こんなときどうする?非がん疾患×在宅緩和ケア
困難を乗り越えるための実践知
| 監修 | : 柏木秀行 |
|---|---|
| 編集 | : 大屋清文 |
| ISBN | : 978-4-524-21813-4 |
| 発行年月 | : 2026年3月 |
| 判型 | : A5判 |
| ページ数 | : 292 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

非がん疾患の在宅緩和ケアはエビデンスや知見が乏しく,現場では各医療者により様々な工夫や試行錯誤が行われている.本書は心不全,COPD,肝硬変,CKD,認知症,神経変性疾患などで“本当に困る”局面を起点に,経験豊富な現場のエキスパートが実践的な打開策を解説.多職種の視点や使えるフレーズも収載し,限界突破のヒントと現場力を底上げする知恵が満載の一冊!
序章 非がん疾患の在宅緩和ケアが難しいのはなぜなのか?
1章 心不全で難しいところ
01 心不全の病型がわからない…,非専門家でも押さえておきたいことは?
02 心不全増悪を予防するために在宅でできることは?
03 末期心不全に伴う症状を緩和するために在宅でできることは?
04 ICD停止を考えるとき,専門家とどう連携すればよい?
05 在宅で強心薬の投与はどうすればよい?
2章 COPDで難しいところ
01 COPDに関する薬剤は在宅でどう調整する?
02 COPDに関する非薬物療法,在宅でできることは?
03 在宅酸素療法(HOT)で気をつけるべきことは?
04 COPD患者の呼吸器以外の症状は,在宅でどう診ていけばよい?
05 COPD増悪時は在宅でどうマネジメントする?
06 人工呼吸器(NPPV・HFNC)はどうすれば在宅で管理できる?
3章 肝硬変で難しいところ
01 肝硬変に関する薬剤は在宅でどう調整する?
02 肝硬変の合併症を在宅で予防・治療するには?
03 肝硬変に伴う症状を緩和するために在宅でできることは?
04 肝硬変に対する栄養療法は在宅でどう進める?
05 腹腔穿刺ドレナージはどうすれば在宅でできる?
4章 慢性腎臓病で難しいところ
01 在宅医が透析医と連携するときに気をつけたいことは?
02 透析をやる・やらない・やめるの意思決定にどう関わる?
03 保存的腎臓療法(CKM)を在宅でやるって具体的にどういうこと?
04 腎不全に伴う症状を緩和するために在宅でできることは?
05 緩和的PDはどうすれば在宅で実践できる?
5章 認知症で難しいところ
01 もろもろの支援や提案が拒絶されるときはどう関わる?
02 BPSDが強い患者にはどう関わる?
03 認知症がある患者の不定愁訴を在宅でどう診ていく?
04 認知症の病型診断に在宅医はどれくらいこだわるのがよい?
05 抗認知症薬を在宅で減らすかどうかはどう考える?
06 家族から胃ろうや点滴の相談を受けたらどうする?
6章 神経変性疾患で難しいところ
01 神経変性疾患をもつ患者の在宅緩和ケアで押さえておきたいことは?
02 高次脳機能障害をもつ患者を在宅で診るときに押さえておきたいことは?
03 ALSの終末期によくある症状を緩和するために在宅でできることは?
04 PD,MSAの終末期によくある症状を緩和するために在宅でできることは?
05 抗パーキンソン病薬を非専門家は在宅でどう調整する?
06 神経変性疾患を有する患者の協働意思決定にどう関わる?
7章 疾患によらず難しいところ
01 非がん疾患の症状緩和に医療用麻薬を出して本当に大丈夫?
02 使いたい薬が「適応外使用」になるときはどうしている?:@在支診薬剤師の立場から
03 使いたい薬が「適応外使用」になるときはどうしている?:A院外薬局の立場から
04 「うちの施設では看取りはできません」と言われたらどうしている?
05 介護保険の単位数が足りないときはどうしている?:その@
06 介護保険の単位数が足りないときはどうしている?:そのA
07 地域の他職種との連携がぎくしゃくしているときにできることは?:その@
08 地域の他職種との連携がぎくしゃくしているときにできることは?:そのA
09 患者の経済的負担からサービス導入が困難なときはどうする?
