書籍

ラパコレを究める

技術認定を目指す標準手技,困難例を制すBailout手技(Web動画付)

編集 : 森俊幸/梅澤昭子
ISBN : 978-4-524-22665-8
発行年月 : 2020年10月
判型 : B5
ページ数 : 128

在庫あり

定価7,700円(本体7,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)は、外科医にとって入門的かつ応用力を問われる奥の深い手術である。本書は豊富な写真とWeb動画により、技術認定審査で重要なポイントを強調した標準手技と困難例への対処法を解説。非定型的な手術を余儀なくされる困難例に関しては、bailout(緊急回避)の判断と注意点、非定型的ラパコレ時のトラブルシューティングまでを網羅。一筋縄ではいかない事態に直面しても安全に手術を完遂する“引き出し”を増やせる、最高の指南書である。

I 腹腔鏡下胆嚢摘出術〜技術認定取得のためのポイント〜
 1.胆摘術は術野展開がすべて
  動画1 胆嚢挙上
  動画2 胆嚢頸部周囲確認
  動画3 肝鎌状間膜挙上
  動画4 胆嚢頸部周囲漿膜剥離
  動画5 胆嚢頸部周囲剥離
 2.critical view of safety(CVS)を極める
  動画6 胆嚢背側の処理
  動画7 後期研修医による胆嚢背側の処理
  動画8 後期研修医による胆嚢背側の処理
  動画9 胆嚢腹側の処理
  動画10 後期研修医による胆嚢腹側の処理
  動画11 後期研修医による胆嚢腹側の処理
 3.胆嚢管・胆嚢動脈の処理
  動画12 後期研修医による胆嚢管および胆嚢動脈の処理
 4.胆嚢剥離・回収の極意倉内宣明
  動画13 ss-iの露出
  動画14 胆嚢体部〜底部での剥離手技
  動画15 炎症の強い症例での剥離手技
  動画16 胆嚢穿刺とpigtailカテーテル
  動画17 胆嚢動脈未処理枝出血の処理
  動画18 胆嚢底部を付着させたままの洗浄・止血・ガーゼ抜去
  動画19 回収およびポート抜去部止血確認まで
II 困難例〜いわゆるdifficult gallbladderとは?〜
 1.頸部嵌頓結石,急性壊疽性胆嚢炎
 2.慢性胆嚢炎,萎縮胆嚢
 3.Mirizzi症候群,胆嚢消化管瘻
III 非定型的手術手技とは? どんな危険が? 回避できる? 注意点は?〜腹腔鏡下手術だけではありません,開腹手術も同様です〜
 1.非定型的手術手技・bailout総論
 2.非定型的手術手技はこう使う!
  a.胆嚢頸部切開
   動画20 胆嚢穿刺
   動画21 fundus first technique
   動画22 胆嚢頸部切開
   動画23 胆嚢頸部縫合閉鎖
  b.fundus first technique
   動画24 展開不良な胆嚢頸部の壊疽性胆嚢炎所見
   動画25 fundus first technique
   動画26 胆嚢背側面の漿膜切開
   動画27 胆嚢動脈の切離
   動画28 胆嚢亜全摘
  c.胆嚢亜全摘
   動画29 炎症全処理
   動画30 炎症全処理
   動画31 総論 亜全摘
   動画32 総論 胆嚢底部
   動画33 胆嚢壁閉鎖術
   動画34 胆嚢床易出血瘢痕
   動画35 縫縮術
   動画36 胆嚢壁閉鎖術
  d.胆嚢壁を遺残させるのはこんなとき
   動画37 走行異常合併例における胆嚢頸部側の剥離
   動画38 高度炎症例における亜全摘への変更
   動画39 高度炎症例における亜全摘への変更
   動画40 高度炎症例における縫合閉鎖
   動画41 合流部結石の摘除
   動画42 結石摘除後の閉鎖部パッチ補強
IV 非定型的胆摘時のトラブルシューティング
 1.止血困難な出血
  動画44 胆嚢動脈損傷
  動画45 圧迫止血
  動画46 出血点の同定
  動画47 縫合止血
  動画48 中肝静脈損傷
  動画49 胆嚢床側に胆嚢壁を残す胆嚢亜全摘術
 2.太い胆管を損傷したかもしれない
  動画50 胆嚢管との誤認による総胆管損傷例
 3.肝血流が悪い?
 4.胆嚢床から胆汁が漏出してきた
  動画52 胆嚢床からの剥離操作
  動画53 クリップをかけて切離した胆管枝と思しき索状物
  動画54 術中の胆汁漏
  動画55 胆汁漏に対する再手術および造影検査
  動画56 胆汁漏に対する再手術・縫合閉鎖
 5.胆嚢消化管瘻? 術中消化管損傷?
索引

