IBDの総合鑑別力
病態理解と内視鏡診断
- 商品説明
- 主要目次
- 序文

潰瘍性大腸炎、クローン病のみならず、感染性や薬剤性などの“広義のIBD”を含め、多岐にわたるIBDの病態生理から画像所見、診療の要点までを網羅。病態を理解したうえで内視鏡所見を読み解く「総合鑑別力」のノウハウを解く。長年にわたりIBD診療に携わってきた著者が有す豊富な症例、蓄積された知識と経験に裏打ちされた説得力のある一冊。フルカラーで美麗な内視鏡像も満載。2020年版ガイドラインにも対応。
@.総論
はじめに
@−1.縦走潰瘍の鑑別
@−2.輪状潰瘍の鑑別
@−3.円・卵円形潰瘍の鑑別
@−4.玉石状所見の鑑別
@−5.帯状潰瘍の鑑別
@−6.偽膜の鑑別
A.各論
A.狭義の炎症性腸疾患
A−1.潰瘍性大腸炎
A−2.クローン病
B.感染性腸炎
A−3.カンピロバクター腸炎・サルモネラ腸炎
A−4.腸管出血性大腸菌腸炎
A−5.エルシニア腸炎
A−6.腸結核
A−7.サイトメガロウイルス腸炎
A−8.潰瘍性大腸炎に合併するサイトメガロウイルス腸炎
A−9.アメーバ性大腸炎
C.薬剤性腸炎
A−10.抗菌薬起因性出血性大腸炎
A−11.Clostridioides difficile感染症
A−12.NSAIDs起因性腸炎
A−13.collagenous colitis
A−14.特発性腸間膜静脈硬化症
D.虚血性腸病変
A−15.虚血性大腸炎
A−16.虚血性大腸炎以外の虚血性大腸病変
A−17.虚血性小腸炎
E.免疫が関与する疾患
A−18.腸管ベーチェット病・単純性潰瘍
A−19.IgA血管炎
A−20.IgA血管炎以外の血管炎
A−21.好酸球性胃腸炎
F.その他の疾患
A−22.腸間膜脂肪織炎
A−23.急性出血性直腸潰瘍
A−24.宿便性潰瘍
A−25.直腸粘膜脱症候群
A−26.cap polyposis
A−27.アミロイドーシス
A−28.憩室性大腸炎
索引
序
炎症性腸疾患(IBD)の内視鏡診断に関する本や雑誌の特集号は、これまでも多く刊行され、臨床症状、確定診断法、内視鏡所見、治療などがコンパクトにまとめられているが、そのほとんどが分担執筆であり、それゆえ一貫性を欠いているものが多かったと思われる。特に内視鏡所見に関しては十分とはいえず、中には他の文献を参考にした所見が羅列されているようなものまでみられる。筆者はこれまで長年にわたりIBDの内視鏡診断に携わり、多くの書籍に分担執筆として関わる機会もいただいてきたが、内視鏡所見も含めて、どのように効率よく診断していくかという視点で書かれた満足のいく書籍にめぐり合うことは、ついぞなかった。そこで、これまで取り組んできたIBDの内視鏡診断の集大成になるような本を自身で編纂することに思いいたり、本書を企画した。
IBDの鑑別診断は難しいといわれる。数多くの疾患があり、それらを知っていなければ、そもそも診断は不可能である。すべての疾患を理解することで、ようやく的確な鑑別診断ができるようになる。このため、IBD診断のエキスパートになるには、多くの疾患を経験でき、教えてくれる人がいる環境にいて、ある程度の年数の研鑽を積む必要がある。このことが若い消化器内科医がIBDの内視鏡診断を敬遠する大きな原因の1つになっている。本書がこの課題を解決する一助となればと考え、筆を執った。
