ヒアルロン酸注入療法のすべて
顔のデザイン
| 監訳 | : 尾松淳 |
|---|---|
| ISBN | : 978-4-524-20785-5 |
| 発行年月 | : 2025年9月 |
| 判型 | : B5判 |
| ページ数 | : 320 |
在庫
定価16,500円(本体15,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文

好評書『ボツリヌス療法のすべて―アジア人への応用』の著者であり,韓国におけるヒアルロン酸注入治療の第一人者であるDr. Kyle Seoによる,フィラー治療の決定版.解剖学的知識と豊富な臨床経験に基づき,顔全体の立体構造を踏まえた治療設計と,卓越した注入テクニックを細部にわたって丁寧に解説.ヒアルロン酸の基礎から製剤選択,合併症対策,さらに予算に応じた治療計画の立て方までを網羅し,初心者から上級者まで幅広く活用できる実践的な一冊.
1 治療前評価
1.1 はじめに
1.2 患者1人ひとりに合わせた評価
1.2.1 主観的要因
1.2.2 客観的要因
1.2.3 顔面評価のフローチャート
1.2.4 社会文化的背景
1.2.5 性別による違い
1.2.6 過去の美容治療歴
1.2.7 金銭的側面
1.3 フィラー施術における民族的違いの考慮
1.3.1 アジア人の定義とアジア顔の形態型
1.3.2 白人とアジア人の頭蓋骨形状の違い
1.3.3 白人とアジア人における顔の美の基準の違い
1.3.4 白人とアジア人における異なるフィラー治療戦略
2 ボリュームアップフィラー
2.1 注入用フィラーの種類
2.2 ヒアルロン酸(HA)フィラー
2.2.1 HAの特性
2.2.2 HAフィラーの製造プロセス
2.2.3 HAフィラーの選択
2.2.4 HAフィラーのレオロジー特性
2.3 おもなHAフィラー製品
2.3.1 RestylaneR :HAフィラーのゴールデンスタンダード
2.3.2 JuvedermR :初の独自のやわらかいHAフィラー
2.3.3 BeloteroR :安全性で評判のHAフィラー
2.3.4 YVOIRER :韓国初のHAフィラー
2.3.5 NeuramisR :韓国の代表的なやわらかいHAフィラー
2.3.6 e.p.t.q.R :安全性最優先のHAフィラー
2.4 HA以外の注入フィラー
2.4.1 コラーゲンフィラー
2.4.2 非吸収性フィラー
2.4.3 コラーゲンブースター
3 HAフィラー注入の手順
3.1 注射前の準備
3.1.1 トレーの準備
3.1.2 分注
3.1.3 HAフィラーの希釈
3.1.4 消毒
3.1.5 麻酔
3.2 注入方法
3.2.1 注射針かカニューレか
3.2.2 リニアスレッディング法
3.2.3 タワーテクニック(本邦ではバーティカルテクニック)
3.2.4 ファーンパターン法(複数回の皮内注射)(本邦ではファニング法)
3.2.5 サブシジョン法
3.2.6 ダブルレイヤーテクニック
3.2.7 深い溝への注入法
3.2.8 ボリュームアップ注入テクニック
3.2.9 利き手でない方の手の役割
3.3 豚足を用いたHAフィラー注入トレーニング
4 部位別の注入法
4.1 額のボリュームアップ
4.1.1 解剖学的事項
4.1.2 施術前評価
4.1.3 注入テクニック
4.1.4 コンビネーション治療
4.1.5 合併症
4.2 こめかみのボリュームアップ
4.2.1 解剖学的事項
4.2.2 施術前評価
4.2.3 注入テクニック
4.2.4 合併症
4.3 眉間の深いシワ
4.3.1 解剖学的事項
4.3.2 施術前評価
4.3.3 注入テクニック
4.3.4 合併症
4.4 上眼瞼のくぼみのボリュームアップ
4.4.1 解剖学的事項
4.4.2 施術前評価
4.4.3 注入テクニック
4.4.4 合併症
4.5 涙袋のボリュームアップ
4.5.1 解剖学的事項
4.5.2 施術前評価
4.5.3 注入テクニック
4.5.4 合併症
4.6 眼窩下のくぼみ,tear trough,眼瞼?溝
4.6.1 解剖学的事項
4.6.2 施術前評価
4.6.3 注入テクニック
4.6.4 合併症
4.7 鼻?溝(nasojugal groove)
4.7.1 解剖学的考察
4.7.2 施術前評価
