書籍

HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

HTLV-1陽性関節リウマチ&HTLV-1陽性臓器移植 診療の対応を含めて

監修 : 日本神経学会/日本神経治療学会/日本神経免疫学会/日本神経感染症学会/日本HTLV-1学会/日本移植学会
ISBN : 978-4-524-22634-4
発行年月 : 2019年6月
判型 : B5
ページ数 : 214

在庫あり

定価4,730円(本体4,300円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本神経学会、日本神経治療学会、日本神経免疫学会、日本神経感染症学会、日本HTLV-1学会、日本移植学会監修による、エビデンスに基づいたオフィシャルなHTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン。本ガイドラインは4つのCQと、臨床上問題となりうる実践的なQ&Aで構成され、HAMとその関連疾患の疾患概念、疫学といった基礎的な内容から、検査・診断、治療について解説し、今後のHAM診療の指針を示している。

神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって

本ガイドラインの基本理念および概要
HAMの診療の流れ
 HTLV-1感染の診断のためのフローチャート
 HAMの診断アルゴリズム
 HAMの治療アルゴリズム
CQダイジェスト
本ガイドラインで用いる主な用語および略語
第1章 HAMやHTLV-1陽性患者の診療における基本情報
 1.HTLV-1について
  1.1.HTLV-1とは
  1.2.HTLV-1の疫学・感染経路
  1.3.HTLV-1感染の診断と告知
   1.3.1.HTLV-1感染診断の考え方
   1.3.2.HTLV-1感染診断の実際
   1.3.3.留意事項
   1.3.4.感染の告知
   1.3.5.HTLV-1キャリアから出生した児への対応
  1.4.HTLV-1キャリアの診療方法や検査について
   1.4.1.問診
   1.4.2.診察・検査
   1.4.3.説明
  1.5.HAM以外のHTLV-1と関連する疾患の概要
   1.5.1.成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)
   1.5.2.HTLV-1ぶどう膜炎/HTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)
   1.5.3.シェーグレン症候群
   1.5.4.関節炎・関節リウマチ
   1.5.5.HTLV-1感染者にみられる肺病変
  1.6.HTLV-1感染者におけるATLスクリーニング検査の方法について
  1.7.臓器移植におけるHTLV-1のリスクについて
   1.7.1.臓器移植におけるHTLV-1感染症の現在の位置づけ
   1.7.2.臓器移植におけるHTLV-1関連疾患発症のリスク
   1.7.3.腎移植におけるHAM発症のリスクについて
   1.7.4.臓器移植におけるHTLV-1感染への対応
 2.HAMについて
  2.1.疾患概念・疫学・要因
   2.1.1.疾患概念
   2.1.2.疫学
   2.1.3.要因
  2.2.病理・病態
   2.2.1.HAMの病理
   2.2.2.HAMにおける感染細胞の特徴
   2.2.3.HAMにおける炎症慢性化機構
  2.3.診断基準(HAM)
   2.3.1.厚生労働省研究班の診断基準
   2.3.2.Belemの診断基準
  2.4.検査
  2.5.画像所見
  2.6.症状・症候
   2.6.1.運動障害
   2.6.2.感覚障害
   2.6.3.排尿障害と便秘
   2.6.4.自律神経障害
  2.7.初期症状(HAMを見逃さないために)
  2.8.重症度分類基準(臨床的重症度評価指標)
   2.8.1.運動障害重症度評価指標
   2.8.2.排尿障害重症度評価指標
   2.8.3.感覚障害重症度評価指標
  2.9.経過・予後
  2.10.予後不良因子
  2.11.疾患活動性分類基準
  2.12.薬物治療
   2.12.1.HAMの治療薬
   2.12.2.疾患活動性に応じた治療法
   2.12.3.対症療法
  2.13.薬物治療の副作用対策
   2.13.1.副腎皮質ステロイド
   2.13.2.インターフェロンα
  2.14.運動療法(リハビリテーション)
   2.14.1.機能障害(impairment)の進行予防
   2.14.2.運動療法の必要性
   2.14.3.適切な運動療法
   2.14.4.補装具の必要性
   2.14.5.運動療法の今後の展望
  2.15.神経因性膀胱の検査と治療
   2.15.1.神経因性膀胱の検査
   2.15.2.神経因性膀胱の治療
  2.16.注意すべき合併症とその治療
   2.16.1.尿路感染症
   2.16.2.ATL
   2.16.3.深部静脈血栓症
  2.17.社会福祉支援
  2.18.患者会情報
  2.19.災害時の対応
  2.20.HAM患者レジストリ(HAMねっと)
  2.21.関連情報サイト
  2.22.研究班による診療支援
   2.22.1.ホームページの開設
   2.22.2.各種検査
第2章 HAM診療のCQと推奨
 CQの設定と推奨の作成方法
 CQ1.成人HAM患者において,ステロイド内服治療は推奨されるか
  1.背景,この問題の優先度
  2.解説
  3.パネル会議
  4.関連するほかの診療ガイドラインの記載
  5.治療のモニタリングと評価
  6.今後の研究課題(Future research question)
