書籍

IBSの診かたでお困りですか? 内科外来診療術

  • 新刊

: 田中由佳里
ISBN : 978-4-524-22635-1
発行年月 : 2020年12月
判型 : A5
ページ数 : 188

在庫あり

定価2,860円(本体2,600円 + 税)


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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

困っている患者さんが多いにもかかわらず、「病因が複雑」「確定診断が難しい」「機能性疾患ってよくわからない」といった理由でついつい避けてしまいがちな過敏性腸症候群(IBS)の診療をやさしく解説。日頃多数のIBS患者を診ている著者が、最新の情報を踏まえた病態生理から、診断の手順、薬剤選択の考え方、IBS患者との向き合い方など、実際の臨床で役立つtipsを読み物風に紹介する一冊。

病態生理
 1 過敏性腸症候群(IBS)とはどんな疾患?
  過敏性腸症候群(IBS)とはどんな疾患?
  IBS患者は約6人に1人,若い人に多い
  発症のメカニズムは?
 2 なぜストレスがかかるとおなかを壊す?
  ストレス関連ホルモン:視床下部−下垂体−副腎皮質軸
 3 ストレス関連ホルモンは生物のアラートシステム?
  CRHは危機対応ホルモン!?
  人間社会とIBS
 4 脳と腸の神経交通網
  消化管と神経?
  IBSでは内臓知覚が亢進
  そして脳から腸への下行性神経
  腸と脳をつなぐ自律神経
 5 消化管粘膜では何が起こっている?
  IBS患者の消化管管腔は健常者と異なるらしい
  セロトニンの放出から神経刺激
  肥満細胞の伝達機構
  免疫関連物質と消化管粘膜
 6 食事の後のIBS腹部反応:刺激を分解してみよう
  IBSの食事後腹部症状「post-prandial symptoms」
 7 遺伝子研究最前線
  最近の遺伝子研究,手法の進化
  IBSと遺伝子多型
  IBSの網羅的解析の研究でみえてきたのは
 8 腸内細菌はIBSに関連しているの?
  腸内細菌とヒトの体:分類階級も知っておくべし
  腸内細菌の話をするときは,分類のレベルに注意
  IBSと腸内細菌
IBS診断・治療ストラテジー
 9 IBS?まずは器質的疾患の除外から
  例:半年以上続く「腹痛,下痢」が主訴の30歳,病院初診患者
 10 内視鏡検査はしたほうがいいの?(器質的疾患除外編)
  実は細菌性腸炎だった,ということも
  Collagenous Colitisもぜひ鑑別しておきたい
  施設の状況に応じて,検査順番の組み立てを
 11 内視鏡検査はしたほうがいいの?(消化管機能を「感じる」)
  「動き」と「感覚」は貴重な情報
  鎮静下内視鏡検査のススメ
 12 腹部エックス線像は情報の宝庫
  撮像タイミングで腹部画像は変化することも
  便が大腸にたまっているか,上行・下行結腸,さらに直腸ではどうか
  コロコロ便,もしくは水様便がみえるか
  大腸が狭窄まではいかないけど細い場合
 13 精神症状が影響していそう内科外来でどうすれば?
  IBSはメンタル疾患?
  「眠れていますか?」と聞いてみる
  IBSと過干渉,虐待:「なんか違うなあ」と感じたら
 14 性別も含めた問診のピットフォール
  肛門関連の話は出てきにくい
  婦人科系疾患除外も頭の片隅に
  検診情報も時に重要
 15 小児のIBS疑いをみたら
  登校拒否かどうかは慎重に
  小児IBSを疑うときの診察・検査
  小児外科的疾患も鑑別に
  たまにみられる内分泌異常
 16 基軸となる薬剤の選定
  症状を因数分解
  まずは軸となる薬の選別
  薬剤間の比較
 17 もう少し薬剤を調整したい
  さあ次はどうするか
  基本的には抗コリン薬に頼りすぎない,でも時に有用なことも
  高分子重合体はおむつの吸水ポリマーをイメージして使う
  消化管運動改善薬
  プロバイオティクス
  漢方薬
  サブタイプ別の便性状調整
  精神科系薬剤について
 18 便秘と便秘型IBSに混乱.見分けるポイントは?
  「便秘」の治療がうまくいかない:機能性便秘と便秘型IBS
  歯磨き粉チューブに例えるなら
  便秘型IBSに腸管運動を促進する薬剤は悪影響なことも
 参考症例集
臨床Q&A
 19 IBSのために,仕事や学校に支障が出ています
  IBSとQOL
  仕事や学校など日常生活に,IBSが大きく影響してしまうことも
 20 IBSに悪い食事ってある?
  患者の「自己解釈」
  IBSと食べ物で知っておきたいこと
 21 睡眠はIBSに関係しますか?
  睡眠不足だとIBS症状が出やすい?「脳(神経)」の観点からIBSと睡眠をみてみる
  セロトニンとメラトニン
  交感神経活動と睡眠・IBS
 22 感染性腸炎後も腹痛と下痢が続くのですが
  細菌性腸炎後にIBS症状が遷延することがある
  PI-IBSの定義
  PI-IBSの概念が広く知られるきっかけになったWalterton水害
 23 IBSは遺伝するの?
  双子研究でみえてきたこと
  「遺伝的要因,環境的要因が影響し合う」って?
 24 月経前におなかが痛くなりやすい?
  性ホルモンはコルチゾールと関連がある?
 25 痔がつらいんです
  そもそも「痔」の有病率は?
  実はIBSでも痔で悩む人はけっこういる
  外来でさらっと一言
  実はOTCで相当売れている痔核の薬
 26 ITを使ったIBSサポートを目指して
  スマホアプリ「おなかナビ」
  玉石混交のウェブ情報と,それに助けられた1人の高校生
  「おなかナビ」のリリース,24時間いつでもどこでも
  さらに「おなか手帳」アプリへ
  今後のITと医療,リアルタイムで起こる世界の大変革
あとがき
索引