4.7.3 注入テクニック
4.7.4 合併症
4.8 ?骨隆起部
4.8.1 解剖学的事項
4.8.2 施術前評価
4.8.3 注入テクニック
4.8.4 合併症
4.9 鼻
4.9.1 鼻の測定学
4.9.2 人種による差
4.9.3 解剖学的事項
4.9.4 施術前評価
4.9.5 注入テクニック
4.9.6 鼻背隆鼻術
4.9.7 眉間形成術
4.9.8 鼻尖形成術
4.9.9 鼻柱形成術
4.9.10 NLA形成術
4.9.11 特殊なケースでの注入手技
4.9.12 コンビネーション治療
4.9.13 合併症
4.10 こけた?の修正
4.10.1 解剖学的事項
4.10.2 施術前評価
4.10.3 注入テクニック
4.10.4 合併症
4.11 鼻唇溝
4.11.1 解剖学的事項
4.11.2 施術前評価
4.11.3 注入テクニック
4.11.4 合併症
4.12 リップフィラー
4.12.1 唇の黄金比
4.12.2 解剖学的事項
4.12.3 施術前評価
4.12.4 注入テクニック
4.12.5 合併症
4.13 マリオネットライン
4.13.1 解剖学的事項
4.13.2 施術前評価
4.13.3 注入テクニック
4.13.4 合併症
4.14 顎のボリュームアップ
4.14.1 顎の計測
4.14.2 解剖学的事項
4.14.3 施術前評価
4.14.4 注入テクニック
4.14.5 前方突出の改善
4.14.6 顎の伸長
4.14.7 顎の横幅の拡大
4.14.8 顎の非対称性の矯正
4.14.9 コンビネーション治療
4.14.10 合併症
4.15 下顎のフェイスラインへの注入
4.15.1 解剖学的事項
4.15.2 施術前評価
4.15.3 注入テクニック
4.15.4 合併症
4.16 耳垂への注入
4.16.1 外耳の解剖学的構造
4.16.2 注入テクニック
4.17 自己免疫疾患による軟部組織の陥凹性瘢痕に対するボリュームアップ
4.17.1 施術前評価
4.17.2 注入テクニック
4.17.3 合併症
4.18 顔面非対称の修正
4.18.1 施術前評価
4.18.2 顔面非対称の原則と注入テクニック
4.18.3 併用療法
4.19 ネックラインへのHAフィラー注入療法
4.19.1 施術前評価
4.19.2 注入テクニック
4.20 ハイドロリフティング(HAフィラーの多数部位への真皮内注入)
4.20.1 施術前評価
4.20.2 注入テクニック
4.20.3 インジェクターの使用
4.20.4 レーザーアシスト無針インジェクター
4.20.5 カクテル療法
4.20.6 膝上のシワ
4.20.7 合併症
5 合併症
5.1 血管合併症
5.1.1 症状
5.1.2 予防
5.1.3 治療
5.1.4 HAフィラー注入後の失明の原因と治療
5.2 HAフィラーに対する遅延型反応による炎症
5.2.1 HA注入後の遅延型反応の原因
5.2.2 症状
5.2.3 鑑別診断
5.2.4 治療
5.2.5 まとめ
5.3 治療後の輪郭の不均一性
5.3.1 不適切な注入
5.3.2 バランスの欠如
5.3.3 遅発性の凹凸
5.3.4 解決策:ヒアルロニダーゼの投与
5.4 ヒアルロニダーゼの適切な使用法
5.4.1 薬理学的特性
5.4.2 製品について
5.4.3 HAフィラー修正におけるヒアルロニダーゼの使用方法
5.4.4 HAや細菌感染による遅発型過敏性の炎症に対するヒアルロニダーゼの使用
5.4.5 HAフィラー注入による血管合併症治療におけるヒアルロニダーゼの使用
5.4.6 ヒアルロニダーゼのアレルギー反応とアレルギーテスト
5.4.7 皮膚萎縮
5.4.8 超音波画像を用いた組織内HAの確認
索引
顔の老化は,加齢に伴って真皮の弾力性が低下することによって生じる皮膚のシワだけでなく,顔全体のボリュームの減少やたるみによって輪郭が崩れ,滑らかさが失われることが大きな要因である.フィラー注入は,この点で若さを取り戻すための手段である.刻み込まれた溝やシワを埋めるだけでなく,顔のボリュームが減少した部位を膨らませることで若々しい顔にみられる膨らみや丸みを回復させるのに役立つ.実際,フィラー注入はボツリヌストキシン(BTX)注射とともに,美容施術者が行うフェイシャルリジュビネーション(若返り治療)に必須な2大ツールである.
