書籍

新臨床腫瘍学改訂第6版

がん薬物療法専門医のために

編集 : 日本臨床腫瘍学会
ISBN : 978-4-524-22739-6
発行年月 : 2021年5月
判型 : B5
ページ数 : 792

在庫品切れ・重版未定

定価16,500円(本体15,000円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

がん薬物療法を行う上で,知っておくべき知識を網羅した,日本臨床腫瘍学会編集による専門医テキストの改訂第6版.基礎から臨床まで幅広く掲載し,各薬剤・各疾患の要点を解説.今改訂では,がん種別の標準治療のアップデートや新規薬剤の追加,希少がん,腫瘍循環器学などの項目を新設し,そして医療経済や社会的支援まで広く,この3年で確立した知見を盛り込んだ.「がん薬物療法専門医」を目指す人だけでなく,がん診療に携わる全ての医療者必携の書.

序 章
T がんの分子生物学
 1 がんの発生と進展機構
  1.遺伝子異常と多段階発がん
  2.染色体・ゲノム異常
  3.シグナル伝達系
  4.細胞周期
  5.細胞死および細胞老化
  6.エピジェネティクス
  7.ノンコーディング RNA
  8.浸潤と転移
  9.血管新生
  10.がん幹細胞
  11.感染と発がん
  12.がんと免疫
  13.がんと代謝
 2 分子解析法
  1.ゲノム解析法・遺伝子変異検査(包括的ゲノムプロファイリングを含む)
  2.トランスクリプトーム解析
  3.遺伝子増幅法
  4.プロテオーム解析
  5.タンパク質発現解析法
  6.バイオインフォマティクス
 
U臨床腫瘍学の基礎
 3 がんの病因と疫学
  1.病因
  2.疫学
  3.がんの統計
 4 がんの予防と検診
  1.がんの予防
  2.がんの検診
 5 臨床試験
  1.がんの臨床試験概論
  2.有効性と安全性の評価
  3.がん医療と臨床試験における倫理的原則
  4.臨床試験・臨床研究をめぐる知的財産権
  5.臨床試験・臨床研究をめぐる個人情報保護
  6.日本の医薬品開発をめぐる規制
 6 日本のがん診療体制とその課題
  1.日本のがん対策の動向
  2.日本の保険診療体系とがんの医療経済学
  3.がんサバイバー
  4.AYA 世代
 7 がんの診断
  1.画像診断(CT,MRI,PET・核医学,超音波)
  2.病理診断
  3.TNM 分類
  4.バイオマーカー
   A)バイオマーカーとは
   B)バイオマーカーと個別化医療
   C)腫瘍マーカー
 8 外科療法概論
 9 放射線治療概論
 10 インターベンショナルラジオロジー(IVR)
 11 インターベンショナルエンドスコピー(Interventional Endoscopy)
 12 がん薬物療法概論
  1.薬物療法の理論
  2.薬物の開発(発見,スクリーニング,非臨床試験まで
  3.薬物動態学・薬力学・ゲノム薬理学
  4.ドラッグデリバリー・システム(DDS)
  5.薬剤耐性
 13 造血幹細胞移植
 14 がん免疫療法
 15 各種抗がん薬
  1.細胞障害性(殺細胞性)抗がん薬
   A)アルキル化薬,抗生物質
   B)プラチナ製剤
   C)代謝拮抗薬
   D)トポイソメラーゼ阻害薬
   E)微小管阻害薬
  2.内分泌療法薬
  3.サイトカイン
  4.分子標的治療薬
   A)分子標的治療薬概論
   B)小分子化合物
    @EGFR 阻害薬
    AHER2 阻害薬
    BBCR/ABL 阻害薬,KIT 阻害薬
    CmTOR 阻害薬
    DALK 阻害薬
    EPI3K 阻害薬,AKT 阻害薬
    FMEK 阻害薬
    GBRAF 阻害薬
    H血管新生阻害薬・多標的阻害薬
    Iプロテアソーム阻害薬
    Jエピジェネティック標的薬
    KCDK 阻害薬
    LPARP 阻害薬
    MNTRK 阻害薬
   C)抗体薬
    @細胞表面抗原に対する抗体薬
    A抗EGFR 抗体薬
    B抗HER2 抗体薬
    C抗血管新生薬
  5.免疫チェックポイント阻害薬
  6.その他の抗がん薬
 16 緩和医療
  1.疼痛緩和
  2.その他の身体症状と症状緩和
  3.サイコオンコロジー
  4.終末期医療
 
