書籍

高齢者のがん薬物療法ガイドライン改訂第2版

編集 : 日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会
ISBN : 978-4-524-22278-0
発行年月 : 2026年3月
判型 : B5判
ページ数 : 140

在庫あり

定価2,860円(本体2,600円 + 税)

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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会の共編によるガイドラインの改訂版.加齢に伴う臓器・身体機能低下,認知機能低下,精神心理的問題,複数の併存疾患,ポリファーマシー,社会的機能低下,QOLの問題などにより,標準治療の確立が難しい⾼齢者のがん薬物療法の指針を示す.今版では,最新のガイドラインや薬剤の状況を反映し,既存のCQを見直すとともに,新たに泌尿器領域など6つのCQを追加.今後ますます重要性を増す高齢がん患者に対する薬物療法について,基本的な診療指針を示した一冊.

総論
 CQ 1-1 がん薬物療法を考慮している高齢がん患者に対して,高齢者機能評価とそれに基づくマネジメントの実施は推奨されるか?
 CQ 1-2 がん薬物療法を考慮している高齢がん患者のがん薬物療法の選択に,高齢者機能評価は推奨されるか?
造血器
 CQ 2 初発高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か?
 CQ 3 80歳以上の初発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してドキソルビシンを含む薬物療法は推奨されるか?
消化管
 CQ 4 高齢者では切除不能進行・再発胃がんに対して,オキサリプラチンの併用は推奨されるか?
 CQ 5 高齢者では切除不能進行・再発胃がんに対して,バイオマーカーに基づいた治療は推奨されるか?
 CQ 6 結腸がん術後(R0切除,Stage V)の70歳以上の高齢者に対して,術後補助化学療法を行う場合,どのような治療が推奨されるか?
 CQ 7 切除不能進行再発大腸がんの高齢患者の初回化学療法においてオキサリプラチンまたはイリノテカンの使用は推奨されるか?
呼吸器
 CQ 8 一次治療で完全奏効(CR)が得られた高齢者小細胞肺がんに対して,予防的全脳照射(PCI)は推奨されるか?
 CQ 9 高齢者では完全切除後のEGFR遺伝子変異陰性・ALK遺伝子転座陰性早期肺がんに対してどのような術後補助薬物療法が推奨されるか?
 CQ 10 高齢者のEGFR遺伝子変異陰性・ALK遺伝子転座陰性進行非小細胞肺がんに対して,抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体治療が推奨されるか?
 CQ 11 高齢者のEGFR遺伝子変異陰性・ALK遺伝子転座陰性進行非小細胞肺がんに対して,化学療法に抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体の併用は推奨されるか?
乳腺
 CQ 12 高齢者HER2陽性乳がん周術期治療には,どのような治療が推奨されるか?
 CQ 13 高齢者の周術期トリプルネガティブ乳がんに対して,免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?
 CQ 14 ホルモン受容体陽性HER2陰性高齢者乳がんの術後内分泌療法にアベマシクリブやS-1の併用は推奨されるか?
泌尿器
 CQ 15 転移性尿路上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬単剤療法や併用療法は,高齢者や超高齢者に対して推奨されるか?
 CQ 16 転移性ホルモン感受性前立腺がんに対してタキサン系抗がん薬は,高齢者や超高齢者に対して推奨されるか?
 CQ 17 転移性腎がんに対して免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法は高齢者や超高齢者に対して推奨されるか?
一般向けサマリー