消化器内視鏡を専門とする医師は、癌などの腫瘍を専門とする者と炎症を専門とする者に大きく分かれている。腫瘍の確定診断はすべて病理組織診断であり、診断に迷うことはほとんどない。一方、炎症であるIBDについては、病理組織のみで診断がつく疾患は半数もみられない。内視鏡診断においても、腫瘍では拡大内視鏡やNBIの進歩により、癌の診断のみでなく病理診断にも迫れるようになっている。一方、炎症についての内視鏡の役割はどうであろうか。もちろん、内視鏡所見のみで診断がつく疾患も多いが、診断が難しい症例に関しては、疑いのある疾患の拾い上げが役割である。そのためには、本書の総論でとり上げた特異な形態による鑑別が有効な方法と考えられる。この段階で拾い上げることができなければ、診断はつかないし、候補があまりに多すぎても診断は難しい。実際には、内視鏡所見と罹患部位により、ある程度の疾患におおよその目安をつけ、次いで患者背景(基礎疾患、年齢、性別、投与薬剤など)と臨床症状から3〜5個程度に疾患を絞り込む作業を行う。さらに、それらの鑑別を行うため、病理検査(HE染色、免疫染色)、培養検査、抗体検査、抗原検査、遺伝子検査、上部や小腸内視鏡検査、X線造影検査、腹部や胸部CT検査などを行うことで鑑別していく。ところが、この段階でどの検査を行うかは、それぞれの疾患により大きく異なっている。また、疾患により確定診断の方法が異なっており、確定診断の方法が確立されていない疾患さえみられる。そのため、それぞれの疾患についての深い知識が必要であり、本書の各論では、確定診断の方法や診断のポイントについて詳しく述べた。しかし、それでも最終的に診断を確定できないこともあり得る。その場合には診断的治療(抗結核薬、抗CMV薬など)や、経過観察を行うことで診断する。このようにIBDの診断は難しく、内視鏡診断能力に加えて、総合的な診断能力が必要である。そのため、本書の名前を「IBDの総合鑑別力」とした。
本書は総論と各論の二部構成になっている。総論は、渡辺英伸先生の基本肉眼型からみた分類を参考にして、(1)縦走潰瘍、(2)輪状潰瘍、(3)円・卵円形潰瘍、(4)玉石状所見、(5)帯状潰瘍、(6)偽膜を呈する疾患について頻度別に述べている。これらの6つの所見を呈する疾患は比較的少なく、診断の重要なヒントになるからである。総論とはいえ、多くの写真を載せたアトラスにもなっており、それぞれの形態別に、診断が難しかった症例も提示している。これらの内視鏡所見をみた場合には、ぜひ本書を用いて鑑別診断を行ってもらいたい。
各論は項目ごとに、「疾患のポイントと最近の動向」、「病態生理」、「臨床像」、「画像診断」、「診断のコツ」、「確定診断」、「治療」の小見出しをつけて記載している。画像診断に関しては、まず罹患部位について述べ、内視鏡所見を示している。疾患によってはCT所見が重要なものもあり、併せて掲載している。筆者らのグループは、これまで種々のIBDの病態に基づいた新たな視点からの内視鏡診断について報告してきた。新しい内視鏡所見も多く提示しており、これらの所見の鑑別診断における有用性について述べてきた。さらに、本書においてはじめて「宿便性潰瘍の下部直腸内視鏡像」、「好酸球性胃腸炎の特徴的大腸内視鏡像としての白色微小結節」について述べている。各論ではこれまでに筆者が独自の視点からの内視鏡診断を確立した疾患を網羅しており、総論も含めるとIBDに関するほぼすべての疾患を収載している。読者の皆様がこれらにアクセスしやすいようにインデックスも充実させるよう心がけた。
本書は、内視鏡診断に関しては特に詳しく記載しており、もちろん内容の中心であるが、それのみならず、総合的な診断に必要なことに関しても余すところなく記載している。本書が1冊あれば、他のIBD診断の本はいらないという内容を目指して書いた。IBDの専門医だけでなく、消化器内科医、総合内科医、開業医の先生方にも活用していただければ幸いである。
2020年10月
大川清孝
