重度四肢外傷治療の奥義
著 | : 土田芳彦 |
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ISBN | : 978-4-524-21187-6 |
発行年月 | : 2025年2月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 308 |
在庫
定価13,200円(本体12,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

重度四肢外傷の標準的治療を確立し,徹底した症例検討を通じて多くの外傷整形外科医を牽引してきた著者の集大成.標準的治療の実践のために習得すべき理論と技術,治療戦略の見極めについてまとめた「TOPICS」と,一筋縄ではいかない症例の治療経過を深く掘り下げた妥協なき議論を紙上で再現した「CASE」とで構成.重度四肢外傷患者をよりよい転帰へ導くための「奥義」を説いた一冊である.
TOPICS 重度四肢外傷トピックス
01 急性期抗菌薬投与のあり方(局所高濃度抗菌薬投与も含む)
02 デブリドマンupdate
03 病態分析とは何か?
04 初期治療時における軟部組織管理
05 血管損傷治療の話
06 temporary vascular shuntの話
07 膝窩動脈損傷を考える
08 初期骨安定化のあり方
09 下肢皮膚剥脱創の取り扱い
10 手部剥脱創の取り扱い
11 熱圧挫損傷の取り扱い
12 上肢切断をどう扱うか?
13 下肢切断をどう扱うか?
14 断端形成術について
15 「Fix and Flap」か「Fix followed by Flap」か「Flap followed by Fix」か?
16 上肢骨再建
17 下肢骨骨接合
18 下腿Gustilo分類type VB/Cにおける骨短縮
19 pilon骨折における骨軟部組織再建
20 骨軟部組織再建のタイミング
21 骨欠損再建の原則
22 Masquelet法(MQ法)の実際
23 Bone Transport法(BT法)の実際
24 血管柄付き骨移植術(VBG)の実際
25 上肢に対する有茎皮弁
26 上肢に対する遊離皮弁
27 下肢に対する有茎皮弁
28 下肢に対する遊離皮弁
29 骨短縮による軟部組織再建
30 重度足部損傷
31 レシピエント血管について
32 術後血行トラブル
33 筋腱再建
34 小児重度開放骨折
35 高齢者・内科合併症患者の重度開放骨折
36 術後感染治療
37 コラボレーション治療と転送について
38 外傷治療システムと教育,働き方について
CASE 症例から考える重度四肢外傷
上 腕
01 高齢者上腕開放骨折(低エネルギー損傷)
肘関節
02 肘関節開放性脱臼骨折
前腕
03 右前腕重度開放骨折
04 右前腕遠位部切断
05 左前腕重度開放骨折
手関節
06 手部完全切断
07 手部不全切断
膝窩動脈
08 脛骨近位部骨折に伴う膝窩動脈損傷(その1)
09 脛骨近位部骨折に伴う膝窩動脈損傷(その2)
10 両側膝窩動脈損傷
下腿近位
11 右下腿近位部開放骨折
12 膝関節周囲重度開放骨折
13 下腿骨幹部開放骨折
下腿中央
14 下腿骨幹部開放骨折術後感染
15 両下腿重度開放骨折
16 下腿骨幹部重度開放骨折:monorail法施行例
17 下腿骨幹部開放骨折:FVFG施行例
下腿遠位
18 下腿遠位骨幹部開放骨折
19 下腿遠位部開放骨折
20 下腿骨幹部骨折,足関節部圧挫創
pilon骨折
21 右下腿開放性pilon骨折
22 開放性pilon骨折
足関節
23 右足関節開放性脱臼骨折
24 足関節開放性脱臼骨折
25 Lisfranc関節開放性脱臼骨折
足部
26 重度足部外傷
27 足部皮膚剥脱創
小児
28 小児重度下腿開放骨折
29 小児重度前腕外傷
大学病院の救急部で「重度四肢外傷の治療」を手掛け始めたのは,今から25年以上も前のことでした.10年ほどが経過し,私の中に一定の治療方針ができてきましたが,学会やセミナー,症例検討会などに参加していますと,日本の重度四肢外傷治療があまりうまくいっていないことに気がつきました.そこで,多くの人が標準的に施行すべき治療法を伝えるために,2017年に『重度四肢外傷の標準的治療』を発刊したわけです.
あれから7年が経過しました.書籍発刊からも継続して多数のセミナーや症例検討会を開催してきましたが,参加者の提示症例の治療レベルは徐々に向上し,「標準的治療」が実践されてきた印象を受けました.日本の重度四肢外傷治療は進歩してきているのだと感じ,嬉しい思いがしました.
2020年頃から改訂版を求める声が出てきました.世の治療レベルは向上し多くの論文も生まれましたが,治療法が進歩してきたというよりも,私自身の考え方に大きな変化が生じてきたことを強く感じました.そこで,書籍の内容改訂などではなく,新たな書籍を発刊した方が良いと考えるに至りました.
新型コロナウイルス感染症が2020年から3年間以上蔓延し,その結果としてWebセミナーが急速に普及したことは,私にとって(ある意味)幸運なことでした.湘南鎌倉総合病院で手掛けた100例以上の重度四肢外傷症例を対象として,Zoomを用いた症例検討会を行い,その記録をもとに本書の下地とすることにしました.外傷センターのスタッフが毎回症例のプレゼンテーションを行ってくれたことに感謝します.そして何よりも,当時国内留学中だった村岡辰彦医師がWebミーティングを取り仕切ってくれたことは,この書籍が完成する大きな原動力となりました.ありがとうございました.