 CQ2.成人HAM患者において,インターフェロンα治療は推奨されるか
  1.背景,この問題の優先度
  2.解説
  3.パネル会議
  4.関連するほかの診療ガイドラインの記載
  5.治療のモニタリングと評価
  6.今後の研究課題(Future research question)
 CQ3.成人HAM患者において,抗レトロウイルス薬(逆転写酵素阻害薬)は推奨されるか
  1.背景,この問題の優先度
  2.解説
  3.パネル会議
  4.関連するほかの診療ガイドラインの記載
  5.治療のモニタリングと評価
  6.今後の研究課題(Future research question)
 CQ4.成人HAM患者において,ステロイドパルス療法は推奨されるか
  1.背景,この問題の優先度
  2.解説
  3.パネル会議
  4.関連するほかの診療ガイドラインの記載
  5.治療のモニタリングと評価
  6.今後の研究課題(Future research question)
第3章 HAMならびにHTLV-1陽性患者の診療におけるQ&A
 1.HAMの診療に関するQ&A
 HAM治療アルゴリズム
  Q1 HAM患者を疾患活動性に応じて分類することは有用か
  Q2 血液検査・脳脊髄液検査はHAMの疾患活動性を判断するうえで有用か
  Q3 HAM患者にATLのスクリーニング検査を行うべきか
  Q4 疾患活動性の高いHAM患者に対する初期治療の第一選択として,ステロイドパルス療法,ステロイド内服治療,インターフェロンα治療のいずれの治療を行うべきか
  Q5 疾患活動性が中等度のHAM患者に対する治療の第一選択として,ステロイド内服治療,インターフェロンα治療,ステロイドパルス間欠療法のいずれの治療を行うべきか
  Q6 疾患活動性が低いHAM患者にどのような治療を行うべきか
  Q7 HAM患者に運動療法(リハビリテーション)を行うべきか
 2.HTLV-1陽性関節リウマチ(RA)患者の診療に関するQ&A
 HTLV-1陽性関節リウマチ(RA)患者の診療フローチャート
  Q1 HTLV-1陽性のRA患者にATLのスクリーニング検査を行うべきか
  Q2 ATL合併のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
  Q3 HTLV-1陽性のRA患者にHAMやHU/HAUのスクリーニング検査を行うべきか
  Q4 HAM合併のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
  Q5 HU/HAU既往(合併を含む)のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
  Q6 HTLV-1陽性のRA患者において,抗リウマチ薬治療はHTLV-1感染の活性化やHTLV-1関連疾患(ATL,HAM,HU/HAU)の発症に影響を与えるか
  Q7 HTLV-1陽性(ATL,HAM,HU/HAU非合併)のRA患者に抗リウマチ薬治療を行ってもよいか
  Q8 HTLV-1の感染はRA患者の抗リウマチ薬治療効果に影響するか
  Q9 HTLV-1陽性(ATL,HAM,HU/HAU非合併)のRA患者において,HTLV-1プロウイルス量を測定すべきか
  Q10 HTLV-1感染が判明していないRA患者において,全例にHTLV-1抗体検査を行うべきか
 3.臓器移植におけるHTLV-1感染への対応に関するQ&A
 HTLV-1陽性臓器移植候補者の診療アルゴリズム(生体)
  Q1 臓器移植希望のドナーおよびレシピエントに対してHTLV-1検査を行うべきか
  Q2 HTLV-1陽性の臓器移植ドナーおよびレシピエントに対して,臓器移植前にATLスクリーニング検査を行うべきか
  Q3 HTLV-1陽性ドナーから陰性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
  Q4 HTLV-1陽性ドナーから陽性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
  Q5 HTLV-1陰性ドナーから陽性レシピエントへの臓器移植は行ってもよいか
 4.ATLのスクリーニング検査に関するQ&A
  Q1 HTLV-1感染者において,ATLのスクリーニング検査はどのような項目を行うべきか
第4章 患者の価値観と意向について
 1.HAM診療ガイドライン2019策定のための患者の関心・価値観に関わる質問紙調査
巻末資料
 CQ1 追加資料
  7.文献検索式と文献選択
  8.本CQで対象とした論文
  9.評価シート
  10.GRADEエビデンスプロファイル
  11.定性的システマティックレビュー
  12.SRレポートのまとめ
  13.Evidence to Decisionテーブル
 CQ2 追加資料
  7.文献検索式と文献選択
  8.本CQで対象とした論文
  9.評価シート
  10.GRADEエビデンスプロファイル
  11.定性的システマティックレビュー
  12.SRレポートのまとめ
  13.Evidence to Decisionテーブル
 CQ3 追加資料
  7.文献検索式と文献選択
  8.本CQで対象とした論文
  9.評価シート
  10.GRADEエビデンスプロファイル
  11.定性的システマティックレビュー
  12.SRレポートのまとめ
  13.Evidence to Decisionテーブル
 CQ4 追加資料
  7.文献検索式と文献選択
  8.本CQで対象とした論文
  9.評価シート
  10.GRADEエビデンスプロファイル
  11.定性的システマティックレビュー
  12.SRレポートのまとめ
主な外部評価コメントとその対応について
索引