まずはじめに:本書の目的と構成

 あるとき、過敏性腸症候群irritable bowel syndrome(IBS)の話になり、とある消化器内科医から言われた言葉です。山に霧がかかっていると、遠くから見るぶんには「あそこにある」ってわかる。朝に霧がかかることが多いのは経験上知っているんだけど、明日朝どれくらいの確率で霧が出るのか、どんな気候条件がそろうと出てくるのか自分ではしっかりと説明できない…。実際に近寄ると、先が見通せないため、進む方向に迷い、歩いているようでいて無駄な動きをしてしまうこともある。その上、霧の中にいると、これから雨が降るのか、霧が晴れていくのかわからない…。
 それを話してくれたのは、内視鏡治療のエキスパートでもあり、いわゆる「消化器内科」の王道を行く先生です。この「感覚」は、日常診療で消化管や一般内科をご専門にする先生の印象と近いのではないでしょうか。
 「トイレに駆け込むほど切羽詰まった腹痛が出て、トイレで唸りながら水様便か硬便を出す。出してしまえば(時に数回行き来することもありますが)、その後のスケジュールは通常どおりこなせる。これが週に1回以上、数ヵ月以上(時に年単位)続いている。」
 このような訴えはよく耳にするかと思います。しかし、いざ細かく診ていくと、困っていそうだけど緊急的な疾患とは考えにくいし、一般的な検査を行っても大した所見がなさそうで…。そこで再度問診すると、どうもストレスが関連していそうな話が出てきて「さて、内科でこのまま進めていいのだろうか」と。この本の主な読者である研修医や、内視鏡を触りたての消化器専攻医の先生方は、日常では救急疾患の鑑別や内視鏡所見の勉強に明け暮れているかと思います。そのような中「慢性腹痛」という症候を前にして、消化管や胆膵以外の腹部臓器、さらに腹部以外の原因も考慮した鑑別疾患をあげていくことは、時に混乱し、困難を極めることもあるでしょう。
 そこで本書は、消化器内科医や一般内科医、つまり臓器の観点から診察を行う医師に向けて、機能性消化管疾患、中でも患者数がとても多いとされるIBSについて、実臨床で役立つ知識のほか、病態についてもご理解いただけるよう作成しました。これらについては、論文からの引用をベースに話を進めながら、ROME Bookやガイドライン本に書いてある基本事項について、臨床場面をイメージしやすいよう、あえて例示や噛み砕いて書いている部分もあります。もし興味のある内容があれば、ぜひ深掘りしていただければと思います。

●過敏性腸症候群(IBS)のガイドライン
 IBSについて、診断のガイドラインがあります。まず病態の詳細を説明する前に、疾患の定義についてご説明します。
 過去にさまざまな診断基準が用いられていましたが、それらの統一をはかるため、1992年に国際基準としてRome I基準が発表されました。RomeIIを経て、2006年にRome III基準が、そして2016年にRome IV基準が発表されました。これまで英語で書かれたROME Bookのみがオフィシャルの情報源でしたが、日本消化器病学会から『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020過敏性腸症候群(IBS)』、さらに日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会から『慢性便秘症診療ガイドライン2017』が出版されました。
 これらの本には、世界レベルのエビデンスをもとに、病態生理や疫学、治療などの情報も書かれており、この分野にご興味がある方にはぜひ一読をおすすめします。日本語版などの多くのガイドラインが出てきた背景として、2010年頃からIBSや慢性便秘症に使用できる薬剤が相次いで登場するなど格段に治療手段が増えてきたこと、また一般市民への認知度の上昇、医療現場でのニーズの高まりがあります。
 一方で、これら薬剤の使い方や組み合わせ方、また診断に至るまでのストラテジーについては、まだまだ難しさがあります。あくまで患者の自覚症状や状態をベースにした診断基準のため、数多の鑑別疾患の中から機能性消化管疾患と診断するには、不安や迷いが出るとの声もあります。さらに、便秘について、Rome IVでは「便秘型IBS」と「機能性便秘」が分かれていますが、Rome IVの腸障害スペクトラムより、わが国では同じ「慢性便秘症」として取り扱うことが可能であると考えられています。この点の病態差異や薬剤処方についても時々質問を受けることがあります。
 そこで、本書では臨床で「慢性腹痛、便性状異常」などの患者に出会った場面をスタートに、診療の流れに沿って話が展開するように構成を心掛けました。
 興味にあわせて、好きな箇所から読んでいただいてももちろん構いません。ぜひ本書を通じて、機能性消化管疾患、中でもIBSに興味を持っていただけましたら幸いです。