V 臨床腫瘍学の実践
 17 頭頸部がん
 18 肺がん
  1.小細胞肺がん
  2.非小細胞肺がん
 19 中皮腫
 20 縦隔腫瘍
 21 乳がん
 22 食道がん
 23 胃がん
 24 大腸がん,肛門がん
 25 消化管間質腫瘍
 26 神経内分泌腫瘍
 27 肝細胞がん
 28 胆道がん
 29 膵がん
 30 腎細胞がん
 31 膀胱がん,腎盂・尿管がん
   A)膀胱がん
   B)腎盂・尿管がん
 32 前立腺がん
 33 胚細胞腫瘍(精巣・後腹膜・縦隔原発)
 34 子宮頸がん
   A)子宮頸がん
   B)外陰がん・腟がん
 35 子宮体がん
   A)子宮体がん
   B)子宮肉腫
   C)絨毛性疾患
 36 卵巣がん・卵管がん・腹膜がん
   A)卵巣がん(上皮性悪性腫瘍)
   B)胚細胞腫瘍(卵巣)
 37 骨・軟部腫瘍
  1.悪性骨腫瘍
  2.悪性軟部腫瘍
   A)手術適応のある肉腫
   B)進行・再発肉腫
 38 皮膚がん
   A)悪性黒色腫
   B)基底細胞がん,有棘細胞がん
 39 中枢神経系腫瘍
 40 内分泌がん
   A)甲状腺がん
   B)副腎皮質がん
   C)褐色細胞腫
 41 原発不明がん
 42 小児がん
  1.小児がんとは
  2.神経芽腫
  3.横紋筋肉腫
  4.白血病/リンパ腫
   A)急性リンパ性白血病(ALL)
   B)非Hodgkin リンパ腫(NHL)
 43 造血・リンパ組織の腫瘍
  1.WHO 分類
  2.急性骨髄性白血病
  3.急性リンパ性白血病(ALL)
  4.慢性骨髄性白血病・骨髄増殖性腫瘍
   A)慢性骨髄性白血病(CML)
   B)真性赤血球増加症(PV)
   C)本態性血小板血症(ET)
   D)原発性骨髄線維症(PMF)
   E)慢性好酸球性白血病,非特定型(CEL,NOS)
   F)慢性好中球性白血病(CNL)
  5.慢性リンパ性白血病(CLL)と類縁疾患
  6.骨髄異形成症候群(MDS)
  7.非Hodgkin リンパ腫(NHL)
  8.Hodgkin リンパ腫(HL)
  9.多発性骨髄腫(MM)と類縁疾患
  10.成人T 細胞白血病/リンパ腫(ATL)
  11.HIV 関連悪性腫瘍
 44 MSI-high 固形がん
 45 腫瘍随伴症候群
 46 骨転移の治療
 47 脳転移の治療
 48 オンコロジック エマージェンシー
  1.悪性胸水・心囊液・腹水
   A)悪性胸水
   B)悪性心囊液,心タンポナーデ
   C)悪性腹水
  2.上大静脈症候群,気道狭窄
  3.電解質異常(高カルシウム血症,低ナトリウム血症)
  4.脊髄圧迫
  5.消化管の閉塞,穿孔,出血
  6.胆道閉塞
  7.泌尿器科的エマージェンシー
  8.腫瘍崩壊症候群
  9.発熱性好中球減少症(FN)
  10.播種性血管内凝固症候群(DIC)
 49 副作用対策と支持療法
  1.がん薬物療法に伴う有害反応の対策
  2.免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象
  3.B 型肝炎ウイルスの再活性化とその対策
  4.性腺機能障害と妊孕性温存
  5.輸血療法
  6.栄養サポート
  7.リハビリテーション
 50 腫瘍循環器学
 51 老年腫瘍学
 52 希少がん
 53 遺伝性腫瘍と遺伝カウンセリング
  1.遺伝性腫瘍
  2.遺伝カウンセリング

