抗悪性腫瘍薬コンサルトブック改訂第3版
薬理学的特性に基づく治療
| 編集 | : 南博信 |
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| ISBN | : 978-4-524-21083-1 |
| 発行年月 | : 2025年4月 |
| 判型 | : B6変型判 |
| ページ数 | : 672 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
正誤表
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2025年05月22日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

主な抗悪性腫瘍薬の適応・副作用,作用機序・耐性機序,投与スケジュールのほか,各薬剤の臨床薬理学的特徴と,それに基づく使用上のノウハウまでをコンパクトかつ明快に解説.さらに各がん種における代表的なレジメンも掲載.今版では分子標的治療薬が94剤と前版から2倍以上に増えたほか,新たに内分泌療法薬18剤を加え,現在のがん薬物療法でカバーすべき薬剤を網羅.抗悪性腫瘍薬を使いこなすための知識を凝縮した一冊.
T 抗悪性腫瘍薬の臨床薬理学―総論
A がん薬物療法の基本的考え方
B 抗悪性腫瘍薬の分類
C 蛋白結合
D drug delivery system(DDS)
E 薬物動態・薬力学の個体差
F 薬理ゲノム学 藤田健一
G 高齢者の薬物動態・薬力学
H 臓器障害時の薬物動態・薬力学
I 分子標的治療薬の臨床薬理学的特徴
J 抗体薬の臨床薬理学的特徴
U 各薬剤の臨床薬理学的特徴と使い方
1 分子標的治療薬
A 小分子化合物
B 抗体薬
2 殺細胞性抗がん薬
A 代謝拮抗薬
B 抗生物質
C 微小管阻害薬
D 白金製剤
E トポイソメラーゼ阻害薬
F サリドマイド関連薬
3 内分泌療法薬
A 抗エストロゲン薬
B アロマターゼ阻害薬
C 抗アンドロゲン薬
D プロゲステロン
E エストラジオール
F GnRHアゴニスト
G GnRHアンタゴニスト
V 各領域におけるがん薬物療法のとらえ方
A 頭頸部がん
B 肺がん
C 消化器がん
D 乳がん
E 造血器がん
F 婦人科がん
G 腎がん
H 泌尿器がん
I 悪性黒色腫
J 原発不明がん
K 骨・軟部肉腫
L 脳腫瘍
抗悪性腫瘍薬の開発は目覚ましく,毎年多くの薬剤が承認されており,そのほとんどは分子標的治療薬である.2010年に発刊された本書の初版は54剤で構成され,そのうち殺細胞性抗がん薬が42剤を占めていた.その後に分子標的治療薬の開発が進み,2017年に改訂された第2版では殺細胞性抗がん薬は9剤増えただけだったが,小分子化合物および抗体薬を合わせた分子標的治療薬は12剤から41剤と3倍以上に増えた.今回の第3版では殺細胞性抗がん薬は6剤増えたのみだが,分子標的治療薬はさらに53剤増え94剤になった.さらに今版では内分泌療法薬18剤を加えて合計169剤と,初版の3倍以上の薬剤数になった.本書は普段の診療で気軽に利用していただきたいので,白衣のポケットに入るサイズとしている.薬剤数が膨大となったため,使用頻度および臨床上の重要性が低いごく一部の薬剤については割愛させていただいた.ご容赦願いたい.また,ページ数を削減するため各著者の原稿に何度も手を加えさせていただいた.ご協力に感謝したい.
分子標的治療薬のうち,抗体薬は標的分子の発現を確認した後に使用するものが多い.小分子化合物も標的分子の異常をコンパニオン診断薬で確認してから使用するものが増えた.実際,2021〜2024年の4年間に固形がんに承認された小分子の抗悪性腫瘍薬13剤はすべて分子標的治療薬であるが,そのうち11剤は標的分子の異常を確認してから使用する.さらにこのうちの7剤では,標的分子の異常の確認にがん遺伝子パネル検査が使用される.
