書籍

小児骨折治療

外傷整形外科医と考える基本から難治症例まで

著者 : 松村福広
ISBN : 978-4-524-22524-8
発行年月 : 2021年6月
判型 : B5
ページ数 : 336

在庫あり

定価11,000円(本体10,000円 + 税)


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  • 序文
  • 書評

現場で直面すると判断に迷い,不安を抱えやすい小児骨折について,最新の知見をもとに外傷整形外科医のトップランナーがわかりやすく解説.初期治療から,家族へ説明するポイント,保存治療・手術治療にいたるまで,求められる知識を網羅.骨折ごとに,貴重な症例経過を豊富なX線写真とともに複数提示し,患者の診かたや判断の勘どころを一緒に考え学べる,現場で欠かせない一冊.

T.総 論
   小児の骨の特徴

U.各 論
 A.上 肢
  1.鎖 骨
   鎖骨骨折と鎖骨周囲損傷
  2.上腕骨
   上腕骨近位端・骨幹部骨折
  3.肘関節
   1.上腕骨顆上骨折
   2.上腕骨外側顆骨折
   3.上腕骨内側上顆骨折
   4.上腕骨遠位骨端離開
   5.橈骨頚部骨折
   6.Monteggia骨折
   7.その他の肘周辺骨折

  4.前腕骨
   前腕両骨骨幹部骨折

  5.手関節
   前腕骨遠位骨幹端・骨端部骨折
 B.下 肢
  1.骨 盤
   骨盤(骨盤輪骨折)

  2.股関節
   股関節脱臼(骨折),寛骨臼骨折
  3.大腿骨
   1.大腿骨近位部骨折
   2.大腿骨骨幹部骨折

  4.膝関節
   膝関節周囲骨折

  5.下 腿
   下腿骨骨幹部骨折

  6.足関節
   足関節骨折(triplane骨折,juvenile Tillaux骨折)

はじめに

 1995年春,1年間の各科スーパーローテートと1年間の整形外科研修を終えた医師3年目に小豆島の土庄中央病院に赴任した.その当時,島には整形外科手術ができる病院は自分が勤務した病院ともう一つの病院だけであった.常勤の整形外科医は院内に自分一人であったが,小児外傷は夜間や休日に多く,臨床経験が乏しいこともあり大きな不安を抱えながら診療していた.そのときに座右の書として熟読したのは,井上博先生の『小児四肢骨折治療の実際』(初版,金原出版,1992年)であった.まさに“名著”であり,この本によって臨床の現場でどれほど助けられたか計り知れない.当時は現在と異なり骨折治療の画像に触れる機会が少なく,自分の眼前に搬送された骨折と類似した症例を探すのは困難であった.インターネットやメールもなく,上級医に相談したい時には実物のフィルムを持ち船に乗って高松の研修病院まで行かなければならなかった.そのような時期に,“名著”はあらゆる部位の骨折が多数の画像とともに詳細に記載されており,経験したことのない小児骨折ばかりを治療しなければならなかった小生にとってはまさに“バイブル”であった.“名著”は第2版も素晴らしく,現在の臨床の現場でも大変役立つ内容であることに変わりはない.

 このたび南江堂から小児骨折治療書の執筆についてお話を頂いた.大変光栄なことであったが,当初はその重責と“名著”の存在から依頼を承諾するべきか否か迷った.しかし今まで見聞きしてきた症例を振り返ってみると,不十分な診断と拙い治療法による残念な症例が多かったことを思い出し,小児骨折治療と向き合っている先生方のお役に少しでも立てるのであればという思いからその依頼を快諾した.自分自身の臨床経験を振り返ってみると,少子化のためか最近では小児骨折を治療する機会が減っていると感じている.一方では社会生活や環境の変化にともない,家族や小児本人も骨折治療に対する要求は様々であり,その結果に対する期待は高まっている.