今日では,フィラー注入は単なる若返りのためのツールを超え,美しさを引き出すための重要な美容ツールへと進化している.フィラーは,顔の多角的かつ立体的な評価に基づいて後退した顎,くぼんだ頰,顔の非対称な部分に注入することで顔の輪郭を整えるだけでなく,鼻を高くしたり唇をふっくらさせたりすることで個々の顔の特徴を引き立て,美しさを高める役割も果たす.1980 年代にコラーゲンフィラーが登場して以来,注入用フィラーは一般的に「ダーマルフィラー(dermal fillers)」と呼ばれてきたが,その役割がますます重要となり,ボリュームを強調するツールとしての用途が広がっていることを考えると,「ボリュームフィラー(volume fillers)」と呼ばれるべき時期にきているかもしれない.
本書は,顔のボリュームアップを目的としたフィラー注入技術について包括的なガイドを提供することを目指して執筆した.これらの技術は,筆者が注入用フィラーを用いた20年以上の臨床経験を通じて磨き上げてきたものである.アジア人の顔は,白人の顔に比べて丸みがあり平坦である.このため,アジアでは額や鼻,顎のボリュームアップの人気が特に高く,顔に輪郭や立体感を加えるためのフィラーの需要が高い.特に韓国では,頰がふっくらとしている「赤ちゃんのような顔」が理想的な美の象徴とされているため,頰のボリュームアップ施術が一般的である.一方で,このような丸くふっくらした特徴は,白人患者にとっては必ずしも魅力的とは受け取られない.
さらに韓国のヒアルロン酸(HA)フィラー市場は,ブランド間の激しい競争により,世界のどの地域よりも手頃な価格でHA フィラーを提供できる環境にある.このような供給側と需要側の要因が相互に作用することが,アジアを西洋諸国よりも顔のボリュームアップ治療の実施件数で先行させていると考えられる.
実際,筆者は2018 年から2020 年までの3 年間にわたり,ドイツのMerz 社から「Belotero®のアジアにおけるトップインジェクター」として表彰される栄誉を受けた.2019 年だけでも,診療でBelotero® を7,000 mL 以上使用したし,加えてRestylane®やほかの国内産のHAフィラーブランドも日常的に使用し,1日当たり20〜30人の患者を治療している.これは年間5,000件以上の症例に相当する.
マルコム・グラッドウェルが広めた「1 万時間の法則」によれば,1 日4 時間の練習を10年間続ければ,特定の分野で熟達できるとされている.この基準に照らせば,筆者はフィラー注入施術において熟達者として認められるはずである.筆者は20 年以上にわたりフィラー注入を実践しており,直近10 年間はBTX とフィラーに専念してきたからである.
しかし,このキャリアに至るまでには多くの試行錯誤を経てきたことを認めざるを得ない.いくつかのエピソードが思い浮かぶ.2000 年にフィラー注入を始めた当初,フィラーはまだ顔のボリュームアップには使用されていなかった.そのため,70 代の高齢患者が重度のゴルゴ線の治療を希望して来院した際,眉間のシワ治療で通常行っていた手法をそのまま適用し,前頰部(anterior malar)の真皮と皮下組織にごく少量のHAを浅く注入するにとどまった.結果として,何の変化も起きず,その理由を訝しんだものである.
これまで,フィラー治療において筆者は成功も失敗も,そしてその間にあるさまざまな経験も積み重ねてきた.たとえば,ヒアルロニダーゼを使用すれば注入したHAの凹凸を溶かすことができると知ったときには歓喜したが,逆に,ヒアルロニダーゼ注入後に患者が予期せぬアレルギー反応を起こしたときには大いに悩まされた.また,BDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)やHAの不純物に関連する遅発型過敏反応を感染症による炎症と誤解し,知識不足から抗生物質で治療しようとしたこともある.もちろん,施術者としてHAの血管内注入による血管合併症も経験したが,幸いなことに深刻な皮膚壊死に至ったケースはなかった.実際,本書で述べられるHAフィラー関連の多くの合併症は,筆者自身の臨床経験に基づいている.