がん遺伝子パネル検査をコンパニオン診断で使用することはコストの観点から困難で,ほとんどがプロファイリング検査として使用される.プロファイリング検査ではエキスパートパネルで検査結果を議論してからその結果を利用する.エキスパートパネルでは様々ながん種を議論するため,特定のがん種に限定した医学知識ではなく,がん種横断的知識が要求される.また,分子標的治療薬の中にはがん種を限定せず,特定の遺伝子異常に基づいてtumor—agnosticに承認される事例も出てきた.最近特に使用頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬も,様々ながん種に有用性を示している.
このようにがん薬物療法では臓器別の診療ではなく,臓器横断的な視点が必要となった.さらに,免疫細胞と腫瘍細胞を会合させる二重特異性抗体が造血器腫瘍で使用されるようになり,固形がんに対しても開発が進んでいる.そこではCAR—T細胞療法などの副作用管理が必要で,固形がん治療においても造血器腫瘍の知識が重要となる.そこで,本書では特定のがん種の治療薬ではなく,造血器腫瘍を含むあらゆるがんの治療薬を網羅した.
添付文書やインタビューフォームには基本的に事実のみが記載されているが,その書き方が誤解を招きかねないこともある.本書では薬物動態だけでなく薬力学的視点からも解説をお願いし,臨床に役立つ構成を心掛けた.本書が日々のがん薬物診療の一助となれば幸いである.
2025年2月
南 博信
抗悪性腫瘍薬で学ぶ臨床薬理学のエッセンス
近年,がん薬物療法の治療成績が向上するなかで,最適な治療を提供するために臨床薬理学の重要性はますます高まっている.臨床薬理学とは,薬物の作用機序,薬物動態や薬力学,そのほかの特性に関する科学的根拠に基づき,薬物療法をより合理的かつ効果的に行うための理論と方法を探究する学問である.たとえば,各薬剤の薬物動態(Absorption, Distribution, Metabolism, Excretion:ADME)や薬力学を理解することで,高齢者や腎機能障害など特別な背景をもつ患者への対応が可能となり,薬物相互作用も正確に把握できるようになる.ゲノム薬理学に精通すれば,分子標的治療薬の選択や,患者間における薬物応答の違いを科学的に捉えることができる.耐性機序に関する知識は,薬剤変更時の判断材料として有用である.日常診療で出会う患者の多くは教科書どおりにはいかないが,そうした場面においても臨床薬理学は科学的なアプローチの道筋を示してくれる.
本書は,こうした臨床薬理学のエッセンスを凝縮した,実践的かつ教育的価値の高い一冊である.総論では,がん薬物療法の基本的な考え方から始まり,薬物動態,薬力学,薬理ゲノム学,さらには高齢者や臓器障害時の対応など,特定の臓器や疾患にとらわれない臓器横断的な視点から明快に解説している.各論では,各抗悪性腫瘍薬の作用機序や耐性機序,薬物動態,特別な患者集団(special population)への配慮,薬物相互作用など,臨床に直結する有用な情報が簡潔かつ的確に整理されている.研究段階の情報であっても,専門家の見解を交えながら果敢に取り入れており,添付文書やインタビューフォームの情報を単に寄せ集めたものではなく,臨床現場で活きる知見として再構成されている点は特筆に値する.序文に記された「添付文書やインタビューフォームには基本的に事実のみが記載されているが,その書き方が誤解を招きかねないこともある」という指摘は,がん薬物療法の臨床に携わる者にとって深く共感できるものであり,本書を単なるリファレンスに留めないという編者および著者らの矜持が伝わってくる.
なお,序文には「普段の診療で気軽に利用していただきたいので,白衣のポケットに入るサイズ」と紹介されている.たしかに,診療の合間に参照できるコンパクトさは本書の魅力の一つである.一方で,その内容は非常に充実しており,時間をかけてじっくりと読み込むという使い方も十分に価値がある.がん薬物療法における臨床薬理学の本当の価値にぜひ気づいて欲しい.
本書は,がん薬物療法に携わる医師・薬剤師はもちろん,臨床薬理学の視点で抗悪性腫瘍薬を体系的に学びたい若手医療者にとって最良の書である.実践に活かすための確かな道標として,広く推薦したい.
臨床雑誌内科136巻6号(2025年12月号)より転載
評者●安藤雄一(名古屋大学医学部附属病院化学療法部 教授)