日本の人口構成は高齢化が進んでいる.がんは高齢者に多いため,また薬物療法の適用が拡大しているため,がん薬物療法の対象となる高齢者は増えている.一般に抗悪性腫瘍薬は治療域が狭く,高齢者に使用する際は特に注意を要する.比較的副作用が軽いと考えられている分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬でも,多くの薬剤の添付文書で高齢者では「 患者の状態を観察しながら慎重に投与すること.一般に生理機能が低下していることが多い」 と注意喚起されている.ではどのように注意したらよいのであろうか?
抗悪性腫瘍薬は肝代謝を主な消失経路としている薬物が多いため,高齢であるというだけで薬物動態が変化することは少ない.しかし,感受性すなわち薬力学が変化することは多い.たとえばドセタキセルの薬物動態は高齢者では変化していないが,骨髄抑制は増強することが示されている.そのため高齢者では減量して投与する場合があるが,高齢者では薬物動態が変化せず薬力学が変化して副作用が増強しているということは,減量により副作用のみならず効果も低下してしまうことを意味する.
加齢とともに身体機能のみならず認知機能も低下していく.加えて高齢者では生理機能の個体差は若年者よりも大きい.そのため高齢者機能評価が重要となるが,残念ながらその有用性を評価する二重盲検化臨床試験は困難である.
わが国の臨床試験では適格規準に年齢の上限を設け,高齢者は除外されることが多い.しかし,科学的根拠がない限り高齢者を除外すべきでない.高齢者を臨床試験から除外することは,高齢者から治療の機会を奪い差別につながる.ただ,高齢者では臨床試験の適格規準を満たす人は少なく,臨床試験の結果を高齢者に適用できるか判断が難しいこともある.
本ガイドラインの改訂にあたっては,Minds2020 に基づいてシステマティックレビューを行っている.しかし,高齢者のみを対象とした臨床試験はほとんどなく,多くのエビデンスは若年者も含んだ臨床試験のサブグループ解析である.加えて高齢者では生命予後の延長とともにQOLや身体機能・認知機能の維持が重要視されるが,これらの評価を主たる目的とした臨床試験も少ない.したがってもともとのエビデンスの質は高くない.
質の高いエビデンスが少ないため仕方ないが,本ガイドラインの実質25 のクリニカルクエスチョンに対して「,強い推奨」 は1件しかなく,3分の2にあたる15件が条件付きの「 弱い推奨」で,5件は「 提案する」「選択肢となりうる」「望ましい」 などにとどまり,推奨なしが4件である.一方,合意率を見てみると,総論の高齢者機能評価を扱った2 つのクリニカルクエスチョンについては示されていないが,100%の合意は14 件,90〜100%が5 件,80〜90%が5 件である.80%以上の合意が得られなかったものも1 件ある.これらの数字を見てもいかに高齢者でのクリニカルクエスチョンに回答を出そうという臨床試験が少なくエビデンスが不足しているかが理解できる.作成に携わって委員のご苦労は大きかったと思われる.謝意を表したい.
高齢者でのがん薬物療法の有用性を検証することを目的とした試験ではないにもかかわらず,サブグループで有意差がみられなかった点を否定的に記述している解説もあるので,注意が必要であるが,本ガイドラインがわが国のがん薬物療法に少しでも貢献することを願っている.
2026 年2 月
日本臨床腫瘍学会 理事長
神戸大学大学院医学研究科 腫瘍・血液内科学
南 博信


超高齢社会を迎えたわが国において,高齢者がん医療はもはや一部の専門領域の課題ではなく,すべてのがん診療に共通する中核的テーマとなっています.高齢がん患者は,治療から最大限の利益を得る可能性を有する一方で,身体機能や併存疾患,社会的背景の多様性から,治療選択にはこれまで以上に慎重かつ科学的な判断が求められます「.年齢」 ではなく「 個」 を診る医療の実践こそが,今まさに私たちに問われています.
本ガイドライン改訂第2 版は,Minds2020 に準拠し,最新のエビデンスと実臨床の進歩を的確に反映するとともに,高齢者機能評価とそれに基づくマネジメントを治療選択の中核に据えました.さらに,免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療といった近年の治療革新を積極的に取り込み,泌尿器領域を新たに加えることで,より幅広い高齢がん患者に対応する内容へと進化しています.Evidence to Decision( EtD) フレームワークの導入は,推奨の背景にある価値判断やバランスを可視化し,臨床現場における納得感と実践性を高める重要な一歩です.
本ガイドラインは,日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会が協働し,日本老年医学会をはじめ多職種の専門家とともにつくり上げた,まさに領域横断的知の結晶です.日本癌治療学会は,臓器別の枠を超え,がん医療全体の質を底上げすることを使命としており,本ガイドラインへの参画はその理念を体現するものと考えています.
本書が,高齢がん患者一人ひとりにとって「 最善の治療とは何か」 を考えるための確かな拠り所となり,全国の診療現場で意思決定を支える指針として活用されることを強く期待します.
最後に,本改訂に情熱と責任をもって取り組まれた作成委員長,副委員長をはじめ,すべての関係者の皆様に心より敬意と感謝を表します.
2026 年2 月
日本癌治療学会 理事長
国立がん研究センター東病院 国際臨床腫瘍科
吉野 孝之

9784524222780