書籍

FALD診療の手引き

監修 : 日本肝臓学会/日本成人先天性心疾患学会/日本小児循環器学会
ISBN : 978-4-524-21566-9
発行年月 : 2025年6月
判型 : B5判
ページ数 : 136

在庫あり

定価4,620円(本体4,200円 + 税)

  • 新刊

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

日本肝臓学会,日本成人先天性心疾患学会,日本小児循環器学会の3学会合同編集による,国内初のFALD診療専門書.Fontan手術の歴史的変遷からFALDの外科的/内科的治療,移行期医療,病態の予後まで,幅広い情報を網羅している.診断の章では各種画像検査について多くの検査写真と共に解説.Fontan手術の術後経過の改善に伴い,術後合併症として注目度の高まっているFALDを診るすべての医師にとって必携の一冊である.

Chapter T 疫学
 A Fontan手術の歴史と適応疾患(歴史的変遷)
 B Fontan手術の長期予後
 C FALDの疫学

Chapter U 病態
 A Fontan術後循環
 B 類洞拡張/肝線維化進展機序
 C 肝腫瘤形成/肝発癌機序

Chapter V 診断
 A FALDの診断
  1 血液生化学検査
  2 画像検査@:腹部超音波検査
  3 画像検査A:CT,MRI(MRIを中心に)
  4 肝線維化マーカー/スコアリングシステム
  5 肝線維化画像検査@:超音波エラストグラフィ
  6 肝線維化画像検査A:MRエラストグラフィ
  7 病理組織学的検査
  8 診断基準(案)
 B FALD肝硬変の診断
  1 血液検査
  2 画像検査
  3 病理組織学的検査
 C 肝腫瘍の診断
  1 血液検査
  2 画像検査
  3 病理組織学的検査

Chapter W マネジメント・治療
 A failing Fontanとは(病態)
 B 生活指導
 C 薬物療法
  1 抗凝固薬・抗血小板薬(出血性合併症)
  2 肺血管作動薬
  コラム FALD薬物療法の話題 徳重克年
 D 不整脈治療(アブレーション,CRT)
 E カテーテルによる介入
 F 胃食道静脈瘤
 G 非代償性肝硬変,肝移植/心肝同時移植(終末期医療を含む)合併症の管理
 H 肝腫瘍
  1 内科的治療
  2 外科的治療
 I 麻酔管理

Chapter X フォローアップ
 A 血行動態評価(長期予後に関わる血行動態因子)
 B フローチャート
  コラム FALDをどのように診るか

Chapter Y 移行期医療/多科連携によるフォローアップ

Chapter Z 予後,緩和ケア(循環器・肝臓)

Chapter [ 肝発癌発生予防は可能か

はじめに

 1980年代から90年代にかけて飛躍的に進歩した先天性心疾患に対する内科的治療・外科的治療により,それまで救命することのできなかった先天性心疾患患者の命をつなげることができるようになった.救われた子どもたちは成長し,現在 30〜40代の社会人として生活を送っている.小児期の医療は救命が主体であるが,成人期の医療では生活の質が求められ,より安定した長期予後を提供することが必要である.国内の成人先天性心疾患患者数はすでに50万人に達し,今後も毎年 1万人ずつ増加していくことが明らかである.先天性心疾患患者に対して,小児期から成人期にかけて必要な医療を切れ目なく行うことができる体制の整備,とくに患者の生活基盤に基づく専門診療施設の整備が進んでいる.
 先天性心疾患の病態は多岐にわたり,血行動態や選択される手術術式も疾患ごとに大きく異なる.また,同一疾患であっても時代による術式の変遷,医療材料の改良など,大きな変化が存在し,これらの情報は疾患群ごとの長期予後を考えるうえで重要である.なかでもFontan型手術は,先天的に1つの心室しかもち合わせていない単心室系疾患に対する画期的な治療法として発展した.この手術により,単心室の子どもたちはチアノーゼや心不全から解放され,命をつなげられるだけでなく,多くはクラスメートと一緒に体育の授業に参加することもできる学童期・思春期を過ごすようになった.そして,当初厳しい条件を満たした限られた患者を対象として導入されたFontan型手術は,手術法の改良や手術までの内科的介入の進歩により難易度の高い先天性心疾患にも適応を拡大してきた.しかし,この手術法は自己の 1つの心室を体循環(左心系)のポンプとして使用し,肺循環(右心系)にはポンプなしの静脈圧のみで完結するという特殊な循環動態で成り立っているため,体静脈系にうっ血をきたすことは必至である.本領域に携わる循環器医は常にFontan術後の循環動態が長期的に全身臓器に及ぼす影響に危惧をもちながら検討を行ってきたが,循環器領域の介入だけでは肝臓を主体とする腹部臓器に対する管理や治療には限界があることが,今や認識されている.
 Fontan術後 10〜20年の経過中に,約 50%はFontan関連肝疾患(Fontan-associated liver disease:FALD)を発症し,なかには肝硬変,肝癌を発症する症例が存在する.肝臓内科医として遭遇するFALD肝癌の症例は,若年にもかかわらずすでに門脈圧亢進症を合併する肝硬変に進展していたり,多結節型であったり,さまざまな要因で検査・治療に難渋することがある.うっ血肝を背景に発症するFALD肝癌は,他の原因による肝癌とは発癌に至るプロセスがまったく異なると考えられ.Fontan術後患者が全例 FALDを発症するわけではなく,肝癌の早期診断を可能にするためのハイリスク集団の囲い込みは十分ではない.小児から成人へ至る移行期のなかで,どの時点から肝臓内科医が連携するべきか,診療体制も確立されていない.これらのFALD診療の課題に取り組むために,2023年に日本肝臓学会,日本成人先天性心疾患学会,日本小児循環器学会の 3学会が連携の覚書を締結した.そしてこのたび,循環器領域,肝臓領域いずれの実地医家にとっても,日常診療に役立つことを目指して「FALD診療の手引き」を作成した.本領域のエキスパートの方々に執筆をお願いし,エビデンスが乏しくても,診療に役立つ内容を現時点での手引きとしてまとめていただいた.本書が FALD診療の一助となり,わが国全体で診療経験が蓄積され,将来 FALD診療ガイドラインの作成につながれば望外の喜びである.

2025年4月
日本肝臓学会理事
国立健康危機管理研究機構国立国際医療研究所肝炎・免疫研究センター
考藤達哉

日本成人先天性心疾患学会理事長
心臓病センター榊原病院
赤木禎治

日本小児循環器学会理事長
東京都立小児総合医療センター
山岸敬幸

9784524215669