 1981 年以降,悪性腫瘍(がん)はわが国の死因の第1位であり,主に国民の高齢化によりがん罹患数とがん死亡数はその後も年々増加している.臨床腫瘍学を発展させてがんの診断法と治療法を開発し,それを実用化・普及することにより,がん患者の治療成績を向上させることは我々がん研究者やがん医療従事者にとって喫緊の課題である.また,同時に社会的な重要課題である.わが国では,2007 年4 月にがん対策基本法が施行され,がん対策を総合的かつ計画的に推進するため,2007 年6 月から厚生労働省の政策としてがん対策推進基本計画がスタートし,5年毎に見直しが行われている.2017 年の第3 期がん対策推進計画では,がんゲノム医療,がんリハビリテーション,希少がんと難治性がん対策,AYA 世代と高齢者のがん対策が新たに盛り込まれ,全国47 都道府県はこの基本計画に従って独自のがん対策推進計画を策定し地域でのがん対策を実施している.全がんおよび多くの部位別がんの年齢調整罹患率は男女ともに増加傾向にあるが,近年,年齢調整死亡率は一部のがんを除いて減少傾向にある.この死亡率の減少傾向には,がんの一次予防や二次予防に加え,最近ではがんの診断と治療の進歩が寄与していると考えられる.まさに,臨床腫瘍学の発展の成果と言える.
 がん治療の進歩の中で,とりわけがん薬物療法の進歩は目覚ましい.加速する新規抗がん薬の開発の中で,免疫チェックポイント阻害薬を含めその大部分をがん分子標的治療薬が占めるに至り,がん薬物療法は細胞障害性抗がん薬中心の時代からがん分子標的治療薬中心の時代へと大きく変化した.このため,がん治療におけるがん薬物療法の重要性が年々増しており,また,がん薬物療法の適応になる患者数は増加の一途を辿っている.
 このような背景から,がん医療従事者の中でがん薬物療法を専門領域とする腫瘍内科医のニーズが高まり,その養成が急務となっている.腫瘍内科医に期待される役割が年々大きくなっていることは,2015 年に日本内科学会の新研修カリキュラムに総合内科V(腫瘍)が新たな領域として追加されたことからも明らかである.また,腫瘍内科医と連携して診療する他の診療科の医師や医師以外の医療従事者にがん薬物療法の知識が要求される機会がいっそう増えている.特に,進行がんの治療は,外科的治療,放射線治療やがん薬物療法による内科的治療,緩和医療などがんの種類やその進行期により集学的治療が行われるため,診療科間や医療機関間の連携が欠かせない.このため,腫瘍内科医を含むがん診療に関わる診療科医師の養成や,医師以外のがん医療従事者の養成のために,基準となる最新の情報を掲載した教科書が必要とされてきた.
 新臨床腫瘍学は2006 年に初版が刊行された.以来,本書はわが国の臨床腫瘍学の標準的な教科書として愛読されてきた.同時に,腫瘍内科医をはじめ,がん診療に携わる多くの医療従事者の養成に活用されてきた.この度,改訂第5 版の刊行から約3 年が経過し,改訂第6版を刊行することになった.今回の改訂では,最新の臨床試験情報に基づくがん種別の標準治療のアップデートに加え,希少がんや腫瘍循環器学などの新たな項目を設けた.本書が日常のがん診療に活用され,がん患者の治療成績の向上に少しでも役立つことを切望する.

