書籍

機能性消化管疾患診療ガイドライン2020−過敏性腸症候群(IBS)改訂第2版

編集 : 日本消化器病学会
ISBN : 978-4-524-22658-0
発行年月 : 2020年6月
判型 : B5
ページ数 : 132

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本消化器病学会編集による診療ガイドライン。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて記載。CQではエビデンスレベルと推奨の強さを提示。IBS診療における、疫学、病態・定義・分類、診断、治療、予後・合併症等について、エビデンスに基づき現時点の標準的な指針を示す。

クエスチョン一覧
第1章 疫学・病態
 BQ1-1 IBSの有病率は増加しているか?
 BQ1-2 感染性腸炎後IBS(post-infectious IBS:PI-IBS)の有病率とリスク因子は?
 BQ1-3 IBSの病態にストレスが関与するか?
 BQ1-4 IBSの病態に腸内細菌・粘膜透過性亢進・粘膜微小炎症が関与するか?
 BQ1-5 IBSの病態に神経伝達物質と内分泌物質が関与するか?
 BQ1-6 IBSの病態に心理的異常は関与するか?
 BQ1-7 IBSの病態に遺伝が関与するか?
 BQ1-8 分類(C,D,M,U)によって病態が異なるか?
第2章 診断
 BQ2-1 IBSの診断にRomeIV基準は有用か?
 CQ2-1 IBSの診断に大腸内視鏡検査は必須か?
 CQ2-2 IBSの鑑別診断に大腸内視鏡検査以外の臨床検査は有用か?
 CQ2-3 IBSの存在診断に大腸内視鏡検査以外の臨床検査は有用か?
 CQ2-4 IBSの経過観察に臨床検査は有用か?
第3章 治療
 CQ3-1 IBSに食事指導・食事療法は有用か?
 CQ3-2 IBSに食事以外の生活習慣の改善・変更は有用か?
 CQ3-3 IBSに高分子重合体,食物繊維は有用か?
 CQ3-4 IBSに消化管運動機能調節薬は有用か?
 CQ3-5 IBSに抗コリン薬は有用か?
 CQ3-6 IBSにプロバイオティクスは有用か?
 CQ3-7 IBS-Dに5-HT3拮抗薬は有用か?
 CQ3-8 IBS-Dに止痢薬は有用か?
 CQ3-9 IBS-Cに粘膜上皮機能変容薬は有用か?
 CQ3-10 IBS-Cに胆汁酸,胆汁酸トランスポーター阻害薬は有用か?
 CQ3-11 IBS-Cに5-HT4刺激薬は有用か?
 CQ3-12 IBS-Cに非刺激性下剤は有用か?
 CQ3-13 IBS-Cに刺激性下剤は有用か?
 CQ3-14 IBSに抗うつ薬は有用か?
 CQ3-15 IBSに抗不安薬は有用か?
 CQ3-16 IBSに心理療法は有用か?
 CQ3-17 IBSに漢方薬は有用か?
 CQ3-18 IBSに抗アレルギー薬は有用か?
 CQ3-19 IBSに抗菌薬は有用か?
 CQ3-20 IBSに補完代替医療は有用か?
 CQ3-21 IBSに麻薬およびその類似薬は有用か?
 CQ3-22 IBSの症状を有する者を放置しないこともしくは治療中断しないことは有用か?
 FRQ3-1 IBSに抗精神病薬・気分安定化薬は有用か?
 FRQ3-2 IBSに便移植は有用か?
 FRQ3-3 IBSには重症度に応じた治療が有用か?
第4章 予後・合併症
 BQ4-1 IBSの生命予後,QOLや受療行動への影響は?
 BQ4-2 IBSの消化管合併症とは?
 BQ4-3 IBSの消化管外合併症とは?