 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemiavirus typeI:HTLV-1)の感染者の一部にみられるHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は、1986年に鹿児島大学名誉教授納光弘先生やDr.GessainAらによって提唱された進行性の痙性脊髄麻痺を呈する疾患である。HTLV-1は、1980年に成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)の原因として発見されたレトロウイルスで、当時は腫瘍ウイルスとしての研究が進行していたため、HTLV-1がATLとはまったく異なる神経疾患をも引き起こすということは驚くべき発見であった。しかしながらその後、多くの希少神経疾患がそうであるように、HAMもまた、症状を劇的に改善させる治療法や、症状の進行を止める根本的な治療薬は発見されず、患者はもとより医療者・研究者にとっても苦難の時代が続いた。このような状況を打破するため、HAM患者会が奮起し、その勇気ある粘り強い活動がついに国を動かし、2010年に国主導の「HTLV-1総合対策」が策定された。この施策は、感染予防対策、相談支援、医療体制整備、普及啓発、研究開発推進の5つを柱としており、妊婦健診でのHTLV-1抗体検査の無償化がスタートし、相談体制も整備が進められ、HTLV-1研究に対して大型予算が組まれるようになった。この「HTLV-1総合対策」はHTLV-1研究の大きな推進力となり、HAM研究にとっても大きな転換期になった。
 このような対策がなされるなか、HAMの新規発症者数はいまだ減少しておらず、特にこれまで少ないとされてきた大都市圏での患者数が増加していることが最近の疫学調査から明らかとなった。そのため、患者が全国どの地域に居住していても、質の高いHAMの治療を受けることができるようになるには、診療ガイドラインの策定が喫緊の課題である。これまで、厚生労働省研究班により「HAM診療マニュアル」(2013年、2016年)が作成されてきたが、本書はこれらを更に発展すべく、日本神経学会、厚生労働省研究班および患者会と協力し、GRADEシステムを取り入れたエビデンスに基づくガイドラインとすること、また将来の研究課題を明確化することを意識して作成した。また最近、HTLV-1陽性の関節リウマチ患者や臓器移植患者への対応に関する指針策定のニーズが高まっているため、これらについても最新の情報を整理して掲載した。
 本ガイドラインは4つの章から構成されており、第1章にはHAMならびにHTLV-1、HAMと合併しうるATLをはじめとする関連疾患などの基本的情報について、最新の知見を織り交ぜて記述した。第2章にはHAM患者の治療に関するクリニカルクエスチョンに対する推奨を、第3章にはエビデンスが不十分で推奨が提示しにくい臨床課題に対する内容をQ&A形式で掲載した。更に第4章には、HAM患者の治療などに対する価値観や意向に関する調査結果を掲載した。
 現段階では、HAMやHTLV-1陽性患者の診療における臨床課題に対する十分なエビデンスがないために推奨を提示できない臨床課題が多くあり、HAMの診療の支援となるような構成となったが、今後、更に良質なエビデンスを創出し、より信頼性の高いガイドラインへと発展させる必要があると考える。また、先進国でHAMが多いのは日本のみであり、日本はHTLV-1分野の研究に積極的に取り組む使命を背負っている。本ガイドラインが日本のみならず、世界のHTLV-1診療の向上に少しでも役立つことを期待する。そして最後に、本書の作成にあたり多大なるご貢献を賜った諸先生や患者会の方々に心から謝意を表したい。