本書は,筆者自身がゼロから学ぶ過程で数多くの試行錯誤を経験した背景を踏まえ,それらの経験を活かして,フィラー注入をこれから始めようとしている医師や,この手技にまだ自信をもてていない医師に向け,安全で効果的な治療法を解説する「運転マニュアル」のような役割を果たすことを目指して執筆されたものである.
フィラー注入を行う医師が製品を選ぶ際に考慮する主要な要素は,安全性,持続性,価格の3つである.このなかで最も重要なのは安全性である.注入用フィラーは人体に導入される異物である.コラーゲンブースターや半永久的なフィラーは,より長期間効果が持続するが,安全性の観点ではHA が他のすべてのフィラーを上回る.HAは人体に自然に存在する成分と同じ物質で構成されているだけでなく,問題が発生した場合にはヒアルロニダーゼ注射で可逆的に効果を消すことができる唯一のフィラーである.このため,筆者は診療においてほぼHAフィラーのみを使用しており,本書でもおもにHAフィラーの使用について記載している.
アジア人と白人の顔の解剖学的構造や美容基準は異なるため,フィラー治療を行う際にはこれらの違いを理解する必要がある.たとえば,アジア人の顔は白人の顔に比べて幅が広く平坦である.このため,西洋文化でははっきりとした頰骨やシャープで明確な顎の輪郭が美の特徴とされる一方で,アジア人は広い顔をスリムに見せるためにBTXを用いた小顔治療を好む傾向がある.また,白人患者における中顔面のボリュームアップは,頰の外側の突出を強調して「オージーカーブ」を引き立てることを目的とするが,韓国人は目立つ頰骨を好まないため,このアプローチはほとんど行われない.こうした民族的美容基準の違いは,本書全体を通じて繰り返し議論されているテーマである.
ただし,本書の内容が大部分でアジア人患者に関連する戦略に焦点を当てている点については,読者に理解をお願いしたい.それでも,注入フィラーの使用に関する文献や出版物のほとんどが白人患者を対象に書かれていることを考慮すると,本書はアジア人と白人の両方の顔の美的基準を反映した,よりバランスのとれた指針を提供できるだろう.そして,それによって異なる民族の患者の美的ニーズに合わせた適切なカスタマイズ治療を実現する助けとなるだろう.
また,K-POPや韓国ドラマを通じた「韓流」の世界的な影響により,韓国の美的基準がアジアにおける独自で際立った特徴として確立されたことも見逃せない.そのため,本書に記載された戦略は,韓国の美的基準を支持する韓国外のより広範なアジアの人々にも響く内容となっている可能性がある.
本書で推奨する注入技術は,コンセンサスデータに基づくものではなく,筆者自身の診療で実際に使用しているアプローチに基づいている.公平を期すために述べると,本書で触れた内容のいくつかについて,異なる意見をもつ医師もいるだろう.しかし,本書で提示する注入技術の有効性は,過去20年間にわたる膨大な患者症例に基づいて確立されたものであり,フィラーを使用した顔のボリュームアップ治療を行う際の実践的なヒントを求める読者にとって有益なものであるはずだ.もっとも,絶対的な手法は存在しないという前提のもと,尊敬する同業者の皆様からのさらなる意見や建設的な批評を喜んで受け入れたい.
本書執筆のおもな動機は,本書を通じてほかの医師がこの複雑なフィラー注入をより安全かつ快適に進められるよう,運転マニュアルに相当するガイドを提供することだった.また,自身のキャリアを振り返り,おもにフィラー注入に注力してきた過去20 年間を振り返る機会をもちたいという個人的な理由もあった.前著『Botulinum Toxin for Asians(Springer, 2017)』が自分にとっての第一子だとすれば,本書は第二子として世に送り出すものであり,大きな期待とともに不安も抱えている.
最後に,本書が,今後の第2版,第3版といった改訂・拡張を経て,フィラー注入手技に関心をもつ世界中の読者にとって,貴重で有意義な知識と洞察の源泉として役立ち続けることを心より願っている.
2021年3月
韓国ソウルにて
Kyle K. Seo