索引
本書が誕生するにあたり,私は企画段階から監修者として関わらせていただきました.本書の特徴は,「非がん疾患」と「在宅緩和ケア」の2つの軸を通して,緩和ケアの実践における難しい課題に対して,具体的かつ実践的にアプローチを提示している点です.現代の医療において,がん以外の疾患における緩和ケアの重要性は増しており,特に在宅での対応はますます幅広いものになってきています.非がん疾患の緩和ケアは悪性疾患とは異なる難しさもあり,必要となる知識も異なります.そして,入院診療と異なり,数ヵ月から数年の時間軸で関わることも求められます.そこには短期的な治療や症状緩和といった視点のみでなく,疾患の慢性管理や予防といった視点も必要となります.在宅で取り組まれる緩和ケアが文字通り,患者と家族のQOLに直結するのです.そういった意味では在宅での非がん疾患に対する緩和ケアは,多くの医療者にとって新たな挑戦となっています.
各章の執筆者は疾患ごとの専門知識を有することはもちろん,それぞれ在宅での緩和ケア提供についても深い理解をお持ちの先生方です.その豊富な経験が随所に反映されており,読者の皆さまには理論だけではなく,実践に即した生きた知識が提供されています.特に各パートに散りばめられた多職種からのアドバイスは非常に価値が高く,患者一人ひとりのニーズに応じた柔軟なアプローチを学ぶことができます. 本書は緩和ケアを提供する医療者,特に在宅医療の現場に携わる方々にとって,大きな助けとなることでしょう.それぞれの疾患における症状や課題をどう管理し,どのように患者さんやそのご家族と向き合っていくのか.私たちが提供すべき「ケア」の本質を深く掘り下げた内容になっています.
本書を手に取った方々が臨床現場でこの知識を活かし,より良い緩和ケアを広く届けてくださることを心から願っています.
2026年1月
柏木秀行
慢性疾患下降期を診るということ
日本の緩和ケアは,長らくがん終末期のケアを中心に発展してきた.その一方で,慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)といった非がん疾患の終末期については,医学的な治療と狭義の緩和ケアとの境界が不鮮明なまま残されてきた.状態が悪化すれば入院して「治療」する―それがつい二十年ほど前までの,ごく当たり前の対応だったといえるだろう.しかし今日では,住み慣れた自宅で最期まで過ごしたいという患者の願いに沿って,非がん疾患の終末期が在宅医療の重要な対象として位置づけられるようになってきた.
非がん疾患の終末期を在宅で診ることには,いくつかの際立った特徴がある.第一に,病棟医療と同じく,疾患そのものの治療と苦痛の緩和とを並行して進めることが求められる.和やかでのんびりとした在宅医療というイメージとは,現場の様相がだいぶ異なるのである.第二に,その病みの軌跡は悪性腫瘍に比べてはるかに個別性が強い.増悪と小康とを繰り返しながら,ゆるやかに,時に急激に下降していくため,予後の見通しを立てることがきわめて難しい.第三に,在宅をフィールドとした臨床研究がこれまで十分に蓄積されてこなかった歴史的な事情から,診療の拠り所となるエビデンスがなお乏しい.手探りを強いられる場面が少なくないのである.
本書は,こうした独自の困難を抱える在宅医療の現場に,豊かな実践知をもって正面から取り組んできた成果である.各疾患の終末期に特有の病態を的確に理解したうえで,適切で安全な薬物療法と苦痛の緩和とをいかに和解させるか―その問いに対する具体的なパールが,随所に散りばめられている.教科書的な原則だけでは立ち行かない局面で,経験を積んだ臨床家がどう判断し,どう手を打ってきたのか.その思考の道筋を追体験できることが,本書の大きな価値だといえる.
私自身,心不全,COPD,肝硬変,慢性腎臓病,認知症,神経変性疾患といった「病い」を生きる患者について,その病態生理を生物医学的に把握することの大切さを,あらためて認識させられた.同時に,プライマリケア医や在宅医に欠かせない診断と治療の最新の知見を,無理なくアップデートできたように思う.生活者としての患者を見据えながら,なお生物医学的な厳密さを手放さない―その両立こそが,慢性疾患の下降期を診る営みの核心なのだろう.
本書を,在宅医療に携わる医師はもちろんのこと,終末期の慢性疾患を診るすべての医療職に,心からお勧めしたい.下降期の患者とその家族に寄り添う一人ひとりにとって,確かな支えとなる一冊である.
臨床雑誌内科138巻3号(2026年9月号)より転載
評者●藤沼康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター センター長)