 そのような医療環境の変遷や現代の社会事情を踏まえ,小児骨折治療は保存治療が基本であることを承知の上で,本書はどちらかといえば手術治療に重点を置いた内容となった.臨床の現場で参考となるように,多くの症例を画像とともにその治療経過に沿って提示した.治療の根拠としては2000年以降の海外論文を中心に参考文献とし,小生の独断と偏見を交えながらもエビデンスを尊重した治療法を記載した.ただし日々世界中で多くの新しい論文が発表されており,すべてをアップデートすることはできず,日本語論文には手が回らなかったのは残念である.また小生が挙げた知見に誤りがあるかもしれないし,新しい論文だから正しいというわけでもなく,古い論文の方が臨床に即していることは案外多い.英語論文だから優れているわけでもなく,かえって日本の医療状況には向いていない方法もある.よって本書が小児骨折治療の真髄をとらえているわけではなく一医師の経験に基づいたものであることは否めないが,小生も今後さらに多くの症例を経験し研鑽を積みたいと考えているので,本書を一読された先生方には是非ご意見ご批判を頂戴したい.

 最後になったが,提示した症例をともに治療してきた自治医科大学整形外科医局および同門の諸先生,自治医科大学で後期研修をした先生達,東京西徳洲会病院外傷センターでともに働いた先生達に心から感謝の意を述べたい.

2021年4月

自治医科大学救命救急センター 准教授
松村福広

「小児の骨折治療,特に重症例を治療するときに大きな手助けとなる実践書」

 小児の骨折は奥が深く,いまだ個々の医師の裁量で治療方針が決められていることが多い.第一線においても,多くの医師が日々最善策を探りながら,悩み続けているのが現状である.最善策を導くためにもっとも重要なのは,過去の論文をどれだけ読んできたか,そしてどれだけ多くの症例を経験し,どれだけ長期成績をみてきたか,これにつきる.

 本書を通読して伝わってきたのは,著者が圧倒的な数の小児骨折重症例の治療に携わり,数多くの海外の研究報告から最新の知識と動向を学び,そしてその集大成として本書を執筆されたことである.本書は,令和となってから最高の小児骨折治療の実践書であると思う.

 本書の特徴は,手術を要する小児骨折について,さまざまな骨折型に対して著者がすすめる術式を実際の症例のX線像を添えて解説しているところである.その症例数がたいへん多く,治療の方針に迷う症例に遭遇したときに本書をみれば,類似症例を高率に見つけ出すことができる.そして,適切な治療方針への道しるべとなるであろう.

 本邦における過去の成書ともっとも異なるのは,小児の骨折治療に革命的変化をもたらしたelastic stable intramedullary nailing(ESIN)について,十分に解説されていることである.ESINが本邦に導入されたのは2017年であるが,この手術法はまだ本邦においては十分に普及しておらず,一部の専門医の間で経験が積まれてきたところである.特に大腿骨骨幹部骨折においては,この治療法の導入によって,数多くの子どもたちが長期にわたる直達牽引治療から解放されてきたが,今なお旧来の治療法も存続している.期せずして本書は,こうした現状を変え,新しい流れを日本中にもたらす役目を担っているように思う.

 もう一つの本書の特徴は,最新の海外文献を読み漁った著者がそれを自分の言葉でわかりやすく解説しているところである.たとえば上腕骨顆上骨折は,ありふれた骨折ではあるが合併症が多く,特に初期治療における血流障害の評価と対応については現在も国際学会において活発な議論がなされている.こうした骨折治療の最新の考え方についても十分に紙面を割いてていねいに解説がなされている.若手医師が小児骨折治療について学会発表を行う際に,その骨折の概要を知り,主要な文献をみつけるうえで,大きな助けとなるであろう.

 細かいところに目を通していくと,著者自身が「はじめに」のところで述べているが,著者独自の考えも各所に記載されている.小児の骨折治療については,まだ結論が出ていないことが多く,議論するテーマがつきない.本書では単なる思いつきではなく,過去の報告を十分に学び十分な経験を重ねたうえでのコメントが書かれているので大いに参考になる内容である.評者とは少し違う考えが書かれているところもあったが,そうしたところは特に興味深く読ませていただき,たいへん参考になった.エビデンスにあふれながらも,著者の持論が堂々と紹介されているところは,最初から最後まで一人の医師によって書き上げられた単著ならではの醍醐味であろう.

 本書が数多くの整形外科医の机に並び,骨折を受傷してしまった子どもたちの将来の幸せにつながることを切に願う.

臨床雑誌整形外科73巻6号(2022年5月号)より転載
評者●千葉こどもとおとなの整形外科院長・西須 孝