さて,湘南鎌倉総合病院の症例検討会のみならず,全国の重度四肢外傷症例の検討会も数多く開催し,個々の症例に対する討論がFacebook上でも行われるようになりました.私はすべての話題についてコメントを記載しましたが,その内容をもとに私の考えをまとめさせていただきました.
2022年頃から書籍の執筆を開始し,結果的にかなりの時間を費やしましたが,今回ようやく発刊に至りました.
「重度四肢外傷の治療」を手掛けてから四半世紀の時が流れ,2024年を迎えた今,私が第一線で重度四肢外傷を治療する機会は徐々に少なくなってきていることを感じます.本書は私にとって「遺書」に近いものです.内容には不十分な部分が多々ありますが,今後改訂する機会はないだろうと思っています.
重度四肢外傷治療に携わる医師が本書を手に取り,自らの症例と照らし合わせながら読み進め,治療の一助としていただければ幸いです.そして,いつの日か誰かがまた,新たな「重度四肢外傷の書籍」を発刊してくれることを願っています.
最後になりましたが,書籍の発刊にあたり,いつも助けていただいた南江堂の方々に深く感謝申し上げます.
2024年,晩秋の札幌にて
土田芳彦
2017年に出版された『重度四肢外傷の標準的治療』(南江堂)から8年の歳月を経て,本書が出版された.『重度四肢外傷の標準的治療』は今も外傷整形外科医にとって重度四肢外傷治療の羅針盤であることに違いはないが,医療技術の進歩や医療を取り巻く環境の変化に伴い,この領域も柔軟かつ緻密な治療戦略を基礎として進化した対応が求められている.そのような中,待望の書が発刊された.待望の理由は,本書が日本で重度四肢外傷治療の分野を確立させるとともに牽引してきた土田芳彦先生の“単著”だからである.一貫した著者自身の言葉で本分野に対する治療戦略の詳細が語られていることは単著ならではの最大の魅力になっている.長年にわたり真摯な姿勢で重度四肢外傷に取り組んできたからこそ自信をもって伝えることができる多くの実践的な成功のためのチップスが惜しみなく紹介されているのである.本書を通読した率直な感想は「臨床の最前線で日々奮闘している外傷整形外科医にとって,本当に知りたい疑問を明瞭かつストレートに解説されており,それが清々しくも感じる」ということである.重度四肢外傷という一筋縄では満足のいく結果が得られない症例を題材とし,いまだその治療戦略がダイナミックに進歩している中で,現時点での外傷整形外科医にとって一つのめざすべき治療戦略を明らかにしているのではないかと思う.過去の偉大な教科書にもこのチャレンジングな分野(著者はチャレンジングではなく標準化ととらえている)に対しては差し障りのない解説が一般的であり,明快に回答していることは少ない.しかし,一般的には治療に難渋するといわれる重度四肢外傷も,もちろん高度な技術と観察力を要することは当然であるが,本書を読み理解を深めれば,その治療の軸は実はシンプルであることがわかる.
本書は「重傷四肢外傷のトピックス」と「症例から考える重度四肢外傷」の二部構成となっている.最初のTOPICSでは,外傷整形外科医が実際疑問に思っている質問を38項目あげている.この選ばれた38項目は実際に著者がセミナーなどで受けた頻度の高い質問であると推測されるが,どれもほかの教科書では明確に記述されていない興味深い質疑が揃っている.そういったいまだ議論半ばのTOPICS(疑問)に関して,著者の言葉で具体的かつ実直に答えられている.土田先生だからこそ導き出せた結論であろう.一方で,読者も重度四肢外傷治療の経験を積めば積むほど著者の結論に同意することが多くなるとともに,疑義を抱くこともあるかもしれない.しかしこれは発展途上の分野では当然のことであり,むしろ新たな知見が生み出され進歩するためには必要なことなのである.個人的には「COLUMN」が好きで興味深く読むことができたが,洞察力に富んだ著者の核心を突いた表現が目白押しであり,読者の胸に突き刺さることは間違いない.筆者の過去の貴重な体験と反省,現在の思い,重度四肢再建の実際を知らない(知ろうとしない)医師に対する批判も交えながら,これから重度四肢外傷を担ってくれると期待している外傷整形外科医に対する未来への展望・希望が記載されている.実際に経験したものでしか理解できないこの「COLUMN」こそが単著としてほかの教科書とは一線を画する特徴であり,著者の本音を垣間見ることができるもう一つの魅力になっている.
後半は各論として自施設だけでなく,他施設でも治療された29例の代表的な重度四肢外傷が豊富な画像と詳細な経過とともに紹介されている.ここでも症例ごとに,おそらくはセミナーなどで受けた実際の質問に対して解説する形式をとっている.読者が各症例を一つひとつ咀嚼し,自らの病院環境や外傷整形外科医としての技術と照らし合わせながら読めば,今後出会うであろう重度四肢外傷を治療するにあたり自信をもって望むことができるであろう.重度四肢外傷は一人の医師が経験できる数には限界があるため,先人の貴重な歴史に触れることができることは何事にもかえられない宝なのである.
本書は土田先生にとって「遺書」のようなものであると記載されているが,重度四肢外傷治療を今まさに実践している気概ある外傷整形外科医に対するエールのように感じる.
臨床雑誌整形外科76巻10号(2025年9月号)より転載
評者●(自治医科大学栃木県災害医学寄附講座教授・松村福広)