2021 年4 月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 石岡千加史

日本の臨床腫瘍学のstate-of-artそのもの
 『新臨床腫瘍学』は,臨床腫瘍学における本格的な教科書として,日本臨床腫瘍学会(JSMO)みずからが腫瘍内科やがん診療に携わる関係者のために編集している.「がん薬物療法専門医のために」とサブタイトルが付けられているが,専門医研修カリキュラムのパンフレットをイメージしていただいては困る.700頁を超える大冊であり,3年ごとに版を重ねたこの書籍は本邦の臨床腫瘍学のstate-of-artそのものである.
 私は,JSMO発足(2003年)の前の研究会時代から関わらせてもらっているが,当時の学会にとっては,専門医制度発足と教科書の発刊は,いわば橋頭堡ともいうべき事業であった.当時の大学病院ではナンバー内科から臓器別診療科への大きな流れがあり,臨床腫瘍という臓器に横串を通す動きは,すんなりと受け入れられたわけではなかった.さらに既存学会のなかで,新興であるJSMOがどのようなアイデンティティを有するのか,あるいは有すべきか,侃々諤々の議論が理事会で繰り返されたものである.この20年間で,専門医ががん薬物治療という点に根ざしつつ内科サブスペシャルティ「腫瘍内科」へと発展しつつあることは,JSMOにとっても新たな展開となるのであろうか.
 さて,話を『新臨床腫瘍学』へ戻そう.この教科書の第一の大きな特徴は,がんのバイオロジーや薬物治療だけでなく,疫学・予防,臨床試験,診療体制,遺伝カウセリングなど,今日のがん診療を取り巻くさまざまな問題についての記述が充実していることである.そのため,総合的かつ臓器横断的な理解が得られやすく,さらにはがん診療が臨床試験,先端医療,精神診療などとも密接に関わることを再認識させてくれる.またAYA(adolescent and young adult;思春期・若年成人)や超高齢者などライフステージによる診療のあり方,緩和の考え方や具体的対応,がんサバイバーシップなど,国が進めるがん対策も適切に取り込んでおり,これまでの内科学の教科書とは似て異なることが明らかである.二番目は,JSMO が主導する執筆体制である.編集委員会が全体的な方針や項目立て・執筆者の選定を行い,現役バリバリの専門医たちが記述し,それを査読委員会が丹念にチェックするという初版以来のスタイルを守っている.分量の制限や執筆陣の確保は編集側にとっては頭の痛い問題であるが,さすがJSMOである.過去の版を踏襲するところと変更すべきところのバランスにも気を使っている.
 構成は大きく,「T.がんの生物学」「U.臨床腫瘍学の基礎」「V.臨床腫瘍学の実践」の三章からなっている.T章ではがんゲノムや最新の分子解析の記述も増えた.U・V章では項目の入れ替えや記述のアップデートがこまめに行われている.また希少がんや腫瘍循環器学などの新しい項目が追加された.基礎とすべきか実践とすべきか悩ましい項目もあ る.たとえばMSI‒high固形がんが実践のなかの臓器別がんの後に出てくるが,これは基礎へ入れてもよいように感じた.また全体的にもう少しカラーページを増やして読者フレンドリーにするとよいかもしれない.
 本書はがん薬物療法(腫瘍内科)専門医を目指す若手医師はもちろん,さらっと目を通し専門外の領域に関する知識をアップデートする,あるいはちょっとした調べ物をするというシニア層にも有用である.私がとくに勧めたい対象は医療スタッフや臨床開発に携わる関係者である.薬学・看護・検査などさまざまな背景を有する多様な人々が,まず共有し たい知識のベースとしてこの本を利用できるのではなかろうか.

臨床雑誌内科128巻5号(2021年11月号)より転載
評者●国立病院機構名古屋医療センター 名誉院長 直江知樹

9784524227396