序文

 腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)は消化器外科を学ぶ多くの医師にとり、最初に取り組む腹腔鏡下手術である。多くの消化器外科医がラパコレをスタートポイントとし、術野展開のアイデアや鉗子操作の基本を学んでいる。一方、ラパコレは必ずしも安全な手術とは言えず、National Clinical Database(NCD)からの報告(2011〜2016年)では、胆摘全体で手術死亡率(術後30日以内死亡)が0.18%(986/558,283例)、ラパコレに限っても0.08%(388/490,300例)とされている。ラパコレの手術死亡には大別して2つの原因がある。1つは、ラパコレに特徴的な術中胆道損傷やそれに続く合併症であり、もう1つは胆摘困難例における周囲臓器損傷や血管損傷に起因する合併症である。術中胆道損傷は日本内視鏡外科学会(JSES)アンケート調査結果でも、症例の0.63%(958/152,213例;2011〜2017年集計)に起こり、現在でも重大な問題である。
 1990年代から議論されてきたラパコレの術式の標準化は、いかに術中胆道損傷を減らすかが最大の目的である。安全なラパコレに関する多様な議論は現在critical view of safety(CVS)を中心としたコンセプトに収束してきている。Strasbergを中心として作られたSAGESのRecommendationやTokyo Guidelines 2018のSafe Stepsも本質的には同様であり、JSESの技術認定審査でもこの遵守や効率的達成を審査している。
 一方、ラパコレの技術的難度は、容易なものから腹腔鏡下手術では完遂するのが困難な症例まで、種々の程度のものがある。いわゆるdifficult gallbladderでは上記のCVS達成が困難であり、新たなアプローチが必要となる。合併症を回避する観点から、CVS達成困難例ではbailout手術に変更する判断や、その方法の選択が重要である。
 以上の現状から、本書籍が企画されることとなった。すなわち、
 (1)現時点の標準術式に関するCVSを中心とする合意や、剥離層や展開法に対する技術審査委員会のコンセンサスを提示することにより、技術認定審査に応募しようとする医師に、審査では何が求められているかを伝えること
 (2)標準的手術が困難な症例をどのように判断しどのように対処するかを提示することである。
 (2)に関しては、一定の同意があるものではないので、各著者により多少のニュアンスの違いがあるが、いずれも患者安全という視点から書かれている。また本書をよりpracticalなものとするため、出血への対処法や胆道・周囲臓器損傷の対処法などにも章を設けた。
 本書により、ラパコレの標準術式、bailout手術ともにより安全なものとなってほしいと願っている。

2020年10月
森俊幸、梅澤昭子

 30年の時を経て、さまざまな疾患で内視鏡外科が標準治療として認知されるようになった。その火付け役となったのが、腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)である。ラパコレは、あらゆる手術が低侵襲に向かうという現実をわれわれに突き付けた。そして、ラパコレを知った外科医の熱情が、内視鏡外科の適応を拡大させていったのである。こうしてラパコレは、消化器外科の専門医が習得すべき基本的な手術手技として定着した。しかし、ラパコレの合併症に伴う手術死亡はいまだに0.1%程度ある。日本内視鏡外科学会は安全な内視鏡外科の普及を目指し、技術認定制度を2004年に開始した。この制度が定着していく過程で、手技の定型化と教育の充実がすすめられ、外科医のある種の目標に内視鏡外科技術認定医が位置付けられるようになった。この背景のもと、本書に「技術認定を目指す標準手技」という魅力的な副題がつけられたのであろう。ラパコレには視野展開、剥離、血管処理などさまざまな内視鏡外科の基本手技が凝縮されている。また、炎症のない症例も多く、初心者にとって内視鏡外科の基本を身につけるのに絶好の手技である。
 第I章に視野の展開とcritical view of safety(CVS)の出し方が詳述されている。内視鏡外科の安全性を担保するには、視野展開がきわめて重要である。術中の剥離の部位、方向、強弱、そして解剖の確認すなわちCVSにいたる手技は作法として定型化されている。本書では図と動画を多用して、これらすべての手順がわかりやすく丁寧に記され描出されている。もちろん炎症の程度、肥満度、血管/胆管の走行によって臨機応変な対応が求められるが、出血を回避して作法のとおり行えば、血管/胆管は自ずと露出され処理できる。そして最後に胆嚢の剥離であるが、ここでも定型的手技のみならず炎症の強いもの、胆嚢穿刺法やpigtail catheterなど胆嚢の剥離・回収に纏わる手技が紹介されている。
 第II章には困難例の対応が網羅されている。困難例として代表的な嵌頓結石、高度胆嚢炎、Mirizzi症候群、胆嚢消化管漏の手術手技が次々紹介される。そして圧巻の第III章では「困難例を制すBailout手技」という非定型手技の詳述へと続く。この章では胆嚢頸部切開、fundus first technique、胆嚢亜全摘、胆嚢壁遺残の判断について実例をもとに再び動画で解説される。さらに第IV章のトラブルシューティングに続く。驚くことに術中出血、胆管損傷、虚血肝、胆汁漏出のすべてを実録トラブルシューティングとしてみることができる。
 本書には、ラパコレのすべてが詳細な解説とともに動画を添えたかたちで詰まっているのである。実臨床にそのまま応用できるこのような労作は、本書をおいて世界中どこを探してもないに違いない。企画編集された森俊幸、梅澤昭子両先生に深甚なる敬意を表し、執筆者の方々のご尽力を心から称えたい。そして、ラパコレに携わるすべての外科医が、本書を手に「ラパコレを究める」ことを切望する。

臨床雑誌外科83巻2号(2021年2月号)より転載
評者●北里大学北里研究所病院院長 渡邊昌彦

9784524226658