2019年5月
「HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019」作成委員会委員長
山野嘉久

 HTLV-1関連脊髄症(HAM)は1986年に日本を中心として提唱された疾患概念であり、その後も研究・臨床の各分野で日本が指導的役割を果たしている。HAMは先進国のなかでは日本に多い稀少疾患であり、現在でも新規発症数はいまだ減少がみられず、とくに大都市圏では患者数が増加している。
 2019年、厚生労働省HAM研究班を中心に、日本神経学会ほか関連学会の監修で『HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019』が作成、発刊された。本ガイドラインはHAMのみならず、HTLV-1陽性患者への対応など、専門医だけでなく総合診療医、一般臨床医などプライマリケアに携わる多くの医療従事者も参考にできる内容になっている。また最新のGRADEシステムに対応しており、内容の記述に患者の視点を取り入れていることが特徴となっている。
 第1章第1項では、まずHTLV-1感染についての基本情報から始まり、HTLV-1キャリアの診療の仕方やHAM以外のHTLV-1関連疾患の概要が述べられている。これらの情報は患者への説明に役立つのみならず、医師以外の医療従事者にとっても有用な情報となっている。第2項では、HAMの疾患概念、病態、診断基準、検査所見、症状・症候など、HAMの診断の基礎となる重要事項が多岐にわたり記載されている。そのなかで注目されるのは、「初期症状(HAMを見逃さないために)」と「疾患活動性分類基準」である。HAMはミエロパチーなどのはっきりした神経症状がみられる場合は比較的診断が容易であるが、軽微な下肢の症状、歩行異常では整形外科へ、また頻尿や繰り返す膀胱炎などでは泌尿器科を受診することが多く、診断が遅れることがあり注意が必要とされる。HAMの経過は一般的に緩徐進行性と考えられているが個人差が大きく、なかには急速に症状が悪化する場合がある。急速発症を示す疾患活動性の予測因子として、高齢発症・CXCL10などの脊髄炎症マーカー高値、末梢血HTLV-1プロウイルス量高値などをあげ、疾患活動性分類基準が記載されている。HAMの治療、とくに免疫療法はこの疾患活動性に応じて適切に行われる必要があり、本書では具体例をあげて述べられており、実地臨床では非常に有用である。治療に関しては、免疫療法のほかリハビリテーション、合併症などへの対処法なども記載されている。また、HAMは指定難病に認定されているため社会福祉支援の情報なども記載されており、患者への指導にも役立つ内容となっている。
 第2章ではGRADEシステムに基づくCQ(clinical question)が設定され、とくに免疫療法についての記載が中心となっている。HAMは稀少疾患であり、十分なエビデンスが少ないため、パネル会議などを経て慎重に記載されている。
 第3章ではHAMおよびHTLV-1陽性患者の診療におけるQ&Aがあり、HAMの診断・治療アルゴリズムは実地臨床で役立つものになっている。その他、HTLV-1陽性関節リウマチ患者における診療の問題点、臓器移植時の課題、ATLのスクリーニング検査など、臨床で主治医に問われる可能性についての情報もよく記載されている。
 第4章では、最近診療ガイドラインを評価する際に重要とされている「患者の視点や希望が考慮されたか」という課題を克服するために、本ガイドラインではHAM患者を対象とした質問紙調査が実施され、記載されている。HTLV-1の根治は現状では困難であるため、HAM診療は患者の意向や価値観、希望を含めた家族との対話が非常に重要であり、調査の結果は非常に役立つものとなっている。
 本書には現時点で得られる情報が網羅されており、HAM患者の診療に役立つことを確信している。現在研究が行われている新しい治療法の評価が定まった場合は、可能な限り早期に改訂されることを期待する。

臨床雑誌内科125巻2号(2020年2月号)より転載
評者●大勝病院 院長 有村公良

9784524226344