学的に示されたことにある.この結果を踏まえてわが国の検診施設でマンモグラフィに超音波検査を付加する施設が増加し,一部の対策型検診においても超音波検査を行う自治体が増えてきている.以前からマンモグラフィの高濃度乳房に対する次のステップとして超音波検査を勧めるというのは一般論として既に受け入れられている.しかし,J.STARTデータのサブ解析ではマンモグラフィの偽陰性は高濃度乳房に特化したものではないことも示され(鈴木昭彦ほか:日乳癌検診会誌28:5-8,2019),超音波検査の乳癌検診全体における意義の大きさが示されている.一方,超音波検診単独判定では要精査率が上昇するという課題も明らかとなり,日本乳癌検診学会ではマンモグラフィとの総合判定を推奨し,その指針となる『マンモグラフィと超音波検査の総合判定マニュアル』も発刊している.本ガイドラインでも可能な限りマンモグラフィ所見も参考にしてカテゴリーを決めることが推奨されている.
また,乳癌検診で要精査となり訪れる精査施設における画像診断精度は,乳癌による死亡者を減らすという検診の目的達成にきわめて重要である.現在,精査施設の超音波診断精度に施設間格差があることは課題である.本第4版では検診陽性病変の精査に用いられることの多い超音波ドプラ,組織弾性映像法,造影乳房超音波検査の項目がさらに充実し,精査施設においてもきわめて有用である.
本ガイドラインの活用によりわが国の乳房超音波診断の精度がさらに向上することを期待する.
2020年8月
NPO法人日本乳癌検診学会
理事長 中島 康雄
推薦の言葉
日本乳がん検診精度管理中央機構
マンモグラフィ(以下MG)は,2000年の厚労省通達(老健65号)による法的な根拠を伴い,乳がん検診の中心的役割を担っています.この通達に先立ち1997年に日本乳癌検診学会を中心とした検診関連6学会(日本乳癌検診学会,日本乳癌学会,日本医学放射線学会,日本産科婦人科学会,日本放射線技術学会,日本医学物理学会)によるマンモグラフィ精度管理中央委員会(精中委)が活動を開始しましたが,2004年6月に特定非営利活動(NPO)法人として認可されました.これまでに全国でMG読影,撮影技術講習会を開催し,多くの医師,技師が認定されています.またMG撮影装置の施設認定も行ってきました.さらに,将来を見越した乳がん検診での超音波検査精度管理の必要性から,超音波関連の3学会(日本超音波医学会,日本乳腺甲状腺超音波医学会,日本超音波検査学会)が加わり,2013年10月に精中委はNPO法人乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)となり,乳がん検診精度管理の活動範囲を拡大しています.2013年10月に精中機構主催の超音波講習会が初めて開催されました.
これまで任意型検診を中心に超音波検査が行われていますが,有効性(死亡率の減少)は証明されていませんでした.2007年から40歳代に対する乳がん検診における超音波検査の有効性を検証する比較試験(J-START:主任研究者 東北大学 大内憲明)が行われ,超音波検査併用群では,感度が高く,中間期癌が少なく,早期の浸潤癌が多く発見されたという初期結果が2011年にLancet誌で報告されました.今後,生存率に関する解析結果が待たれます.超音波検査は,とくに比較的若い人に多い高濃度乳房で病変の検出力が高いことが認められています.J-STARTではMGと超音波検査を別個に判定したため特異度が低かったということが問題点として挙げられました.これに対して日本乳癌検診学会が総合判定委員会を組織し,2015年に『マンモグラフィと超音波検査の総合判定マニュアル』を出版しました.いずれにしても超音波検査が適正に行われ画像が正しく判定されることが大前提です.
今回,日本乳腺甲状腺超音波医学会のご尽力により『乳房超音波診断ガイドライン(改訂第4版)』が出版されました.WHOの組織分類の新たな改訂に伴った乳癌取扱い規約第18版に従った組織分類に準拠し,画像の大幅な入替も行われています.検診はもとより臨床の場でも活用されることが期待され,本書を多くの方に推薦いたします.
2020年8月
NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構
理事長 横江 隆夫
乳房の超音波検査は,乳腺疾患の診療に必須のモダリティであり,近年の乳癌罹患率の増加,装置・診断技術のめざましい進歩と相まって,その有用性はますます高くなっている.本ガイドラインは2004 年の初版刊行以来,乳房超音波診断に用いる用語や検査方法,判定方法の標準化や普及に大きく貢献するとともに,日進月歩の変革に対応し時宜に応じて改訂が行われ,乳房超音波診断法の基本から最新の知見までを学ぶことができる手引書として多くの読者に支持され版を重ねてきた.
今回の第4 版では,診断機器や技術,画質の向上,乳癌診断法にかかわる規定の改定などを背景に,さらに明確でわかりやすく,新たな知見を盛り込んだ内容への改訂が行われている.本書の大きな変更のポイントの一つは,乳腺病理に関する日本乳癌学会の乳癌取扱い規約(第18 版)の改訂およびWHO分類(5th edition)の改定に伴う改変である.乳腺疾患の組織型の定義・分類の変更に準拠した記述内容の変更とともに,画像の大幅な入れ替えも行われている.画像診断を行ううえできわめて重要なポイントは,画像が示す所見の意味を十分理解し,それに対応する病理組織像を的確にイメージできることであろう.本書の特徴は,随所に組織像が提示され乳腺疾患の超音波画像と病理組織像との対比が明快に示されていることである.組織の性状と超音波画像との関連性(超音波組織特性)を理解することで超音波画像のより深い解析が容易となり,正確な診断が可能となる.超音波検診における要精検基準の改定も今回の大きな変更のポイントとしてあげられる.また,ドプラ法,造影超音波検査,組織弾性映像法(エラストグラフィ)の項目もさらに充実し,理解を深めるための工夫がなされており,新たなエビデンスに基づいた最新情報が盛り込まれている.
各領域にわたり粋を集めてわかりやすく編集された本書を読みすすめるにつれて,乳房超音波検査の全容を把握できる充実感と自信の深まりを実感することができよう.乳房超音波診断にかかわる多くの方に本書を活用していただくことを期待する.
臨床雑誌外科83巻4号(2021年4月号)より転載
評者●神尾孝子(東京女子医科大学乳腺・内分泌外科 特任教授)

