ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみましたver.2
心不全・高血圧治療の新時代を迎えて
著 | : 山下武志 |
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ISBN | : 978-4-524-21867-7 |
発行年月 | : 2025年2月 |
判型 | : A5判 |
ページ数 | : 148 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
正誤表
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2025年04月18日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

心不全治療に変革をもたらした「ARNI」と「SGLT2阻害薬」の両薬剤について、理解しておきたい薬理とその効果から、臨床現場での使い方とコツまでをすっきり解説した大好評書のアップデート版が登場!ARNIの高血圧に対する適応拡大やSGLT2阻害薬のHFpEFに関する知見を反映したほか、高齢者・超高齢者への処方についてもカバー.⼼不全・⾼⾎圧治療の新時代を迎えた”いま”,必携の⼀冊.
第1章 ARNI
1 ARNIとはどんな薬?
2 ARNIを用いた大規模臨床試験
3 心不全治療薬としてのARNI
A.ARNIの主要効果はANP増加
B.ANPが心不全に与える3つの影響
C.ARNIがすべての患者に効くと考えるのは間違い
D.ARNIの抗不整脈作用
E.ARNIはポリファーマシー改善の一助となる
4 降圧薬としてのARNI
A.ARNIの降圧効果
B.降圧薬の用法用量はなぜ違う?
C.降圧薬としてのARNIは必要か?
5 ARNIの使い方のコツ
A.複雑なARNIの薬物動態
B.ARNIの投薬方法と効果判定:心不全と高血圧
C.ARNIの効果を実感するために:心不全と高血圧
D.高齢者・超高齢者に対するARNIの投与
第2章 SGLT2阻害薬
1 SGLT2阻害薬とはどんな薬?
2 SGLT2阻害薬を用いた大規模臨床試験
3 SGLT2阻害薬はどのようにして効く?
A.SGLT2阻害薬の効果にかかわるメカニズムを複雑に考える必要があるか?
B.尿細管糸球体フィードバックとは何か?
C.腎機能低下の原因は糸球体のみにあらず
D.SGLT2阻害薬の効果の中心は慢性期効果にある
E.SGLT2阻害薬の抗不整脈作用
4 SGLT2阻害薬の使い方のコツ
A.SGLT2阻害薬の薬物動態
B.SGLT2阻害薬の投薬方法と効果判定
C.すぐに実感できるeGFRのinitial dropにどのように対処するか?
D.高齢者・超高齢者にSGLT2阻害薬を投薬できるか?105
第3章 心不全治療の幕開け
1 2021年から,大きく心不全治療は変わった
2 幕開けはさらに続く
心不全ではなく,不整脈を専門とする私が,心不全診療に用いられるARNIやSGLT2 阻害薬について語った本書の初版が,予想外の好評を得たことは著者として大変うれしく思います.「パン屋さんのコーヒー牛乳」は,本物のコーヒーの足元にも及ばないものの,それとは違う独自の美味しさがあるものです.それと少し似通った側面があったのかもしれません.
しかし,2021年の初版出版後わずか2,3年の間に,この両薬物に関する知見はさらに拡大し,初版の内容では十分に網羅できていないと自分自身が感じるようになりました.ARNI の高血圧に対する適応拡大,SGLT2 阻害薬のHFpEFに関する知見,CKDに対する適応拡大,そして自分を含む多くの臨床医が試行錯誤しながら得た投薬経験です.
このver.2 は,初版の内容のうえに,これらの内容を書き加えたものとなっています.書き加えたボリューム感が,表題の「……シンプルにまとめてみました」を邪魔することにならなければいいなと思いながら,「パン屋さんのコーヒー牛乳」の新しく加わった風味を味わっていただければと願っています.
2025年1月
山下武志
非循環器専門医が明日から心不全の最新治療を実践できる
わが国は他国に例をみない超高齢社会に突入し,加齢とともに発症頻度が上昇する疾患の患者数が大きく増加している.その一つが心不全であり,その患者数は100万人以上とされ,現状は「心不全パンデミック」と称されている.患者数が多いうえに高齢患者の占める割合が高いため,心不全患者の診療を心不全専門医のみでカバーすることは不可能であり,また循環器専門医のみで担うことも困難である.現在,心不全はcommon diseaseの一つとして扱われており,多くの非循環器専門医がかかりつけ医としてその診療を担っている.そのようななかで,ガイドラインにおいて標準的な心不全治療が提示されているものの,その実践率は十分なレベルに達していないという大きな問題がある.
心不全の治療では,左室駆出率に基づいて患者を三つの病態に分けて投薬を考えることがガイドラインで求められている.最もエビデンスが多い左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の基本治療薬について,従来はRAS阻害薬,β遮断薬,MR拮抗薬の3剤であったが,現在ではアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)を含むRAS阻害薬,β遮断薬,MR拮抗薬,SGLT2阻害薬の4剤となり,最も強力な組み合わせはARNI,β遮断薬,MR拮抗薬,SGLT2阻害薬とされている.ARNIおよびSGLT2阻害薬がわが国において心不全治療目的で処方可能となってから約5年が経過したが,循環器を専門としない医師にとっては,使い慣れた薬剤という位置づけにはまだ至っていないと思われる.いくら効果的な薬剤が市販されても,処方する立場にある医師が扱いにくい薬剤と思ってしまうと,患者に届けることができない.
本書では,不整脈専門医の山下武志先生(ご本人いわく心不全非専門医)がARNIおよびSGLT2阻害薬の位置づけ,作用機序,使い方などについて,循環器を専門としない医師でも理解しやすいように簡潔にまとめている.医療はサイエンスであるため,単に心不全患者にはARNIやSGLT2阻害薬を投与すればよいというメッセージにならないよう,作用機序についてもわかりやすく解説されている.まさに「賢者は複雑なことをシンプルに考える」が体現された書籍である.全編を読むことが難しい場合,まずは各項目の最後に記載されている短文の「エッセンス」を読み,それから興味のある項目を初めから読むという使い方が可能である.
なおARNI,β遮断薬,MR拮抗薬,SGLT2阻害薬はHFrEFにおいて強力な治療効果をもたらすと記述したが,最近のエビデンスではHFrEFよりも左室駆出率が高い心不全患者群においても,この薬剤の組み合わせの有効性を示すデータが示されている.私見ではあるが,心不全を左室駆出率に基づいて三つの病態に分ける分類は近い将来になくなり,一定の左室駆出率の基準値で2群に分け,その基準値以下の心不全は同じアプローチをすればよい,ということになる可能性が高いのではないかと思っている.そうなると,より心不全の治療方針が単純化され,非専門医の先生方にもわかりやすくなるはずである.また,その場合にもARNIやSGLT2阻害薬は治療の中心にある薬剤と考えられるため,これらの薬剤を使い慣れていただく必要性は高い.
本書を「パン屋さんのコーヒー牛乳」のように,身近で手軽に,そして飲みやすい存在として“愛飲”していただき,common diseaseとなった心不全に罹患している患者に広く最新の医療を届けるための糧としていただければ幸いである.
臨床雑誌内科135巻6号(2025年6月号)より転載
評者●山本一博(国立循環器病研究センター 病院長)