刊行にあたって

 日本消化器病学会は、2005年に跡見裕理事長(当時)の発議によって、Evidence-Based Medicine(EBM)の手法にそったガイドラインの作成を行うことを決定し、3年余をかけて消化器疾患(胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、肝硬変、クローン病、胆石症、慢性膵炎)のガイドライン(第一次ガイドライン)を上梓した。ガイドライン委員会を積み重ね、文献検索範囲、文献採用基準、エビデンスレベル、推奨グレードなどEBM手法の統一性についての合意と、クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など、基本的な枠組み設定のもと作成が行われた。ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)を重要視し、EBM専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員のCOIを公開している。菅野健太郎理事長(当時)のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として継続されたガイドライン作成は、先進的な取り組みであり、わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価される。
 第一次ガイドラインに次いで、2014年に機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸症候群(IBS)大腸ポリープ、NAFLD/NASHの4疾患についても、診療ガイドライン(第二次ガイドライン)を刊行した。この2014年には、第一次ガイドラインも作成後5年が経過するため、先行6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行われた。改訂版では第二次ガイドライン作成と同様、国際的主流となっているGRADE(The Grading of Recommendations Assessment、Development and Evaluation)システムを取り入れている。
 そして、2019〜2021年には本学会の10ガイドラインが刊行後5年を超えることになるため、下瀬川徹理事長(当時)のもと、医学・医療の進歩を取り入れてこれら全てを改訂することとした。2017年8月の第1回ガイドライン委員会においては、10ガイドラインの改訂を決定するとともに、近年、治療法に進歩の認められる「慢性便秘症」も加え、合計11のガイドラインを本学会として発刊することとした。また、各ガイドラインのCQの数は20〜30程度とすること、CQのうち「すでに結論が明らかなもの」はbackground knowledgeとすること、「エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるもの」はfuture research question(FRQ)とすることも確認された。
 2018年7月の同年第1回ガイドライン委員会において、11のガイドラインのうち、肝疾患を扱う肝硬変、NAFLD/NASHの2つについては日本肝臓学会との合同ガイドラインとして改訂することが承認された。前版ではいずれも日本肝臓学会は協力学会として発刊されたが、両学会合同であることが、よりエビデンスと信頼を強めるということで両学会にて合意されたものである。また、COI開示については、利益相反委員会が定める方針に基づき厳密に行うことも確認された。同年10月の委員会追補ではbackground knowledgeはbackground question(BQ)に名称変更し、BQ・CQ・FRQと3つのQuestion形式にすることが決められた。
 刊行間近の2019〜2020年には、日本医学会のガイドライン委員会COIに関する規定が改定されたのに伴い、本学会においても規定改定を行い、さらに厳密なCOI管理を行うこととした。また、これまでのガイドライン委員会が各ガイドライン作成委員長の集まりであったことを改め、ガイドライン統括委員会も組織された。これも、社会から信頼されるガイドラインを公表するために必須の変革であったと考える。
 最新のエビデンスを網羅した今回の改訂版は、前版に比べて内容的により充実し、記載の精度も高まっている。必ずや、わが国、そして世界の消化器病の臨床において大きな役割を果たすものと考えている。
 最後に、ガイドライン委員会担当理事として多大なご尽力をいただいた榎本信幸理事、佐々木裕利益相反担当理事、研究推進室長である三輪洋人副理事長、ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生、刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい。

2020年4月
日本消化器病学会理事長
小池和彦

 日本消化器病学会から、日本消化管学会、日本神経消化器病学会、日本心身医学会の協力を得て、『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020(改訂第2版):過敏性腸症候群(IBS)』が発刊された。昨今、生命予後には影響は少ないがQOLを著しく損なうとされるIBSの診断・治療の標準となるもので、2014年に刊行されたガイドラインの改訂版である。
 そもそもガイドライン(指針ないし指標)の目的とは、基準(standard;最低限満たすべき義務的ルール)、ガイダンス(guidance;基準や指針を補足・補完する手引き)とは異なり、「医師の間で、統一・単純化を図る目的で、医師(そして患者)に利便性、利益が公正に得られるように、プロフェッショナル集団である学会が標準的な診断法、治療法を策定し、医師に推奨すること」にある。したがって、文頭に記載されているように、臨床現場の意思決定を縛るものではなく、単に支援するものであるが、本書では、診断・治療の標準を示す背景としてIBSの疫学、病態、および予後・合併症にまで言及していて、医師にとって利便性が非常に高いものになっている。
 実は、IBSは世界での患者数の増加がいわれてきたが、有病率は7〜15%と過去30年変化がなく、またノロウイルスなどの感染性腸炎後の発症率は6〜7倍高く、ストレスがお腹の働きに関与する脳腸相関が病態生理に密接に関与しており、さらに、腸内細菌・粘膜透過性亢進・粘膜の微小炎症、セロトニンなどの神経伝達物質や副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンなどの内分泌物質、また心理的異常、遺伝が病態に関与することが本書により示された。IBS、胃食道逆流症(GERD)、機能性ディスペプシア(FD)のオーバーラップ例が約40%もあり、多くの消化管内(炎症性腸疾患(IBD)など)・外(うつ病や認知症、Parkinson病など)の疾患を合併することも明示された。これらの記述は、メタ分析やランダム、コホート、ケースコントロールなどが各々明示された引用文献の網羅的検索により得られた最新の成果であり、EBMに則って診療を行うべき医療職には相当利便性が高い本となった。
 IBSの診断にはRome IV基準が有用であり、大腸内視鏡検査以外の臨床諸検査は他疾患の除外のため、経過観察中にも強く推奨される。IBS症状を誘発しやすい食品は摂取を控えるのがよく、運動療法や高分子重合体、食物繊維摂取は弱いながらも推奨され、消化管運動機能調節薬、抗コリン薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬、ラクツロース、抗うつ薬や抗不安薬、漢方薬、抗菌薬、さらに鍼治療などの補完代替医療は有用であり使用が提案された。とくに、プロバイオティクス、5-HT3拮抗薬、ルビプロストンなどの粘膜上皮機能変容薬、抗アレルギー薬、さらに瞑想やヨガなどの心理療法は大変有用であり、多くのエビデンスのもとに強く推奨されている。
 本書には多数の国内外の文献を丹念に検討し尽くした結果が提示され、有用性に関する推奨の強弱、エビデンスの質評価はきわめてわかりやすい。本ガイドラインの作成委員、評価委員、作成協力者の労を高く評価したい。

臨床雑誌内科126巻6号(2020年12月号)より転載
評者●順天堂大学 名誉教授・特任教授 佐藤信紘

9784524226580